\begin{equation}I\equiv\int_0^\frac{\pi}{2}\log\sin xdx\end{equation}\begin{equation}J\equiv\int_0^\frac{\pi}{2}\log\cos xdx\end{equation}の積分値を求める。さらにこれを一般化する方法を考える。
英文では"log-sine integrals"というようです。日本語にすると「対数正弦積分」になるのか分かりませんが、ここではそのように呼ぶことにします。『岩波数学公式I』には「Eulerの積分」と書かれており、実際にオイラーが計算したようです。$\log$ の中に三角関数がある積分なんてできるわけないだろって思ったのですが、意外にも初等的に解くことが可能であることが分かりました。
今回はこのタイプの第1回目の記事ということで、まず上の積分を初等的に求めます。そしてさらに一般化された積分、例えば\begin{equation}\int_0^\frac{\pi}{2}(\log\sin x)^3dx\end{equation}\begin{equation}\int_0^\frac{\pi}{2}(\log\sin x)(\log\cos x)dx\end{equation}といったものを考えていくためにはベータ関数やディガンマ関数、ポリガンマ関数、ゼータ関数を駆使していく必要があることを説明します。ただ、これら一般化されたものの実際の計算は次回以降に譲ります。
色々調べてみるとかなり高度な分野に立ち入りそうだったので、私の力量ではさばき切れませんが、勉強してみて分かったことを書いていきます。
$\log AB=\log A+\log B$ という性質をうまく使います。まず定積分 $I$ において $y=\frac{\pi}{2}-x$ なる置換をし、\begin{eqnarray*}I&=&\int^0_\frac{\pi}{2}\log\cos y(-dy)\\&=&\int_0^\frac{\pi}{2}\log\cos xdx\\&=&J\end{eqnarray*}よって対数の中身が $\sin$ でも $\cos$ でも積分値は同じというわけです。
そこで\begin{eqnarray*}2I&=&I+J\\&=&\int_0^\frac{\pi}{2}\log\sin xdx+\int_0^\frac{\pi}{2}\log\cos xdx\\&=&\int_0^\frac{\pi}{2}\log(\sin x\cos x)dx\\&=&\int_0^\frac{\pi}{2}\log(\frac{1}{2}\sin 2x)dx\\&=&-\frac{\pi}{2}\log2+\int_0^\frac{\pi}{2}\log\sin 2xdx\\&=&-\frac{\pi}{2}\log2+\frac{1}{2}\int_0^\pi\log\sin ydy\;(\leftarrow2x=y)\\&=&-\frac{\pi}{2}\log2+\frac{1}{2}\left(\int_0^\frac{\pi}{2}\log\sin xdx+\int_\frac{\pi}{2}^\pi\log\sin xdx\right)\\&=&-\frac{\pi}{2}\log2+\frac{1}{2}\left(\int_0^\frac{\pi}{2}\log\sin xdx+\int_\frac{\pi}{2}^0\log\sin(\pi-y)(-dy)\right)\;(\leftarrow\pi-x=y)\\&=&-\frac{\pi}{2}\log2+\frac{1}{2}\left(\int_0^\frac{\pi}{2}\log\sin xdx+\int^\frac{\pi}{2}_0\log\sin ydy\right)\\&=&-\frac{\pi}{2}\log2+\int_0^\frac{\pi}{2}\log\sin xdx\\&=&-\frac{\pi}{2}\log2+I\end{eqnarray*}\begin{equation}\therefore\;I=-\frac{\pi}{2}\log2\end{equation}
なるほどそういうトリックかという感じです。よって次の事実が分かります。
\begin{equation}\int_0^\frac{\pi}{2}\log\sin xdx=-\frac{\pi}{2}\log2\end{equation}\begin{equation}\int_0^\frac{\pi}{2}\log\cos xdx=-\frac{\pi}{2}\log2\end{equation}\begin{equation}\int_0^\frac{\pi}{2}\log\tan xdx=0\end{equation}
というわけでひとまずは今回の目的の積分値が求まったわけです。
『岩波数学公式I』には、上記の積分をさらに一般化した $(\log\sin x)^2$ や、正弦と余弦を混ぜた $(\log2\sin x)(\log2\cos x)$ の積分値が書かれています。これも $I,J$ と同様に求めようとしたのですが、うまくいきませんでした(初等的な方法知ってる方いたら教えてほしいです)。\begin{equation}I_2\equiv\int_0^\frac{\pi}{2}(\log\sin x)^2dx\end{equation}について、まず先ほど同様の手法で\begin{equation}\int_0^\frac{\pi}{2}(\log\cos x)^2dx=I_2\end{equation}と分かります。倍角の公式を使うために以下のように計算します。