【γ12】ガンマ関数の逆数・見た目だけは簡単な積分表示

テーマ

$$\frac{1}{\G(z)}=\frac{e}{\pi}\int_0^\frac{\pi}{2}\cos(z\t-\tan\t)\cos^{z-2}\t d\t\quad (\mathfrak{R}z>0)$$

前回はビネの第1公式の初等的証明を記事にしました:

Binetの第1公式の初等的証明(ログガンマの積分表示)前半

今回はガンマ関数の基礎シリーズに戻ります。かなりきれいな形ですよね!これを導出しましょう。

基本から学ぶ場合は「ガンマ関数の基礎」シリーズ第1回からどうぞ:

【γ1】ガンマ関数の定義・特殊値・解析接続・留数(ガンマ関数の基礎1)

ハンケルの表示

スタート地点はハンケルの積分表示です。複素積分で次のようにあらわされます。

\begin{equation}\frac{1}{\G(z)}=\frac{i}{2\pi}\int_C(-t)^{-z}e^{-t}dt\tag{1}\end{equation}

経路 $C$

実軸の無限大から実軸ぎりぎりに沿ってやってきて、原点回りで半径がとても小さい円を描いて帰っていくものです。この積分について詳細は過去記事参照:

【γ11】ガンマ関数の積分表示導出①(ハンケルとか)

積分路の設定

ハンケル+2つの四分円

下のような経路 $C'$ を設定します。

$t$ 平面の経路 $C'$

$C=C_4+C_5+C_6$ はハンケル積分路です。$\rho>0$ は大きな数で $a>0$ です。半円の半径は $\rho+a$ です。閉曲線 $C'$ 内で $(-t)^{-z}e^{-t}$ は正則なので\begin{equation}\int_{C'}(-t)^{-z}e^{-t}dt=0\tag{2}\end{equation}$\rho\to\infty$ の極限では(1)を用いて

\begin{equation}\int_{C_1+C_2+C_3}(-t)^{-z}e^{-t}dt=2\pi i\frac{1}{\G(z)}\tag{3}\end{equation}

ただし $\mathfrak{R}z>0$ とします。

-t 平面におきかえる

$t$ ではなく $-t$ の複素平面を考えます。被積分関数において $t$ が「$-t$」としてあらわれていること、前回ハンケル表示を議論したときにそのようにしたことが理由です。

$-t$ 平面だと先ほどの図と原点対称になりますから経路 $C'$ は次のように描かれます。

$-t$ 平面の経路 $C'$

さて $-t=re^{i\t}$ とおきます。上の図によると $\rho\to\infty$ のもとで $C_1$ の偏角は $\frac{\pi}{2}$ から $-\frac{\pi}{2}$ まで変化します(正確には $\frac{\pi}{2}-\epsilon$ などとせねばなりませんが、簡単のため省略)。$C_2$ の偏角は $-\frac{\pi}{2}$ から $-\pi$ ですね。$C_4$ ~ $C_5$ にかけて偏角は $-\pi$ から $0$ を経て $\pi$ へ至ります。 $C_3$ での偏角は $\pi$ から $\frac{\pi}{2}$ です。

何でこんなごちゃごちゃしているのかと疑問に思うかもしれません。詳細は省きますが、原点回りに1周することを禁止しているためです。そのため上図において経路が「左半分の実軸をまたいじゃダメ」というルールにしているのです。よって偏角を $-\pi<\t<\pi$ と制限しています。

四分円弧での積分

経路 $C_2$ の積分を実行します。目指すはコイツが $0$ となること。

点 $a$ を中心として半径 $\rho+a$ の四分円弧となっていますが、$\rho$ を無限大にすると$$-t=Re^{i\t}\quad(\t:-\frac{\pi}{2}\to-\pi)$$と置換できます。ここで $R\equiv\rho+a$ です。

厳密な議論がしたければ始点を $\theta=-\frac{\pi}{2}+\delta$ , $\tan\delta=\frac{a}{R}$ とする。終点も同様。これで計算しても最後の結果はちゃんと同じになる。

では積分の評価をします。前提知識が要らないように定理等を使わずゴリゴリ計算します!$z=x+iy$ とします。\begin{eqnarray*}\left|\int_{C_2}(-t)^{-z}e^{-t}dt\right|&=&\left|\int^{-\pi}_{-\frac{\pi}{2}}(Re^{i\theta})^{-z}e^{Re^{i\theta}}Re^{i\t}dt\right|\\&\le&R\int_{-\pi}^{-\frac{\pi}{2}}\left|R^{-z}e^{-i\theta z}e^{R\cos\t}\right|dt\\&=&\frac{R}{R^x}\int_{-\pi}^{-\frac{\pi}{2}}\left|e^{-i\theta z}e^{R\cos\t}\right|dt\\&=&\frac{R}{R^x}\int_{-\pi}^{-\frac{\pi}{2}}\left|e^{y\t}e^{R\cos\t}\right|dt\\&\le&\frac{Re^{\pi y}}{R^x}\int_{-\pi}^{-\frac{\pi}{2}}e^{R\cos\t}dt\end{eqnarray*}$-\pi\le\t\le -\frac{\pi}{2}$ において$$\cos\t\le\frac{2}{\pi}\left(\t+\frac{\pi}{2}\right)$$であることを利用して\begin{eqnarray*}\left|\int_{C_2}(-t)^{-z}e^{-t}dt\right|&\le&\frac{Re^{\pi y}}{R^x}\int_{-\pi}^{-\frac{\pi}{2}}e^{\frac{2R}{\pi}(\t+\frac{\pi}{2})}dt\\&=&\frac{Re^{\pi y}}{R^x}\frac{\pi}{2R}\left[e^{\frac{2R}{\pi}(\t+\frac{\pi}{2})}\right]_{-\pi}^{-\frac{\pi}{2}}\\&=&\frac{\pi e^{\pi y}}{2R^x}\left[1-e^{-R}\right]\end{eqnarray*}$x>0$ でしたから$$\left|\int_{C_2}(-t)^{-z}e^{-t}dt\right|\rightarrow 0\quad as\;R\to\infty$$

