量子力学におけるシュレディンガー方程式を、1次元の三角井戸型ポテンシャルについて解きます。初等的に解くことはできず、エアリー関数という特殊関数を解として用いることになります。エアリー関数を導出するには微分方程式をラプラス変換することで積分表示し、複素平面上で適切な経路をとる必要があります。
三角井戸型ポテンシャルは図1のようなもので、式で表すと\begin{equation}V(x)=\begin{cases}+\infty\quad(x<0)\\ax\quad(x\ge 0)\end{cases}\tag{1}\end{equation}波動関数は $x<0$ においてゼロであり、$x\ge0$ において定常状態で\begin{equation}-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{d^2\psi}{dx^2}+ax\psi(x)=E\psi(x)\tag{2}\end{equation}\begin{equation}\therefore\quad\frac{d^2\psi}{dx^2}-\frac{2ma}{\hbar^2}\left(x-\frac{E}{a}\right)\psi(x)=0\tag{3}\end{equation}見通しをよくするために次の変数変換をします。$$x-\frac{E}{a}=\left(\frac{\hbar^2}{2ma}\right)^\frac{1}{3}X$$微分方程式は$$\left(\frac{2ma}{\hbar^2}\right)^\frac{2}{3}\frac{d^2\psi}{dX^2}-\frac{2ma}{\hbar^2}\left(\frac{\hbar^2}{2ma}\right)^\frac{1}{3}X\psi(X)=0$$これを整理することにより「エアリーの微分方程式」を得ます。
\begin{equation}\psi^{\prime\prime}(X)-X\psi(X)=0\tag{4}\end{equation}
複素積分による表現
(4)は解くことができません。厳密解は諦めますが(4)を満たす関数の積分表示を導出することが可能です。これから解説する方法は過去にもベッセル微分方程式で実践したことがあります:
微分方程式$$y^{\prime\prime}-xy=0$$を考えます。$y$ を適当な経路 $C$ によるラプラス変換\begin{equation}y=\int_Cf(z)e^{xz}dz\tag{5}\end{equation}で書くと、この2階微分は\begin{equation}y^{\prime\prime}=\int_Cz^2f(z)e^{xz}dz\tag{6}\end{equation}したがって微分方程式は\begin{equation}\int_C(z^2-x)f(z)e^{xz}dz=0\tag{7}\end{equation}この段階で未知なのは「関数 $f(z)$」と「経路 $C$」です。未知というよりは(7)を満足するような $f(z)$ と $C$ を定めよというわけですね。
さて(7)左辺の被積分関数が新たな関数 $g(z)$ を用いて\begin{equation}(z^2-x)f(z)e^{xz}=\frac{d}{dz}\left(e^{xz}g(z)\right)\tag{8}\end{equation}と書けたとします。右辺の微分を実行して$$(z^2-x)f(z)e^{xz}=\left(xg(z)+g'(z)\right)e^{xz}$$$$\therefore\quad(z^2-x)f(z)=xg(z)+g'(z)$$$x$ の1次恒等式とみて比較すると$$z^2f(z)=g'(z)\;,\;-f(z)=g(z)$$これを満たすような $f,g$ を求めるべく辺々割ると$$-z^2=\frac{g'(z)}{g(z)}=\frac{d}{dz}\log g(z)$$$$\therefore\quad\log g(z)=-\frac{z^3}{3}$$$$\therefore\quad f(z)=-e^{-\frac{z^3}{3}}\;,\;g(z)=e^{-\frac{z^3}{3}}$$積分定数は書いていません。積分定数は $f,g$ の定数倍に寄与するものです。ここでは(7)を満足する $f(z)$ を1つ定めたいだけですから、なくてもOK。
経路Cを定める
さて、問題の微分方程式の積分表示(7)の左辺は(8)より$$\int_C(z^2-x)f(z)e^{xz}dz=\int_C\frac{d}{dz}\left(e^{xz}g(z)\right)dz$$これが(7)の右辺$0$と等しいので\begin{equation}\Bigl[e^{xz}g(z)\Bigr]_{z=a}^b=0\tag{9}\end{equation}ただし $a,b$ は経路 $C$ の始点、終点です。$g(z)$ は先ほど求めましたから\begin{equation}\Bigl[e^{-\frac{z^3}{3}+xz}\Bigr]_{z=a}^b=0\tag{10}\end{equation}あとはこれを満たす $a,b$ を定めるのみです。
$e^{-\frac{z^3}{3}}$ について $z=Re^{i\t}$ , $-\pi\le\t\le\pi$ とします。(10)の形から $a,b$ はともに無限遠点であればよさそうなので、あとで $R\to\infty$ とするつもりです。\begin{eqnarray*}e^{-\frac{z^3}{3}}&=&\exp\left(-\frac{R^3}{3}e^{3i\t}\right)\\&=&\exp\left(-\frac{R^3}{3}\cos3\t\right)\exp\left(-i\frac{R^3}{3}\sin3\t\right)\end{eqnarray*}$$\therefore\quad\left|e^{-\frac{z^3}{3}}\right|=\exp\left(-\frac{R^3}{3}\cos3\t\right)$$$R$ を大きくしたときにこの値がゼロになるには $\cos3\t>0$ であればよいです。よって\begin{equation}-\frac{5}{6}\pi<\t<-\frac{\pi}{2},-\frac{\pi}{6}<\t<-\frac{\pi}{6},\frac{\pi}{2}<\t<\frac{5}{6}\pi\tag{11}\end{equation}この範囲を図にすると下のようになります。
