曲面の面積とガウス写像の面積(ガウス曲率のもつ意味)

微分幾何学の講座・第11回。曲面の面積とガウス写像の面積の比がガウス曲率 $K$ であることを解説します。

まめしば
まめしば

今回はサクッと進める内容だよ。

けび
けび

曲面の面積についての説明と、ガウス写像の導入はこちらですでにやっているよ。

シリーズ通して読むとベターです。前回はこちら:

曲率に関する「驚異の定理」と可展面

復習:曲面の面積

2つのパラメータ $u,v$ で表される曲面$$\bm{S}(u,v)=\bigl(x(u,v),y(u,v),z(u,v)\bigr)\;,\quad (u,v)\in D$$があるとします。この曲面の面積は次で求まるのでした。

曲面の面積

$(u,v)\in D$ が写される部分の曲面の面積は\begin{equation}S=\iint_D |\bm{S}_u\times\bm{S}_v|dudv\tag{1}\end{equation}

$\bm{S}_u\:,\:\bm{S}_v$ は偏微分で、それぞれ $u$ 方向と $v$ 方向の接ベクトルです。面積に関する詳細は:

空間内の曲面:パラメータ表示、接平面、法ベクトル、ガウス写像、面積

で解説しています。

復習:ガウス写像

法ベクトル

曲面上の点 $\bm{S}(u,v)$ における単位法ベクトルを次で定義する。\begin{equation}\bm{n}(u,v):=\frac{\bm{S}_u\times\bm{S}_v}{|\bm{S}_u\times\bm{S}_v|}\tag{2}\end{equation}

ガウス写像

曲面上の点 $\bm{S}(u,v)$ の単位法ベクトルの始点を原点に移動させると、終点は必ず単位球上へ写る。このように曲面上の点を単位球へ対応させる写像 $\hat{\bm{n}}(u,v)$ をガウス写像という。

単位法ベクトルは必ず長さ1なので、始点を3次元空間の原点にすると、その終点はすべて単位球上にあることになります。曲面 $\bm{S}$ 上で単位法ベクトルは連続的に変化するので、ガウス写像も曲面(単位球の全部または一部)になります。

ガウス写像の面積

面積を求める式

ガウス写像 $\hat{\bm{n}}(u,v)$ は曲面なのですから、その面積 $\hat{S}$ を考えることができます。(1)より\begin{equation}\hat{S} = \iint_D |\hat{\bm{n}}_u\times\hat{\bm{n}}_v|dudv\tag{3}\end{equation}ガウス写像は、その定義より $\bm{S}$ の単位法ベクトルと同じなので\begin{equation}\hat{S} = \iint_D |\bm{n}_u\times\bm{n}_v|dudv\tag{4}\end{equation}

ワインガルテンの公式を用いた計算

こちらの記事で導出した公式を使います。すなわち

ワインガルテンの公式

単位法ベクトルの偏微分は次のように表される。\begin{equation}\begin{pmatrix}\bm{n}_u \\\bm{n}_v\end{pmatrix} = -\mathcal{HG}^{-1}\begin{pmatrix}\bm{S}_u \\\bm{S}_v\end{pmatrix}\tag{5}\end{equation}

ここで $\mathcal{H}$ は第2基本行列、$\mathcal{G}$ は第1基本行列です(詳細はこちら)。この行列を、その成分(第1および第2基本量)で書き下すと\begin{eqnarray}\bm{n}_u &=& \frac{FM-GL}{EG-F^2} \bm{S}_u +\frac{FL-EM}{EG-F^2} \bm{S}_v\tag{6a} \\ \bm{n}_v &=& \frac{FN-GM}{EG-F^2} \bm{S}_u +\frac{FM-EN}{EG-F^2} \bm{S}_v\tag{6b}\end{eqnarray}(4)を計算するために、これらの外積をとります。\begin{eqnarray*} \bm{n}_u\times\bm{n}_v &=& \left(\frac{FM-GL}{EG-F^2} \bm{S}_u +\frac{FL-EM}{EG-F^2} \bm{S}_v\right)\\&&\times\left(\frac{FN-GM}{EG-F^2} \bm{S}_u +\frac{FM-EN}{EG-F^2} \bm{S}_v\right)\\ &=& \frac{(FM-GL)(FM-EN)}{(EG-F^2)^2}\bm{S}_u\times\bm{S}_v\\&& -\frac{(FL-EM)(FN-GM)}{(EG-F^2)^2}\bm{S}_u\times\bm{S}_v \\&=& \frac{LN-M^2}{EG-F^2}\bm{S}_u\times\bm{S}_v\end{eqnarray*}曲面上の点 $\bm{S}(u,v)$ のガウス曲率はこちらの記事で見たように\begin{equation} K = \frac{LN-M^2}{EG-F^2}\tag{7}\end{equation}でしたから、次の定理が得られます。

定理1

\begin{equation}\bm{n}_u\times\bm{n}_v = K\:\bm{S}_u\times\bm{S}_v\tag{8}\end{equation}あるいは\begin{equation}\hat{\bm{n}}_u\times\hat{\bm{n}}_v = K\:\bm{S}_u\times\bm{S}_v\end{equation}

