【12】無限積とガンマ関数

無限積の理論シリーズ第12回。今回はガンマ関数の無限積による定義を確認します。以前にみたワイエルシュトラスの因数分解定理の視点からも見られます。その定義がよく知られたガンマ関数の性質と一致することも見ていきましょう。
前回はこちら:

【11】二重無限積

本記事ではあくまで、無限積の一例としてのガンマ関数を紹介するにすぎません。ガンマ関数に関する基本事項はガンマ関数の基礎シリーズをご覧ください。

無限積によるガンマ関数の定義

ガンマ関数は階乗の一般化として知られます。自然数 $k$ に対して、自然数 $n$ を用いて\begin{equation}P_n(k):=\frac{n^kn!}{\prod_{j=0}^n(j+k)}\tag{1}\end{equation}を定義します。変形すると\begin{equation}P_n(k)=\frac{n^k(k-1)!}{(n+1)(n+2)\cdots(n+k)}=\frac{(k-1)!}{(1+\frac{1}{n})(1+\frac{2}{n})\cdots(1+\frac{k}{n})}\tag{2}\end{equation}\begin{equation}\therefore\quad\lim_{n\to\infty}P_n(k)=(k-1)!\tag{3}\end{equation}よって(1)は $n\to\infty$ の極限で階乗を表すものですが、$k$ を複素数 $z$ として一般化することができます。

定義12.1

\begin{equation}P_n(z):=\frac{n^zn!}{\prod_{j=0}^n(z+j)}\tag{4}\end{equation}この極限をガンマ関数と定義する:\begin{equation}\G(z):=\lim_{n\to\infty}P_n(z)\tag{5}\end{equation}

ガンマ関数の定義の仕方にはいろいろありますが、(5)はガウスの公式をスタートとしています。見れば分かるように、(5)は\begin{equation}\mathcal{G}:=\CC\setminus\{0,-1,-2,\cdots\}\tag{6}\end{equation}の全体で定義されています。$0,-1,-2,\cdots$ に1位の極をもつことも、直感的にはすぐに見て取れますね。ただし、$P_n$ の収束性は確認しておく必要があります。

ワイエルシュトラス乗積

変形すると\begin{eqnarray*}P_n(z) &=& \frac{e^{z\ln n}n!}{\prod_{j=0}^n(z+j)} \\&=&\frac{e^{z\ln n}n!}{z\prod_{j=1}^n(z+j)} \\&=& \frac{e^{z\ln n}}{z\prod_{j=1}^n(1+\frac{z}{j})}\\&=& \frac{1}{ze^{z(H_n-\ln n)}\prod_{j=1}^n(1+\frac{z}{j})e^{-z/j}}\end{eqnarray*}$H_n$ は調和数で、オイラー・マスケローニ定数 $\g$ を用いて $H_n-\ln n\to\g$ ですから

定理12.2

\begin{equation}\G(z)=\frac{1}{ze^{\g z}\prod_{n=1}^\infty(1+\frac{z}{n})e^{-z/n}}\tag{7}\end{equation}

ここで過去記事から、(7)の分母にある無限積は全平面で広義一様収束して整関数となっており、負整数に1位の零点をもちます。よって(7)は $0,-1,-2,\cdots$ に1位の極をもつ解析関数です。そういうわけで、定義(5)も $\mathcal{G}$ 上広義一様収束しています。(7)をワイエルシュトラスの乗積表示といいます。

漸化式

ガンマ関数が階乗の一般化であることは有名ですが、ここで定義されたガンマ関数がそのような性質を持つかは要確認です。(7)を使いましょう。\begin{equation}R_n(z):=\prod_{k=1}^n\left(1+\frac{z}{k}\right)e^{-z/k}\;,\quad R(z)=\lim_{n\to\infty}R_n(z)\tag{8}\end{equation}とおくと$$\frac{R_n(z+1)}{R_n(z)}=e^{-H_n}\frac{z+n+1}{z+1}$$と計算できるので$$\frac{\G(z+1)}{\G(z)}=\lim_{n\to\infty}\frac{z}{(z+1)e^{\g}}\frac{R_n(z+1)}{R_n(z)}$$へ代入して

定理12.3

\begin{equation}\frac{\G(z+1)}{\G(z)}=z\tag{9}\end{equation}

を得ます。ガンマ関数のよく知られた性質で、階乗の一般化といわれる所以です。なお(3)より $\G(1)=1$ です。

対数微分とディガンマ関数

ガンマ関数を対数微分してみましょう。$$\log\G(z)=-\log z-\g z-\log R(z)$$より\begin{equation}\frac{\G'(z)}{\G(z)}=-\frac{1}{z}-\g-\frac{R'(z)}{R(z)}\tag{10}\end{equation}ここで$$\log R_n(z)=\sum_{j=1}^n\left[\log\left(1+\frac{z}{j}\right)-\frac{z}{j}\right]$$$\{R_n\}$ は広義一様収束するので項別微分して$$\frac{R'(z)}{R(z)}=\sum_{n=1}^\infty\left(\frac{1}{z+n}-\frac{1}{n}\right)$$(10)へ適用しますが、(10)の左辺を $\psi(z)$ と書くと

