【7】関数列の無限積における具体例(ヴィエトの公式・ゼータ関数)

無限積の理論シリーズ第7回。前回は複素関数の無限積の(一様)収束性や、収束先の関数の正則性について紹介しました。今回は具体的な無限積の例として三角関数を見ていきます。それと絡めてヴィエトの公式、ゼータ関数の特殊値を求めます。

前回はこちら:

【6】複素関数の無限積・一様収束と正則性

実関数の無限積

前回は複素関数の無限積について論じました。実数の世界でも同様に次が成立します。

定理7.1

区間 $I$ で定義された有界関数列 $\{f_n\}$ は常に $1+f_n(x)>0$ を満たすとする。$\sum|f_n(x)|$ が有界な関数へ $I$ 上に一様収束するならば、$\prod(1+f_n(x))$ は有界関数 $P(x)$ に $I$ 上一様収束する。このとき任意の $x\in I$ で $P(x)\neq 0$ である。

【証明】定理6.7より直ちに得る。【証明終】

例題7.1

$I=[-\pi,\pi]$ 上で定義される無限積$$P(x)=\prod_{n=2}^\infty\cos\frac{x}{2^n}$$は一様収束であることを示せ。

$f_n(x)=\cos\frac{x}{2^n}-1$ である。つまり$$f_n(x)=\sum_{k=1}^\infty\frac{(-1)^kx^{2k}}{(2k)!2^{nk}}$$である。ここで\begin{eqnarray*}\frac{x^{2(k+1)}}{(2k+2)!2^{n(k+1)}}\frac{(2k)!2^{nk}}{x^{2k}}&=&\frac{x^2}{(2k+1)(2k+2)2^{2n}}\\&\le&\frac{\pi^2}{(2k+1)(2k+2)2^{2n}}\\&<&1\end{eqnarray*}よって $\frac{x^{2k}}{(2k)!2^{nk}}$ は $k$ について正かつ単調減少であり、かつ $n\ge2$ で$$\frac{x^{2k}}{(2k)!2^{nk}}=\frac{1}{(2k)!}\left(\frac{x}{2^n}\right)^k\xrightarrow[]{k\to\infty}0$$なので、交代級数の評価についての定理を使うことができる。$$|f_n(x)|=\left|\sum_{k=0}^\infty\frac{(-1)^kx^{2k}}{(2k)!2^{nk}}-1\right|\le\frac{x^2}{2\cdot 2^n}\le\frac{\pi^2}{2\cdot 2^n}$$$$\therefore\quad\sum_{n=2}^\infty|f_n(x)|\le\frac{\pi^2}{4}\sum_{n=1}^\infty2^{-n}=\frac{\pi^2}{4}$$ワイエルシュトラスのM判定法より $\sum|f_n(x)|$ は有界な関数へ一様収束する。定理7.1より問題の無限積も一様収束する。

例題7.2

$x\in[0,1]$ とする。$\sum |a_n|$ が収束するとする。このとき$$P(x)=\prod_{n=1}^\infty(1+a_nx^n)$$とすると$$\lim_{x\to1^-}P(x)=\prod_{n=1}^\infty(1+a_n)$$である。

$a_n\to0$ より大きな $n$ では $|a_n|<1/2$ であり、$1+a_nx^n>0$ とできる。$$\sum|a_nx^n|\le\sum|a_n|<+\infty$$よって $\sum|f_n(z)|$ が有界な関数に一様収束する。定理7.1より無限積も $P(x)$ に一様収束する。よって極限をとりかえて$$\lim_{x\to1^-}P(x)=\prod_{n=1}^\infty\lim_{x\to1^-}(1+a_nx^n)=\prod_{n=1}^\infty(1+a_n)$$

例題7.3

$$\prod_{n=1}^\infty\left(1+\sin^2\frac{x}{2^n}\right)\quad,\quad x\in[-\pi,\pi]$$は一様収束する。

$$\sin^2\frac{x}{2^n}\le\left(\frac{x}{2^n}\right)^2\le\frac{\pi^2}{4^n}$$$\sum\frac{\pi^2}{4^n}$ は収束して定数となるから $\sum\sin^2\frac{x}{2^n}$ は一様収束。定理7.1より無限積も一様収束。

