Binetの第1公式の初等的証明(ログガンマの積分表示)後半

Binet's first formula

$$\log\G(z)=\left(z-\frac{1}{2}\right)\log z-z+\frac{1}{2}\log2\pi+\int_0^\infty\left(\frac{1}{e^t-1}-\frac{1}{t}+\frac{1}{2}\right)e^{-zt}\frac{dt}{t}$$

ログガンマに関するビネの第1公式を、ほぼ高校数学の知識で証明する記事の後半戦です。ただし初等的手法ですので $z$ は実数 $x$ として進めていきます。前半戦の記事は:

Binetの第1公式の初等的証明(ログガンマの積分表示)前半

参考にした論文は Zoltán Sasvári氏の An Elementary Proof of Binet's Formula for the Gamma Function です:

前半のダイジェスト

$\phi(x)$ と $\t(x)$ を以下のように定義します。$x>0$ として

\begin{equation}e^{\phi(x)}\equiv\frac{1}{\sqrt{2\pi}}\int_0^\infty\sqrt{x}(te^{1-t})^xdt\tag{1}\end{equation}\begin{equation}\t(x)\equiv\int_0^\infty\left(\frac{1}{e^t-1}-\frac{1}{t}+\frac{1}{2}\right)e^{-xt}\frac{dt}{t}\tag{2}\end{equation}

$\phi(x)$ はガンマ関数と次のように密接な関係があります。

\begin{equation}\G(x+1)=\left(\frac{x}{e}\right)^x\sqrt{2\pi x}e^{\phi(x)}\tag{3}\end{equation}

$\phi(\frac{1}{2})$ と $\t(\frac{1}{2})$ は計算できて

\begin{equation}\phi\left(\frac{1}{2}\right)=\t\left(\frac{1}{2}\right)=\frac{1}{2}-\frac{1}{2}\log2\tag{4}\end{equation}

これらの関数の漸化式を求めたところ次のように一致することが分かりました。

\begin{equation}\t(x)-\t(x+1)=\phi(x)-\phi(x+1)\tag{5}\end{equation}

ここからの目標は $\phi(x)=\t(x)$ を示すことです。それができれば(3)よりただちに目標の公式が得られます。

θ(x)とφ(x)は等しいか?

(5)より\begin{eqnarray*}\t(x)-\t(x+1)&=&\phi(x)-\phi(x+1)\\\t(x+1)-\t(x+2)&=&\phi(x+1)-\phi(x+2)\\&\vdots&\\\t(x+n-1)-\t(x+n)&=&\phi(x+n-1)-\phi(x+n)\end{eqnarray*}辺々足して移項すると\begin{equation}\t(x)=\phi(x)-\phi(x+n)+\t(x+n)\tag{6}\end{equation}

θ(x)の評価

左辺について考えます。$x\to\infty$ で $\t(x)$ がゼロとなることを示します。

$\t(x)$ の定義(2)より\begin{eqnarray*}|\t(x)|&\le&\int_0^\infty\left|\frac{1}{e^t-1}-\frac{1}{t}+\frac{1}{2}\right|e^{-xt}\frac{dt}{t}\\&=&\frac{1}{2}\int_0^\infty\frac{|(t-2)e^t+t+2|}{t^2(e^t-1)}e^{-xt}dt\end{eqnarray*}

分子の絶対値は外すことができます。なぜなら $f(t)\equiv(t-2)e^t+t+2$ とおくと$$f(0)=f'(0)=0\;,\;f^{\prime\prime}(t)=te^t\ge0$$なので $f(t)\ge0$ です。したがって$$|\t(x)|\le\frac{1}{2}\int_0^\infty\frac{(t-2)e^t+t+2}{t^2(e^t-1)}e^{-xt}dt$$

ここで関数 $g(t)$ を定めます。$$g(t)\equiv\frac{(t-2)e^t+t+2}{t^2(e^t-1)}\ge0$$これが有界であることを示しましょう。

$g(t)$ は $t=0$ で定義できませんが極限は存在します。ロピタルの定理を繰り返し用いれば\begin{eqnarray*}\displaystyle\lim_{t\to +0}g(t)&=&\displaystyle\lim_{t\to +0}\frac{(t-2)e^t+t+2}{t^2(e^t-1)}\\&=&\displaystyle\lim_{t\to +0}\frac{(t-1)e^t+1}{(t^2+2t)e^t-2t}\\&=&\displaystyle\lim_{t\to +0}\frac{te^t}{(t^2+4t+2)e^t-2}\\&=&\displaystyle\lim_{t\to +0}\frac{(t+1)e^t}{(t^2+6t+6)e^t}\\&=&\frac{1}{6}\end{eqnarray*}

またこの関数の微分について\begin{eqnarray*}g'(t)&=&\frac{(4-t)e^{2t}-2(t^2+4)e^t+t+4}{t^3(e^t-1)^2}\\&=&\frac{(4-t)-2(t^2+4)e^{-t}+(t+4)e^{-2t}}{t^3(1-e^{-t})^2}\end{eqnarray*}$t$ がある程度大きければ指数関数が小さくなるため $g'(t)<0$ となることが分かります(実際は $t>0$ でずっと負)。よって $g(t)$ は減少していきます。また $g(t)>0$ より有界であり$$0<g(t)\le M$$なる定数 $M$ が存在します。

