1階の非線型微分方程式 - 完全微分方程式・積分因子と具体例

非線型微分方程式シリーズです。前回はこちら;

曲線の式から非線型微分方程式をつくる

今回は1階非線型微分方程式について。特に完全微分方程式によるアプローチと、それへの帰着のさせかたを解説します。

1階の非線型微分方程式

$x$ の関数 $y$ についての微分方程式\begin{equation}\frac{dy}{dx}=f(x,y)\tag{1}\end{equation}が解 $u(x,y)=c$ を持つとします。(1)は1階の方程式なので任意定数1つ $c$ を含んでいます。$u(x,y)=c$ を $x$ で微分すると\begin{equation}\dd{u}{x}+\dd{u}{y}\frac{dy}{dx}=0\tag{2}\end{equation}あるいは\begin{equation}\dd{u}{x}dx+\dd{u}{y}dy=0\tag{3}\end{equation}偏微分を $\dd{u}{x}=u_x$ のように表せば、(1)(2)より\begin{equation}\frac{u_x}{u_y}=-f(x,y)\tag{4}\end{equation}なる関係が成り立ちます。

さて(1)において $f(x,y)$ を定めると具体的な微分方程式となるわけですが、その解 $u(x,y)=c$ は(4)を満たします。そこで見通しをよくするために\begin{equation}f(x,y)=-\frac{P(x,y)}{Q(x,y)}\tag{5}\end{equation}という形に書いてみます。すると(4)より\begin{equation}\frac{u_x}{u_y}=\frac{P(x,y)}{Q(x,y)}\tag{6}\end{equation}ここで(5)における $P(x,y)$ , $Q(x,y)$ の定め方には不定性があることに注意します。$P(x,y)$ , $Q(x,y)$ を定めたところで、任意関数 $\mu(x,y)$ をかけて新たに $\mu P$ , $\mu Q$ としても(5)や(6)は成立します。

(6) から、$P$ , $Q$ をうまく定めれば\begin{equation}u_x=P\;,\;u_y=Q\tag{7}\end{equation}という式を得ます。そして(7)から $u(x,y)$ を求めることができ(方法は後述)、結局、解は $u(x,y)=c$ となります。

全微分と完全微分方程式

ある関数 $u(x,y)=c$ の全微分は $du=0$ であり、(3)はまさにその形をしています。(7)のような $P,Q$ が定まっていれば\begin{equation}P(x,y)dx+Q(x,y)dy=0\tag{8}\end{equation}とも書けます。

(8)はある関数 $u(x,y)$ の全微分の値をゼロとしたものです。これを完全微分方程式とよびます。また(8)の微分方程式は「完全である(exact)」などと表現します。その解は $u(x,y)=c$ です。もちろん冒頭に立ち返れば(8)は\begin{equation}\frac{dy}{dx}=-\frac{P(x,y)}{Q(x,y)}\tag{9}\end{equation}と同等です。本来、微分方程式は(9)のように書かれるものですが、(8)のような形で与えられることもあり、本記事ではこちらを扱います。

完全微分方程式の解法

微分方程式(8)はどのように解くのでしょうか。例として\begin{equation}(3x^2-8xy+6y^2)dx+(12xy-4x^2-6y^2)dy=0\tag{10}\end{equation}を解きましょう。ちなみに(10)は$$\frac{dy}{dx}=\frac{3x^2-8xy+6y^2}{4x^2-12xy+6y^2}$$とも書けます。

さて(10)は\begin{equation}P(x,y)=3x^2-8xy+6y^2\;,\;Q(x,y)=12xy-4x^2-6y^2\tag{11}\end{equation}とおくと$$P(x,y)dx+Q(x,y)dy=0$$です。問題は $P,Q$ が関係(7)を満たすようなものになっているか、すなわち方程式(10)が果たして完全であるかということです。例えば(10)に $x$ をかけて\begin{equation}x(3x^2-8xy+6y^2)dx+x(12xy-4x^2-6y^2)dy=0\tag{a}\end{equation}としても微分方程式としてはおなじですが、$P,Q$ は異なっています。このように $P,Q$ には不定性があり、このままでは必ずしも(7)を満たすようなものになっているとは限らないのです。

(11)で定めた $P,Q$ に対して、(7)を満たす関数 $u(x,y)$ があるか。それを調べるためには $u_{xy}=u_{yx}$ を利用します。すなわち$$\dd{P}{y}=\dd{Q}{x}$$であればよいのです。

定理1

\begin{equation}\dd{P}{y}=\dd{Q}{x}\tag{12}\end{equation}が成り立つとき、$$P(x,y)dx+Q(x,y)dy=0$$は完全微分方程式である。