Cauchy's testとPringsheim's test

定理7.2

自然数 $N\ge 2$ が存在して$$\sum f_n(z)\;,\;\sum f_n(z)^2\;,\;\cdots\sum f_n(z)^{N-1}\;,\;\sum|f_n(z)|^N$$が広義一様収束するならば、$\prod(1+f_n(z))$ も広義一様収束する。

これは定理5.1とワイエルシュトラスのM判定法からただちに導かれます。Cauchy's testとPringsheim's testの関数列バージョンです。

オイラーの公式

初等的なおもしろい式変形で得られるオイラーの公式を紹介します。$-\pi\ge x\ge \pi$ として倍角の公式を繰り返し用います。$$\sin x=2\sin\frac{x}{2}\cos\frac{x}{2}=2^2\sin\frac{x}{2^2}\cos\frac{x}{2^2}\cos\frac{x}{2}=\cdots$$すると\begin{eqnarray*}\sin x &=& 2^n\sin\frac{x}{2^n}\prod_{k=1}^n\cos\frac{x}{2^k}\\&=&\frac{\sin\frac{x}{2^n}}{\frac{x}{2^n}}x\prod_{k=1}^n\cos\frac{x}{2^k}\\&\to&x\prod_{n=1}^\infty\cos\frac{x}{2^n}\end{eqnarray*}例題7.1の結果より無限積が収束することを証明済みです。\begin{equation}\therefore\quad \frac{\sin x}{x}=\prod_{n=1}^\infty\cos\frac{x}{2^n}\tag{1}\end{equation}これはオイラーによって導出されました[2]。

$$\prod_{n=1}^\infty\cos\frac{x}{2^n}=\frac{\sin x}{x\cos\frac{x}{2}}$$この左辺は $x=2^m(n+\frac{1}{2})\pi$ で $0$ となりますが、このとき右辺も $0$ となることが確認できます。また $x\in[-\pi,\pi]$ でなくても、十分大きな $n$ で例題7.1と同様の評価ができて、収束します。よって $x$ は全実数で成立します。

ヴィエトの公式

$x\to\pi$ とすれば$$\prod_{n=1}^\infty\cos\frac{\pi}{2^n}=\frac{2}{\pi}$$さらに $x\in[-\pi,\pi]$ では、半角の公式によって\begin{eqnarray*}\cos\frac{\pi}{2^2}&=\frac{1}{2}\sqrt{2+2\cos\frac{\pi}{2}}=&\frac{1}{2}\sqrt{2}\\\cos\frac{\pi}{2^3}&=\frac{1}{2}\sqrt{2+2\cos\frac{\pi}{2^2}}=&\frac{1}{2}\sqrt{2+\sqrt{2}}\\\cos\frac{\pi}{2^4}&=\frac{1}{2}\sqrt{2+2\cos\frac{\pi}{2^3}}=&\frac{1}{2}\sqrt{2+\sqrt{2+\sqrt{2}}}\end{eqnarray*}以下繰り返すことでヴィエトの公式を得ます。$$\frac{2}{\pi}=\frac{\sqrt{2}}{2}\frac{\sqrt{2+\sqrt{2}}}{2}\frac{\sqrt{2+\sqrt{2+\sqrt{2}}}}{2}\cdots$$ただしヴィエトはオイラーより前の時代の人です。ヴィエトは無限積を用いたのではなく、正 $2^n$ 角形の面積を調べることで導いたそうです。

無限積の微分

複素関数列が(広義)一様収束する場合、関数列の連続性・可積分性・微分可能性が保たれます。

定理7.3

領域 $\Omega$ の解析関数列 $\{f_n\}$ に対し、すべての $z$ で $$P(z)=\lim_{n\to\infty}P_n(z)=\lim_{n\to\infty}\prod_{k=1}^n(1+f_n(z))$$が広義一様収束して $P(z)\neq 0$ であるとする。このとき$$\frac{P'(z)}{P(z)}=\sum_{n=1}^\infty\frac{f_n'(z)}{1+f_n(z)}$$である[3]。

部分積の微分をとれば$$\frac{P'_n(z)}{P_n(z)}=\sum_{k=1}^n\frac{f_k'(z)}{1+f_k(z)}$$定理6.1から $P_n\to P$ , $P'_n\to P'$ なので$$\frac{P_n'}{P_n}\to\frac{P'}{P}$$よって示される。

