リーマンのP方程式と24個の特殊解

ここまでの流れは過去記事参照:

フックス型微分方程式と確定特異点1(基本と例題)

フックス型微分方程式と確定特異点2 (RiemannのP方程式)

リーマンのP微分方程式の指数と解の関係

フックス型微分方程式とメビウス変換

リーマンのP方程式とメビウス変換・超幾何関数

復習:リーマンのP微分方程式

3つの確定特異点をもつ2階フックス型微分方程式を「リーマンのP微分方程式」というのでした。

リーマンのP微分方程式\begin{eqnarray}&&u''+\left(\frac{1-\a-\a'}{z-a}+\frac{1-\b-\b'}{z-b}+\frac{1-\g-\g'}{z-c}\right)u'\\&&\quad+\left(\frac{\a\a'(a-b)(a-c)}{z-a}+\frac{\b\b'(b-a)(b-c)}{z-b}+\frac{\g\g'(c-a)(c-b)}{z-c}\right)\\&&\quad\quad\quad\times\frac{u}{(z-a)(z-b)(z-c)}=0\tag{0.1}\end{eqnarray}(ただし $\a+\a'+\b+\b'+\g+\g'=1$)
の6つの特殊解は$$(z-a)^{\a}\sum_{n=0}^\infty a_n(z-a)^{n}\quad,\quad (z-a)^{\a'}\sum_{n=0}^\infty a'_n(z-a)^{n}$$$$(z-b)^{\b}\sum_{n=0}^\infty b_n(z-b)^{n}\quad,\quad (z-b)^{\b'}\sum_{n=0}^\infty b'_n(z-b)^{n}$$$$(z-c)^{\g}\sum_{n=0}^\infty c_n(z-c)^{n}\quad,\quad (z-c)^{\g'}\sum_{n=0}^\infty c'_n(z-c)^{n}$$と表され、解を\begin{equation}u(z)=P\left\{\begin{matrix}a & b & c\\\a & \b & \g\\\a' & \b' & \g'\end{matrix}\;z\right\}\tag{0.2}\end{equation}と表記する。

(0.1)は任意のメビウス変換 $w=T(z)$ により、特異点が移ることを除いて不変なのでした。\begin{equation}P\left\{\begin{matrix}a & b & c\\\a & \b & \g\\\a' & \b' & \g'\end{matrix}\;z\right\}= P\left\{\begin{matrix}T(a) & T(b) & T(c)\\\a & \b & \g\\\a' & \b' & \g'\end{matrix}\;w\right\}\tag{0.3}\end{equation}さらに次のように、方程式の指数をずらすことができるのでした。\begin{equation}\left(\frac{z-a}{z-b}\right)^\mu\left(\frac{z-c}{z-b}\right)^\nu P\left\{\begin{matrix}a & b & c\\\a & \b & \g\\\a' & \b' & \g'\end{matrix}\;z\right\}= P\left\{\begin{matrix}a & b & c\\\a+\mu & \b-\mu-\nu & \g+\nu\\\a'+\mu & \b'-\mu-\nu & \g'+\nu\end{matrix}\;z\right\}\tag{0.4}\end{equation}(ただし、たとえば $b=\infty$ の場合は $(z-b)$ を $1$ に変更)。

これらの変換を利用して、特異点を $0,1,\infty$ へ移し、$0,1$ に属する指数の片方ずつを $0$ にすれば、任意の(0.1)を超幾何微分方程式へ帰着できます。

では始めましょう。本日の参考文献はこちらから:

古いですが有名な書物で、どんどん改訂版が出ています。前半は解析学一般、後半は特殊関数という内容で、網羅的に勉強できます。演習問題に解答がないのが昔ながらのものって感じ。2022/11/6現在、最新版は5th Editionで私も所有していますが、廉価な3rdとかでも十分かと。


