フックス型微分方程式と確定特異点1(基本と例題)

有理型関数

予備知識として言葉の定義や性質等を書いておきます。以下、特異点はすべて離散的に存在しているとします(つまり密集していない)。

定義1A

極以外の特異点をもたず、極以外で正則な関数を有理型関数(meromorphic function)という。

複素解析において、特異点は「除去可能特異点(removal singularity)」「極(pole)」「真性特異点(essential singularity)」にグループ分けできます。除去可能特異点は正則な点と見なせるので無視してよいです。つまり定義1Aを言い換えると、「有理型関数は、真性特異点をもたないやつだよ」ということです。

「有理関数」とは異なります!しかし有理関数(分数関数)と思っても以後の議論に差し支えありませんし、むしろそのほうがイメージしやすくなります。

$f(z)$ の極は有限の位数ですので、その極 $z=a$ が $n$ 位であるとすると $(z-a)^nf(z)$ は正則関数となるので、これを $g(z)$ とすれば\begin{equation}f(z)=\frac{g(z)}{(z-a)^n}\tag{1.1}\end{equation}これを延長して次のことが言えます。

定理1B

有理型関数は2つの正則関数の商で表せる。

特に極の位置が分かっていれば分母を多項式で明示できます(そのゼロ点が極となる)。

斉次2階線型微分方程式

微分方程式の基本については

微分方程式の記事

を参考にしてください。

定義2A

関数 $u(z)$ についての微分方程式\begin{equation}u''+p(z)u'+q(z)u=0\tag{2.1}\end{equation}を斉次2階線型微分方程式という。

2階微分を含む方程式で、右辺がゼロ($u$ がない項がない)というものです。次の性質が知られています。

定理2B

斉次2階線型微分方程式の任意の解は、2つの独立な特殊解の線型結合で表される。

以下、微分方程式はすべて(2.1)の形とします。

フックス型微分方程式

例えば微分方程式の係数関数である $p(z)=1/z$ とすると、$p(z)$ は特異点 $z=0$ をもちます。この特異点を、微分方程式の特異点ともいいます。ここでは確定特異点を次のように定義します。

定義3A

$u''+p(z)u'+q(z)u=0$ における特異点 $z=a$ に対し、$(z-a)p(z)$ および $(z-a)^2q(z)$ がその点で正則になるとき、これを確定特異点(regular singular point)という。

言い換えると、「$p(z)$ は $z=a$ で正則か1位の極」「$q(z)$ は $z=a$ で正則か1位または2位の極」ということです(特異点であることが前提なので、どちらかは正則でない)。なおここで述べている特異点には、無限遠点 $z=\infty$ が特異点である場合も含んでいます。$z=\infty$ が方程式の特異点である場合、$z=1/w$ と変換して微分方程式を書き直して極を調べるとよいです(後述)。なお特異点でない点を通常点といいます。

さて、2階の方程式に限定すると、フックス型とは次のようなものです。

定義3B

$u''+p(z)u'+q(z)u=0$ において $p(z)$ , $q(z)$ が有理型関数であり、その方程式の特異点がすべて確定特異点であるものをフックス型微分方程式(Fuchsian equation)という。

そもそもこの記事を書いているのは、実はガウスの超幾何関数の話にもっていきたいからなのです。というのは次の定理が知られているのです。ここではその事実のみ書いておきます。

定理3C

3点の確定特異点をもつ任意のフックス型微分方程式は、変換により超幾何微分方程式に帰着する。

無限遠点が特異点とは?

無限遠点付近での微分方程式のようすを調べるには $z=1/w$ と変換するとよいです(反転変換)。$z=\infty$ は $z=1/w$ なる変換によって $w=0$ に移されるからです。

$u''+p(z)u+q(z)u=0$ においてその変換を施しましょう。$$\frac{du}{dz}=-w^2\frac{du}{dw}\;,\;\frac{d^2u}{dz^2}=w^4\frac{d^2u}{dw^2}+2w^3\frac{du}{dw}$$となるので、方程式に代入すると\begin{equation}w^4\frac{d^2u}{dw^2}+w^2\left[2w-p\left(\frac{1}{w}\right)\right]\frac{du}{dw}+q\left(\frac{1}{w}\right)u=0\tag{4.1}\end{equation}あるいは特異点が分かりやすいように

\begin{equation}\frac{d^2u}{dw^2}+\left[\frac{2}{w}-\frac{p\left(\frac{1}{w}\right)}{w^2}\right]\frac{du}{dw}+\frac{q\left(\frac{1}{w}\right)}{w^4}u=0\tag{4.2}\end{equation}

(4.2)の形に書き、$u'$ と $u$ の係数\begin{eqnarray*}P(w)&:=&\frac{2}{w}-\frac{p\left(\frac{1}{w}\right)}{w^2}\\Q(w)&:=&\frac{q\left(\frac{1}{w}\right)}{w^4}\end{eqnarray*}が $w=0$ でどうなっているかを調べればよいことになります。

