【γ10】ポリガンマ関数の値、極、級数表示、ゼータ関数との関係(ガンマ関数の基礎シリーズ10)

「ガンマ関数の基礎」シリーズ第10回です。前回、前々回はディガンマ関数 $\psi(z)$ について詳しく書きました。

【γ8】ディガンマ関数の特殊値と極

【γ9】ディガンマ関数の相反公式・倍数公式と特殊値・ゼータ関数(ガンマ関数の基礎シリーズ9)

今回はその微分である「ポリガンマ関数」について解説します。正確に言うとディガンマ関数もポリガンマ関数の1種です。ガンマ関数の対数微分を「ディガンマ関数 $\psi$」、その微分を「トリガンマ関数 $\psi'$」、その微分を「テトラガンマ関数 $\psi^{\prime\prime}$」・・・とよびますが、全部まとめて「ポリガンマ関数 $\psi^{(n)}$」です。

ポリガンマ関数の特殊値、極、級数表示およびゼータ関数との関係について、導出します。

ディガンマ関数とその微分

予備知識(過去のダイジェスト)

ディガンマ関数の定義は次で与えられます。

digamma function

\begin{equation}\psi(z)\equiv\frac{d}{dz}\left(\log\G(z)\right)=\frac{\G'(z)}{\G(z)}\tag{1}\end{equation}

$\G(z)$ はガンマ関数です。ディガンマ関数は次の漸化式をもちます。

recurrence relation

\begin{equation}\begin{cases}\psi(1)&=&-\g\\\psi(z+1)&=&\psi(z)+\dfrac{1}{z}\end{cases}\tag{2}\end{equation}

さらに重要な級数表示

Series formula

\begin{equation}\psi(z)=-\g-\sum_{n=0}^\infty\left(\frac{1}{z+n}-\frac{1}{n+1}\right)\tag{3}\end{equation}

も押さえておきます。$\g$ はオイラー・マスケローニ定数です。これらの導出はすべて過去記事にあります。

本記事では、下記の本を参考にしています。2021年8月現在、第30刷。かなりの廉価ながら特殊関数に関する公式が網羅されています。参照用にするもよし、公式の証明にトライするもよし。


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ディガンマを微分しよう

(2)を微分するとポリガンマ関数 $\psi^{(n)}(z)$ の漸化式風があらわれます。

\begin{eqnarray*}\psi(z+1)&=&\psi(z)+\frac{1}{z}\\\psi'(z+1)&=&\psi'(z)-\frac{1}{z^2}\\\psi^{(2)}(z+1)&=&\psi^{(2)}(z)+\frac{2}{z^3}\\\psi^{(3)}(z+1)&=&\psi^{(3)}(z)-\frac{6}{z^4}\\&\vdots&\\\psi^{(n)}(z+1)&=&\psi^{(n)}(z)+\frac{(-1)^nn!}{z^{n+1}}\quad(n\in\ZZ^+)\end{eqnarray*}

recurrence relation

\begin{equation}\psi^{(n)}(z+1)=\psi^{(n)}(z)+\frac{(-1)^nn!}{z^{n+1}}\quad(n\in\ZZ^+)\tag{4}\end{equation}

これとは別に、(3)を微分すると\begin{eqnarray*}\psi(z)&=&-\g-\sum_{n=0}^\infty\left(\frac{1}{z+n}-\frac{1}{n+1}\right)\\\psi'(z)&=&\sum_{n=0}^\infty\frac{1}{(z+n)^2}\\\psi^{(2)}(z)&=&-2\sum_{n=0}^\infty\frac{1}{(z+n)^3}\\\psi^{(3)}(z)&=&6\sum_{n=0}^\infty\frac{1}{(z+n)^4}\end{eqnarray*}このように繰り返すとポリガンマ関数 $\psi^{(n)}(z)$ の級数公式を得ます。

series formula

\begin{equation}\psi^{(n)}(z)=(-1)^{n+1}n!\sum_{m=0}^\infty\frac{1}{(z+m)^{n+1}}\quad(n\in\NN)\tag{5}\end{equation}

ゼータ関数のにおいがプンプンします。実際、右辺の総和はフルヴィッツゼータ関数 $\zeta(n+1,z)$ です。

$$\therefore\quad\psi^{(n)}(z)=(-1)^{n+1}n!\zeta(n+1,z)$$

ポリガンマ関数の特異点

級数公式から特異点を調べる

(3)から分かるように $\psi(z)$ は $z=0,-1,-2\cdots$ で特異点をもちます。同様に(5)からポリガンマ関数も $z=0,-1,-2\cdots$ で特異点をもちます。これらの特異点は「極」に分類されます。その極は同じく(5)より、明らかに $n+1$ 位です。