A Course of Modern Analysis: fifth Edition


A Course of Modern Analysis: Third Edition

P方程式におけるKummerの24解

前回述べたように、リーマンのP方程式(0.1)は超幾何微分方程式に帰着されます。これを利用すると解(0.2)は\begin{equation}u(z)=\left(\frac{z-a}{z-b}\right)^\a\left(\frac{z-c}{z-b}\right)^\g P\left\{\begin{matrix}0 & \infty & 1\\0 & \b+\a+\g & 0\\\a'-\a & \b'+\a+\g & \g'-\g\end{matrix}\;w\right\}\tag{1.1}\end{equation}となります。ただし $w=\frac{(z-a)(c-b)}{(z-b)(c-a)}$ です。(1.1)のP表記は超幾何微分方程式\begin{equation}w(1-w)y''+[1+\a-\a'-(2+\g-\g'+\a-\a')w]y'-(\a+\b+\g)(\a+\b'+\g)y=0\tag{1.2}\end{equation}の解を表しています。(1.2)の代表となる特殊解を用いたP方程式の解 $u_1(z)$ は\begin{equation}u_1(z)=\left(\frac{z-a}{z-b}\right)^\a\left(\frac{z-c}{z-b}\right)^\g F\left[\begin{matrix}\a+\b+\g,\a+\b'+\g\\1+\a-\a'\end{matrix};\frac{(z-a)(c-b)}{(z-b)(c-a)}\right]\tag{1.3}\end{equation}以下、簡単のため $\a-\a'$ , $\b-\b'$ , $\g-\g'$ はいずれも非整数とします。

(0.1)は $\a$ と $\a'$ を入れ替えても不変です。$\g$ , $\g'$ も同様。なので次の3つもまた解です。\begin{eqnarray*}u_2(z)&=&\left(\frac{z-a}{z-b}\right)^{\a'}\left(\frac{z-c}{z-b}\right)^\g F\left[\begin{matrix}\a'+\b+\g,\a'+\b'+\g\\1+\a'-\a\end{matrix};\frac{(z-a)(c-b)}{(z-b)(c-a)}\right] \\ u_3(z) &=& \left(\frac{z-a}{z-b}\right)^\a\left(\frac{z-c}{z-b}\right)^{\g'} F\left[\begin{matrix}\a+\b+\g',\a+\b'+\g'\\1+\a-\a'\end{matrix};\frac{(z-a)(c-b)}{(z-b)(c-a)}\right] \\ u_4(z)&=&\left(\frac{z-a}{z-b}\right)^{\a'}\left(\frac{z-c}{z-b}\right)^{\g'} F\left[\begin{matrix}\a'+\b+\g',\a'+\b'+\g'\\1+\a'-\a\end{matrix};\frac{(z-a)(c-b)}{(z-b)(c-a)}\right]\end{eqnarray*}これで4パターンの特殊解が得られました。

さらに(0.1)や(0.2)を見ても分かるように、$(a,\a,\a')$ ; $(b,\b,\b')$ ; $(c,\g,\g')$ すなわち(0.2)の縦並びの組を入れ替えたものも解になります。たとえば\begin{equation}P\left\{\begin{matrix}a & b & c\\\a & \b & \g\\\a' & \b' & \g'\end{matrix}\;z\right\}=P\left\{\begin{matrix}b & c & a\\\b & \g & \a\\\b' & \g' & \a'\end{matrix}\;z\right\}\tag{1.4}\end{equation}これを利用すると$$u_5(z)=\left(\frac{z-b}{z-c}\right)^\b\left(\frac{z-a}{z-c}\right)^\a F\left[\begin{matrix}\a+\b+\g,\a+\b+\g'\\1+\b-\b'\end{matrix};\frac{(z-b)(a-c)}{(z-c)(a-b)}\right]$$も解となります。$u_5$ に対して $\a$ , $\a'$ または $\g$ , $\g'$ を入れ替えても不変ですので、さらに3解を得ます。