もし積分範囲の始点が先ほどの $-\frac{\pi}{2}+\delta$ であったなら?$$\left.e^{\frac{2R}{\pi}(\t+\frac{\pi}{2})}\right|_{\t=-\frac{\pi}{2}+\delta}=e^{\frac{2R\delta}{\pi}}$$また$$R\delta\le R\tan\delta =a$$だから$$\left.e^{\frac{2R}{\pi}(\t+\frac{\pi}{2})}\right|_{\t=-\frac{\pi}{2}+\delta}\le e^{\frac{2a}{\pi}}<+\infty$$有界なので問題なし。

同様に$$\left|\int_{C_3}(-t)^{-z}e^{-t}dt\right|\rightarrow 0\quad as\;R\to\infty$$となります。

積分表示の導出

経路C1について

$t$ 平面での経路を再掲します。

ここまでをまとめると(3)より $R=\rho+a\to\infty$ で$$\int_{C_1}(-t)^{-z}e^{-t}dt=2\pi i\frac{1}{\G(z)}$$$$\therefore\quad\int_{-a-i\infty}^{-a+i\infty}(-t)^{-z}e^{-t}dt=\frac{2\pi i}{\G(z)}$$

ラプラスによる表示

$t=-a-iu$ と置換すると$$\int_{\infty}^{-\infty}(a+iu)^{-z}e^{a+iu}(-idu)=\frac{2\pi i}{\G(z)}$$$$\therefore\quad\frac{1}{\G(z)}=\frac{1}{2\pi}\int_{-\infty}^{\infty}(a+iu)^{-z}e^{a+iu}du$$これはラプラスによる表示だそうです(原論文は未発見)。

三角関数を用いた表示

$a=1$ とします。$$\frac{1}{\G(z)}=\frac{1}{2\pi}\int_{-\infty}^{\infty}(1+iu)^{-z}e^{1+iu}du$$$u=-\tan\t$ とすると\begin{eqnarray*}\frac{1}{\G(z)}&=&\frac{1}{2\pi}\int_{\frac{\pi}{2}}^{-\frac{\pi}{2}}(1-i\tan\t)^{-z}e^{1-i\tan\t}\left(-\frac{d\t}{\cos^2\t}\right)\\&=&\frac{e}{2\pi}\int^{\frac{\pi}{2}}_{-\frac{\pi}{2}}(1-i\tan\t)^{-z}e^{-i\tan\t}\frac{d\t}{\cos^2\t}\\&=&\frac{e}{2\pi}\int^{\frac{\pi}{2}}_{-\frac{\pi}{2}}\left(\frac{e^{-i\t}}{\cos\t}\right)^{-z}e^{-i\tan\t}\frac{d\t}{\cos^2\t}\\&=&\frac{e}{2\pi}\int^{\frac{\pi}{2}}_{-\frac{\pi}{2}}e^{i\t z}\cos^{z-2}\t e^{-i\tan\t}d\t\\&=&\frac{e}{2\pi}\int^{\frac{\pi}{2}}_{-\frac{\pi}{2}}e^{i(z\t-\tan\t)}\cos^{z-2}\t d\t\\&=&\frac{e}{2\pi}\int^{\frac{\pi}{2}}_{-\frac{\pi}{2}}\cos(z\t-\tan\t)\cos^{z-2}\t d\t\\&&+i\frac{e}{2\pi}\int^{\frac{\pi}{2}}_{-\frac{\pi}{2}}\sin(z\t-\tan\t)\cos^{z-2}\t d\t\\&=&\frac{e}{\pi}\int^{\frac{\pi}{2}}_0\cos(z\t-\tan\t)\cos^{z-2}\t d\t\end{eqnarray*}よって求めていた積分表示が導出できました。

$$\frac{1}{\G(z)}=\frac{e}{\pi}\int_0^\frac{\pi}{2}\cos(z\t-\tan\t)\cos^{z-2}\t d\t\quad (\mathfrak{R}z>0)$$

おわりに

前回のハンケル表示を応用して、ガンマ関数の新たな積分表示を導くことができました。第11回(前回)から積分表示を次々と導出していきますので、流れが分かるように順に読んでいただければと思います。

参考にしたのはWhittaker-Watsonの"A Course of Modern Analysis"の第3版、Chapter12です。最近はこれを読んで、自分なりに行間を埋め、問題を解いて記事に起こしていることがたびたびあります。

古いですが有名な書物で、どんどん改訂版が出ています。前半は解析学一般、後半は特殊関数という内容で、網羅的に勉強できます。演習問題に解答がないのが昔ながらのものって感じ。2022/11/6現在、最新版は5th Editionで私も所有していますが、廉価な3rdとかでも十分かと。


A Course of Modern Analysis: fifth Edition


A Course of Modern Analysis: Third Edition

次回は積分路を放物線にとった積分表示です:

ガンマ関数の逆数を級数展開した記事:

ベータ関数の逆数も積分表示しました。

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