ガンマ関数の基礎シリーズ第6回です。前回はガンマ関数の微分について解説しました.
【γ5】ガンマの微分とディガンマ関数この記事でも見たように、ガンマ関数は微分を繰り返すと大変複雑なものになっていきます。その原因は1階微分が$$\G'(z)=\G(z)\psi(z)$$と積の形になっており、微分するたびに項が増えていくからです。
そこでガンマ関数そのものではなく、ガンマ関数の対数(ログガンマと呼ぶことにします)を繰り返し微分したものを考えます。これはすなわちディガンマ関数を繰り返し微分することです。
$\G(z+1)=z\G(z)$ の対数をとります。$$\log\G(z+1)=\log\G(z)+\log z$$これを微分します。$$\frac{\G'(z+1)}{\G(z+1)}=\frac{\G'(z)}{\G(z)}+\frac{1}{z}$$ここで次のようにディガンマ関数を定義します。
\begin{equation}\psi(z)\equiv\frac{\G'(z)}{\G(z)}\tag{1}\end{equation}
その定義からディガンマ関数は「ガンマ関数の対数微分」です.これを用いれば
\begin{equation}\psi(z+1)=\psi(z)+\frac{1}{z}\tag{2}\end{equation}
となります.$z$ が自然数 $n$ であれば
\begin{equation}\psi(n)=-\g+h_{n-1}\tag{3}\end{equation}
ここで $h_n$ は調和数であり$$h_n\equiv\sum_{k=1}^{n}\frac{1}{k}\;,\; h_0=1$$と定義されます。
またディガンマ関数 $\psi(z)$ は次のような級数表示をもちます。
\begin{equation}\psi(z)=-\g-\sum_{n=0}^\infty\left(\frac{1}{z+n}-\frac{1}{n+1}\right)\tag{4}\end{equation}
以上、過去記事の内容のうち、本記事の前提知識となるものをピックアップしました。
本記事では、下記の本を参考にしています。2021年8月現在、第30刷。かなりの廉価ながら特殊関数に関する公式が網羅されています。参照用にするもよし、公式の証明にトライするもよし。
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ログガンマ$$F(z)=\log\G(z)$$を繰り返し微分していきます。1階微分はディガンマの定義そのものです。$$F'(z)=\psi(z)$$すると $n$ 階微分は$$\frac{d^nF}{dz^n}=\psi^{(n-1)}(z)$$$\psi$ を「ディガンマ関数」、$\psi^{(1)}$ を「トリガンマ関数」、$\psi^{(2)}$ を「テトラガンマ関数」・・・と呼称しますが、$\psi^{(n)}$ をまとめて「ポリガンマ関数」といいます。
\begin{equation}\psi^{(n)}(z)=\frac{d^{n+1}}{dz^{n+1}}\log\G(z)\quad(n\in\ZZ^+)\tag{5}\end{equation}
さて(4)より$$\psi(z)=-\g-\sum_{m=0}^\infty\left(\frac{1}{z+m}-\frac{1}{m+1}\right)$$です。これを繰り返し微分すると\begin{eqnarray*}\psi^{(1)}(z)&=&\sum_{m=0}^\infty\frac{1}{(z+m)^2}\\\psi^{(2)}(z)&=&\sum_{m=0}^\infty\frac{-2}{(z+m)^3}\\\psi^{(3)}(z)&=&\sum_{m=0}^\infty\frac{6}{(z+m)^4}\\&\vdots&\\\psi^{(n-1)}(z)&=&(-1)^n(n-1)!\sum_{m=0}^\infty\frac{1}{(z+m)^n}\end{eqnarray*}
となりますので、ログガンマの $n$ 階微分は
\begin{equation}\begin{cases}\dfrac{d}{dz}\log\G(z)&=&-\g-\displaystyle\sum_{m=0}^\infty\left(\dfrac{1}{z+m}-\dfrac{1}{m+1}\right)\\\dfrac{d^{n}}{dz^{n}}\log\G(z)&=&(-1)^n(n-1)!\displaystyle\sum_{m=0}^\infty\dfrac{1}{(z+m)^n}\;(n\ge 2)\end{cases}\tag{6}\end{equation}
となります。ガンマ関数そのものの $n$ 階微分に比べて非常に平易に表現できました!
