確定特異点やフックス型方程式の基礎事項を前提としています。過去記事参照:
フックス型微分方程式と確定特異点2 (RiemannのP方程式)
特に、前回記事は先に読むことを推奨:
参考文献はForsyth,Theory of differential equations vol.4(1902)です。
無限遠点でない4個の確定特異点 $a,b,c,d$ をもつフックス型微分方程式は次に限られる。\begin{eqnarray}&&u''+\left(\frac{1-\a-\a'}{z-a}+\frac{1-\b-\b'}{z-b}+\frac{1-\g-\g'}{z-c}+\frac{1-\d-\d'}{z-d}\right)u'\\&&+\biggl(\frac{\a\a'(a-b)(a-c)(a-d)}{z-a}+\frac{\b\b'(b-a)(b-c)(b-d)}{z-b}\\&&\quad+\frac{\g\g'(c-a)(c-b)(c-d)}{z-c}+\frac{\d\d'(d-a)(d-b)(d-c)}{z-d}+I\biggr)\\&&\times\frac{u}{(z-a)(z-b)(z-c)(z-d)}=0\tag{1}\end{eqnarray}ただし $\a+\a'+\b+\b'+\g+\g'+\d+\d'=2$.
4個の確定特異点 $a,b,c,\infty$ をもつフックス型微分方程式は次に限られる。\begin{eqnarray}&&u''+\left(\frac{1-\a-\a'}{z-a}+\frac{1-\b-\b'}{z-b}+\frac{1-\g-\g'}{z-c}\right)u'\\&&+\biggl(\frac{\a\a'(a-b)(a-c)}{z-a}+\frac{\b\b'(b-a)(b-c)}{z-b}\\&&\quad\quad+\frac{\g\g'(c-a)(c-b)}{z-c}+\d\d' z+I\biggr)\\&&\times\frac{u}{(z-a)(z-b)(z-c)}=0\tag{2}\end{eqnarray}ただし $\a+\a'+\b+\b'+\g+\g'+\d+\d'=2$.
$I$ をアクセサリー・パラメータというのでした。
4個の確定特異点をもつフックス型微分方程式は長ったらしいですが、すべてよりシンプルなHeunの微分方程式に帰着することを示しましょう。
確定特異点に無限遠点が含まれるかによって、方程式は異なります((1)と(2))。まずは(1)について論じます。前回記事でみた「特性指数のシフト」を行います。\begin{eqnarray}\left(\frac{z-a}{z-d}\right)^{-\a} &&\left(\frac{z-b}{z-d}\right)^{-\b}\left(\frac{z-c}{z-d}\right)^{-\g} P\left\{\begin{matrix}a & b & c &d\\\a & \b & \g & \d \\\a' & \b' & \g' & \d'\end{matrix}\;z\right\}\\&&=P\left\{\begin{matrix}a & b & c &d\\0 & 0 & 0 & \a+\b+\g+\d \\\a'-\a & \b'-\b & \g'-\g & \a+\b+\g+\d'\end{matrix}\;z\right\}\tag{3}\end{eqnarray}(1)は(3)の右辺があらわす方程式\begin{eqnarray}&&u''+\left(\frac{1-\a'+\a}{z-a}+\frac{1-\b'+\b}{z-b}+\frac{1-\g'+\g}{z-c}+\frac{1-\d-\d'-2\a-2\b-2\g}{z-d}\right)u'\\&&+\biggl(\frac{(\a+\b+\g+\d)(\a+\b+\g+\d')(d-a)(d-b)(d-c)}{z-d}+I'\biggr)\\&&\times\frac{u}{(z-a)(z-b)(z-c)(z-d)}=0\tag{4}\end{eqnarray}に変換されるというわけです。$I'$ は変換後のアクセサリー・パラメータです。文字の量が多いので、ここからは(4)の定数をあらためて\begin{eqnarray}&&u''+\left(\frac{\a}{z-a}+\frac{\b}{z-b}+\frac{\g}{z-c}+\frac{1-\d-\d'}{z-d}\right)u'\\&&+\biggl(\frac{\d\d'(d-a)(d-b)(d-c)}{z-d}+I\biggr)\\&&\times\frac{u}{(z-a)(z-b)(z-c)(z-d)}=0\tag{5}\end{eqnarray}としておきます。解は$$P\left\{\begin{matrix}a & b & c &d\\0 & 0 & 0 & \d \\1-\a & 1-\b & 1-\g & \d'\end{matrix}\;z\right\}$$ただし $\a+\b+\g-\d-\d'=1$ です。
