予備知識として前回の記事の結果が必要ですが、本稿でも補足します:
もくじ
$x>0$ とする。ビネの関数 $\mu(x)$ は\begin{equation}\mu(x)=\sum_{m=1}^\infty\frac{c_m}{x(x+1)\cdots(x+m-1)}\tag{1}\end{equation}と展開できる。ただし$$c_m=\frac{1}{2m}\int_0^1(2u-1)u(1-u)\cdots(m-1-u)du$$
ビネの関数とは
ここで名付けている「ビネの関数」とはガンマ関数におけるスターリング近似$$\log\G(x)\approx\left(x-\frac{1}{2}\right)\log x-x+\frac{1}{2}\log2\pi$$の剰余項($x^{-1}$ のオーダー)です。すなわち、
$$\mu(x)\equiv\log\G(x)-\left(x-\frac{1}{2}\right)\log x+x-\frac{1}{2}\log2\pi$$
ビネの第1公式と第2公式
$\mu(x)$ については色々な表現があることをこれまで解説してきました。例えば$$\mu(x)=\int_0^\infty\left(\frac{1}{2}-\frac{1}{t}+\frac{1}{e^t-1}\right)\frac{e^{-xt}}{t}dt$$これを「ビネの第1公式」というのでした。これの導出については:
を参考にしてください。あるいは高校数学レベルでも証明しています:
Binetの第1公式の初等的証明(ログガンマの積分表示)前半
Binetの第1公式の初等的証明(ログガンマの積分表示)後半
階乗型の展開式からの導出は:
が参考になります。
また「ビネの第2公式」なるものもあります。$$\mu(x)=2\int_0^\infty\frac{\arctan\frac{t}{x}}{e^{2\pi t}-1}dt$$これの導出は:
を参照ください。
今日の指針
今日は「ビネの第1公式」からスタートして(1)を目指します。その際に次の補題を用います。
\begin{eqnarray}\frac{x}{\log^n(1+x)}&=&\sum_{k=1}^{n-1}\frac{1}{k!\log^{n-k}(1+x)}\\&&+\frac{1}{n!}+\sum_{m=1}^\infty\left(\sum_{k=1}^m\frac{k!S_m^{(k)}}{(n+k)!}\right)\frac{x^m}{m!}\tag{2}\end{eqnarray}ただし $S_m^{(k)}$ は第1種スターリング数。
これについては前回の記事で導出しています。スターリング数についても記述しています:
これを認めていただき、後述するベータ関数の簡単な性質を使えばあとは初等的な話となります。
\begin{equation}\mu(x)=\sum_{m=1}^\infty\frac{c_m}{x(x+1)\cdots(x+m-1)}\tag{3}\end{equation}ただし$$c_m=\frac{(-1)^{m-1}}{2m}\sum_{k=1}^m\frac{kS_m^{(k)}}{(k+2)(k+1)}$$
まずはこれを導きます。
置換積分
ビネの第1公式$$\mu(x)=\int_0^\infty\left(\frac{1}{2}-\frac{1}{t}+\frac{1}{e^t-1}\right)\frac{e^{-xt}}{t}dt$$において $e^{-t}=1-u$ と置換します。$t=-\log(1-u)$ ですので\begin{eqnarray*}\mu(x)&=&\int_0^1\left(\frac{1}{2}+\frac{1}{\log(1-u)}+\frac{1-u}{u}\right)\frac{(1-u)^x}{-\log(1-u)}\frac{du}{1-u}\\&=&-\frac{1}{2}\int_0^1\frac{(1-u)^{x-1}}{u\log(1-u)}\left(2-u+\frac{2u}{\log(1-u)}\right)\\&=&-\frac{1}{2}\int_0^1\frac{(1-u)^{x-1}}{u}\left[2\left(\frac{1}{\log(1-u)}+\frac{u}{\log^2(1-u)}\right)-\frac{u}{\log(1-u)}\right]du\end{eqnarray*}