偏微分の順序交換については参考文献[2]が詳しいです。完全微分方程式であることの必要十分条件については[3]を参照。

さて(11)では $$\dd{P}{y}=\dd{Q}{x}=-8x+12y$$なので完全です。よって\begin{equation}P=u_x\quad,\quad Q=u_y\tag{13}\end{equation}ですから、(13)の1つ目の式を $x$ で積分して\begin{equation}u(x,y)=\int P(x,y)dx+\phi(y)\tag{14}\end{equation}$x$ で積分したときに現れる積分定数は $y$ を含む可能性があるので $\phi(y)$ がついています。これを $y$ で微分して $u_y=Q$ から\begin{equation}\frac{d\phi(y)}{dy}=Q(x,y)-\frac{\partial}{\partial y}\int P(x,y)dx\tag{15}\end{equation}$y$ で積分すると $\phi(y)$ を得ますので、(14)に適用して終わりです。

本例の場合は(14)の操作で$$u(x,y)=x^3-4x^2y+6xy^2+\phi(y)$$$y$ で微分すると$$\phi'(y)=Q+4x^2-12xy=-6y^2$$$$\therefore\quad \phi(y)=-2y^3$$最後、積分定数は不要です(あとで $c$ がつくので)。

以上から(10)の解は $u(x,y)=c$ すなわち\begin{equation}x^3-4x^2y+6xy^2-2y^3=c\tag{16}\end{equation}

練習問題1

例題1

先ほどの方程式$$(3x^2-8xy+6y^2)dx+(12xy-4x^2-6y^2)dy=0$$に $x$ をかけて$$x(3x^2-8xy+6y^2)dx+x(12xy-4x^2-6y^2)dy=0$$とする。すなわち$$P(x,y)=x(3x^2-8xy+6y^2)\;,\;Q(x,y)=x(12xy-4x^2-6y^2)$$としたときは完全でないことを確認せよ。

例題1のように、与えられた方程式から定める $P,Q$ には不定性があるため、完全か否かを判定するのを忘れないでおきましょう。完全でなければ、上で解説した解法は使えません。

例題2

$$(x^3y^4+xy^2)dx+(x^4y^3+x^2y)dy=0$$を解け。

$\dd{P}{y}=\dd{Q}{x}=4x^3y^3+2xy$ より完全である。$P=u_x$ を $x$ で積分して$$u=\frac{x^4y^4}{4}+\frac{x^2y^2}{2}+\phi(y)$$これを $y$ で微分し、$Q=u_y$ より $\phi'(y)=0$ 。よって $\phi(y)=0$ なので

$$u(x,y)=\frac{x^4y^4}{4}+\frac{x^2y^2}{2}$$$u(x,y)=c$ が解であるが、4倍して定数をとりなおすと解は$$x^4y^4+2x^2y^2=c$$

例題3

$$\left(2x+\frac{y}{x^2+y^2}\right)dx+\left(2y-\frac{x}{x^2+y^2}\right)dy=0$$を解け。

$\dd{P}{y}=\dd{Q}{x}=\dfrac{x^2-y^2}{(x^2+y^2)^2}$ より完全である。$P=u_x$ を $x$ で積分して$$u=x^2+\arctan\frac{x}{y}+\phi(y)$$$\phi$ を求めれば$$x^2+y^2+\arctan\frac{x}{y}=c$$

完全でない場合の解法(積分因子)

微分方程式\begin{equation}P(x,y)dx+Q(x,y)dy=0\tag{17}\end{equation}は一般には完全ではありません。$P,Q$ が完全でない場合、$\mu(x,y)$ をかけて $\mu P$ , $\mu Q$ が完全になるようにします(そうなるような $\mu$ を見つける必要がある)。すなわち\begin{equation}\dd{(\mu P)}{y}=\dd{(\mu Q)}{x}\tag{18}\end{equation}あるいは少し計算して\begin{equation}Q\dd{\mu}{x}-P\dd{\mu}{y}+\mu\left(\dd{Q}{x}-\dd{P}{y}\right)=0\tag{19}\end{equation}となるようにするといいのです。すると\begin{equation}\mu(x,y)P(x,y)dx+\mu(x,y)Q(x,y)dy=0\tag{20}\end{equation}が完全微分方程式であり、先ほどの解法が使えます。このような $\mu$ を積分因子といいます。(20)と(17)は明らかに同じ方程式ですので、(20)から求めた解はそのまま(17)の解になります。

割と単純な話のようでも、実際は $\mu$ をうまく見つけるのが難しいです。ちなみに条件に合致する $\mu$ は無数にあります。

定理2

微分方程式$$P(x,y)dx+Q(x,y)dy=0$$の積分因子 $\mu(x,y)$ が見つかったとする。解を $u(x,y)=c$ とする。このとき任意の微分可能な関数 $F(z)$ に対し $\mu F(u)$ もまた積分因子である。