$a,b,c$ の並び替えが6通りで、それぞれに $\a$ , $\a'$ または $\g$ , $\g'$ の入れかえ4通りが考えられます。すなわち、わずかの操作で24個の特殊解 $u_1,u_2,\cdots,u_{24}$ を直ちに得られることになります。 Kummerによって導出されたのでKummer's 24 solutionsなどとよびます。

超幾何微分方程式でのKummerの24解

特異点を $0,\infty,1$ として $\a=0$ , $\a'=1-c$ , $\b=a$ , $\b'=b$ , $\g=0$ , $\g'=c-a-b$ とおきます($a,b,c$ は前節のものとは無関係)。するとP方程式は\begin{equation}z(1-z)u''+[c-(a+b+1)z]u'-abz=0\tag{2.1}\end{equation}なる超幾何微分方程式になります。(1.3)に相当する特殊解は\begin{equation}y_1=F\left[\begin{matrix}a,b\\c\end{matrix};z\right]\tag{2.2}\end{equation}同様に $u_2$ から $u_5$ に相当する解は\begin{eqnarray*}y_2&=&z^{1-c} F\left[\begin{matrix}a-c+1,b-c+1\\2-c\end{matrix};z\right] \\ y_3 &=& (1-z)^{c-a-b} F\left[\begin{matrix}c-b,c-a\\c\end{matrix};z\right] \\ y_4&=&z^{1-c}(1-z)^{c-a-b} F\left[\begin{matrix}1-b,1-a\\2-c\end{matrix};z\right] \\ y_5&=&(1-z)^{-a} F\left[\begin{matrix}a,c-b\\1+a-b\end{matrix};\frac{1}{1-z}\right]\\&\vdots&\end{eqnarray*}ただし、通例に倣って定数倍したものもあります。