では $\t(x)$ に話を戻しましょう。$$|\t(x)|\le\frac{1}{2}\int_0^\infty g(t)e^{-xt}dt$$ですので\begin{eqnarray*}|\t(x)|&\le&\frac{M}{2}\int_0^\infty e^{-xt}dt\\&=&\frac{M}{2}\left[-\frac{1}{x}e^{-xt}\right]_0^\infty\\&=&\frac{M}{2x}\\&\to&0\quad(as\;x\to\infty)\end{eqnarray*}$$\therefore\quad\displaystyle\lim_{x\to\infty}\theta(x)=0$$よって $\displaystyle\lim_{n\to\infty}\theta(x+n)=0$ となります。これを式(6)に適用すると

\begin{equation}\t(x)=\phi(x)-\displaystyle\lim_{n\to\infty}\phi(x+n)\tag{7}\end{equation}

右辺の第2項がゼロであることを示せば目標へはあと一歩!

周期性と単調性の応用

ターゲットは$$h(x)\equiv\displaystyle\lim_{n\to\infty}\phi(x+n)$$です。これがゼロだと示せばいいのです。$$\displaystyle\lim_{n\to\infty}\phi(x+n)=\displaystyle\lim_{n\to\infty}\phi(x+n+1)=\cdots$$より$$h(x)=h(x+1)=h(x+2)=\cdots$$すなわち

$h(x)$ は周期 $1$ を持つ。

さて $0\le y\le x$ とします。$\phi$ の定義(1)より、自然数 $n$ に対して$$e^{\phi(x+n)}-e^{\phi(y+n)}=\frac{1}{\sqrt{2\pi}}\int_0^\infty\left[\sqrt{x+n}(te^{1-t})^{x+n}-\sqrt{y+n}(te^{1-t})^{y+n}\right]dt$$$p(t)\equiv te^{1-t}$ を微分したりして増減表を書くと

$t$$0$$1$$+\infty$
$p'(t)$$+$$0$$-$
$p(t)$$0$$\nearrow$$1$$\searrow$$0$

よって $0\le te^{1-t}\le1$ となるので\begin{eqnarray*}\sqrt{x+n}(te^{1-t})^{x+n}-\sqrt{y+n}(te^{1-t})^{y+n}&\le&\sqrt{x+n}(te^{1-t})-\sqrt{y+n}(te^{1-t})\\&=&(\sqrt{x+n}-\sqrt{y+n})te^{1-t}\end{eqnarray*}これを用いて\begin{eqnarray*}e^{\phi(x+n)}-e^{\phi(y+n)}&\le&(\sqrt{x+n}-\sqrt{y+n})\frac{1}{\sqrt{2\pi}}\int_0^\infty te^{1-t}dt\\&=&(\sqrt{x+n}-\sqrt{y+n})e^{\phi(1)}\end{eqnarray*}最後の等式は式(1)より明らかです。$n\to\infty$ として\begin{eqnarray*}e^{h(x)}-e^{h(y)}&\le&\displaystyle\lim_{n\to\infty}(\sqrt{x+n}-\sqrt{y+n})e^{\phi(1)}\\&=&\lim_{n\to\infty}\frac{x-y}{\sqrt{x+n}+\sqrt{y+n}}e^{\phi(1)}\\&=&0\end{eqnarray*}$$\therefore\quad h(x)\le h(y)$$

$0\le y\le x$ でしたから、先ほどの周期性と合わせると

$h(x)$ は周期 $1$ をもち、かつ単調減少である。

ということになります。これはすなわち

$h(x)$ は定数である。

ことを示しています。その定数を $h$ とすれば$$\theta(x)=\phi(x)+h$$しかも $\t(\frac{1}{2})=\phi(\frac{1}{2})$ であったので

$$\theta(x)=\phi(x)$$

ビネの第1公式へ

(3)式を再掲します。$$\G(x+1)=\left(\frac{x}{e}\right)^x\sqrt{2\pi x}e^{\phi(x)}$$つい先ほどの結論から$$\G(x+1)=\left(\frac{x}{e}\right)^x\sqrt{2\pi x}e^{\t(x)}$$対数をとります。$$\log\G(x+1)=x\log\frac{x}{e}+\frac{1}{2}\log2\pi x+\t(x)$$$\G(x+1)=x\G(x)$ および冒頭の定義式$$\t(x)\equiv\int_0^\infty\left(\frac{1}{e^t-1}-\frac{1}{t}+\frac{1}{2}\right)e^{-xt}\frac{dt}{t}$$から求めていた式が現れます($x$ を $z$ としています)。

\begin{multline}\log\G(z)=\left(z-\frac{1}{2}\right)\log z-z+\frac{1}{2}\log2\pi\\+\int_0^\infty\left(\frac{1}{e^t-1}-\frac{1}{t}+\frac{1}{2}\right)e^{-zt}\frac{dt}{t}\end{multline}

長かったですが終わりです!この式が何の役に立つんだと思いますが、$x$ が大きいときの積分の項は $x^{-1}$ のオーダーであるため、それを除いて$$\log\G(z)\approx\left(z-\frac{1}{2}\right)\log z-z+\frac{1}{2}\log2\pi$$とできるのです((7)の導出過程から分かります)。

次の記事:

【γ12】ガンマ関数の逆数・見た目だけは簡単な積分表示

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