対数正弦積分その2 ∫(logsin x)^2dx

概要

$(\log\sin x)^2$の定積分は厳密に求めることができる。ベータ関数を置換して三角関数を出現させると、微分するたびに$\log\sin$や$\log\cos$が出てくる。後はポリガンマ関数などを駆使しよう。

前回の記事:

∫logsin xdx 対数正弦積分その1
今回のテーマ:対数正弦積分その2

\begin{equation}\int_0^\frac{\pi}{2}(\log\sin x)^2dx=\frac{\pi}{2}\left((\log 2)^2+\frac{\pi^2}{12}\right)\end{equation}\begin{equation}\int_0^\frac{\pi}{2}(\log\cos x)^2dx=\frac{\pi}{2}\left((\log 2)^2+\frac{\pi^2}{12}\right)\end{equation}

英文では"log-sine integral"と言ったりします(実際は $\sin$ に係数2がついていたり、少し違います)。前回は\begin{equation}\int_0^\frac{\pi}{2}\log\sin xdx=-\frac{\pi}{2}\log2\end{equation} \begin{equation}\int_0^\frac{\pi}{2}\log\cos xdx=-\frac{\pi}{2}\log2\end{equation} となることを初等的に求め、またベータ関数を応用することでも計算できることを示しました。今回の積分はこれに2乗がついたもので、初等的な計算で同様に挑戦したところ、うまくいきませんでした。なのでベータ関数による方法で導いていきたいと思います。

大まかな流れは、ベータ関数の被積分関数を三角関数へ置換して微分すると \(\log\sin\) などが現れることをまず説明し、一方ベータ関数とガンマ関数の関係式を微分するとディガンマ関数・ポリガンマ関数が出現する。両者を結び付けると求める値が出るが、その際ゼータ関数の計算が必要になる。色々な特殊関数が現れますが1つ1つ細かく解説していると本旨に合わないので、計算に必要な部分をかいつまんでいきます。

ベータ関数の定義と応用

まずはじめにベータ関数は正の実数 \(x,y\) に対して次のように定義されます。

ベータ関数

\begin{equation}B(x,y)\equiv\int_0^1t^{x-1}(1-t)^{y-1}dt\end{equation}

ここで \(t=\sin^2\theta\) と置換すると
\begin{equation}B(x,y)=2\int_0^\frac{\pi}{2}\sin^{2x-1}\theta\cos^{2y-1}\theta d\theta\end{equation}
被積分関数には底を \(\sin\) , \(\cos\) とする指数関数があります。指数関数の微分は \((a^x)'=a^x\log a\) であり、導関数はもとの関数に底の対数をかけたものになっています。これに着目すると\begin{equation}\frac{\partial B}{\partial x}(x,y)=4\int_0^\frac{\pi}{2}\sin^{2x-1}\theta\cos^{2y-1}\theta\log\sin\theta d\theta\end{equation}

このように、ベータ関数を \(x\) で微分すると \(\log\sin\theta\) が、\(y\) で微分すると \(\log\cos\theta\) がそれぞれ現れます。2階微分すると\begin{equation}\frac{\partial^2 B}{\partial x^2}(x,y)=8\int_0^\frac{\pi}{2}\sin^{2x-1}\theta\cos^{2y-1}\theta(\log\sin\theta)^2 d\theta\end{equation} \begin{equation}\frac{\partial^2 B}{\partial y^2}(x,y)=8\int_0^\frac{\pi}{2}\sin^{2x-1}\theta\cos^{2y-1}\theta(\log\cos\theta)^2 d\theta\end{equation} となります。これに \(x=y=1/2\) を代入すれば \begin{equation}\frac{\partial^2 B}{\partial x^2}\left(\frac{1}{2},\frac{1}{2}\right)=8\int_0^\frac{\pi}{2}(\log\sin\theta)^2 d\theta\tag{1}\end{equation} \begin{equation}\frac{\partial^2 B}{\partial y^2}\left(\frac{1}{2},\frac{1}{2}\right)=8\int_0^\frac{\pi}{2}(\log\cos\theta)^2 d\theta\end{equation} と、今回求めたい積分が現れました!

ベータ関数・ガンマ関数・ポリガンマ関数

ベータ関数はガンマ関数(階乗の一般化として有名)と密接な関係にあり、以下の等式が成り立ちます。

ベータ関数とガンマ関数

\begin{equation}B(x,y)=\frac{\Gamma(x)\Gamma(y)}{\Gamma(x+y)}\end{equation}

これを \(x\) で微分したいのですが、先にもう1つ前提知識を。ガンマ関数の対数微分をディガンマ関数といい、以下のように書かれます。

ディガンマ関数

\begin{equation}\psi^{(0)}(x)\equiv\frac{d}{dx}\log\Gamma(x)=\frac{\Gamma'(x)}{\Gamma(x)}\end{equation}

で、このディガンマ関数を任意の回数微分したものをポリガンマ関数といい、

ポリガンマ関数

\begin{equation}\psi^{(n)}(x)\equiv\frac{d^n\psi}{dx^n}(x)\end{equation}

ディガンマ関数はポリガンマ関数の \(n=0\) の場合に相当するので、ポリガンマ関数の一種です。 関数の種類が増えてきてしまいましたが、これらを駆使して件の積分を求めましょう。

