【γ5】ガンマの微分とディガンマ関数

「ガンマ関数の基礎」第5回はガンマ関数の微分について解説します.前回の記事はこちら

【γ4】ガンマ関数の倍数公式とガウスの乗法公式

増減や極値を調べたり級数展開するなど,関数のことをよく知るためには微分が不可欠です.しかしガンマ関数は初等関数で表せない特殊関数ですから,サインやコサインのように難なく微分というわけにもいきません.

積分表示のまま微分

ガンマ関数の定義は

ガンマ関数

\begin{equation}\G(z)=\int^\infty_0e^{-t}t^{z-1}dt\quad(\mathfrak{R}z>0)\tag{1}\end{equation}

でしたから,とりあえずそのまま微分します.

\begin{equation}\G'(z)=\int^\infty_0e^{-t}t^{z-1}\log tdt\tag{2}\end{equation}

繰り返せば $n$ 階微分は

\begin{equation}\G^{(n)}(z)=\int^\infty_0e^{-t}t^{z-1}(\log t)^ndt\tag{3}\end{equation}

と表されます.しかしどうすればこの積分の値が分かるのでしょう??

本記事では、下記の本を参考にしています。2021年8月現在、第30刷。かなりの廉価ながら特殊関数に関する公式が網羅されています。参照用にするもよし、公式の証明にトライするもよし。


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乗積表示からの微分

ガウスの公式の対数をとる

そこで方針を変えましょう.過去記事で導出しましたが,ガウスの公式は以下のように書かれます.

ガウスの公式

\begin{equation}\G(z)=\displaystyle\lim_{n\to\infty}\frac{n!n^z}{\prod_{k=0}^n(z+k)}\tag{4}\end{equation}

参考記事:

【γ2】ガンマ関数の3つの乗積表示と相反公式(ガウス・オイラー・ワイエルシュトラス)

これの逆数をとります.$$\frac{1}{\G(z)}=\displaystyle\lim_{n\to\infty}\frac{\prod_{k=0}^n(z+k)}{n!n^z}$$たくさんの掛け算があってこのままでは微分が大変です.そこで両辺の対数をとります.$$-\log\G(z)=\displaystyle\lim_{n\to\infty}\left[\log z+\log(z+1)+\cdots+\log(z+n)-z\log n-(\log1+\log2+\cdots+\log n)\right]$$両辺を微分します.$$-\frac{\G'(z)}{\G(z)}=\displaystyle\lim_{n\to\infty}\left[\frac{1}{z}+\frac{1}{z+1}+\cdots+\frac{1}{z+n}-\log n\right]$$従って,ガンマ関数の微分の1つの表現を得ます.

\begin{equation}\G'(z)=-\G(z)\displaystyle\lim_{n\to\infty}\left[\frac{1}{z}+\frac{1}{z+1}+\cdots+\frac{1}{z+n}-\log n\right]\tag{5}\end{equation}

オイラー定数の導入

(5)右辺にガンマ関数が現れていますが $z$ が整数のときの値は分かっています.$z=1$ とすると$$\G'(1)=-\displaystyle\lim_{n\to\infty}\left[1+\frac{1}{2}+\cdots+\frac{1}{n+1}-\log n\right]$$$$\therefore\quad\G'(1)=-\displaystyle\lim_{n\to\infty}\left[\left(\sum_{k=1}^n\frac{1}{k}-\log n\right)+\left(\frac{1}{n+1}\right)\right]$$ここでオイラー・マスケローニ定数 $\gamma$ を導入します.

オイラー・マスケローニ定数

\begin{equation}\gamma\equiv\displaystyle\lim_{n\to\infty}\left(\sum_{k=1}^n\frac{1}{k}-\log n\right)\approx 0.577\tag{6}\end{equation}

したがって$$\G'(1)=-\g$$と求まります.謎の定数を用いているので「求まった」といえるかは分かりませんが,ガンマ関数に関する話ではこの定数が頻出します.$\pi$ と同様に当たり前のように使っていきましょう.

さて,$z=2$ ならどうでしょう.(5)より\begin{eqnarray*}\G'(2)&=&-\displaystyle\lim_{n\to\infty}\left[\frac{1}{2}+\frac{1}{3}+\cdots+\frac{1}{n+2}-\log n\right]\\&=&-\displaystyle\lim_{n\to\infty}\left[\sum_{k=1}^{n+2}\frac{1}{k}-1-\log n+\left(\frac{1}{n+1}\right)\right]\\&=&-\displaystyle\lim_{n\to\infty}\left[\left(\sum_{k=1}^{n}\frac{1}{k}-\log n\right)+\left(\frac{1}{n+1}+\frac{1}{n+2}-1\right)\right]\\&=&1-\g\end{eqnarray*}となります.

(2)と比較するとオイラー・マスケローニ定数は$$\g=-\int^\infty_0e^{-t}\log tdt$$で与えることもできます.