前回記事で、この方程式はメビウス変換によって、特異点が移る(のとアクセサリー・パラメータ)以外は不変と説明しました。よって $z\to z-d$ なる変換で $d=0$ とできます。するとP表記は$$P\left\{\begin{matrix}a-d & b-d & c-d &0\\0 & 0 & 0 & \d \\1-\a & 1-\b & 1-\g & \d'\end{matrix}\;z-d\right\}$$
ということは、簡単のため $a,b,c$ および $z$ を取り直して$$P\left\{\begin{matrix}a & b & c &0\\0 & 0 & 0 & \d \\1-\a & 1-\b & 1-\g & \d'\end{matrix}\;z\right\}$$を考えればよいです。対応する方程式は\begin{eqnarray}&&u''+\left(\frac{\a}{z-a}+\frac{\b}{z-b}+\frac{\g}{z-c}+\frac{1-\d-\d'}{z}\right)u'\\&&+\biggl(-\frac{\d\d'abc}{z}+I\biggr)\frac{u}{z(z-a)(z-b)(z-c)}=0\tag{6}\end{eqnarray}なお、変換のたびにアクセサリー・パラメータ $I$ は変化しているのですが、まともに書き下すのはかなり面倒なので、毎回あらためて $I$ と表記することにしています。
さて、さらに(6)に反転変換 $w=1/z$ を施します。\begin{eqnarray}&&u''+\left(\frac{\a}{w-\frac{1}{a}}+\frac{\b}{w-\frac{1}{b}}+\frac{\g}{w-\frac{1}{c}}\right)u'\\&&+\biggl(\d\d'w-\frac{I}{abc}\biggr)\frac{u}{(w-\frac{1}{a})(w-\frac{1}{b})(w-\frac{1}{c})}=0\tag{7}\end{eqnarray}これはまさに(2)の形をしています。解は$$P\left\{\begin{matrix}\frac{1}{a} & \frac{1}{b} & \frac{1}{c} & \infty\\0 & 0 & 0 & \d \\1-\a & 1-\b & 1-\g & \d'\end{matrix}\; w\right\}$$一気にゴールに向かってメビウス変換をしたいところですが、無限遠点を特異点とする方程式については、任意のメビウス変換で不変であることを示していないので、ちまちまいきます。拡大回転 $w_2=-aw$ によって(7)は$$P\left\{\begin{matrix}-1 & -\frac{a}{b} & -\frac{a}{c} & \infty\\0 & 0 & 0 & \d \\1-\a & 1-\b & 1-\g & \d'\end{matrix}\; w_2\right\}$$に対応する方程式になります。さらに平行移動 $w_3=w_2+1$ により$$P\left\{\begin{matrix}0 & 1-\frac{a}{b} & 1-\frac{a}{c} & \infty\\0 & 0 & 0 & \d \\1-\a & 1-\b & 1-\g & \d'\end{matrix}\; w_3\right\}$$拡大回転 $w_4=\frac{b}{b-a}w_3$ によって$$P\left\{\begin{matrix}0 & 1 & \frac{b(c-a)}{c(b-a)} & \infty\\0 & 0 & 0 & \d \\1-\a & 1-\b & 1-\g & \d'\end{matrix}\; w_4\right\}$$$ \frac{b(c-a)}{c(b-a)}$ をあらためて $a$ と書き直すことにより$$P\left\{\begin{matrix}0 & 1 & a & \infty\\0 & 0 & 0 & \d \\1-\a & 1-\b & 1-\g & \d'\end{matrix}\; w_4\right\}$$とできます。これに対応する方程式は、アクセサリー・パラメータを $I$ と書くことにして、$w_4$ を $z$ と書き直すと
\begin{eqnarray}u''+\left(\frac{\a}{z}+\frac{\b}{z-1}+\frac{\g}{z-a}\right)u'+\frac{\d\d'z+I}{z(z-1)(z-a)}u=0\tag{8}\end{eqnarray}ただし $\a+\b+\g-\d-\d'=1$.