ベータ関数を \(x\) で微分します。\begin{eqnarray}\frac{\partial B}{\partial x}&=&B(x,y)\left[\frac{\Gamma'(x)}{\Gamma(x)}-\frac{\Gamma'(x+y)}{\Gamma(x+y)}\right]\\&=&B(x,y)\left[\psi^{(0)}(x)-\psi^{(0)}(x+y)\right]\end{eqnarray}もう一回微分します。\begin{eqnarray}\frac{\partial^2 B}{\partial x^2}&=& \frac{\partial B}{\partial x}\left[\psi^{(0)}(x)-\psi^{(0)}(x+y)\right]+B\left[\psi^{(1)}(x)-\psi^{(1)}(x+y)\right]\\&=& B(x,y)\left[\psi^{(0)}(x)-\psi^{(0)}(x+y)\right]^2+B(x,y)\left[\psi^{(1)}(x)-\psi^{(1)}(x+y)\right]\\&=& B(x,y)\left[\left(\psi^{(0)}(x)-\psi^{(0)}(x+y)\right)^2+\left(\psi^{(1)}(x)-\psi^{(1)}(x+y)\right)\right] \end{eqnarray}

\(x=y=1/2\) を代入すると\begin{equation}\frac{\partial^2 B}{\partial x^2}\left(\frac{1}{2},\frac{1}{2}\right)= \pi\left[\left(\psi^{(0)}\left(\frac{1}{2}\right)-\psi^{(0)}(1)\right)^2+\left(\psi^{(1)}\left(\frac{1}{2}\right)-\psi^{(1)}(1)\right)\right] \end{equation}

式(1)と比べれば$$ \int_0^\frac{\pi}{2}(\log\sin\theta)^2 d\theta =\frac{\pi}{8} \left[\left(\psi^{(0)}\left(\frac{1}{2}\right)-\psi^{(0)}(1)\right)^2+\left(\psi^{(1)}\left(\frac{1}{2}\right)-\psi^{(1)}(1)\right)\right] $$あとは右辺を何とかするのみです。

ポリガンマ関数の計算

ポリガンマ関数は特殊値が知られており、\(n\) を自然数として

ポリガンマ関数の特殊値

$$\begin{cases}\psi^{(0)}(1)&=&-\gamma\\\psi^{(0)}\left(\frac{1}{2}\right)&=&-\gamma-2\log2\\\psi^{(n)}(1)&=&(-1)^{n+1}n!\zeta(n+1)\\ \psi^{(n)} \left(\frac{1}{2}\right)&=& (-1)^{n+1}n!\zeta\left(n+1,\frac{1}{2}\right)\end{cases}$$

となります。\(\gamma\) はオイラー・マスケローニ定数です。\(\zeta(z)\) はリーマンのゼータ関数、\(\zeta(z,a)\) はフルヴィッツのゼータ関数といいます。 フルヴィッツのゼータ関数は$$\zeta(z,a)=\sum_{k=0}^\infty\frac{1}{(k+a)^z}$$と定義されます。これらの値から、私たちの欲しい値はまず$$ \psi^{(0)}\left(\frac{1}{2}\right)-\psi^{(0)}(1) =-2\log2$$そして \begin{eqnarray*}\psi^{(1)}\left(\frac{1}{2}\right)-\psi^{(1)}(1) &=& \zeta\left(2,\frac{1}{2}\right)- \zeta(2)\\&=& \sum_{k=0}^\infty \frac{1}{(k+1/2)^2}-\zeta(2)\\&=& 4\sum_{k=0}^\infty \frac{1}{(2k+1)^2}-\zeta(2)\\&=&4\left[\zeta(2)-\sum_{k=1}^\infty \frac{1}{(2k)^2}\right]-\zeta(2)\\&=& 4\left[\zeta(2)-\frac{1}{4}\zeta(2)\right]-\zeta(2) \\&=& 2\zeta(2)\\&=&\frac{\pi^2}{3} \end{eqnarray*}

長かったですが、以上から $$ \int_0^\frac{\pi}{2}(\log\sin\theta)^2 d\theta =\frac{\pi}{8} \left[4(\log2)^2+\frac{\pi^2}{3}\right] $$ と計算できました。

結論

\begin{equation}\int_0^\frac{\pi}{2}(\log\sin x)^2dx=\frac{\pi}{2}\left((\log 2)^2+\frac{\pi^2}{12}\right)\end{equation}\begin{equation}\int_0^\frac{\pi}{2}(\log\cos x)^2dx=\frac{\pi}{2}\left((\log 2)^2+\frac{\pi^2}{12}\right)\end{equation}

\(\log\cos\) のほうは途中過程を省略しましたが、ベータ関数は \(x,y\) について対称なので、同様に計算すれば求まります。

より一般化した記事はこちら

∫(logsin x)^n dx , ∫(logcos x)^n dx -対数正弦積分その3

対数正弦積分の難しいやつ:

積分の記事一覧はこちら

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