logを含む難しい積分9

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$$I:=\int_0^1\frac{x\ln(1-x)}{1+x^2}dx=\frac{\ln^22}{8}-\frac{5}{96}\pi^2$$$$J:=\int_0^1\frac{x\ln(1+x)}{1+x^2}dx=\frac{\ln^22}{8}+\frac{\pi^2}{96}$$

それほど長くはかからないので、複数の解法を示して内容を充実させました。多彩な計算方法を追うことができるので、様々な場面で役立つかも。

調和数の公式を使う方法

$I$ , $J$ で少し異なる計算方法を採用しましょう。調和数や二重対数関数の知識が必要です。\begin{eqnarray*}I &:=& \int_0^1\frac{x\ln(1-x)}{1+x^2}dx\\&=&\sum_{n=0}^\infty(-1)^n\int_0^1 x^{2n+1}\ln(1-x)dx \\&=& \sum_{n=0}^\infty(-1)^n \left.\dd{B(p,q)}{q}\right|_{p=2n+2,q=1}\\&=& \sum_{n=0}^\infty(-1)^n B(2n+2,1)\left\{\psi(1)-\psi(2n+3)\right\} \\&=& -\frac{1}{2}\sum_{n=0}^\infty(-1)^n\frac{H_{2n+2}}{n+1} \\&=& \frac{1}{2}\sum_{n=0}^\infty\frac{(-1)^nH_{2n}}{n}\end{eqnarray*}ただし $H_n=1+\frac{1}{2}+\cdots+\frac{1}{n}$ は調和数です。ベータ関数の偏導関数を応用しました。それについてはこちらが参考になります。ディガンマ関数 $\psi$ についてはこちらここの演習問題で得た式\begin{equation}\sum_{n=1}^\infty\frac{(-1)^nH_{2n}}{n}=\frac{\ln^22}{4}-\frac{5}{48}\pi^2\tag{1}\end{equation}を用いることで\begin{equation}I=\int_0^1\frac{x\ln(1-x)}{1+x^2}dx=\frac{\ln^22}{8}-\frac{5}{96}\pi^2\tag{2}\end{equation}を得ます。

次に\begin{eqnarray*}J &:=& \int_0^1\frac{x\ln(1+x)}{1+x^2}dx\\&=&\sum_{n=0}^\infty(-1)^n\int_0^1 x^{2n+1}\ln(1+x)dx \\&=& \sum_{n=0}^\infty\frac{(-1)^n}{2n+2}\left(\ln2-\int_0^1 \frac{x^{2n+2}}{1+x}dx\right)\quad(部分積分) \\&=& \sum_{n=0}^\infty\frac{(-1)^n}{2n+2}\left(\ln2-\int_0^1 \left(x^{2n+1}-x^{2n}+x^{2n-1}-\cdots+x-1+\frac{1}{1+x}\right)dx\right) \\&=& -\frac{1}{2}\sum_{n=1}^\infty\frac{(-1)^nh_{2n}}{n}\end{eqnarray*}ただし$h_n=1-\frac{1}{2}+\cdots+\frac{(-1)^{n-1}}{n}$ は交代調和数です。過去記事で得た式\begin{equation}\sum_{n=1}^\infty \frac{h_{2n}}{n} x^{2n} = -\ln(1+x)\ln(1-x)-\frac{1}{2}\Li_2(x^2)\tag{3}\end{equation}で $x=i$ とすることにより$$J=\frac{1}{2}\left[\ln(1+i)\ln(1-i)+\frac{1}{2}\Li_2(-1)\right]$$二重対数関数 $\Li_2(x)$ の特殊値公式から、ただちに\begin{equation}J=\int_0^1\frac{x\ln(1+x)}{1+x^2}dx=\frac{\ln^22}{8}+\frac{1}{96}\pi^2\tag{4}\end{equation}

