【9】整関数とワイエルシュトラスの因数分解定理②(完全版)

無限積の理論シリーズ第9回。前回のワイエルシュトラスの因数分解定理(簡易版)の考え方に沿って、完全版を用意しましょう。前回が理解できていれば、ほぼ同じような感じです。

前回はこちら:

【8】整関数とワイエルシュトラスの因数分解定理①(基本乗積・種数)

因数分解定理の簡易版

定理9.0

$|\lambda_n|\to\infty$ , $\lambda_n\neq 0$ とする。非負整数 $N$ が存在して$$\sum_{n=1}^\infty\frac{1}{|\lambda_n|^{N+1}}$$が収束するとする。このとき零点 $\{\lambda_n\}$、および $z=0$ に $m$ 位の零点をもつ整関数 $f$ が存在して$$f(z)=z^m e^{g(z)}\prod_{n=1}^\infty \left(1-\frac{z}{\lambda_n}\right)e^{\frac{z}{\lambda_n}+\frac{z^2}{2\lambda_n^{~2}}+\cdots\frac{z^N}{N\lambda_n^{~N}}}$$と書ける。

を前回導出しました。ここでは無限積の中にあるscaling factorを、$n$ によらず常に $N$ 個だけ附しています。そのような制約によって、残念ながら例えば $\lambda_n=\log n$ としたときに乗積が存在しません。この定理は不完全なのです。なので、任意の零点を与えて整関数をつくれるようにしたいです。そこでscaling factorの個数を一定にせず $n$ に依存させることを考えます。

肝となるアプローチ

では零点を $\lambda_n=\log n$ ($n\ge 2$) にもつ整関数をつくってみましょう。定理9.0の基本乗積の部分を少し変えて$$\prod_{n=2}^\infty \left(1-\frac{z}{\log n}\right)e^{\frac{z}{\log n}+\frac{z^2}{2\log^2 n}+\cdots\frac{z^{k_n}}{k_n\log^{k_n}n}}$$対数をとって絶対値を附します。$\log$ を展開すると次々と項が消えて$$\left|\sum_{n=2}^\infty\sum_{j=k_n+1}^\infty\frac{z^j}{j\log^j n}\right|\le\sum_{n=2}^\infty\sum_{j=k_n+1}^\infty\frac{|z|^j}{j\log^j n}$$この左辺が $\CC$ 上広義一様収束すればいいです。

$|z|\le R$ とします。$N\ge e^{2R}$ なる自然数 $N$ を1つ定めると、$\forall n\ge N$ に対して$$\sum_{j=k_n+1}^\infty\frac{|z|^j}{j\log^j n}\le\sum_{j=k_n+1}^\infty\frac{1}{j2^j}\le\sum_{j=k_n+1}^\infty\frac{1}{2^j}=\frac{1}{2^{k_n}}$$和をとれば$$\sum_{n=N}^\infty\sum_{j=k_n+1}^\infty\frac{|z|^j}{j\log^j n}\le\sum_{n=N}^\infty\frac{1}{2^{k_n}}$$$k_n=n$ と定めると右辺は定数に収束するので、左辺は $|z|\le R$ 上で一様収束、すなわち $\CC$ 上広義一様収束です。よって無限積も広義一様収束します。以上から

命題9.1

零点を $\lambda_n=\log n$ ($n\ge 2$) にもつ整関数の1つは$$e^{g(z)}\prod_{n=2}^\infty \left(1-\frac{z}{\log n}\right)e^{\frac{z}{\log n}+\frac{z^2}{2\log^2 n}+\cdots\frac{z^{n}}{n\log^{n}n}}$$

このように考えれば、任意の整関数を無限積表示できそうです。

基本因子

本題への準備として、次の関数を定義します。$k\in\ZZ_{\ge 0}$ , $z\in\CC$ として\begin{equation}E_k(z):=(1-z)e^{S_k(z)}\;,\quad S_k(z):=\sum_{j=1}^k\frac{z^j}{j}\tag{1}\end{equation}$E_k$ は整関数です。ただし\begin{equation}S_0(z)=0\;,\;E_k(0)=1\tag{2}\end{equation}とします。この関数をワイエルシュトラスの基本因子(Weierstrass primary factor)といいます。

$|z|<1$ おいては $\sum\frac{z^n}{n}$ は $-\log(1-z)$ に一様収束します。よって$$e^{-\log(1-z)}=e^{\sum_{n=1}^\infty\frac{z^n}{n}}>e^{S_k(z)}$$および定理6.3より $\{E_k\}$ は $|z|<1$ で一様収束する関数列ということになります。

Rudinの補題

準備として次の補題を用意します。

補題9.2

$$|z|\le 1\Longrightarrow \forall k\ge 0\;,\; |1-E_k(z)|\le|z|^{k+1}$$

【証明】$k=0$ で成立。$z=0,1$ で成立。よって以下 $k\in\NN$ , $z\neq0,1$ として考える。$$E'_k(z)=-e^{S_k(z)}+(1-z)(1+z+\cdots+z^{k-1})e^{S_k(z)}$$\begin{equation}\therefore\quad E'_k(z)=-z^ke^{S_k(z)}\Rightarrow(1-E_k(z))'=z^ke^{S_k(z)}\tag{3}\end{equation}$z^k$ は $z=0$ に $k$ 位の零点をもち、$e^{S_k(z)}$ は零点をもたないので$$(1-E_k(z))'=z^k +O(z^{k+1})$$である。式を明示すれば\begin{equation}(1-E_k(z))'=z^k\sum_{l=0}^\infty\frac{1}{l!}\left(\sum_{j=1}^k\frac{z^j}{j}\right)^l\tag{4}\end{equation}なので、展開式の係数はすべて正の実数である。積分すると$$1-E_k(z)=\frac{z^{k+1}}{k+1}+O(z^{k+2})$$したがって、正の実数列 $\{c_n\}$ を用いて$$\frac{1-E_k(z)}{z^{k+1}}=\sum_{n=0}^\infty c_nz^n$$であり、$|z|\le 1$ から$$\left|\frac{1-E_k(z)}{z^{k+1}}\right|\le\sum_{n=0}^\infty |c_n|=1-E_k(1)=1$$$$\therefore\quad|1-E_k(z)|\le|z|^{k+1}$$【証明終】

