前の記事:
積分botからのネタです。
$$I:=\int_0^\infty\frac{\arctan^2x\ln^2(1+x^2)}{x^2}dx=\frac{4}{3}\pi\ln^32+\frac{2}{3}\pi^3\ln2+\frac{\pi}{2}\zeta(3)$$
$x=\tan\t$ とおいてみると\begin{eqnarray*}I &=& 4\int_0^\frac{\pi}{2}\frac{\t^2\ln^2(\cos\t)}{\sin^2\t}d\t \\&=&4\sum_{n=0}^\infty\int_0^\frac{\pi}{2}\t^2\cos^{2n}\t\ln^2(\cos\t)d\t\end{eqnarray*}ここで示したベータ関数の表示$$\int_0^\frac{\pi}{2}\cos^{s-1}\t\cos a\t d\t=\frac{\pi}{2^{s}sB(\frac{s+a+1}{2},\frac{s-a+1}{2})}$$を $s$ および $a$で2階ずつ微分して $a=0$ を代入すると(あっているか分からないが)\begin{eqnarray*}&&\int_0^\frac{\pi}{2}\t^2\cos^{s-1}\t\ln^2\cos\t d\t \\&=& \frac{\pi\G(s)}{2^{s+1}\G^2(\frac{s+1}{2})}\Biggl[\left\{\psi(s)-\psi\left(\frac{s+1}{2}\right)-\ln2\right\}\left\{\frac{1}{2}\psi''\left(\frac{s+1}{2}\right)+1\right\}\\&&+\left\{\psi'(s)-\frac{1}{2}\psi'\left(\frac{s+1}{2}\right)\right\}\psi'\left(\frac{s+1}{2}\right)+\frac{1}{4}\psi'''\left(\frac{s+1}{2}\right)\Biggr]\end{eqnarray*}ここで $s=2n+1$ を代入するといろんな調和数が現れるのですが、計算ができる気がしませんでした。
関数と経路の設定
$I$ の積分範囲を見ると、複素積分がよさそうですので挑戦しました。$$I=\frac{1}{2}\int_{-\infty}^\infty\frac{\arctan^2x\ln^2(1+x^2)}{x^2}dx$$ここで\begin{equation}f(z):=\frac{\arctan^2z\ln^2(1+z^2)}{z^2}\tag{1}\end{equation}と定義します。$\arctan z$ と $\ln(1+z^2)$ は $z=\pm i$ にbranch point をもつため、虚軸上 $[i,i\infty)$ , $(-i\infty,-i]$ にbrunch cut を入れます。すなわち $-\frac{3}{2}\pi<\arg (z-i)<\frac{\pi}{2}$ とします。$z=0$ が特異点となっていますが $\frac{\arctan z}{z}$ が正則であることから($\arctan z$ のマクローリン展開式より分かる)除去可能特異点(removable singularity)です。よって積分において極なしとなります。周回経路を下のようにとります。
領域内で正則ですので、Cauthyの積分定理より\begin{equation}\oint f(z)dz=0\tag{2}\end{equation}また $\arctan$ と $\mathrm{arctanh}$ の関係と、$\mathrm{arctanh}$ は $\ln$ で表せることを使って $f(z)$ を変形すると\begin{equation}f(z)=-\frac{1}{4}\left(\frac{\ln^2(1+iz)-\ln^2(1-iz)}{z}\right)\tag{3}\end{equation}とできます。
円弧の評価
さて、$i$ まわりの小円弧の積分を評価しましょう。$z-i=\epsilon e^{i\t}$ と置換します。分母に三角不等式を利用する等して計算すると$$\left|\int_{\mathrm{small\:arc}}f(z)dz\right|\le O(\epsilon\ln^4\epsilon)\xrightarrow[]{\epsilon\to0}0$$であることが確かめられます。2つの大円弧においても $z=Re^{i\t}$ と置換すると$\frac{\ln^4R}{R}$ のオーダーであり、$R\to\infty$ でゼロとなります。
