4個の確定特異点をもつフックス型微分方程式

確定特異点やフックス型方程式の基礎事項を前提としています。過去記事参照:

フックス型微分方程式と確定特異点1(基本と例題)

フックス型微分方程式と確定特異点2 (RiemannのP方程式)

リーマンのP微分方程式の指数と解の関係

フックス型微分方程式とメビウス変換

リーマンのP方程式とメビウス変換・超幾何関数

参考文献はWhittaker & Watsonです。

古いですが有名な書物で、どんどん改訂版が出ています。前半は解析学一般、後半は特殊関数という内容で、網羅的に勉強できます。演習問題に解答がないのが昔ながらのものって感じ。2022/11/6現在、最新版は5th Editionで私も所有していますが、廉価な3rdとかでも十分かと。


A Course of Modern Analysis: fifth Edition


A Course of Modern Analysis: Third Edition

2階フックス型微分方程式

定義0

$u''+p(z)u+q(z)u=0$ において $p(z)$ , $q(z)$ が有理型関数であり、その方程式の特異点がすべて確定特異点であるものをフックス型微分方程式(Fuchsian equation)という。

確定特異点が1~3個の場合をこれまで見てきました。特異点が多いほどフックス型微分方程式の形は多様になっていきます。またメビウス変換で方程式の形が不変であるなど、面白い性質をもっており、確定特異点が3つのフックス型微分方程式は、すべて超幾何微分方程式に帰着することも示しました。

4個の確定特異点がある場合

今回は確定特異点が4つの場合を調べます。方程式はどのような形に限定されるでしょうか。

確定特異点が $z=a,b,c,d$ であり、いずれも $\infty$ でないとします。このとき確定特異点の定義から$$p(z)=\frac{A}{z-a}+\frac{B}{z-b}+\frac{C}{z-c}+\frac{D}{z-d}+\tilde{p}(z)$$$$q(z)=\frac{q_7(z)}{(z-a)^2(z-b)^2(z-c)^2(z-d)^2}+\tilde{q}(z)$$であることが必要です。$\tilde{p}(z)$ , $\tilde{q}(z)$ は多項式、$q_7(z)$ は高々7次の多項式です。また $z=\infty$ で方程式が正則ですので $2z-z^2p(z)$ と $z^4q(z)$ が正則。よって$$\tilde{p}(z)=0\;,\; A+B+C+D=2\;,\;\tilde{q}(z)=0$$であり、$q_7(z)$ は高々4次式となります。つまり$$q(z)=\frac{1}{(z-a)(z-b)(z-c)(z-d)}\left(\frac{E}{z-a}+\frac{F}{z-b}+\frac{G}{z-c}+\frac{H}{z-d}+I\right)$$

8個の定数 $A$~$H$ を $\a,\a',\b,\cdots,\delta'$ の8個に置き換えます。\begin{equation}p(z)=\frac{1-\a-\a'}{z-a}+\frac{1-\b-\b'}{z-b}+\frac{1-\g-\g'}{z-c}+\frac{1-\d-\d'}{z-d}\tag{1}\end{equation}\begin{eqnarray}q(z)&=& \frac{1}{(z-a)(z-b)(z-c)(z-d)}\\&&\times\biggl(\frac{\a\a'(a-b)(a-c)(a-d)}{z-a}+\frac{\b\b'(b-a)(b-c)(b-d)}{z-b}\\&&\quad+\frac{\g\g'(c-a)(c-b)(c-d)}{z-c}+\frac{\d\d'(d-a)(d-b)(d-c)}{z-d}+I\biggr)\tag{2}\end{eqnarray}

以上より、

フックス型方程式のかたち

無限遠点とは異なる4個の確定特異点をもつフックス型微分方程式は次に限られる。\begin{eqnarray}&&u''+\left(\frac{1-\a-\a'}{z-a}+\frac{1-\b-\b'}{z-b}+\frac{1-\g-\g'}{z-c}+\frac{1-\d-\d'}{z-d}\right)u'\\&&+\biggl(\frac{\a\a'(a-b)(a-c)(a-d)}{z-a}+\frac{\b\b'(b-a)(b-c)(b-d)}{z-b}\\&&\quad+\frac{\g\g'(c-a)(c-b)(c-d)}{z-c}+\frac{\d\d'(d-a)(d-b)(d-c)}{z-d}+I\biggr)\\&&\times\frac{u}{(z-a)(z-b)(z-c)(z-d)}=0\tag{3}\end{eqnarray}ただし $\a+\a'+\b+\b'+\g+\g'+\d+\d'=2$.