定理12.4

\begin{equation}\psi(z)=-\g-\sum_{n=0}^\infty\left(\frac{1}{z+n}-\frac{1}{n+1}\right)\tag{11}\end{equation}

これをディガンマ関数といいます。過去記事で得たディガンマの表示と一致しています。

第2種オイラー積分

ガンマ関数といえば、第2種オイラー積分による表示が有名です。本記事での定義(5)がそれと一致するかを確認しましょう。

$x>0$ とします。繰り返し部分積分することによって\begin{equation}\int_0^1(1-t)^nt^{x-1}dt=\frac{n!}{\prod_{j=0}^n(x+j)}\tag{12}\end{equation}なる式を得ます。(4)より$$P_n(x)=n^x\int_0^1(1-t)^nt^{x-1}dt$$$u=nt$ と置換して\begin{equation}P_n(x)=\int_0^n u^{x-1}\left(1-\frac{u}{n}\right)^ndu\tag{13}\end{equation}ところで $u\ge 0$ で\begin{equation}0\le e^{-u}-\left(1-\frac{u}{n}\right)^n\le \frac{u^2}{n}e^{-u}\tag{14}\end{equation}が成り立つことから([1] Lemma3.1.3)、少し変形して\begin{equation}\left(1-\frac{u^2}{n}\right)e^{-u}\le\left(1-\frac{u}{n}\right)^n\le e^{-u}\tag{15}\end{equation}となりますから(13)と合わせて$$\int_0^nu^{x-1}e^{-u}du-\frac{1}{n}\int_0^nu^{x+1}e^{-u}du\le P_n(x)\le\int_0^nu^{x-1}e^{-u}du$$ここで過去記事より $x>0$ で$$\int_0^\infty u^{x-1}e^{-u}du$$は収束するので、はさみうちによって$$P_n(x)\xrightarrow[]{n\to\infty}\int_0^\infty u^{x-1}e^{-u}du$$です。

定理12.5

$x>0$,$$\G(x)=\int_0^\infty u^{x-1}e^{-u}du$$

定理12.5をガンマ関数の定義としてスタートすることもあります(ガンマ関数の基礎シリーズ)。なお $x\le 0$ かつ非整数の場合の積分表示は\begin{equation}\G(x)=\int_0^\infty u^{x-1}\left(e^{-u}-\sum_{j=0}^m\frac{(-u)^j}{j!}\right)du\;\quad (-m-1<x<-m)\tag{16}\end{equation} この式はこちらでも扱いました。

練習問題

例題12.1

定理12.2からガンマ関数の相反公式$$\G(z)\G(1-z)=\frac{\pi}{\sin\pi z}$$を示せ。

$$\G(z)\G(1-z)=\lim_{n\to\infty}P_n(z)\lim_{n\to\infty}P_n(1-z)$$および $\sin$ の無限積表示より直ちに得る。

例題12.1

定理12.4を項別微分してルジャンドルの倍数公式$$\G(2z)=\frac{2^{2z-1}}{\sqrt{\pi}}\G(z)\G\left(z+\frac{1}{2}\right)$$を示せ。$\G(1/2)=\sqrt{\pi}$ を用いてよい。

$\psi'(z)=\sum_{n=0}^\infty(z+n)^{-2}$ より\begin{eqnarray*}\psi'(z)+\psi'\left(z+\frac{1}{2}\right) &=& 4\left[\sum_{n=0}^\infty\frac{1}{(2z+2n)^2}+\sum_{n=0}^\infty\frac{1}{(2z+2n+1)^2}\right]\\&=&4\sum_{n=0}^\infty\frac{1}{(2z+n)^2}\\&=&4\psi'(2z)\end{eqnarray*}両辺を積分して$$\psi(z)+\psi\left(z+\frac{1}{2}\right)=2\psi(2z)+a$$もう1度積分して$$\log\G(z)+\log\G\left(z+\frac{1}{2}\right)=\log\G(2z)+az+b$$すなわち$$\G(z)\G\left(z+\frac{1}{2}\right)=\G(2z)e^{az+b}$$あとは $z=1,1/2$ を代入して $a,b$ を決定するとよい。

次回はこちら:

【13】素数が無限積と級数をつなぐ(完全乗法的関数)

参考文献

[1] Charles H.C.Little, Kee L.Teo, Bruce van Brunt, "An Introduction to Infinite Products" (2022) 楽天はココ

無限積だけで1冊の本。入門からスタートするので安心です。第1章で級数のおさらいもあります。

[2]アールフォルス. (1982). 複素解析. 現代数学社.

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