結局3つの円弧は積分値がゼロとなります。実軸上の積分は $2I$ を与えますので(2)より\begin{equation}2I=-\int_{\G_1+\G_2}f(z)dz\tag{4}\end{equation}
虚軸にそった積分
$\G_1$ では $\arg(z-i)=\frac{\pi}{2}$ すなわち $z-i=xe^{\frac{\pi}{2}i}$ と置換します。計算には(3)式を使いましょう。\begin{eqnarray*}\int_{\G_1}f(z)dz &=&-\frac{1}{4}\int_\infty^0\left[\frac{\ln^2(xe^{\pi i})-\ln^2(2+x)}{i(1+x)}\right]^2idx\\&=&-\frac{i}{4}\int_0^\infty\frac{\bigl((\ln x+\pi i)^2-\ln^2(2+x)\bigr)^2}{(1+x)^2}dx\end{eqnarray*}同様に $\G_2$ では $\arg(z-i)=-\frac{3\pi}{2}$ すなわち $z-i=xe^{-\frac{3\pi}{2}i}$ と置換します。\begin{eqnarray*}\int_{\G_2}f(z)dz &=&-\frac{1}{4}\int_0^\infty\left[\frac{\ln^2(xe^{-\pi i})-\ln^2(2+x)}{i(1+x)}\right]^2idx\\&=&\frac{i}{4}\int_0^\infty\frac{\bigl((\ln x-\pi i)^2-\ln^2(2+x)\bigr)^2}{(1+x)^2}dx\end{eqnarray*}これらを足して整理します。$$\int_{\G_1+\G_2}f(z)dz=2\pi\int_0^\infty\frac{\ln^3x-\pi^2\ln x-\ln^2(2+x)\ln x}{(1+x)^2}dx$$$y=x+1$ と置換し、さらに $u=1/y$ と置くと\begin{eqnarray*}&=&2\pi\int_0^1\Biggl[\underbrace{\ln^3\left(\frac{1}{u}-1\right)}_{0}-\underbrace{\pi^2\ln\left(\frac{1}{u}-1\right)}_{0}-\ln^2\left(\frac{1}{u}+1\right)\ln\left(\frac{1}{u}-1\right)\Biggr]du \\&=& -2\pi\int_0^1\Bigl(\ln(1+u)-\ln u\Bigr)^2\Bigl(\ln(1-u)-\ln u\Bigr)du\end{eqnarray*}これを展開すると\begin{eqnarray}\int_{\G_1+\G_2}f(z)dz =&& 2\pi\int_0^1\Bigl[\ln^2(1+u)\ln u-\ln^2(1+u)\ln(1-u)\\&&\quad\quad-2\ln^2u\ln(1+u)+2\ln u\ln(1+u)\ln(1-u)\\&&\quad\quad+\ln^3u-\ln^2u\ln(1-u)\Bigr]du\tag{5}\end{eqnarray}これらを別々に計算していけばいいわけです。かなりきつそうです。
(5)の積分を実行します。非常に長くなるので、それぞれの積分の計算は過去記事に詳しく載せることにしました。
1つめ
(5)の第1項$$\int_0^1\ln^2(1+u)\ln udu$$は $\ln^2(1+u)$ のマクローリン展開を用います。調和数や二重対数関数を駆使することにより\begin{equation}\int_0^1\ln^2(1+u)\ln udu=-\frac{\zeta(3)}{4}-2\ln^22+\frac{\pi^2}{6}+8\ln2-6\tag{6}\end{equation}を得ます。詳しい計算方法はここの「2022/11/1」参照。
2つめ
