複2次式の平方根を含む積分(楕円積分の応用)

参考過去記事:

超幾何関数2F1の特殊値と楕円積分1

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From @integralsbot$$I:=\int_0^\infty\frac{dx}{\sqrt{x^4+21x^2+112}}=\frac{\G(\frac{1}{7})\G(\frac{2}{7})\G(\frac{4}{7})}{8\sqrt{7}\pi}$$を証明する。他、同類のものとして$$\int_0^\infty\frac{dx}{\sqrt{x^4+3x^2+3}}=\frac{\G^3(\frac{1}{3})}{2^\frac{7}{3}\pi}$$

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右辺は、見た目からして明らかに第1種完全楕円積分 $K(k)$ に7番目のsingular value $k_7$ を代入したものです。すなわち方向性としては、左辺の積分をいかにして楕円積分に帰着させようかと思うわけです。

A.P.Prudnikov,Y.A.Brychkov,O.I.Marichev "Integrals and Series Volume 1 Elementary Functions"によると

定理1

$F(\phi,k)$ は第1種不完全楕円積分(incomplete elliptic integral of the first kind)を表す。すなわち$$F(\phi,k):=\int_0^\phi\frac{d\t}{\sqrt{1-k^2\sin^2\t}}$$このとき$$\int_x^\infty\frac{dx}{\sqrt{x^4+2b^2x^2+a^4}}=\frac{1}{2a}F\left(\phi,\frac{\sqrt{a^2-b^2}}{a\sqrt{2}}\right)$$である。ただし$$\cos\phi=\frac{x^2-a^2}{x^2+a^2}$$

これをそのまま今日の積分に適用すれば瞬殺なのですが、あまりに味気ないので、この事実をもとに解法を見出したいです。実際、2~4次の多項式の平方根は楕円積分に帰着することが知られており、今回はそれを初等的に示す一例となります。

古い本なので中古しかないようです。vol1,2合わせて1600ページくらいあり、それらすべてを積分と級数に割いているので驚異的といえます。


Integrals and Series: Volume 1: Elementary Functions; Volume 2: Special Functions

だだ、購入はあまり現実的ではないかと。代わりに、分量は減りますが、私がよく参照する書籍は、これです。今日の積分は載っていないようです。


Handbook of Special Functions: Derivatives, Integrals, Series and Other Formulas

完全楕円積分の場合

天下り的にはなってしまいますが、完全楕円積分 $K(k)=F(\frac{\pi}{2},k)$ は\begin{equation}K\left(\frac{\sqrt{a^2-b^2}}{a\sqrt{2}}\right) = \int_0^\frac{\pi}{2}\frac{d\t}{\sqrt{1-\frac{a^2-b^2}{2a^2}\sin^2\t}}\tag{2.1}\end{equation}右辺は $\sin\t$ のみの式なので\begin{equation}K\left(\frac{\sqrt{a^2-b^2}}{a\sqrt{2}}\right) = \frac{1}{2}\int_0^\pi\frac{d\t}{\sqrt{1-\frac{a^2-b^2}{2a^2}\sin^2\t}}\tag{2.2}\end{equation}ここで、まともには思いつかなそうな置換をします。$$\frac{x^2-a^2}{x^2+a^2}=\cos\t$$左辺は $x\ge 0$ で単調増加であり、積分範囲は $x\in[0,\infty)$ となります。また$$d\t=\frac{-\frac{4a^2x}{(x^2+a^2)^2}}{\sqrt{1-(\frac{x^2-a^2}{x^2+a^2})^2}}dx=-\frac{2a}{x^2+a^2}dx$$であり、$$\sin^2\t=\frac{4a^2x^2}{(x^2+a^2)^2}$$であることに留意して計算すると\begin{eqnarray*}K\left(\frac{\sqrt{a^2-b^2}}{a\sqrt{2}}\right) &=& \frac{1}{2}\int_0^\infty\frac{1}{\sqrt{1-\frac{a^2-b^2}{2a^2}\frac{4a^2x^2}{(x^2+a^2)^2}}}\frac{2a}{x^2+a^2}dx \\&=& a\int_0^\infty\frac{1}{\sqrt{x^4+2b^2x^2+a^4}}dx\end{eqnarray*}したがって

