物体に力がはたらかない $F(t)=0$ のときの運動方程式を考察する.

物体に力がはたらかないということは、時間によらず常に $F=0$ ということなんだ。すると1次元のとき運動方程式は次のようになるね。
$$ma(t)=0$$$$\therefore\quad a(t)=0\Longleftrightarrow \frac{d^2x}{dt^2}=0$$

慣れてないうちは2階微分がやりづらい。加速度は速度の微分だから、次のように表現しておこう。
$$\frac{dv}{dt}=0$$

じゃあ方程式を解いていくよ!
$ \frac{dv}{dt}=0 $ つまり速度は時間 $t$ によって変化しないので $v(t)$ は定数です。$$v(t)=c_1$$ここで $c_1$ は任意の積分定数です。
$\frac{dx}{dt}=v(t)=c_1$ つまり $x$ の微分は定数 $c_1$ ということですから両辺を積分すると$$x=c_1t+c_2$$となります。よって
物体の時刻 $t$ における位置は$$x(t)= c_1t+c_2$$ここで $c_1,c_2$ は任意の実数。

うーん。確かに $t$ の関数になっているけど定数が2つもあって物体の運動がよくイメージできないな。

ここまで使った条件は「力がはたらかない」だけだからね。高校ではこのとき、静止か等速直線運動するって習ったはずなんだ(慣性の法則)。

あー。$c_1=0$ とすれば $x(t)$ はずっと一定だから静止だ。$c_1=1$ とすれば速度 $1$ の等速直線運動になっている。$c_1=5$ とすれば速度 $5$ だな。

うん。つまり今の段階ではそれらを含め、可能性としてありうるものがすべてつまった式になっているんだ。ここで条件を加えてみよう。すると式の形がばっちり決まるよ!
初期条件を $x(0)=0$ , $v(0)=2.0$ とする.
$x(t)=c_1t+c_2$ および $v(t)=c_1$ より初期条件を代入して$$c_2=0\;,\; c_1=2.0$$を得ます。したがって物体の位置と速度は$$x(t)=2.0t$$$$v(t)=2.0$$となります。

まさに等速直線運動の形だ。つまりはじめ $t=0$ のときの速度が $2.0$ であれば、力がはたらかなければずっと等速度で動き続けるというわけか。

うん。初期条件が $v(0)=0$ だと静止さ。ニュートン力学に関する次の2つの法則を見てほしい。
- 第1法則・・・力がはたらかなければ静止または等速直線運動する
- 第2法則・・・$F=ma$

第2法則に $F=0$ を代入すると $x(t)= c_1t+c_2$ が導かれたんだよね。これはまさに「力がはたらかなければ静止か等速直線運動」を意味する。だから第2法則は第1法則を含んでいるんだ。冷徹に運動を考えるだけなら第1法則は不要ということになる。

こうやって法則や公式が統一されていくんだな。
今回考えた微分方程式$$\frac{d^2x}{dt^2}=0$$は2階微分を含んだ方程式です。これを「2階線型微分方程式」といいます。2階微分が含まれる微分方程式の解 $x(t)$ には必ず2つの任意定数が含まれます。これらの任意定数の値を決定するには条件を2つ加える必要があり、そういったものを「初期条件」といいます。例えば$$v(0)=0,x(1)=4,x(-1)=0,v(2)=7,\cdots$$みたいなものが2ついるということです。
力がはたらかない質点がある.時刻 $0$ での座標が $1$ ,時刻 $4$ での座標が $9$ のとき運動方程式を解け.
運動方程式は $a(t)=0$ です。これを2回積分すると$$x(t)=c_1t+c_2$$初期条件を代入すると$$1=c_2\;,\; 9=4c_1+c_2$$したがって $c_1=2$ , $c_2=1$ より$$x(t)=2t+1$$これは速度2の等速直線運動です。
2次元平面内に力がはたらかない質点がある.$\boldsymbol{r}(0)=(0,0)$ , $\boldsymbol{v}(0)=(2,1)$ のとき運動方程式を解け.この物体はどのような運動をしているか考え、軌跡となる直線の方程式と速さを示せ.
力 $\boldsymbol{F}=(0,0)$ より運動方程式は $\boldsymbol{a}(t)=(0,0)$ です。 $x,y$ 成分は別々に計算します。つまり$$\frac{d^2x}{dt^2}=0\quad,\quad \frac{d^2y}{dt^2}=0 $$$$\therefore\;\begin{cases}x(t)=at+b\\y(t)=ct+d\end{cases}$$初期条件は $x(0)=0$ , $y(0)=0$ , $v_x(0)=2$ , $v_y(0)=1$ なので$$\boldsymbol{r}(t)=(2t,t)$$
この質点は $y=\frac{1}{2}x$ 上を速度 $(2,1)$ で運動します。速さは $\sqrt{5}$ です。
数学と高校物理シリーズ

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【H6】ベクトルの極座標成分

【H5】等速・非等速円運動と微分方程式

【H4】ばねの微分方程式 水平・鉛直・空気抵抗

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【H2】力がゼロの運動方程式と等速直線運動

【H1】力学の表現と本シリーズの意義
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