関西石ころ旅。木津川で拾った2つのアプライトの紹介です。
アプライトは花崗岩質の岩体で見られる、優白質であり完晶質かつ比較的細粒なものをいいます[1]。簡単に言うと、有色鉱物が非常に少ない細粒の花崗岩です。主な無色鉱物は数mm以下の石英・アルカリ長石・斜長石(主に灰曹長石)で、有色鉱物は白雲母が多いですが黒雲母も少し含まれたりします。ちなみにアプライトの粒が大きいバージョンは巨晶花崗岩(ペグマタイト)です。
アプライトは粒が小さく基本的に他形粒状組織であることから、初めて見るときは花崗岩とは思えないと思います。砂岩と見間違う可能性もあります。
一般的に、花崗岩質の岩石の副成分鉱物はザクロ石、ジルコン、モナズ石、褐簾石、電気石、燐灰石、チタン石、チタノマグネタイト、チタン鉄鉱、蛍石などがあるようです。これらを同定するのは困難ですが、アプライトはザクロ石をまばらに含むという特徴があります(無いこともあります)。ザクロ石はあとで写真を示すように、分かりやすいです。
アプライトの成因について一般的な話。
地下のマグマがある程度固結している状況を考えます。玄武岩質なのか花崗岩質なのか中間の岩質なのかによってマグマの成分は異なりますが、有名な有色鉱物でいうと、温度が下がるにつれて、かんらん石⇒輝石⇒角閃石⇒黒雲母 の順に晶出していきます。それより温度が下がると、有名な無色鉱物すなわち石英・カリ長石が晶出します(実際はそんな単純な話ではない。また斜長石は幅が広いのでいつでも晶出すると考える)。つまり花崗岩質のマグマがある程度冷えていくと角閃石や黒雲母はすでに晶出して岩石になっています。するとマグマとして残っているのはほぼ無色鉱物のみ。これが岩脈状に貫入して固まるとアプライトになります(このときゆっくり固まるとペグマタイトになる)。
ただ、花崗岩の起源はなかなか難しく、今回紹介する標本はこれと異なる可能性があります。
コメントで教えていただいたようにこのあたりの花崗岩の起源は堆積岩であるという話があります。これをSタイプ花崗岩とよび、周藤[1]によれば、CaOよりもAl2O3に富むため、多くはパーアルミナス。斜長石・アルカリ長石・石英・黒雲母のほかに白雲母・ザクロ石・キンセイ石などのAlに富む鉱物を含むが、角閃石は含まれない。K/Na比が高い。堆積岩起源の捕獲岩をよく含むので、S型花崗岩は泥質岩と密接な成因関係を持つと推定され、日本では領家変成帯や日高変成帯の一部の花崗岩がコレである、というわけです。また藤岡[6]では花崗岩の「変成論」といって、花崗岩は必ずしも火成岩とは限らず、地殻の下部に相当する高温高圧の条件下で、水が十分にあれば、堆積岩が溶けて花崗岩質マグマができるといいます。要は今回の岩石は泥岩のような堆積岩が部分溶融してできたということです。
余談になりますが花崗岩はSタイプのほかにI、A、Mタイプがあります。これらはおもに化学組成にもとづいた分類ですが、それがつまるところ成因的な要素を反映した分類となっています。Iタイプは苦鉄質岩と密接な成因関係をもち、典型的な火成岩であって、日本にはこれが多いです。角閃石や、場合によっては輝石を含みます。AタイプはIタイプよりもアルカリに富み、アルカリ岩系の珪長質マグマの結晶分化作用等の成因が考えられますが、日本には足摺岬くらいにしかないらしいです。Mタイプは斜長石が多くカリ長石が少ない、黒雲母が少なく角閃石が多いという特徴があり、沈み込む海洋地殻や島弧下の上部マントルの部分溶融で生じたマグマに由来しているかもしれません。日本では丹沢トーナル岩体があります。
写真では分かりにくいですが、大きい結晶も少しあるものの、全体として1mm以下の細粒の岩石で、アプライトといえます。石英・長石・白雲母・黒雲母があり、細かい赤い斑点はザクロ石です。拡大したのが写真2です。きれいなガーネットです。中央のガーネットのすぐ下にある宝石のような光はなんだろう??写真1のやや左のほうに緑の脈のようなものは何だろうか?分からないことも色々あります。
次のサンプルです。
上半分が通常の花崗岩で下半分がアプライトです。石英・長石・白雲母・黒雲母を含み、見たところザクロ石は含んでいません。マグマが、すでにあった花崗岩を貫いて固まり、アプライトになったのではないでしょうか。アプライト側に大きな黒いシミのようなものがあります。よく見ると主に有色鉱物の集合体ですが、1つ1つは小さすぎます。シミもまわりと同じマグマ由来だとすると黒雲母と考えるのが妥当です(先に晶出したもの?)。実体顕微鏡下でも、多分黒雲母だと思われます。シミと周囲の境界が不明瞭なのは、黒雲母が風化して周囲の石英・長石が褐色に汚染されているものと考えられます。シミの中には緑黒色のような鉱物が見られますが、これも黒雲母かと。かろうじてザクロ石のような色をした鉱物がありますが、先ほどの標本のようなハッキリとした結晶ではなく、ザクロ石と断定できません。
両サンプルとも川の転石なので、産地は明確には分かりませんが、地質図と地質図幅の解説を読んでみました。このあたりおよびその上流で、コレはと考えられるのは、新期領家花崗岩類と古期領家花崗岩類です。新期領家花崗岩類のうち、木屋花崗岩は比較的粒が細かく優白質という特徴がありますが、だからといって今回のサンプルが木屋花崗岩であると言ってしまうのは、さすがに推量しすぎでしょう。
[1] 周藤賢治・小山内康人. 記載岩石学 岩石学のための情報収集マニュアル. 共立出版. 2002
Amazon 楽天ブックス [2] 高橋直樹・大木淳一「石ころ博士入門」全国農村教育協会(2015)【楽天はこちら】 [3] 産総研. 岩石や地層のでき方. 2023/12/31アクセス [3] 倉敷市立自然史博物館. 花こう岩中の黒雲母(くろうんも)biotite. 2023/12/31アクセス [4] 尾崎ほか. 奈良地域の地質. 地質調査所. 2000 [5] 日本火山学会. 火山についてのQ&A Question #1388. 2024/1/1アクセス [6] 藤岡 換太郎. 二転三転して解決した「花崗岩の謎」…なんと「生まれの違う」兄弟いとこが多すぎた「衝撃の事実」. 2024/8/3アクセス
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花崗岩についてですが、火成起源のほかに砂泥などの堆積岩が変成作用によって花崗岩に似た面付きをした変成岩;堆積岩起源の花崗岩というのも存在するようです。火成起源のそれと比べて、Alの量が多いとか、有色鉱物に乏しいとか、幾つかの特徴があるようです。領家帯の花崗岩は堆積岩起源とされてます。
情報ありがとうございます。S型花崗岩について手元の書籍で調べてみましたら、アルミニウムが多く、堆積岩起源の捕獲岩をちょいちょい含んでいて、領家変成帯・日高変成帯に分布する花崗岩の一部をなす。泥質岩と密接な成因関係をもつと推定される、とのことです。おっしゃるとおりですね!おもしろいです。記事にもこの内容を反映させました。