\begin{eqnarray*}\int_0^\frac{\pi}{2}(\log\sin 2x)^2dx&=&\frac{1}{2}\int_0^\pi(\log\sin x)^2dx\\&=&\frac{1}{2}\left(\int_0^\frac{\pi}{2}(\log\sin x)^2dx+\int_\frac{\pi}{2}^\pi(\log\sin x)^2dx\right)\\&=&\int_0^\frac{\pi}{2}(\log\sin x)^2dx\\&=&I_2\end{eqnarray*}\begin{eqnarray*}\int_0^\frac{\pi}{2}(\log\sin 2x)^2dx&=&\int_0^\frac{\pi}{2}(\log2+\log\sin x+\log\cos x)^2dx\\&=&\frac{\pi}{2}(\log2)^2+2I_2+4\log2\cdot I+2\int^\frac{\pi}{2}_0\log\sin x\log\cos xdx\end{eqnarray*}$I$ は先に求めていますので代入して\begin{equation}\therefore\;I_2=\frac{3}{2}\pi\log^22-2\int^\frac{\pi}{2}_0\log\sin x\log\cos xdx\end{equation}と、第2項の積分がジャマで $I_2$ が求まりません。なので初等的に解くのを諦めました。
なので方針転換です。このような積分に対して、ベータ関数などの特殊関数を使ってみました。$I_2$ については次回にやりますが、それにつながるように今回は $I$ の計算を別解としてやってみましょう。
正の実数 $(x,y)$ に対して\begin{equation}B(x,y)\equiv\int_0^1t^{x-1}(1-t)^{y-1}dt\end{equation}
まあ複素数へ拡張できるのですが、今は不要です。ベータ関数については:
【γ3】ベータ関数の定義・ガンマ関数との関係・三角関数での積分表示
ここで $t=\sin^2\theta$ と置換すると\begin{equation}B(x,y)=2\int_0^\frac{\pi}{2}\sin^{2x-1}\theta\cos^{2y-1}\theta d\theta\end{equation}積分の中には底を $\sin$ , $\cos$ とする指数関数があります。指数関数の微分は一般に $(a^x)'=a^x\log a$ となり、導関数はもとの関数に底の対数をかけたものになっています。これに着目し、\begin{equation}\frac{\partial B}{\partial x}(x,y)=4\int_0^\frac{\pi}{2}\sin^{2x-1}\theta\cos^{2y-1}\theta\log\sin\theta d\theta\end{equation}これに $x=y=1/2$ を代入すると\begin{equation}\frac{\partial B}{\partial x}\left(\frac{1}{2},\frac{1}{2}\right)=4\int_0^\frac{\pi}{2}\log\sin\theta d\theta\end{equation}\begin{equation}\therefore\;I=\frac{1}{4}\frac{\partial B}{\partial x}\left(\frac{1}{2},\frac{1}{2}\right)\tag{1}\end{equation}あとはこいつの右辺が分かればいいですね。
ベータ関数はガンマ関数を用いて\begin{equation}B(x,y)=\frac{\Gamma(x)\Gamma(y)}{\Gamma(x+y)}\end{equation}と書けるので、これを微分すると\begin{eqnarray*}\frac{\partial B}{\partial x}&=&B(x,y)\left[\frac{\Gamma'(x)}{\Gamma(x)}-\frac{\Gamma'(x+y)}{\Gamma(x+y)}\right]\\&=&B(x,y)\left[\psi(x)-\psi(x+y)\right]\end{eqnarray*}ここで登場する $\psi(x)$ はガンマ関数の対数微分であり、ディガンマ関数といいます。
\begin{equation}\psi(x)=\frac{d}{dx}\log\Gamma(x)=\frac{\Gamma'(x)}{\Gamma(x)}\end{equation}
ディガンマ関数について詳しくは:
$x=y=1/2$ を代入すると\begin{eqnarray*}\frac{\partial B}{\partial x}\left(\frac{1}{2},\frac{1}{2}\right)&=&B\left(\frac{1}{2},\frac{1}{2}\right)\left[\psi\left(\frac{1}{2}\right)-\psi(1)\right]\\&=&\pi\left[\psi\left(\frac{1}{2}\right)-\psi(1)\right]\end{eqnarray*}
ディガンマ関数もまた特殊関数ですが、一部の値はよく知られており\begin{equation}\psi(1)=-\gamma\end{equation}\begin{equation}\psi\left(\frac{1}{2}\right)=-\gamma-2\log2\end{equation}$\gamma$ はオイラー・マスケローニ定数といいます。よって\begin{equation}\frac{\partial B}{\partial x}\left(\frac{1}{2},\frac{1}{2}\right)=-2\pi\log2\end{equation}式(1)より\begin{equation}\therefore\;I=-\frac{\pi}{2}\log2\end{equation}となって初等的に求めたやつと一致しました!
なお、この定数については:
ベータ関数の微分によって対数正弦積分が求まることが分かりました。微分を繰り返すことで $\log\sin$ の2乗、3乗・・・が出てきてより一般的な対数正弦積分を得ます。この方針で次回以降の記事で挑戦していこうと思います。
次回の記事:
※似たような応用をした記事:
激ムズのやつ
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