特性指数

確定特異点が3個のときの話を振り返れば、このような形にした理由が分かります。ここでも同じく、$\a$ から $\d'$ までを特性指数(あるいは単に指数)といいます。

確定特異点のまわりでフロベニウス法を用いることができることは解説しました。例えば$$u(z)=\sum_{n=0}^\infty a_n(z-a)^{n+r}\quad(a_0\neq 0)$$とおいて(3)へ代入し、最低次の項を調べると$$r^2-(\a+\a')r+\a\a'=0$$なる「決定方程式」を得ます。解は $r=\a,\a'$ です。よって級数で表される(3)の特殊解として$$\sum_{n=0}^\infty a_n(z-a)^{n+\a}\;,\;\sum_{n=0}^\infty a_n'(z-a)^{n+\a'}$$なる形があげられるわけです。$b,c,d$ まわりに関しても同様です。

アクセサリー・パラメータ

(3)を見てみましょう。確定特異点が3個のときと違い、特異点4個およびそれに属する特性指数をすべて決めても、定数 $I$ が残り方程式が1つに決まりません。この $I$ を「アクセサリー・パラメータ」といいます。

リーマンのP表記

(3)の解全体をリーマンのP表記で表すと\begin{equation}u=P\left\{\begin{matrix}a & b & c &d\\\a & \b & \g & \d \\\a' & \b' & \g' & \d'\end{matrix}\;z\right\}\tag{4}\end{equation}となります。しかしアクセサリー・パラメータはこの表記では明示できません。

メビウス変換での不変性

確定特異点が3個の場合で詳しくみたのと同様に、(3)もメビウス変換 $w=\frac{Az+B}{Cz+D}$で、特異点が移る以外に不変です・・・といいたいのですが、アクセサリー・パラメータは変化するので、その都度計算しなければいけません。特性指数は不変です。

メビウス変換での不変性は、①平行移動($w=z+p$) ②拡大回転($w=pz$) ③反転($w=1/z$) それぞれによって不変であることを示せばいいのでした。微分方程式(3)に①②③の変換を施すと、特異点だけが移り、特性指数はそのままであることが確かめられます。③がすこし面倒ですが。

したがって、メビウス変換 $w=T(z)$ に対して\begin{equation}P\left\{\begin{matrix}a & b & c &d\\\a & \b & \g & \d \\\a' & \b' & \g' & \d'\end{matrix}\;z\right\}=P\left\{\begin{matrix}T(a) & T(b) & T(c) & T(d)\\\a & \b & \g & \d \\\a' & \b' & \g' & \d'\end{matrix}\;w\right\}\tag{5}\end{equation}です。ただしアクセサリー・パラメータは変化します。また、$T(a)$ , $T(b)$ , $T(c)$ , $T(d)$ も $\infty$ でないとします。

※例えば反転においてアクセサリー・パラメータ $I$は$$I+a\a\a'\left(\frac{1}{a}-\frac{1}{b}\right)\left(\frac{1}{a}-\frac{1}{c}\right)\left(\frac{1}{a}-\frac{1}{d}\right)+\cdots$$と変化します。 $\cdots$ は特異点 $b,c,d$ についても同様に加えることを意味します。

特性指数のシフト

確定特異点が3個の場合と同様、次のように指数をシフトさせることができます。\begin{eqnarray}\left(\frac{z-a}{z-d}\right)^\mu &&\left(\frac{z-b}{z-d}\right)^\nu\left(\frac{z-c}{z-d}\right)^\lambda P\left\{\begin{matrix}a & b & c &d\\\a & \b & \g & \d \\\a' & \b' & \g' & \d'\end{matrix}\;z\right\}\\&&=P\left\{\begin{matrix}a & b & c &d\\\a+\mu & \b+\nu & \g+\lambda & \d-\mu-\nu-\lambda \\\a'+\mu & \b'+\nu & \g'+\lambda & \d'-\mu-\nu-\lambda\end{matrix}\;z\right\}\tag{6}\end{eqnarray}これを使うことで方程式をよりシンプルな形へ変換することができます。(6)が成立することは、方程式に直接代入しても確認できますし、面倒ならここにある「指数をずらす掛け算」を参考にしていただいてもいいです。

無限遠点が確定特異点の場合

確定特異点が無限遠点を含まない場合のフックス型方程式は(3)なのでした。確定特異点が3個の場合と同様に $d=\infty$ を代入してみると(3)は発散してしまいます。よって無限遠点が確定特異点である場合には(3)と違う式が成り立つはずです。