微分係数 $\G(n)$

では $z=n\in\NN$ と一般化してみましょう.(5)より\begin{eqnarray*}\G'(n)&=&-(n-1)!\displaystyle\lim_{m\to\infty}\left[\frac{1}{n}+\frac{1}{n+1}+\cdots+\frac{1}{n+m}-\log m\right]\\&=&-(n-1)!\displaystyle\lim_{m\to\infty}\left[\left(\sum_{k=1}^{m}\frac{1}{k}-\log m\right)+\left(\frac{1}{m+1}+\frac{1}{m+2}+\cdots+\frac{1}{m+n}\right)-\sum_{k=1}^{n-1}\frac{1}{k}\right]\end{eqnarray*}$n$ は先に固定された有限な値であることに注意します.$m$ の極限をとれば$$\G'(n)=(n-1)!\left[-\g+\sum_{k=1}^{n-1}\frac{1}{k}\right]$$書くのが大変なので調和数$$h_n\equiv\sum_{k=1}^{n}\frac{1}{k}\;,\; h_0=1$$を導入すれば$$\G'(n)=(n-1)!\left(-\g+h_{n-1}\right)$$と見た目だけはスッキリします.

以上により

自然数における微分係数

\begin{equation}\G'(n)=(n-1)!\left(-\g+h_{n-1}\right)\tag{7}\end{equation}具体例は$$\G'(1)=-\g\;,\;\G'(2)=1-\g$$

あらゆる $z$ についての議論はできていませんが,この調子で $\G'(\frac{1}{2})$ などを求めてみるのもいいですね.しかしこのまま深入りするのではなく,ガンマ関数の対数微分をあらためて「ディガンマ関数」と定めて進めていきます.その方が,以後の話において式がすっきりするからです.

漸化式からの微分

ディガンマ関数

ガンマ関数は階乗の一般化であり,

\begin{equation}\G(z+1)=z\G(z)\tag{8}\end{equation}

を満たすのでした.「漸化式」的なものですね.ただしこの「漸化式」は積の形をしており,そのまま微分すると式が複雑になります.そこで対数をとって和の形にしてしまおうというわけです.

$$\log\G(z+1)=\log\G(z)+\log z$$微分します.$$\frac{\G'(z+1)}{\G(z+1)}=\frac{\G'(z)}{\G(z)}+\frac{1}{z}$$ここであらたに関数を定義します.

ディガンマ関数

\begin{equation}\psi(z)\equiv\frac{\G'(z)}{\G(z)}\tag{9}\end{equation}

その定義からディガンマ関数は「ガンマ関数の対数微分」です.これを用いれば

\begin{equation}\psi(z+1)=\psi(z)+\frac{1}{z}\tag{10}\end{equation}

となります.式(7)(9)より明らかに

\begin{equation}\psi(n)=-\g+h_{n-1}\tag{11}\end{equation}

であり,これは関係式(10)を満たしています.(10)の段階では漸化式の形ながら $z=0$ で発散するため「初項 $\psi(1)$」の値が分かりません.しかし先ほどの議論で $\psi(1)=-\g$ と求まったので $\psi(n)$ の値が分かりました.

$\psi$ の級数表示

ディガンマ関数をもう少し見やすい表式にしましょう.(5)式を再掲します.

\begin{equation}\G'(z)=-\G(z)\displaystyle\lim_{n\to\infty}\left[\frac{1}{z}+\frac{1}{z+1}+\cdots+\frac{1}{z+n}-\log n\right]\tag{5}\end{equation}

これと(9)より \begin{eqnarray*}\psi(z)&=&\displaystyle\lim_{n\to\infty}\left[\log n-\sum_{k=0}^n\frac{1}{z+k}\right]\\&=&-\g+\displaystyle\lim_{n\to\infty}\left[\log n+\g-\sum_{k=0}^n\frac{1}{z+k}\right]\\&=&-\g-\sum_{n=0}^\infty\left(\frac{1}{z+n}-\frac{1}{n+1}\right)\end{eqnarray*}

ディガンマの級数表示

\begin{equation}\psi(z)=-\g-\sum_{n=0}^\infty\left(\frac{1}{z+n}-\frac{1}{n+1}\right)\tag{12}\end{equation}

高階微分

2階微分係数 $\G^{\prime\prime}(n)$

ガンマ関数の高階微分はどうなるでしょうか.$\G'(z)=\G(z)\psi(z)$ を微分して\begin{eqnarray*}\G^{\prime\prime}(z)&=&\G'(z)\psi(z)+\G(z)\psi'(z)\\&=&\left[\G(z)\psi(z)\right]\psi(z)+\G(z)\psi'(z)\\&=&\G(z)\psi(z)^2+\G(z)\psi'(z)\end{eqnarray*}(12)より$$\psi'(z)=\sum_{m=0}^\infty\frac{1}{(z+m)^2}$$よって2階微分は

\begin{equation}\G^{\prime\prime}(z)=\G(z)\left[\psi(z)^2+\sum_{m=0}^\infty\frac{1}{(z+m)^2}\right]\tag{13}\end{equation}

$z=1$ とすると$$\G^{\prime\prime}(1)=\psi(1)^2+\sum_{m=1}^\infty\frac{1}{m^2}$$$$\therefore\quad\G^{\prime\prime}(1)=\g^2+\frac{\pi^2}{6}$$第2項はゼータ関数 $\zeta(2)$ を用いました.