(5)の第2項$$\int_0^1\ln^2(1+u)\ln(1-u)du$$も $\ln^2(1+u)$ のマクローリン展開を用います。扱いはかなり大変ですが、調和数がらみの級数をガンガン計算した結果\begin{equation}\int_0^1\ln^2(1+u)\ln(1-u)du=\frac{1}{2}\zeta(3)-\frac{\pi^2}{3}(\ln2-1)+\frac{4}{3}\ln^32-4\ln^22+8\ln2-6\tag{7}\end{equation}詳しい計算方法はここの「2022/11/2」参照。
3つめ
(5)の第3項$$\int_0^1\ln^2u\ln (1+u)du$$は $\ln(1+u)$ のマクローリン展開を用います。これまでと比べると楽に計算できて\begin{equation}\int_0^1\ln^2u\ln (1+u)du =\frac{3}{2}\zeta(3)+\frac{\pi^2}{6}+4\ln2-6\tag{8}\end{equation}計算方法はここの「2022/11/3」参照。
4つめ
(5)の第4項$$\int_0^1\ln u\ln (1+u)\ln(1-u)du$$は一番大変でした。$\ln(1+u)\ln(1-x)$ のマクローリン展開を作り、交代調和数を含んだ級数の計算を延々とやります。ここの記事の最後で系として\begin{equation}\int_0^1\ln u\ln(1+u)\ln(1-u)du=\frac{21}{8}\zeta(3)-\frac{\pi^2}{2}\ln2+\frac{5}{12}\pi^2-\ln^22+4\ln2-6\tag{9}\end{equation}を得ました。
5,6つめ
(5)の第5項は初等的に求まり\begin{equation}\int_0^1\ln^3udu=-6\tag{10}\end{equation}第6項は $\ln(1-u)$ のマクローリン展開により\begin{eqnarray*}\int_0^1\ln^2u\ln(1-u)du &=& -\sum_{n=1}^\infty\frac{1}{n}\int_0^1u^n\ln^2udu\\&=&-2\sum_{n=1}^\infty\frac{1}{n(n+1)^3}\\&=&2\sum_{n=1}^\infty\left(\frac{1}{n+1}-\frac{1}{n}+\frac{1}{(n+1)^2}+\frac{1}{(n+1)^3}\right)\\&=&2\bigl(-1+\zeta(2)-1+\zeta(3)-1\bigr)\end{eqnarray*}したがって\begin{equation}\int_0^1\ln^2u\ln(1-u)du=2\zeta(3)+\frac{\pi^2}{3}-6\tag{11}\end{equation}
(6)(7)(8)(9)(10)(11)を(5)に適用すると$$\int_{\G_1+\G_2}f(z)dz =-2\pi\left(\frac{4}{3}\ln^32+\frac{2}{3}\pi^2\ln2+\frac{1}{2}\zeta(3)\right)$$(4)より$$I=-\frac{1}{2}\int_{\G_1+\G_2}f(z)dz$$なので、最終的に
\begin{equation}\int_0^\infty\frac{\arctan^2x\ln^2(1+x^2)}{x^2}dx=\frac{4}{3}\pi\ln^32+\frac{2}{3}\pi^3\ln2+\frac{\pi}{2}\zeta(3)\tag{12}\end{equation}
次の記事:
Please support me!
記事を気に入って下さった方、「応援してあげてもいいよ」という方がいらっしゃったら15円から可能なので支援していただければ幸いです。情報発信を継続していくため、サーバー維持費などに充てさせていただきます。
ご支援いただいた方は、こちらで確認できます。
◎ Amazonギフトの場合、
Amazonギフト券- Eメールタイプ – Amazonベーシック
より、金額は空白欄に適当に(15円から)書きこんで下さい。受取人は「mamekebiamazonあっとgmail.com」です(あっとは@に置き換えてください)。贈り主は「匿名」等でOKです。全額がクリエイターに届きます。
◎ OFUSEは登録不要で、100円から寄付できます。金額の90%がクリエイターに届きます。
OFUSEで応援を送る◎ codocは登録不要で、100円から寄付できます。金額の85%がクリエイターに届きます。