零点の列の発散

最後にもう1つの補題を。

補題9.3

$\lambda_n\neq 0$ , $\lim_{n\to\infty}|\lambda_n|=\infty$ とするとき$$\forall r\ge 0\;,\quad\sum_{n=1}^\infty\frac{r^n}{|\lambda_n|^n}$$は収束する。

【証明】$1/|\lambda_n|\to0$ より、ある自然数 $N$ が存在して $\forall n\ge N$ で$$\frac{r}{|\lambda_n|}<\frac{1}{2}\Longrightarrow\sum_{n=N}^\infty\frac{r^n}{|\lambda_n|^n}<\sum_{n=N}^\infty\frac{1}{2^n}<+\infty$$【証明終】

任意の複素数 $z$ について、$|z|\le R$ なる $R$ をとると、$$\sum_{n=1}^\infty\frac{|z|^n}{|\lambda_n|^n}\le\sum_{n=1}^\infty\frac{R^n}{|\lambda_n|^n}$$となって、補題9.3より、左辺はその閉円板上で一様収束します。すなわち

系9.4

$\lambda_n\neq 0$ , $\lim_{n\to\infty}|\lambda_n|=\infty$ とするとき、関数項級数$$\sum_{n=1}^\infty\frac{z^n}{\lambda_n^{~n}}$$は $\CC$ 上広義一様収束する

ワイエルシュトラスの因数分解定理(完全版)

いよいよ本題です。前回の因数分解定理をパワーアップしたものです。

定理9.5

複素数列 $\{\lambda_n\}$ が $\lambda_n\neq 0$ , $\lim_{n\to\infty}|\lambda_n|=\infty$ を満たすとする。このとき非負整数の列 $\{k_j\}$ が存在して$$P(z)=\prod_{n=1}^\infty E_{k_n}\left(\frac{z}{\lambda_n}\right)$$なる整関数 $P$ が存在する。さらに $P$ は $\{\lambda_n\}$ のすべてを零点としてもち、ほかに零点をもたない。

【証明】$$\prod_{n=1}^\infty E_{k_n}\left(\frac{z}{\lambda_n}\right)=\prod_{n=1}^\infty \left[1-A_n(z)\right]\;,\quad A_n(z):=1-E_{k_n}\left(\frac{z}{\lambda_n}\right)$$$\exists N\in\NN$ , $\forall n\ge N$ について $|z/\lambda_n|\le1$ とできるので、補題9.2より$$|A_n(z)|\le\left|\frac{z}{\lambda_n}\right|^{k_n+1}\quad(\forall n\ge N)$$和をとります。$$\sum_{n=N}^\infty|A_n(z)|\le\sum_{n=N}^\infty\left|\frac{z}{\lambda_n}\right|^{k_n+1}$$よって適当に $\{k_n\}$ を定めれば、系9.4より$\sum|A_n(z)|$ は広義一様収束する(例えば $k_n=n-1$ とすればよい)。よって定理6.8より $\prod(1-A_n(z))$ も広義一様収束して整関数となる。零点に関しては(1)の定め方よりしたがう。
【証明終】

定理9.4を核として、ただちに次の定理を得ます(この話は前回参照)。

定理9.5 Weierstrass factorization theorem

$|\lambda_n|\to\infty$ , $\lambda_n\neq 0$ とする。このとき非負整数の列 $\{k_n\}$ が存在して、零点 $\{\lambda_n\}$、および $0$ に $m$ 位の零点をもつ整関数 $f$ をつぎのように作ることができる$$f(z)=z^m e^{g(z)}\prod_{n=1}^\infty \left(1-\frac{z}{\lambda_n}\right)e^{\frac{z}{\lambda_n}+\frac{z^2}{2\lambda_n^{~2}}+\cdots\frac{z^{k_n}}{k_n\lambda_n^{~k_n}}}$$

これで(恒等的に $0$ でない)任意の整関数を因数分解できます。

有理型関数

定理9.5から有理型関数(meromorphic function)に関する定理を得ます。有理型関数とは、領域内で極以外の特異点をもたず、極全体の集合は離散集合である関数です。

定理9.6

$\CC$ 上の有理型関数は整関数の商で表される。

【証明】有理型関数 $Q$ が $z=a$ に $n$ 位の極をもつとする。定理9.5より $z=a$ に $n$ 位の零点を持つ整関数 $g$ を作ることができる。よって整関数 $f$ を用いて$$Q(z)=\frac{f(z)}{g(z)}$$とできる。ほかの極も同様に考えればよい。
【証明終】

次回はこちら:

【10】開円板上の正則関数とBlaschke積

参考文献

[1] Charles H.C.Little, Kee L.Teo, Bruce van Brunt, "An Introduction to Infinite Products" (2022) 楽天はココ

無限積だけで1冊の本。入門からスタートするので安心です。第1章で級数のおさらいもあります。

[2]アールフォルス. (1982). 複素解析. 現代数学社.

複素解析の超定番本です。


複素解析(Amazon)
複素解析(楽天ブックス) [3]Bak, J., & Newman, D. J. (2017). Complex analysis. Springer.
豊富な計算例があって、応用がききます。


Complex Analysis (Undergraduate Texts in Mathematics) (English Edition)

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