補題1の利用
(2)の補題で $n=1$ , $x=-u$ とすると\begin{equation}-\frac{u}{\log(1-u)}=1+\sum_{m=1}^\infty\sum_{k=1}^m\frac{S_m^{(k)}}{k+1}\frac{(-u)^m}{m!}\tag{4}\end{equation}同じ補題で $n=2$ , $x=-u$ とすると\begin{equation}\frac{1}{\log(1-u)}+\frac{u}{\log^2(1-u)}=-\frac{1}{2}-\sum_{m=1}^\infty\sum_{k=1}^m\frac{S_m^{(k)}}{(k+2)(k+1)}\frac{(-u)^m}{m!}\tag{5}\end{equation}
(4)(5)を先ほどの積分に利用しましょう。\begin{eqnarray*}\mu(x)&=&-\frac{1}{2}\int_0^1\frac{(1-u)^{x-1}}{u}\left[2\left(\frac{1}{\log(1-u)}+\frac{u}{\log^2(1-u)}\right)-\frac{u}{\log(1-u)}\right]du\\&=&-\frac{1}{2}\int_0^1\frac{(1-u)^{x-1}}{u}\biggl[2\left(-\frac{1}{2}-\sum_{m=1}^\infty\sum_{k=1}^m\frac{S_m^{(k)}}{(k+2)(k+1)}\frac{(-u)^m}{m!}\right)\\&&+1+\sum_{m=1}^\infty\sum_{k=1}^m\frac{S_m^{(k)}}{k+1}\frac{(-u)^m}{m!}\biggr]du\\&=&-\frac{1}{2}\int_0^1\frac{(1-u)^{x-1}}{u}\biggl[\sum_{m=1}^\infty\sum_{k=1}^m\frac{-2S_m^{(k)}}{(k+2)(k+1)}\frac{(-u)^m}{m!}\\&&+\sum_{m=1}^\infty\sum_{k=1}^m\frac{S_m^{(k)}}{k+1}\frac{(-u)^m}{m!}\biggr]du\\&=&\frac{1}{2}\int_0^1\frac{(1-u)^{x-1}}{u}\sum_{m=1}^\infty\sum_{k=1}^m\left[\frac{2S_m^{(k)}}{(k+2)(k+1)}\frac{(-u)^m}{m!}-\frac{S_m^{(k)}}{k+1}\frac{(-u)^m}{m!}\right]du\\&=&\frac{1}{2}\int_0^1\frac{(1-u)^{x-1}}{u}\sum_{m=1}^\infty\sum_{k=1}^m\frac{-kS_m^{(k)}}{(k+2)(k+1)}\frac{(-u)^m}{m!}du\\&=&\frac{1}{2}\sum_{m=1}^\infty\sum_{k=1}^m\frac{kS_m^{(k)}}{(k+2)(k+1)}\frac{(-1)^{m-1}}{m!}\int_0^1u^{m-1}(1-u)^{x-1}du\end{eqnarray*}
ガンマ関数とベータ関数の利用
ベータ関数の積分による定義$$B(x,y)=\int_0^1t^{x-1}(1-t)^{y-1}dt$$およびガンマ関数との関係$$B(x,y)=\frac{\G(x)\G(y)}{\G(x+y)}$$を用いると\begin{eqnarray*}\mu(x)&=&\frac{1}{2}\sum_{m=1}^\infty\sum_{k=1}^m\frac{kS_m^{(k)}}{(k+2)(k+1)}\frac{(-1)^{m-1}}{m!}B(m,x)\\&=&\frac{1}{2}\sum_{m=1}^\infty\sum_{k=1}^m\frac{kS_m^{(k)}}{(k+2)(k+1)}\frac{(-1)^{m-1}}{m!}\frac{(m-1)!\G(x)}{\G(x+m)}\\&=&\sum_{m=1}^\infty\sum_{k=1}^m\frac{kS_m^{(k)}}{(k+2)(k+1)}\frac{(-1)^{m-1}}{2m}\frac{\G(x)}{\G(x+m)}\\&=&\sum_{m=1}^\infty\left(\frac{(-1)^{m-1}}{2m}\sum_{k=1}^m\frac{kS_m^{(k)}}{(k+2)(k+1)}\right)\frac{1}{x(x+1)\cdots(x+m-1)}\end{eqnarray*}