pole

$\psi^{(n)}(z)$ は非正整数において $n+1$ 位の極をもつ。

漸化式から特異点を調べる

ちなみに特異点に関するこの結論は漸化式(4)から導出することも可能です。私はこちらからやりました。非負整数 $m$ に対して\begin{eqnarray*}\displaystyle\lim_{z\to-m}(z+m)^{n+1}\psi^{(n)}(z)&=&\displaystyle\lim_{z\to-m}(z+m)^{n+1}\left[\psi^{(n)}(z+1)-\frac{(-1)^nn!}{z^{n+1}}\right]\\&=&\displaystyle\lim_{z\to-m}(z+m)^{n+1}\psi^{(n)}(z+1)\\&=&\displaystyle\lim_{z\to-m}(z+m)^{n+1}\left[\psi^{(n)}(z+2)-\frac{(-1)^nn!}{(z+1)^{n+1}}\right]\\&=&\displaystyle\lim_{z\to-m}(z+m)^{n+1}\psi^{(n)}(z+2)\\&\vdots&\\&=&\displaystyle\lim_{z\to-m}(z+m)^{n+1}\psi^{(n)}(z+m)\\&=&(-1)^{n+1}n!\quad(\neq 0:\mathrm{const.})\end{eqnarray*}よって $n+1$ 位の極です。

留数

(5)を見れば $n$ が自然数のとき、$z=-m$ でローラン展開したとき $-1$ 次の項をもたないのであらゆる極の留数はゼロです。$n=0$ すなわちディガンマのときだけ留数があります(過去記事参照)。

【γ8】ディガンマ関数の特殊値と極

上のように書く前にまともに求めてしまったので方法を載せておきます。$z=-m$ における留数は、位数 $n+1$ より\begin{eqnarray*}\mathrm{Res}_{z=-m}&=&\frac{1}{n!}\displaystyle\lim_{z\to-m}\frac{d^n}{dz^n}(z+m)^{n+1}\psi^{(n)}(z)\\&=&\frac{1}{n!}\displaystyle\lim_{z\to-m}\frac{d^n}{dz^n}\left[(z+m)^{n+1}(-1)^{n+1}n!\sum_{k=0}^\infty\frac{1}{(z+k)^{n+1}}\right]\\&=&(-1)^{n+1}\displaystyle\lim_{z\to-m}\frac{d^n}{dz^n}\left[(z+m)^{n+1}\sum_{k=0}^\infty\frac{1}{(z+k)^{n+1}}\right]\end{eqnarray*}シグマのところは $k\neq m$ では $z=-m$ で正則なのでテイラー展開できます。$$(z+m)^{n+1}\frac{1}{(z+k)^{n+1}}=(z+m)^{n+1}[a_0+a_1(z+m)+a_2(z+m^2)+\cdots]$$これを $n$ 回微分しても各項に $(z+m)$ は残るので$$\displaystyle\lim_{z\to-m}\frac{d^n}{dz^n}(z+m)^{n+1}\frac{1}{(z+k)^{n+1}}=0\quad(k\neq m)$$これを用いれば\begin{eqnarray*}\mathrm{Res}_{z=-m}&=&(-1)^{n+1}\displaystyle\lim_{z\to-m}\frac{d^n}{dz^n}\left[(z+m)^{n+1}\sum_{k=0}^\infty\frac{1}{(z+k)^{n+1}}\right]\\&=&(-1)^{n+1}\displaystyle\lim_{z\to-m}\frac{d^n}{dz^n}\left[(z+m)^{n+1}\frac{1}{(z+m)^{n+1}}\right]\\&=&(-1)^{n+1}\displaystyle\lim_{z\to-m}\frac{d^n}{dz^n}1\\&=&0\end{eqnarray*}ポリガンマの留数に関する記述がどこにも見当たらないので変だと思ったらそういうことですね。。。求めるまでもないこと。

ポリガンマの特殊値(整数、半整数)

$\psi^{(n)}(z)$ は特殊関数であり、一般に厳密な値を得られませんが、$z$ が特別な値のときは求めることができます。

$z=k(自然数)$ のとき

(5)に $z=1$ を代入すると$$\psi^{(n)}(1)=(-1)^{n+1}n!\sum_{m=0}^\infty\frac{1}{(1+m)^{n+1}}$$したがって次の公式を得ます。

Specific value

\begin{equation}\psi^{(n)}(1)=(-1)^{n+1}n!\zeta(n+1)\quad(n\in\NN)\tag{6}\end{equation}

リーマンゼータ関数が現れていますが、$n$ が奇数のときは厳密値が知られています。例えば $\zeta(2)=\pi^2/6$ より$$\psi'(1)=\zeta(1+1)=\frac{\pi^2}{6}$$


ゼータ関数については過去記事あります:


一般の自然数 $z=k$ であれば

Specific values

\begin{equation}\psi^{(n)}(k)=(-1)^{n+1}n!\sum_{m=0}^\infty\frac{1}{(k+m)^{n+1}}\quad(n,k\in\NN)\tag{7}\end{equation}