【証明】$\mu F(u)$ が(19)を満たせばよい。\begin{align}& Q\dd{\mu F(u)}{x}-P\dd{\mu F(u)}{y}+\mu F(u)\left(\dd{Q}{x}-\dd{P}{y}\right)\\=& Q\left\{\dd{\mu}{x}F(u)+\dd{F(u)}{x}\mu\right\}-P\left\{\dd{\mu}{y}F(u)+\dd{F(u)}{y}\mu\right\}+\mu F(u)\left(\dd{Q}{x}-\dd{P}{y}\right)\\=& F(u)\underbrace{\left\{Q\dd{\mu}{x}-P\dd{\mu}{y}+\mu\left(\dd{Q}{x}-\dd{P}{y}\right)\right\}}_{=0}+\mu\underbrace{\left\{Q\dd{F(u)}{x}-P\dd{F(u)}{y}\right\}}_{\mathrm{chain\: rule}}\\=&\mu F'(u)\left\{Q\dd{u}{x}-P\dd{u}{y}\right\}\end{align}$u(x,y)=c$ が解であること、$\mu P$ , $\mu Q$ が完全であることから$$\dd{u}{x}=\mu P\;,\quad \dd{u}{y}=\mu Q$$なので$$Q\dd{u}{x}-P\dd{u}{y}=0$$以上から$$Q\dd{\mu F(u)}{x}-P\dd{\mu F(u)}{y}+\mu F(u)\left(\dd{Q}{x}-\dd{P}{y}\right)=0$$よって $\mu F(u)$ もまた積分因子である。

【証明終】

練習問題2

例題4

$$(x^2-y^2)dx+2xydy=0$$が不完全であること、および $\mu=\frac{1}{(x^2+y^2)^2}$ は積分因子であることを確認せよ。その上で解を求めよ。

$\dd{P}{y}\neq\dd{Q}{x}$ より $P,Q$ は完全でない。$\mu$ を用いることによって$$\dd{\mu P}{y}=\dd{\mu Q}{x}=\frac{2y(y^2-3x^2)}{(x^2+y^2)^3}$$なので、$\mu P,\mu Q$ は完全となる。よって$$\dd{u}{x}=\mu P\;,\quad\dd{u}{y}=\mu Q$$として $u(x,y)$ を求める。結局、$$\frac{x}{x^2+y^2}=c$$

例題6

$$ydx-xdy=0$$が不完全であること、および $\mu=\frac{1}{x^2+y^2}$ は積分因子であることを確認せよ。その上で解を求めよ。

$\dd{P}{y}\neq\dd{Q}{x}$ より完全でない。$\mu$ を用いることによって$$\dd{\mu P}{y}=\dd{\mu Q}{x}=\frac{x^2-y^2}{(x^2+y^2)^2}$$となる。よって$$\dd{u}{x}=\mu P\;,\quad\dd{u}{y}=\mu Q$$として $u(x,y)$ を求めると解は$$\arctan\frac{x}{y}=c$$となる。ただしこれは $\tan c=\frac{x}{y}$ と変形でき、定数 $c$ をとりなおして$$y=cx$$と書ける。

なお、方程式は単なる変数分離法でも解けるため、いずれの方法でも解が一致することを確認してみよう。

例題7

$k$ を定数, $p$ を $x$ の関数とする。$$p(x)(1+ky)dx+ydy=0$$なる微分方程式において、$$\mu(x,y)=\exp\left(-k\left(y+k\int p(x)dx\right)\right)$$ は積分因子であることを確認せよ。

$$\dd{\mu P}{y}=\dd{\mu Q}{x}=-k^2\mu py$$となるので $\mu$ は積分因子である。

例題8

$p,q$ を $x$ の関数とする。\begin{equation}\{yp(x)-q(x)\}dx+dy=0\tag{21}\end{equation}なる微分方程式において、$$\mu(x,y)=\exp\left(\int p(x)dx \right)$$ は積分因子であることを確認せよ。

ちなみに(21)は$$y'+p(x)y=q(x)$$とも書ける。これは一般の非斉次1階線型微分方程式であり、こちらで解説した解法も確立されている。

次回は、引き続き今回のようなタイプの方程式を解説します。積分因子は一般に見つけるのが困難ですが、見つかりやすいケースを紹介します:

1階の同次形微分方程式(非線型)

他の微分方程式の記事たち:

微分方程式の記事

参考文献

[1] H.T.Davis (1960), Introduction to nonlinear differential and integral equations, U.S. Atomic Energy Commission

[2] 偏微分の順序交換の十分条件とその証明. 高校数学の美しい物語. 2024/5/18アクセス.

[3] KIT数学ナビゲーション. 必要十分条件の証明. 2024/5/18アクセス

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まめしば
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