以上はシンプルな解法ではありますが、そもそも調和数や交代調和数の和公式をあらかじめ知っておく必要があります。そういう意味では、実際の道のりはかなり長いです。

そこで本記事でほぼ完結できる方法を紹介します。

重積分と対称性による方法

$I$ , $J$ をまとめて変形してしまいましょう。複号は上側が $I$ , 下側が $J$ を表します。\begin{eqnarray*}\left\{\begin{matrix}I\\J\end{matrix}\right\} &:=& \int_0^1\frac{x\ln(1\mp x)}{1+x^2}dx \\&=& \mp\int_0^1dx\int_0^1dy\frac{x^2}{(1+x^2)(1\mp xy)}\end{eqnarray*}この変形の確認の方法としては、実際に2行目の積分を $y$ で実行すると1行目と等しくなります。次に、$x,y$ をまるごと取り換えたものも同じ値となるので、足して2で割ります。$$\left\{\begin{matrix}I\\J\end{matrix}\right\}=\frac{\mp 1}{2}\left(\int_0^1dx\int_0^1dy\frac{x^2}{(1+x^2)(1\mp xy)}+\int_0^1dy\int_0^1dx\frac{y^2}{(1+y^2)(1\mp xy)}\right)$$右側の逐次積分の順を変更して\begin{eqnarray*}\left\{\begin{matrix}I\\J\end{matrix}\right\} &=& \frac{\mp 1}{2}\int_0^1dx\int_0^1dy\left(\frac{x^2}{(1+x^2)(1\mp xy)}+\frac{y^2}{(1+y^2)(1\mp xy)}\right) \\&=& \frac{\mp 1}{2}\int_0^1dx\int_0^1dy\left(\frac{(1+x^2)(1+y^2)-(1-x^2y^2)}{(1+x^2)(1+y^2)(1\mp xy)}\right) \\&=& \frac{\mp 1}{2}\int_0^1dx\int_0^1dy\left(\frac{1}{1\mp xy}-\frac{1}{(1+x^2)(1+y^2)}\mp\frac{xy}{(1+x^2)(1+y^2)}\right)\end{eqnarray*}3つのパーツに分かれています。1つずつ見ていきましょう。後ろ2つが初等的です。$$\int_0^1\int_0^1\frac{dxdy}{(1+x^2)(1+y^2)}=\left(\int_0^1\frac{dx}{1+x^2}\right)^2=(\arctan 1)^2$$\begin{equation}\therefore\quad \int_0^1\int_0^1\frac{dxdy}{(1+x^2)(1+y^2)}=\frac{\pi^2}{16}\tag{5}\end{equation}および$$\int_0^1\int_0^1\frac{xy\:dxdy}{(1+x^2)(1+y^2)}=\left(\int_0^1\frac{x\:dx}{1+x^2}\right)^2$$\begin{equation}\therefore\quad \int_0^1\int_0^1\frac{xy\:dxdy}{(1+x^2)(1+y^2)}=\frac{\ln^22}{4}\tag{6}\end{equation}残った項は逐次積分をします。\begin{eqnarray*}\int_0^1dx\int_0^1dy\frac{1}{1\mp xy}&=&\mp\int_0^1dx\left[\frac{\ln(1\mp xy)}{x}\right]_{y=0}^1 \\&=& \mp\int_0^1\frac{\ln(1\mp x)}{x}dx\end{eqnarray*}$J$(複号下側)で $x\to -x$ と置換します。\begin{eqnarray*}\int_0^1dx\int_0^1dy\frac{1}{1\mp xy}&=&\mp\int_0^{\pm1}\frac{\ln(1- x)}{x}dx \\&=& \pm \Li_2(\pm1) \\&=& \left\{\begin{matrix}\zeta(2)\\\zeta(2)/2\end{matrix}\right\}\end{eqnarray*}\begin{equation}\therefore\quad \int_0^1dx\int_0^1dy\frac{1}{1\mp xy} =\left\{\begin{matrix}\pi^2/6\\\pi^2/12\end{matrix}\right\}\tag{7}\end{equation}(5)(6)(7)で各項が出そろいました。結局$$\left\{\begin{matrix}I\\J\end{matrix}\right\}=\left\{\begin{matrix}\dfrac{\ln^22}{8}-\dfrac{5}{96}\pi^2\\\dfrac{\ln^22}{8}+\dfrac{\pi^2}{96}\end{matrix}\right\}$$で、先ほどと同様の結果を導けました。

参考文献(和と差を計算する方法)

今回の積分は、下記文献にある演習を紹介したものです[Vălean(2019), §1.13]。本書では $I+J$ , $I-J$ をうまく計算していますが、かなり技巧的です。よかったら手に取ってみてください。

本記事で参照したのは Cornel Ioan Vălean, "(Almost) Impossible Integrals, Sums, and Series" です。めちゃくちゃ難しい積分が目白押しで楽しいです。


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