このようにして24の特殊解を得られます。注意すべきは、24個のうち異なるものは6つであるということです。というのもEulerの変換公式により恒等的に $y_1=y_3$ , $y_2=y_4$ です。異なる解は6つであり、それぞれでEulerの変換公式とPfaffの変換公式2種の計3つの恒等式を用いることで $6\times 4=24$ 解が得られるという仕組みです。つまり $y_1$ から $y_{24}$ を、$u_1$ から $u_6$ に整理して次のように書きます。\begin{eqnarray*}u_1 &=& F\left[\begin{matrix}a,b\\c\end{matrix};z\right] \\&=& (1-z)^{c-a-b} F\left[\begin{matrix}c-a,c-b\\c\end{matrix};z\right] \\&=& (1-z)^{-a} F\left[\begin{matrix}a,c-b\\c\end{matrix};\frac{z}{z-1}\right] \\&=&(1-z)^{-b} F\left[\begin{matrix}c-a,b\\c\end{matrix};\frac{z}{z-1}\right] \\[1em] u_2 &=& F\left[\begin{matrix}a,b\\a+b-c+1\end{matrix};1-z\right] \\&=& z^{1-c}F\left[\begin{matrix}a-c+1,b-c+1\\a+b-c+1\end{matrix};1-z\right] \\&=& z^{-a}F\left[\begin{matrix}a,a-c+1\\a+b-c+1\end{matrix};1-\frac{1}{z}\right] \\&=& z^{-b}F\left[\begin{matrix}b-c+1,b\\a+b-c+1\end{matrix};1-\frac{1}{z}\right] \\[1em] u_3 &=& (-z)^{-a}F\left[\begin{matrix}a,a-c+1\\a-b+1\end{matrix};\frac{1}{z}\right] \\&=& (-z)^{b-c}(1-z)^{c-a-b}F\left[\begin{matrix}1-b,c-b\\a-b+1\end{matrix};\frac{1}{z}\right] \\&=&(1-z)^{-a}F\left[\begin{matrix}a,c-b\\a-b+1\end{matrix};\frac{1}{1-z}\right] \\&=&(-z)^{1-c}(1-z)^{c-a-1}F\left[\begin{matrix}a-c+1,1-b\\a-b+1\end{matrix};\frac{1}{1-z}\right] \\[1em] u_4 &=& (-z)^{-b}F\left[\begin{matrix}b-c+1,b\\b-a+1\end{matrix};\frac{1}{z}\right] \\&=& (-z)^{a-c}(1-z)^{c-a-b}F\left[\begin{matrix}1-a,c-a\\b-a+1\end{matrix};\frac{1}{z}\right]\\&=&(1-z)^{-b}F\left[\begin{matrix}b,c-a\\b-a+1\end{matrix};\frac{1}{1-z}\right]\\&=&(-z)^{1-c}(1-z)^{c-b-1}F\left[\begin{matrix}b-c+1,1-a\\b-a+1\end{matrix};\frac{1}{1-z}\right] \\[1em] u_5 &=& z^{1-c}F\left[\begin{matrix}a-c+1,b-c+1\\2-c\end{matrix};z\right] \\&=& z^{1-c}(1-z)^{c-a-b}F\left[\begin{matrix}1-a,1-b\\2-c\end{matrix};z\right] \\&=& z^{1-c}(1-z)^{c-a-1}F\left[\begin{matrix}a-c+1,1-b\\2-c\end{matrix};\frac{z}{z-1}\right] \\&=& z^{1-c}(1-z)^{c-b-1}F\left[\begin{matrix}b-c+1,1-a\\2-c\end{matrix};\frac{z}{z-1}\right] \\[1em] u_6 &=& (1-z)^{c-a-b}F\left[\begin{matrix}c-a,c-b\\c-a-b+1\end{matrix};1-z\right] \\&=& z^{1-c}(1-z)^{c-a-b}F\left[\begin{matrix}1-a,1-b\\c-a-b+1\end{matrix};1-z\right] \\&=& z^{a-c}(1-z)^{c-a-b}F\left[\begin{matrix}c-a,1-a\\c-a-b+1\end{matrix};1-\frac{1}{z}\right] \\&=& z^{b-c}(1-z)^{c-a-b}F\left[\begin{matrix}c-b,1-b\\c-a-b+1\end{matrix};1-\frac{1}{z}\right]\end{eqnarray*}これらは Higher transcendental function vol.1 を参照しました。$u_1$ から $u_6$ のそれぞれにおいて、1行目に1つの特殊解、2行目はそれにEulerの変換公式を、3,4行目はPfaffの変換公式を使ったものです。

24個の解をつなぐ

超幾何微分方程式は2階の方程式なので、$u_1,\cdots,u_6$ から2つ選べば、その線型結合で他を表せます。たとえばこちらで示した公式\begin{eqnarray}F\left(\begin{matrix}a,b\\c\end{matrix};z\right) &=& \frac{\G(c)\G(c-a-b)}{\G(c-a)\G(c-b)}F\left(\begin{matrix}a,b\\a+b-c+1\end{matrix};1-z\right)\\&&\quad+\frac{\G(c)\G(a+b-c)}{\G(a)\G(b)}(1-z)^{c-a-b}F\left(\begin{matrix}c-a,c-b\\c-a-b+1\end{matrix};1-z\right)\tag{3.1}\end{eqnarray}は $u_1=Au_2+Bu_6$ の形をしています。このように解どうしをつなぐ公式は $\binom{6}{3}=20$ 個あります。ここに全部書いてあります。

ここまでの内容が理解できれば、たくさんの変換を利用できることになります。超幾何関数の特殊値を求めるときなどに重宝します。

ほかにも、2次変換などについては:

リーマンP方程式から超幾何関数の二次変換を導出

超幾何関数2F1の変換公式1(基本の10個)

超幾何関数のある変換公式の証明

隣接関係式はこちら:

超幾何関数に関するガウスの隣接関係式

Heunの微分方程式

確定特異点が $0,1,a,\infty$ の場合をHeun(ホイン)の微分方程式といい、192解が同様に得られるそうです。@adhara_mathphys さんに教えていただきました。

確定特異点が4個の場合のフックス型方程式については:

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