よって(1)で表される任意の微分方程式は(8)に帰着することが示されました。これをHeun(ホイン)の微分方程式といいます。
無限遠点を特異点に持つ(2)の場合も、試しに $v(z)=(z-a)^\mu u(z)$ と変換してみれば\begin{eqnarray}&&v''+\left(\frac{1-(\a+\mu)-(\a'+\mu)}{z-a}+\frac{1-\b-\b'}{z-b}+\frac{1-\g-\g'}{z-c}\right)v'\\&&+\biggl(\frac{(\a+\mu)(\a'+\mu)(a-b)(a-c)}{z-a}+\frac{\b\b'(b-a)(b-c)}{z-b}\\&&\quad\quad+\frac{\g\g'(c-a)(c-b)}{z-c}+(\d-\mu)(\d'-\mu) z+I'\biggr)\\&&\times\frac{v}{(z-a)(z-b)(z-c)}=0\tag{9}\end{eqnarray}となり、特性指数のシフトができることが分かります。$I'$ は新たなアクセサリー・パラメータです(定数をまとめたもの)。応用すると\begin{eqnarray}\left(z-a\right)^{-\a} &&\left(z-b\right)^{-\b}\left(z-c\right)^{-\g} P\left\{\begin{matrix}a & b & c & \infty\\\a & \b & \g & \d \\\a' & \b' & \g' & \d'\end{matrix}\;z\right\}\\&&=P\left\{\begin{matrix}a & b & c & \infty\\0 & 0 & 0 & \a+\b+\g+\d \\\a'-\a & \b'-\b & \g'-\g & \a+\b+\g+\d'\end{matrix}\;z\right\}\tag{10}\end{eqnarray}です。(7)と同等の形ですので、あとは同じ道筋でHeunの方程式に至ります。
以上から、4個の確定特異点をもつフックス型微分方程式は、すべてHeunの方程式に帰着することが示されました!
Forsyth,Theory of differential equations vol.4(1902)より
(8)において $a=1$ , $I=-\d\d'$ のとき、超幾何微分方程式になることを確認せよ。
$$u''+\left(\frac{\a}{z}+\frac{\b+\g}{z-1}\right)u'+\frac{\d\d'}{z(z-1)}u=0$$であり、P表記は$$P\left\{\begin{matrix}0 & \infty & 1 & \\0 & \d & 0 \\1-\a & \d' & 1-\b-\g \end{matrix}\; z\right\}$$となります。確かに超幾何微分方程式です。
(8)において $a=0$ , $I=0$ のとき、超幾何微分方程式になることを確認せよ。
$$u''+\left(\frac{\a+\g}{z}+\frac{\b}{z-1}\right)u'+\frac{\d\d'}{z(z-1)}u=0$$です。
超幾何微分方程式ではKummer's 24 solutions(24個の特殊解)を導出しました。Heunの方程式では、対称性を用いて192個の特殊解が導出されるそうです。論文はこちら(外部)。Wikipediaによれば、この論文(2007)以前では、手計算で求めた特殊解に誤りが含まれていたそうで、Heun自身もそうであったとのこと。
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