$z=2$ とすると$$\G^{\prime\prime}(2)=\psi(2)^2+\sum_{m=2}^\infty\frac{1}{m^2}=(1-\g)^2+\zeta(2)-1$$$$\therefore\quad\G^{\prime\prime}(2)=\g(\g-2)+\frac{\pi^2}{6}$$

この調子で $z=n\in\NN$ とすれば\begin{eqnarray*}\G^{\prime\prime}(n)&=&(n-1)!\left[\psi(n)^2+\sum_{m=0}^\infty\frac{1}{(m+n)^2}\right]\\&=&(n-1)!\left[\left(-\g+h_{n-1}\right)^2+\zeta(2)-\sum_{m=1}^{n-1}\frac{1}{m^2}\right]\end{eqnarray*}以上から自然数における2階の微分係数は

2階微分係数

\begin{equation}\G^{\prime\prime}(n)=(n-1)!\left[\left(-\g+h_{n-1}\right)^2+\frac{\pi^2}{6}-\sum_{m=1}^{n-1}\frac{1}{m^2}\right]\tag{14}\end{equation}例えば$$\G^{\prime\prime}(1)=\g^2+\frac{\pi^2}{6}$$$$\G^{\prime\prime}(2)=\g(\g-2)+\frac{\pi^2}{6}$$

$n$ 階微分

微分を繰り返すごとに複雑になります.ライプニッツの公式によって次のように表すことができますが,計算困難です.\begin{eqnarray*}\frac{d^n\G}{dz^n}&=&\frac{d^{n-1}}{dz^{n-1}}\left(\G(z)\psi(z)\right)\\&=&\sum_{r=0}^{n-1}\binom{n}{r}\G^{(r)}(z)\psi^{(n-1-r)}(z)\\&=&\sum_{r=0}^{n-1}\binom{n}{r}\G^{(r)}(z)\sum_{m=0}^\infty\frac{(-1)^{n-r}(n-r-1)!}{(z+m)^{n-r}}\end{eqnarray*}$z=1$ とおけば

$$\frac{d^n\G}{dz^n}(1)=\sum_{r=0}^{n-1}\frac{(-1)^{n-r}n!}{r!(n-r)}\G^{(r)}(1)\zeta(n-r)$$

うーん、厳しいですね.ここまでにしましょう.ちなみに(3)と比べたらこれの積分表示が得られますね.$$\sum_{r=0}^{n-1}\frac{(-1)^{n-r}n!}{r!(n-r)}\G^{(r)}(1)\zeta(n-r)=\int^\infty_0e^{-t}(\log t)^ndt$$ガンマ関数の微分は複雑で分かりにくいです。よって次回はガンマ関数の対数を微分していきます。

【γ6】ログガンマの微分と4つの級数表示

追記:オイラー定数の収束性

オイラー・マスケローニ定数

\begin{equation}\gamma\equiv\displaystyle\lim_{n\to\infty}\left(\sum_{k=1}^n\frac{1}{k}-\log n\right)\approx 0.577\tag{6}\end{equation}

これが収束することをちゃんと示しておきます。Whittaker&Watsonを参考にしました。

自然数 $n$ に対して$$u_n\equiv\int_0^1\frac{tdt}{n(n+t)}$$と定義すると,分数を分解して$$u_n=\int_0^1\left(\frac{1}{n}-\frac{1}{n+t}\right)dt=\frac{1}{n}-\log\frac{n+1}{n}$$$$\therefore\quad\sum_{n=1}^\infty u_n=\sum_{n=1}^\infty\left(\frac{1}{n}-\log\frac{n+1}{n}\right)$$

ここで\begin{eqnarray*}u_n&=&\int_0^1\frac{tdt}{n(n+t)}\\&\le&\int_0^1\frac{tdt}{n^2}\le\int_0^1\frac{dt}{n^2}\\&=&\frac{1}{n^2}\end{eqnarray*}であるから$$\sum_{n=1}^\infty u_n\le\sum_{n=1}^\infty\frac{1}{n^2}<+\infty$$と書けて $\sum_{n=1}^\infty u_n$ は収束します。

以上より\begin{eqnarray*}\lim_{m\to\infty}\left(\sum_{n=1}^m\frac{1}{n}-\log m\right)&=&\lim_{m\to\infty}\sum_{n=1}^m\left[\frac{1}{n}-(\log (n+1)-\log n)\right]\\&=&\lim_{m\to\infty}\sum_{n=1}^m\left[\frac{1}{n}-\log\frac{n+1}{n}\right]\\&=&\sum_{n=1}^\infty u_n<+\infty\end{eqnarray*}つまり(6)式は確かに収束します。

次回:

【γ6】ログガンマの微分と4つの級数表示

古いですが有名な書物で、どんどん改訂版が出ています。前半は解析学一般、後半は特殊関数という内容で、網羅的に勉強できます。演習問題に解答がないのが昔ながらのものって感じ。2022/11/6現在、最新版は5th Editionで私も所有していますが、廉価な3rdとかでも十分かと。


A Course of Modern Analysis: fifth Edition


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