(6)に $z=1$ を代入します。$$\left.\frac{d}{dz}\log\G(z)\right|_{z=1}=-\g-\sum_{m=0}^\infty\left(\frac{1}{1+m}-\frac{1}{m+1}\right)=-\g$$$n\ge 2$ では$$\left.\frac{d^{n}}{dz^{n}}\log\G(z)\right|_{z=1}=(-1)^n(n-1)!\sum_{m=0}^\infty\frac{1}{(1+m)^n}$$$$\therefore\quad\left.\frac{d^{n}}{dz^{n}}\log\G(z)\right|_{z=1}=(-1)^n(n-1)!\zeta(n)$$よってログガンマを $z=1$ まわりにテイラー展開すると$$\log\G(z)=0-\g(z-1)+\sum_{n=2}^\infty\frac{(-1)^n(n-1)!}{n!}\zeta(n)(z-1)^n$$整理して
\begin{equation}\log\G(z)=-\g(z-1)+\sum_{n=2}^\infty\frac{(-1)^n}{n}\zeta(n)(z-1)^n\tag{7}\end{equation}
と級数表示できます。$z$ を $z+1$ とすれば
\begin{equation}\log\G(1+z)=-\g z+\sum_{n=2}^\infty\frac{(-1)^n}{n}\zeta(n)z^n\tag{8}\end{equation}
ただし $|z|<1$ です。
(8)を変形します。\begin{eqnarray*}\log\G(1+z)&=&-\g z+\sum_{n=2}^\infty\frac{(-1)^n}{n}\zeta(n)z^n\\&=&-\g z+\sum_{n=2}^\infty\frac{(-1)^n}{n}\left(\zeta(n)-1\right)z^n-\sum_{n=2}^\infty\frac{(-1)^{n-1}}{n}z^n\end{eqnarray*}ここで対数関数の級数展開$$\log (1+z)=z-\frac{z^2}{2}+\frac{z^3}{3}-\cdots$$を用いて\begin{eqnarray*}\log\G(1+z)&=&-\g z+\sum_{n=2}^\infty\frac{(-1)^n}{n}\left(\zeta(n)-1\right)z^n+z-\log(1+z)\end{eqnarray*}したがって新たに次の級数表示を得ます。
\begin{equation}\log\G(1+z)=-\log(1+z)+(1-\g)z+\sum_{n=2}^\infty\frac{(-1)^n}{n}\left(\zeta(n)-1\right)z^n\tag{9}\end{equation}
ガンマ関数に関する相反公式$$\G(z)\G(1-z)=\frac{\pi}{\sin\pi z}$$より\begin{eqnarray*}\log\G(1+z)+\log\G(1-z)&=&\log z\G(z)\G(1-z)\\&=&\log\frac{\pi z}{\sin\pi z}\end{eqnarray*}\begin{equation}\therefore\quad\log\G(1+z)+\log\G(1-z)=\log\frac{\pi z}{\sin\pi z}\tag{10}\end{equation}また(8)により\begin{eqnarray*}\log\G(1+z)-\log\G(1-z)&=&-\g z+\sum_{n=2}^\infty\frac{(-1)^n}{n}\zeta(n)z^n-\left(\g z+\sum_{n=2}^\infty\frac{1}{n}\zeta(n)z^n\right)\\&=&-2\g z-2\sum_{n=1}^\infty\frac{\zeta(2n+1)}{2n+1}z^{2n+1}\end{eqnarray*}(10)とこれを辺々足して2で割ると$$\log\G(1+z)=\frac{1}{2}\log\frac{\pi z}{\sin\pi z}-\g z-\sum_{n=1}^\infty\frac{\zeta(2n+1)}{2n+1}z^{2n+1}$$$\G(1+z)=z\G(z)$ なので次の級数表示を得ます。
\begin{equation}\log\G(z)=\frac{1}{2}\log\frac{\pi}{z\sin\pi z}-\g z-\sum_{n=1}^\infty\frac{\zeta(2n+1)}{2n+1}z^{2n+1}\tag{11}\end{equation}
(9)より\begin{eqnarray*}\log\G(1+z)-\log\G(1-z)&=&-\log(1+z)+(1-\g)z+\sum_{n=2}^\infty\frac{(-1)^n}{n}\left(\zeta(n)-1\right)z^n\\&&\; -\left(-\log(1-z)-(1-\g)z+\sum_{n=2}^\infty\frac{1}{n}\left(\zeta(n)-1\right)z^n\right)\\&=&-\log\frac{1+z}{1-z}+2(1-\g)z-2\sum_{n=1}^\infty\frac{\zeta(2n+1)-1}{2n+1}z^{2n+1}\end{eqnarray*}(10)とこれを辺々足して2で割ると$$\log\G(1+z)=\frac{1}{2}\log\frac{\pi z}{\sin\pi z}-\frac{1}{2}\log\frac{1+z}{1-z}+(1-\g)z-\sum_{n=1}^\infty\frac{\zeta(2n+1)-1}{2n+1}z^{2n+1}$$$\G(1+z)=z\G(z)$ なので次の級数表示を得ます。
\begin{equation}\log\G(z)=\frac{1}{2}\log\left(\frac{\pi}{z\sin\pi z}\frac{1-z}{1+z}\right)+(1-\g)z-\sum_{n=1}^\infty\frac{\zeta(2n+1)-1}{2n+1}z^{2n+1}\tag{12}\end{equation}
$$\sum_{n=1}^\infty \zeta(2n)z^{2n}=\frac{1}{2}(1-\pi z\cot\pi z)$$を示せ。
解答はココ。
$$\sum_{n=1}^\infty \frac{\zeta(2n)}{n}z^{2n}=\ln\frac{\pi z}{\sin\pi z}$$を示せ。
解答はココ。
$$\sum_{n=1}^\infty \frac{\zeta(4n)}{n}z^{4n}=\ln\frac{\pi^2 z^2}{\sin\pi z\sinh\pi z}$$を示せ。
解答はココ。
今回はログガンマを高階微分することからはじめ、それを用いてテイラー展開しました。ログガンマは微分していくとポリガンマ関数となるのでした。またログガンマの級数表示にはさまざまなパターンがあることも分かりました。
今回導いた表式も含め、「ガンマ関数の基礎」シリーズで現れる式の多くは、先ほど紹介した『岩波数学公式III』で結果のみ掲載されています。これを導出してやろうと最近は頑張っています。
次回:
【γ7】Γ(1/3),Γ(1/4),Γ(1/6)の値Please support me!
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