定理2

\begin{equation}\int_0^\infty\frac{dx}{\sqrt{x^4+2b^2x^2+a^4}}=\frac{1}{a}K\left(\frac{\sqrt{a^2-b^2}}{a\sqrt{2}}\right)\tag{2.3}\end{equation}

これにて件の積分は解決したのですが、右辺の楕円積分は、たいていの場合、計算できません。以下では、楕円積分が計算できるような(代数的数やガンマ関数で表せるような)特殊な値について考察しましょう。

積分値の計算とsingular value

$a=112^\frac{1}{4}=2\cdot 7^\frac{1}{4}$ , $b^2=\frac{21}{2}$ とおくと\begin{equation}\int_0^\infty\frac{dx}{\sqrt{x^4+21x^2+112}}=\frac{1}{2\cdot 7^\frac{1}{4}}K\left(\frac{\sqrt{8-3\sqrt{7}}}{4}\right)\tag{3.1}\end{equation}右辺の楕円関数の値は知られており、7番目のsingular value $k_7$ を代入したものです。$K(k)$ において、$k$ にsingular valueを代入するとガンマ関数や代数的数で書けることが知られています。例えば以下のような値です。\begin{eqnarray*}k_1 &=&\frac{1}{\sqrt{2}}\\ k_2 &=& \sqrt{2}-1 \\ k_3&=& \frac{\sqrt{3}-1}{2\sqrt{2}}\\ k_4 &=& 3-2\sqrt{2}\\k_5&=&\sqrt{\frac{1}{2}-\sqrt{\sqrt{5}-2}}\\k_6 &=& -3-2\sqrt{2}+2\sqrt{3}+\sqrt{6}\\k_7&=&\frac{\sqrt{8-3\sqrt{7}}}{4}\\&\vdots&\end{eqnarray*}今の場合は\begin{equation}K\left(\frac{\sqrt{8-3\sqrt{7}}}{4}\right)=K(k_7)=\frac{\G(\frac{1}{7})\G(\frac{2}{7})\G(\frac{4}{7})}{7^{1/4}\cdot 4\pi}\tag{3.2}\end{equation}なる事実により次の結果を得ます。

定理3

\begin{equation}\int_0^\infty\frac{dx}{\sqrt{x^4+21x^2+112}}=\frac{\G(\frac{1}{7})\G(\frac{2}{7})\G(\frac{4}{7})}{8\sqrt{7}\:\pi}\tag{3.3}\end{equation}

ちなみに、この積分が別の方法で計算できれば、逆に(3.2)の証明ができたことになります。いい方法があれば教えてください。

b=0の場合

おまけです。定理2で特に $b=0$ であれば\begin{equation}\int_0^\infty\frac{dx}{\sqrt{x^4+a^4}}=\frac{1}{a}K\left(\frac{1}{\sqrt{2}}\right)\tag{4.1}\end{equation}過去記事の「2022/10/5B」で導出した\begin{equation}K\left(\frac{1}{\sqrt{2}}\right)=\frac{\G^2(\frac{1}{4})}{4\sqrt{\pi}}\tag{4.2}\end{equation}によって

系4

\begin{equation}\int_0^\infty\frac{dx}{\sqrt{x^4+a^4}}=\frac{\G^2(\frac{1}{4})}{4a\sqrt{\pi}}\tag{4.3}\end{equation}