● 無限遠点 $z=\infty$ で正則とは、\begin{equation}\frac{2}{w}-\frac{p\left(\frac{1}{w}\right)}{w^2}\;,\;\frac{q\left(\frac{1}{w}\right)}{w^4}\tag{4.3}\end{equation}の両者が $w=0$ で正則であるということ。換言すれば\begin{equation}2z-z^2p(z)\;,\; z^4q(z)\tag{4.4}\end{equation}が $z=\infty$ で正則ということです。

● 無限遠点 $z=\infty$ で確定特異点とは、定義3Aより\begin{equation}2-\frac{p\left(\frac{1}{w}\right)}{w}\;,\;\frac{q\left(\frac{1}{w}\right)}{w^2}\tag{4.5}\end{equation}の両者が $w=0$ で正則であるということ。換言すれば\begin{equation}zp(z)\;,\; z^2q(z)\tag{4.6}\end{equation}が $z=\infty$ で正則ということです。

練習問題

超幾何微分方程式\begin{equation}z(1-z)u''+\left[c-(a+b+c)z\right]u'-abu=0\tag{4.7}\end{equation}の確定特異点をすべて挙げよ。$a,b,c$ は定数である。

変形すると\begin{equation}u''+\frac{c-(a+b+c)z}{z(1-z)}u'+\frac{ab}{z(z-1)}u=0\tag{4.8}\end{equation}となるので $z=0,1$ は $p(z)$ , $q(z)$ の1位の極であるから確定特異点。また反転変換により\begin{equation}\frac{d^2u}{dw^2}+\frac{(2-c)w+a+b-1}{w(w-1)}\frac{du}{dw}-\frac{ab}{w^2(w-1)}u=0\tag{4.9}\end{equation}$w=0$ で確定特異点となっている。

以上から確定特異点は $0,1,\infty$ である。なお(4.6)によって示してもOK。

特異点と微分方程式のかたちの関係

以下、すべてフックス型微分方程式を考えます。ここまで与えられた微分方程式の確定特異点について論じてきました。次はそれとは逆に、確定特異点を先に決めている場合、どのような微分方程式が考えられるかを説明していきます。

例題1

確定特異点を1つももたないフックス型微分方程式は存在しない。

$u''+p(z)u+q(z)u=0$ が $\infty$ を除くすべての点で正則ならば、$p(z)$ , $q(z)$ は全平面で正則な関数である(例えば多項式)。無限遠点でも正則とすると $z^4q(z)$ が発散しないはずなので $q(z)=0$ しかない。同様の理由で $2z-z^2p(z)$ が発散しないためには $p(z)$ が $2/z$ などの分数関数でなくてはならない。これは $p(z)$ が $0$ に特異点をもつことになってしまい矛盾。

例題2

無限遠点にのみ確定特異点をもつフックス型微分方程式を求めよ。

$u''+p(z)u+q(z)u=0$ が $\infty$ を除くすべての点で正則ならば、$p(z)$ , $q(z)$ は全平面で正則な関数である(例えば多項式)。無限遠点が確定特異点であれば $zp(z)$ と $z^2q(z)$ が $z=\infty$ で正則となるので $p(z)=q(z)=0$ とするほかない。よって$$u''(z)=0$$が答えである。

例題3

$z=0$ にのみ確定特異点をもつフックス型微分方程式を求めよ。

まず $\infty$ を除いて考えると $zp(z)$ と $z^2q(z)$ が全平面で正則である。$\infty$ でも正則なら $2z-z^2p(z)$ , $z^4q(z)$ が $z=\infty$ で正則である。これを満たすには $zp(z)=2$ かつ $q(z)=0$ とするほかない。よって$$u''+\frac{2}{z}u'=0$$

例題4

$z=0,\infty$ にのみ確定特異点をもつフックス型微分方程式を求めよ。

簡単のため、$p(z)$ , $q(z)$ は多項式の商で書けるとします。$0$ で確定特異点ならば $p(z)$ は高々1位の極、$q(z)$ は高々2位の極をもつので部分分数分解により$$p(z)=\frac{a}{z}+\tilde{p}(z)\;,\;q(z)=\frac{b}{z^2}+\frac{c}{z}+\tilde{q}(z)$$ただし $\tilde{p}(z),\tilde{q}(z)$ は多項式なので $z=0$ で正則。さらに $\infty$ が確定特異点ならば$$zp(z)=a+z\tilde{p}(z)\Longrightarrow\tilde{p}(z)=0$$$$z^2q(z)=b+cz+z^2\tilde{q}(z)\Longrightarrow\tilde{q}(z)=0\;,\;c=0$$したがって$$u''+\frac{a}{z}u'+\frac{b}{z^2}u=0$$これをオイラー・コーシーの方程式という。

なお、逆にこの微分方程式の特異点が $0,\infty$ であることを(4.2)を使って確かめておこう。

以上のように、確定特異点によって微分方程式の形はかなり限定されることが分かります。確定特異点の数が多いほど複雑になります。

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より詳しくはWhittaker & Watsonがいいでしょう。

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次回は確定特異点が3つある場合について解説します。

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