例えば $P(x)=\prod_{n=1}^\infty (1+x^n)$ では$$P'(x)=P(x)\sum_{n=1}^\infty\frac{nx^{n-1}}{1+x^n}$$となります。

sinとcosの無限積表示

初等的な導出

K. Venkatachaliengar[4]による、$\sin x$ と $\cos x$ の無限積表示を初等的に導出する方法を紹介します。

$$I_n(x):=\int_0^\frac{\pi}{2}\cos xt\cos^ntdt\;,\quad n\ge0\;,\;x\in\RR$$を部分積分により変形します。$$I_n(x)=\frac{n}{x}\int_0^\frac{\pi}{2}\sin t\sin xt\cos^{n-1}tdt$$$$\therefore\quad I_{n-2}(x)=\frac{n^2-x^2}{n(n-1)}I_n(x)\quad ,\;n\ge 2$$$x=0$ のときは別途計算する必要がありますが、結果は $x\neq0$ の場合と一致しています。

また$$I_0(x)=\frac{1}{x}\sin\frac{\pi x}{2}\;,\; I_0(0)=\frac{\pi}{2}$$$$(1-x^2)I_1(x)=\cos\frac{\pi x}{2}\;,\; I_1(0)=1$$と計算できるので$$\sin\frac{\pi x}{2}=\frac{\pi x}{2}\frac{I_0(x)}{I_0(0)}\;,\;\cos\frac{\pi x}{2}=(1-x^2)\frac{I_1(x)}{I_1(0)}$$であり、先ほどの漸化式を$$\frac{I_{n-2}(x)}{I_{n-2}(0)}=\left(1-\frac{x^2}{n^2}\right)\frac{I_n(x)}{I_n(0)}$$として適用すると\begin{eqnarray*}\sin\frac{\pi x}{2}&=&\frac{\pi x}{2}\frac{I_{2n}(x)}{I_{2n}(0)}\prod_{k=1}^n\left(1-\frac{x^2}{(2k)^2}\right) \\\cos\frac{\pi x}{2} &=&\frac{I_{2n-1}(x)}{I_{2n-1}(0)}\prod_{k=1}^n\left(1-\frac{x^2}{(2k-1)^2}\right)\end{eqnarray*}$\sum\frac{x^2}{(2k)^2}$ , $\sum\frac{x^2}{(2k-1)^2}$ は広義一様収束するので、これらの無限積も収束する。さらに$$I_n(0)-I_n(x)=\int_0^\frac{\pi}{2}(1-\cos xt)\cos^ntdt>0$$$$1-\cos xt=2\sin^2\frac{xt}{2}\le\frac{x^2t^2}{2}$$より\begin{eqnarray*}I_n(0)-I_n(x)&\le&\frac{x^2}{2}\int_0^\frac{\pi}{2}t^2\cos^ntdt\\&\le& \frac{x^2}{2}\int_0^\frac{\pi}{2}t\sin t\cos^{n-1}tdt\quad(\because \sin t\ge t\cos t)\\&=&\frac{x^2}{2n}I_n(0)\end{eqnarray*}$$\therefore\quad\frac{I_n(x)}{I_n(0)}\xrightarrow[]{n\to\infty}1$$以上から

定理7.4

\begin{eqnarray*}\sin x&=&x\prod_{n=1}^\infty\left(1-\frac{x^2}{n^2\pi^2}\right)\\\cos x &=& \prod_{n=1}^\infty\left(1-\frac{4x^2}{(2n-1)^2\pi^2}\right)\end{eqnarray*}

ウォリス積

定理7.4より次が従います。

系7.5

$$\frac{2}{\pi}=\prod_{n=1}^\infty\frac{(2n-1)(2n+1)}{(2n)^2}$$

ゼータ関数

$\sin z$ の無限積表示からゼータ関数の整数値が求まるのは有名です。過去にも記事があります:

ゼータ関数値の求め方3選(フーリエ級数・パーセヴァルの等式・sin無限乗積)