したがって$$c_m=\frac{(-1)^{m-1}}{2m}\sum_{k=1}^m\frac{kS_m^{(k)}}{(k+2)(k+1)}$$とおけば\begin{equation}\mu(x)=\sum_{m=1}^\infty\frac{c_m}{x(x+1)\cdots(x+m-1)}\tag{6}\end{equation}となります。これで定理1は示されました。
\begin{equation}c_m=\frac{1}{2m}\int_0^1(2u-1)u(1-u)\cdots(m-1-u)du\tag{7}\end{equation}
これが示せればゴールです。
第1種スターリング数の利用
定理1によって$$c_m=\frac{(-1)^{m-1}}{2m}\sum_{k=1}^m\frac{kS_m^{(k)}}{(k+2)(k+1)}$$これを変形します。\begin{eqnarray}c_m&=&\frac{(-1)^{m-1}}{2m}\sum_{k=1}^m\frac{kS_m^{(k)}}{(k+2)(k+1)}\\&=&\frac{(-1)^{m-1}}{2m}\sum_{k=1}^m\left(\frac{2}{k+2}-\frac{1}{k+1}\right)S_m^{(k)}\\&=&\frac{(-1)^{m}}{2m}\sum_{k=1}^m\frac{S_m^{(k)}}{k+1}-\frac{(-1)^{m}}{2m}\sum_{k=1}^m\frac{2S_m^{(k)}}{k+2}\tag{8}\end{eqnarray}
そもそも第1種スターリング数の定義は下降階乗冪の展開係数でしたから$$u(u-1)\cdots(u-m+1)=\sum_{k=1}^mS_m^{(k)}u^k$$これを積分します。$$\int_0^1u(u-1)\cdots(u-m+1)du=\sum_{k=1}^mS_m^{(k)}\int_0^1u^kdu$$\begin{equation}\therefore\quad\int_0^1u(u-1)\cdots(u-m+1)du=\sum_{k=1}^m\frac{S_m^{(k)}}{k+1}\tag{9}\end{equation}
それとは別に、 $u$ をかけて積分します。$$\int_0^1u\cdot u(u-1)\cdots(u-m+1)du=\sum_{k=1}^mS_m^{(k)}\int_0^1u^{k+1}du$$\begin{equation}\therefore\quad\int_0^1u\cdot u(u-1)\cdots(u-m+1)du=\sum_{k=1}^m\frac{S_m^{(k)}}{k+2}\tag{10}\end{equation}
(9)(10)を(8)に適用すれば$$c_m=\frac{1}{2m}\int_0^1(2u-1)u(1-u)\cdots(m-1-u)du$$よって定理2は示されました。
定理1、定理2より以下の結論を得ます。
$$\mu(x)=\sum_{m=1}^\infty\frac{c_m}{x(x+1)\cdots(x+m-1)}$$ただし$$c_m=\frac{1}{2m}\int_0^1(2u-1)u(1-u)\cdots(m-1-u)du$$
計算機にかけたところでは$$c_1=\frac{1}{12},c_2=0,c_3=-\frac{1}{360},c_4=-\frac{1}{120},\cdots$$のようです。
本稿はWhittaker-Watson12章にあった例題に取り組もうとして得られた副産物です。肝心の例題の答えは分からなかったのですが・・・。参考にした論文はPiet Van Mieghem氏の"Binet’s factorial series and extensions to Laplace transforms"(2021)という論文です。PDFが見られるのでリンクを貼っておきます。
次回はベータ関数の記事でも書こうかなと思っています:
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