したがって赤、緑、青に入った無限遠点をそれぞれ $R,G,B$ とすると、経路を $R\to G$ , $G\to B$ , $B\to R$ ととった線積分はすべて解です。\begin{eqnarray*}y_1(x)&=&-\int_R^G e^{-\frac{z^3}{3}+xz}dz\\y_2(x)&=&-\int_G^B e^{-\frac{z^3}{3}+xz}dz\\y_3(x)&=&-\int_B^R e^{-\frac{z^3}{3}+xz}dz\end{eqnarray*}エアリー方程式は2階線型微分方程式であるため、独立な解は2つです。積分経路を $R\to G\to B\to R$ と1周させればゼロとなることからただちに$$y_1(x)+y_2(x)+y_3(x)=0$$なる従属性が見出せますね。
これで方程式(4)の解が積分表示されました。
積分経路を $R\to G$ ととる場合を考えます。具体的には $R$ を虚軸の負側ぎりぎりの無限遠点 $-\epsilon-i\infty$、$G$ を正側ぎりぎりの無限遠点 $-\epsilon+i\infty$ とします。このとき$$-\int_{-\epsilon-i\infty}^{-\epsilon+i\infty} e^{-\frac{z^3}{3}+xz}dz$$はもちろんエアリー方程式の解です。解には定数倍の不定性があることから、\begin{equation}\mathrm{Ai}(x)\equiv\frac{1}{2\pi i}\int_{-\epsilon-i\infty}^{-\epsilon+i\infty} e^{-\frac{z^3}{3}+xz}dz\tag{12}\end{equation}も解です(Aiというのは第1種エアリー関数を表す記号ですが、この式はAiの定義そのものとは若干違います)。$z=-\epsilon+iu$ と置換して計算していくと\begin{eqnarray*}\mathrm{Ai}(x)&=&\frac{1}{2\pi}\int_{-\infty}^\infty \exp\left[-\frac{1}{3}(-\epsilon+iu)^3+x(-\epsilon+iu)\right]du\\&=&\frac{e^{\frac{\epsilon^3}{3}-\epsilon x}}{2\pi}\int_{-\infty}^\infty \exp\left[-\epsilon u^2+i\left(\frac{u^3}{3}+u(x-\epsilon^2)\right)\right]du\end{eqnarray*}オイラーの公式によって $\cos$ と $\sin$ が現れ、偶奇性により後者は消えます。\begin{eqnarray*}\mathrm{Ai}(x)&=&\frac{e^{\frac{\epsilon^3}{3}-\epsilon x}}{\pi}\int_{0}^\infty e^{-\epsilon u^2}\cos\left(\frac{u^3}{3}+u(x-\epsilon^2)\right)du\end{eqnarray*}ここで $\epsilon$ は大変小さな数であり、$0$への極限で\begin{equation}\mathrm{Ai}(x)=\frac{1}{\pi}\int_{0}^\infty \cos\left(\frac{u^3}{3}+ux\right)du\tag{13}\end{equation}
$\epsilon$ を $0$ としてよいかは疑問が残ります。そこで(13)が収束していることを示しましょう。$x$ は実数であることに注意します。大きな実数 $R>0$ について積分$$\int_{0}^R \cos\left(\frac{u^3}{3}+ux\right)du$$を計算します。\begin{eqnarray*}&&\left|\int_{0}^R \cos\left(\frac{u^3}{3}+ux\right)du\right|\\&=&\left|\int_{0}^R (u^2+x)\cos\left(\frac{u^3}{3}+ux\right)\cdot\frac{1}{u^2+x}du\right|\\&=&\left|\left[\frac{\sin\left(\frac{u^3}{3}+ux\right)}{u^2+x}\right]_0^R+2\int_{0}^R\frac{u\sin\left(\frac{u^3}{3}+ux\right)}{(u^2+x)^2} du\right|\\&=&\left|\frac{\sin\left(\frac{R^3}{3}+Rx\right)}{R^2+x}+2\int_{0}^R\frac{u\sin\left(\frac{u^3}{3}+ux\right)}{(u^2+x)^2} du\right|\\&\le&\left|\left|\frac{\sin\left(\frac{R^3}{3}+Rx\right)}{R^2+x}\right|+2\left|\int_{0}^R\frac{u\sin\left(\frac{u^3}{3}+ux\right)}{(u^2+x)^2} du\right|\right|\\&\le&\left|\frac{1}{|R^2+x|}+2\int_{0}^R\left|\frac{u\sin\left(\frac{u^3}{3}+ux\right)}{(u^2+x)^2}\right| du\right|\\&\le&\left|\frac{1}{|R^2+x|}+2\int_{0}^R\frac{u}{(u^2+x)^2}du\right|\\&=&\left|\frac{1}{|R^2+x|}+\frac{1}{x}-\frac{1}{R^2+x}\right|\\&&\rightarrow\frac{1}{|x|}\end{eqnarray*}したがってAiは収束し、かつ$x\to\infty$ で $0$ となる関数であることが分かります。
というわけで特殊解Aiを第1種エアリー関数といい、以下の表式で示されます。
\begin{equation}\mathrm{Ai}(x)=\frac{1}{\pi}\int_{0}^\infty \cos\left(\frac{u^3}{3}+ux\right)du\tag{14}\end{equation}
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