ゼータ関数との関係

(6)および $\psi(1)=-\g$ より $\psi(z)$ を $z=1$ まわりにテーラー展開すると次の表式を得ます。

generating function

\begin{equation}\psi(z)=-\g+\sum_{n=1}^\infty(-1)^{n+1}\zeta(n+1)(z-1)^n\tag{8}\end{equation}

この式より、ディガンマ関数をゼータ関数の母関数であるといえます。

半整数での値

(5)より\begin{eqnarray*}\psi^{(1)}\left(\frac{1}{2}\right)&=&\sum_{m=0}^\infty\frac{1}{(\frac{1}{2}+m)^{2}}\\&=&4\sum_{m=0}^\infty\frac{1}{(2m+1)^{2}}\\&=&4\left(\zeta(2)-\frac{1}{4}\zeta(2)\right)\\&=&3\zeta(2)\end{eqnarray*}$$\therefore\quad\psi^{(1)}\left(\frac{1}{2}\right)=\frac{\pi^2}{2}$$これと\begin{equation}\psi^{(n)}(z+1)=\psi^{(n)}(z)+\frac{(-1)^nn!}{z^{n+1}}\quad(n\in\ZZ^+)\tag{9}\end{equation}により芋づる式に半整数での値が現れます。例えば$$\psi^{(1)}\left(\frac{3}{2}\right)=\psi^{(1)}\left(\frac{1}{2}\right)+\frac{-1}{(\frac{1}{2})^2}=\frac{\pi^2}{2}-4$$

$n$ を自然数として\begin{eqnarray*}\psi^{(n)}\left(\frac{1}{2}\right)&=&(-1)^{n+1}n!\sum_{m=0}^\infty\frac{1}{(\frac{1}{2}+m)^{n+1}}\\&=&(-1)^{n+1}n!2^{n+1}\sum_{m=0}^\infty\frac{1}{(2m+1)^{n+1}}\\&=&(-1)^{n+1}n!2^{n+1}\left[\zeta(n+1)-\sum_{m=1}^\infty\frac{1}{(2m)^{n+1}}\right]\\&=&(-1)^{n+1}n!2^{n+1}\left[\zeta(n+1)-\frac{1}{2^{n+1}}\zeta(n+1)\right]\end{eqnarray*}したがって次の式を得ます。

specific values

\begin{equation}\psi^{(n)}\left(\frac{1}{2}\right)=(-1)^{n+1}n!(2^{n+1}-1)\zeta(n+1)\quad(n\in\NN)\tag{10}\end{equation}

応用例題(対数正弦積分)

次の例題に関しては過去記事が詳しいです。

∫(logsin x)^n dx , ∫(logcos x)^n dx -対数正弦積分その3

ベータ関数 $B(x,y)$ を $x$ について3回偏微分することにより\begin{equation}\int_0^\frac{\pi}{2}(\log\sin x)^3dx\tag{11}\end{equation}の値を求めよ。$\zeta(3)$ を用いてよい。

ベータ関数$$B(x,y)=2\int_0^\frac{\pi}{2}\sin^{2x-1}\theta\cos^{2y-1}\theta d\theta$$を $x$ で3回偏微分します。$$\frac{\partial^3 B}{\partial x^3}(x,y)=16\int_0^\frac{\pi}{2}\sin^{2x-1}\theta\cos^{2y-1}\theta(\log\sin\theta)^3 d\theta$$ \(x=y=1/2\) を代入すれば$$\frac{\partial^3 B}{\partial x^3}\left(\frac{1}{2},\frac{1}{2}\right)=16\int_0^\frac{\pi}{2}(\log\sin\theta)^3 d\theta$$となって積分(11)が現れます。

一方ベータ関数の微分はガンマ関数との関係式から$$\frac{\partial^3 B}{\partial x^3}=B\left[\{\psi(x)-\psi(x+y)\}^3+3\{\psi(x)-\psi(x+y)\}\{\psi^{(1)}(x)-\psi^{(1)}(x+y)\}+\{\psi^{(2)}(x)-\psi^{(2)}(x+y)\}\right]$$$x=y=\frac{1}{2}$ を代入して$$\frac{\partial^3 B}{\partial x^3}\left(\frac{1}{2},\frac{1}{2}\right)=B\left[\{\psi\left(\frac{1}{2}\right)-\psi(1)\}^3+3\{\psi\left(\frac{1}{2}\right)-\psi(1)\}\{\psi^{(1)}\left(\frac{1}{2}\right)-\psi^{(1)}(1)\}+\{\psi^{(2)}\left(\frac{1}{2}\right)-\psi^{(2)}(1)\}\right]$$ポリガンマ関数に先ほど求めた値を代入することにより\begin{equation}\int_0^\frac{\pi}{2}(\log\sin x)^3dx=-\frac{\pi}{2}\log^3 2-\frac{\pi^3}{8}\log2-\frac{3}{4}\pi\zeta(3)\tag{12}\end{equation}

次回の記事:

【γ11】ガンマ関数の積分表示導出①(ハンケルとか)

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