つまりガウス曲率は、曲面上の点における2本の接ベクトルの外積と、ガウス写像の点における2本の接ベクトルの外積の比です。さらに両辺の絶対値をとることで、(1)も見ると、$(u,v)$ における微小な面積の比ともいえます。

これについて、以下でより厳密に考えましょう。

近傍の曲面とガウス写像の面積

$uv$ 平面の領域 $D$ の中の点 $(u_0,v_0)$ を $P_0$ としましょう。$P_0$ を中心とする半径 $\epsilon$ の十分小さな開円板を $B_\epsilon(P_0)$ と名付けます。

曲面上の点 $\bm{S}(P_0)$ におけるガウス曲率が $K(P_0)\neq0$ であるとします。$\bm{S}_u$ と $\bm{S}_v$ は独立ですので $\bm{S}_u\times\bm{S}_v\neq0$ となるため、(8)より $\hat{\bm{n}}_u\times\hat{\bm{n}}_v\neq 0$ です。よって $\hat{\bm{n}}(u,v)$ は $(u,v)\in B_\epsilon(P_0)$ において曲面です。

さて、曲面 $\bm{S}(u,v)$ の $(u,v)\in B_\epsilon(P_0)$ における面積は(1)より\begin{equation}S=\iint_{B_\epsilon(P_0)} |\bm{S}_u\times\bm{S}_v|dudv\tag{9}\end{equation}対応するガウス写像の面積は\begin{equation}\hat{S}=\iint_{B_\epsilon(P_0)} |\hat{\bm{n}}_u\times\hat{\bm{n}}_v|dudv\tag{10}\end{equation}となります。

積分の平均値の定理

(9)(10)の比を計算するために、面積分に関する平均値の定理を準備しましょう。

平均値の定理

$uv$ 平面上において有限な面積をもつ集合 $E$ 上で、連続関数 $f(u,v)$ は有界とする。このとき $$\exists (u_0,v_0)\in E\quad\mathrm{s.t.}\quad f(u_0,v_0)=\frac{1}{\mathrm{vol}(E)}\iint_E f(u,v)dudv$$ただし $\mathrm{vol}(E)$ は $E$ の面積である。$$\mathrm{vol}(E)=\iint_E dudv$$

【証明】$E$ 内における $f(u,v)$ の上限(あれば最大値)、下限(あれば最小値)を考えて$$\inf_{(u,v)\in E}f(u,v)\le f(u,v)\le\sup_{(u,v)\in E}f(u,v)$$上限値をとるようなパラメータを $(u_2,v_2)$、下限値をとるパラメータを $(u_1,v_1)$ とすると$$f(u_1,v_1)\le f(u,v)\le f(u_2,v_2)$$左辺・中辺・右辺を $E$ にわたって面積分する。左辺と右辺は定数なので$$\mathrm{vol}(E)f(u_1,v_1)\le \iint_E f(u,v)dudv\le\mathrm{vol}(E)f(u_2,v_2)$$$$\therefore\quad f(u_1,v_1)\le \frac{1}{\mathrm{vol}(E)}\iint_E f(u,v)dudv\le f(u_2,v_2)$$ここで $E$ に含まれる曲線 $(u(t),v(t))$ を考える。これは $u(t_1)=u_1$ , $u(t_2)=u_2$ , $v(t_1)=v_1$ , $v(t_2)=v_2$ となるように定められているとする。$g(t):=f(u(t),v(t))$ と定義すれば中間値の定理より$$\exists t_0 \in (t_1,t_2)\;\mathrm{s.t.}\; g(t_1)\le g(t_0)=\frac{\iint_E f(u,v)dudv}{\mathrm{vol}(E)}\le g(t_2) $$$u(t_0)=u_0$ , $v(t_0)=v_0$ とおくと$$f(u_0,v_0)=\frac{1}{\mathrm{vol}(E)}\iint_E f(u,v)dudv$$【証明終】

これを(9)に使うと $P_1:=(u_1,v_1)\in B_\epsilon(P_0)$ が存在して$$S=|\bm{S}_u(P_1)\times\bm{S}_v(P_1)|\iint_{B_\epsilon(P_0)}dudv$$(10)に使うと $P_2:=(u_2,v_2)\in B_\epsilon(P_0)$ が存在して$$\hat{S}=|\hat{\bm{n}}_u(P_2)\times\hat{\bm{n}}_v(P_2)|\iint_{B_\epsilon(P_0)} dudv$$いま $P_1\neq P_2$ ですが、ともに半径 $\epsilon$ の円の中にあります。よって2点間の距離は $\epsilon\to+0$ によって一致します$(P_1=P_2=P_0)$。以上より(8)も併せて

定理

\begin{equation}|K(u_0,v_0)|=\lim_{\epsilon\to0}\frac{\hat{S}}{S}\tag{11}\end{equation}

つまり、ある点におけるガウス曲率 $K$ は、その近傍における曲面の面積とガウス写像の面積の比ということになります。

参考文献

・中内伸光『幾何学は微分しないと』

・"The Mean Value Theorem for Double Integrals", Mathonline[2023/5/7 アクセス]

『幾何学は微分しないと』を参照しました。オヤジギャグまじりの平易な文章で微分幾何学を分かりやすく解説しています。初学者向けな分、内容はやや薄いと思うので、ネットや他の書籍を併用すると学習効果が高まります。


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