$u''+p(z)u+q(z)u=0$ において確定特異点 $a,b,c$ とすると$$p(z)=\frac{A}{z-a}+\frac{B}{z-b}+\frac{C}{z-c}+\tilde{p}(z)$$$$q(z)=\frac{q_5(z)}{(z-a)^2(z-b)^2(z-c)^2}+\tilde{q}(z)$$です。$\tilde{p}(z)$ , $\tilde{q}(z)$ は多項式、$q_5(z)$ は高々5次の多項式です。さらに $\infty$ が確定特異点なら $z=\infty$ において $zp(z)$ と $z^2q(z)$ が正則です。したがって$$\tilde{p}(z)=0\;,\;\tilde{q}(z)=0$$であり $q_5(z)$ は高々4次式です。$$q(z)=\frac{1}{(z-a)(z-b)(z-c)}\left(\frac{E}{z-a}+\frac{F}{z-b}+\frac{G}{z-c}+I+Jz\right)$$6つの定数 $A,B,C$,$E,F,G$ を以下の式となるように $\a,\a'$,$\b,\b'$,$\g,\g'$ にとり変えます。\begin{equation}p(z)=\frac{1-\a-\a'}{z-a}+\frac{1-\b-\b'}{z-b}+\frac{1-\g-\g'}{z-c}\tag{7}\end{equation}\begin{eqnarray}q(z)&=& \frac{1}{(z-a)(z-b)(z-c)}\\&&\times\biggl(\frac{\a\a'(a-b)(a-c)}{z-a}+\frac{\b\b'(b-a)(b-c)}{z-b}\\&&\quad\quad+\frac{\g\g'(c-a)(c-b)}{z-c}+I+Jz\biggr)\tag{8}\end{eqnarray}この時点で、微分方程式は\begin{eqnarray}&&u''+\left(\frac{1-\a-\a'}{z-a}+\frac{1-\b-\b'}{z-b}+\frac{1-\g-\g'}{z-c}\right)u'\\&&+\biggl(\frac{\a\a'(a-b)(a-c)}{z-a}+\frac{\b\b'(b-a)(b-c)}{z-b}\\&&\quad\quad+\frac{\g\g'(c-a)(c-b)}{z-c}+I+Jz\biggr)\\&&\times\frac{u}{(z-a)(z-b)(z-c)}=0\tag{9}\end{eqnarray}となります。

フロベニウス法を試すと、ここでもやはり $a$ の特性指数は $\a,\a'$、$b$ の特性指数は $\b,\b'$、$c$ の特性指数は $\g,\g'$ となっています。無限遠点ではどうでしょうか。(9)で $w=1/z$ として\begin{eqnarray}&&u''+\frac{1}{w}\left(2-\frac{1-\a-\a'}{1-aw}-\frac{1-\b-\b'}{1-bw}-\frac{1-\g-\g'}{1-cw}\right)u'\\&&+\biggl(\frac{\a\a'(a-b)(a-c)}{1-aw}+\frac{\b\b'(b-a)(b-c)}{1-bw}\\&&\quad\quad+\frac{\g\g'(c-a)(c-b)}{1-cw}+\frac{I}{w}+\frac{J}{w^2}\biggr)\\&&\times\frac{u}{(1-aw)(1-bw)(1-cw)}=0\tag{10}\end{eqnarray}$\sum_{n=0}^\infty d_n w^{n+r}$ を代入すると決定方程式は$$r^2-(2-\a-\a'-\b-\b'-\g-\g')r+J=0$$ここで1個の定数 $J$ に対して $J=\d\d'$ かつ $\a+\a'+\b+\b'+\g+\g'+\d+\d'=2$ となるように $\d$ と $\d'$ をとります。すると決定方程式の解は $r=\d,\d'$ となります。よって $\d,\d'$ は確定特異点 $z=\infty$ に属する特性指数となっています。

フックス型方程式のかたち2

4個の確定特異点 $a,b,c,\infty$ をもつフックス型微分方程式は次に限られる。\begin{eqnarray}&&u''+\left(\frac{1-\a-\a'}{z-a}+\frac{1-\b-\b'}{z-b}+\frac{1-\g-\g'}{z-c}\right)u'\\&&+\biggl(\frac{\a\a'(a-b)(a-c)}{z-a}+\frac{\b\b'(b-a)(b-c)}{z-b}\\&&\quad\quad+\frac{\g\g'(c-a)(c-b)}{z-c}+\d\d' z+I\biggr)\\&&\times\frac{u}{(z-a)(z-b)(z-c)}=0\tag{11}\end{eqnarray}ただし $\a+\a'+\b+\b'+\g+\g'+\d+\d'=2$.

(3)と比べると少し形が異なることが分かります。この場合もやはりアクセサリー・パラメータ $I$ が含まれています。(11)の解をP表記すると\begin{equation}u=P\left\{\begin{matrix}a & b & c &\infty\\\a & \b & \g & \d \\\a' & \b' & \g' & \d'\end{matrix}\;z\right\}\tag{12}\end{equation}

まとめ

見てきたように、4個の確定特異点をもつフックス型微分方程式は(3)または(11)となります。これらが最も一般的な形ですが、メビウス変換や指数シフトによって、よりシンプルな方程式に帰着できます。3個の特異点の場合、行き着く先は超幾何微分方程式でしたが、4個の場合はどうなのでしょう?次回、考えたいと思います。

本記事の参考となる書籍 E.G.C.Poole,Introduction to the Theory of Linear Differential Equations(1936)をネットで閲覧することができます。本も売っています。


Introduction to the Theory of Linear Differential Equations

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