系4は $x=ay$ と置換して、分母をマクローリン展開すればベータ関数に帰着させる方法もあります。

ほかのsingular value

一般性を失わない程度に、少し見通しやすい形にしておきます。定理2で $x$ を $ax$ とおくと$$\int_0^\infty\frac{dx}{\sqrt{x^4+2b^2x^2+a^4}}=\frac{1}{a}\int_0^\infty\frac{dx}{\sqrt{x^4+2\frac{b^2}{a^2}x^2+1}}$$よって $b/a=c$ とすると\begin{equation}\int_0^\infty\frac{dx}{\sqrt{x^4+2c^2x^2+1}}=K\left(\sqrt{\frac{1-c^2}{2}}\right)\tag{5.1}\end{equation}$c=0$ であればsingular modulusは $k=k_1=2^{-1/2}$ であり、系4と等価な式を得ます。また $c=\frac{3\sqrt{7}}{8}$ とすると(3.3)と等価な式になります。

$c^2=4\sqrt{2}-5$ とすると楕円関数のsingular modulusは $k=k_2=\sqrt{2}-1$ となります。このときの $K(k_2)$ の値は調べると見つかります。すなわち\begin{equation}\int_0^\infty\frac{dx}{\sqrt{x^4+2(4\sqrt{2}-5)x^2+1}}=\frac{\sqrt{\sqrt{2}+1}\G(\frac{1}{8})\G(\frac{3}{8})}{2^\frac{13}{4}\sqrt{\pi}}\tag{5.2}\end{equation}適当な変換をほどこして根号の中を有理数係数にしたいですが、うまくいきませんでした。

$c^2=\frac{\sqrt{3}}{2}$ とするとsingular modulusは $k=k_3=\frac{\sqrt{3}-1}{2\sqrt{2}}$ です。 よって(5.1)は\begin{equation}\int_0^\infty\frac{dx}{\sqrt{x^4+\sqrt{3}x^2+1}}=\frac{3^\frac{1}{4}\G^3(\frac{1}{3})}{2^\frac{7}{3}\pi}\tag{5.3}\end{equation}$x$ を $3^{-\frac{1}{4}}x$ と置換すると

系5

\begin{equation}\int_0^\infty\frac{dx}{\sqrt{x^4+3x^2+3}}=\frac{\G^3(\frac{1}{3})}{2^\frac{7}{3}\pi}\tag{5.4}\end{equation}

ほかは左辺がきれいになりそうにありません。うまい変換があるのでしょうか?右辺の値は先ほどのリンクから調べられます。\begin{eqnarray*}\int_0^\infty\frac{dx}{\sqrt{x^4+(48\sqrt{2}-66)x^2+1}}=K\left(k_4\right)\\\int_0^\infty\frac{dx}{\sqrt{x^4+4\sqrt{\sqrt{5}-2}x^2+1}}=K\left(k_5\right)\\\int_0^\infty\frac{dx}{\sqrt{x^4+2(40\sqrt{3}+28\sqrt{6}-48\sqrt{2}-69)x^2+1}}=K\left(k_6\right)\\\int_0^\infty\frac{dx}{\sqrt{x^4+24\cdot 5^\frac{1}{4}(9-4\sqrt{5})x^2+1}}=K\left(k_{25}\right)\end{eqnarray*}

その他の気づき

$x=ay$ とおくと$$\int_0^\infty\frac{dx}{\sqrt{x^4+2b^2x^2+a^4}}=\int_0^\infty\frac{dy}{\sqrt{a^2(y^4+1)+2b^2y^2}}$$積分範囲を分けると$$=\left(\int_0^1+\int_1^\infty\right)\frac{dy}{\sqrt{a^2(y^4+1)+2b^2y^2}}$$後者の積分で $y\to\frac{1}{y}$ と置換すると\begin{eqnarray*}&=&2\int_0^1\frac{dy}{\sqrt{a^2(y^4+1)+2b^2y^2}}\\&=&\frac{2}{a}\int_0^1\frac{dy}{\sqrt{y^4+2\frac{b^2}{a^2}y^2+1}}\end{eqnarray*}つまり4次の係数と定数項が一致していれば、積分範囲が $[0,1]$ でも同じ形で計算できることが分かります。

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