今回は少し異なるアプローチでいきます。$\sin x$ の無限積表示より$$\ln\frac{\sin x}{x}=\sum_{n=1}^\infty\ln\left(1-\frac{x^2}{n^2\pi^2}\right)\;,\quad -\pi<x<\pi$$とでき、右辺は収束します。$\frac{x^2}{n^2\pi^2}<1$ よりメルカトル級数に展開でき、$$=-\sum_{n=1}^\infty\sum_{m=1}^\infty \frac{1}{m}\left(\frac{x^2}{n^2\pi^2}\right)^m$$級数が収束することから、二重級数の理論の定理7.2より順序交換可能です。すなわち$$=-\sum_{m=1}^\infty\frac{1}{m}\left(\frac{x^2}{\pi^2}\right)^m\sum_{n=1}^\infty \frac{1}{n^{2m}}$$よって次が成り立ちます。

定理7.6

$-\pi<x<\pi$ において$$\ln\frac{\sin x}{x}=-\sum_{n=1}^\infty\frac{\zeta(2n)}{\pi^{2n}n}x^{2n}$$

ζ(2)の求め方

定理7.6を $x^2$ で割って $x\to 0$ とすると$$-\frac{\zeta(2)}{\pi^2}=\lim_{x\to 0}\frac{1}{x^2}\ln\frac{\sin x}{x}$$ロピタルの定理を3回用いることで右辺の極限が計算できます。その結果、

系7.7

$$\zeta(2)=\frac{\pi^2}{6}$$

ζ(4)の求め方

定理7.6を $x^4$ で割って $x\to 0$ とすると$$-\frac{\zeta(4)}{2\pi^4}=\lim_{x\to 0}\frac{1}{x^4}\left(\ln\frac{\sin x}{x}+\frac{x^2}{6}\right)$$通分して繰り返しロピタルを使っていくと

系7.8

$$\zeta(4)=\frac{\pi^4}{90}$$

x cot(x)とゼータ関数

定理7.6を微分すると

系7.9

$$x\cot x=1-2\sum_{n=1}^\infty\frac{\zeta(2n)}{\pi^{2n}}x^{2n}$$

つまり $x\cot x$ の展開式からゼータ関数の偶数の値が次々と求まります。

例題7.4

$$\pi^2\csc^2\pi x=\sum_{n=-\infty}^\infty\frac{1}{(x+n)^2}\;,\quad 0<x<1$$

定理7.4の対数をとり、$(\ln\sin x)'=\cot x$ を用いると$$\cot x=\frac{1}{x}-\sum_{n=1}^\infty\frac{2x}{n^2\pi^2-x^2}\;,\quad(0<x<\pi)$$両辺を微分して整理すると$$\csc^2x =\frac{1}{x^2}+\sum_{n=1}^\infty\left(\frac{1}{(n\pi-x)^2}+\frac{1}{(n\pi+x)^2}\right)=\sum_{n=-\infty}^\infty\frac{1}{(n\pi+x)^2}$$よって上式を得ます。

例えば$$\sum_{n=-\infty}^\infty\frac{1}{(n+\frac{1}{2})^2}=\pi^2\;,\;\sum_{n=-\infty}^\infty\frac{1}{(n+\frac{1}{3})^2}=\frac{4}{3}\pi^2$$となります。

双曲線関数の無限積

$\sinh x=\sin ix/i$ , $\cosh x=\cos ix$ より

系7.10

\begin{eqnarray*}\sinh x&=& x\prod_{n=1}^\infty\left(1+\frac{x^2}{n^2\pi^2}\right)\\\cos x &=& \prod_{n=1}^\infty\left(1+\frac{4x^2}{(2n-1)^2\pi^2}\right)\end{eqnarray*}

次回はこちら:

【8】整関数とワイエルシュトラスの因数分解定理①(基本乗積・種数)

参考文献

[1] Charles H.C.Little, Kee L.Teo, Bruce van Brunt, "An Introduction to Infinite Products" (2022) 楽天はココ

無限積だけで1冊の本。入門からスタートするので安心です。第1章で級数のおさらいもあります。

[2] Euler, Leonhard (1738). "De variis modis circuli quadraturam numeris proxime exprimendi"

[3] Knopp, K. (1951). Theory and Application of Infinite Series.

[4] Venkatachaliengar, K. (1962). Elementary proofs of the infinite product for sin z and Allied formulae. The American Mathematical Monthly, 69(6), 541. https://doi.org/10.2307/2311200

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