「ゼータ関数の基礎」シリーズ第6回です。前回はゼータ関数の特殊値は関数等式について解説しました:
読まなくても本記事は理解できます。
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エルミートの公式
0<a≤1 とする。あらゆる s∈C に対しζ(s,a)=12as+a1−ss−1+2∫∞0sin(sarctanya)(a2+y2)s2(e2πy−1)dyこれを「エルミートの公式」という。
これとビネの第2公式を比較することによりlims→1(ζ(s,a)−1s−1)=−ψ(a)ただし ψ(a) はディガンマ(digamma)関数。
またエルミートの公式によりフルヴィッツゼータ関数の微分係数が求まる。dζ(s,a)ds|s=0=logΓ(a)−12log2π
公式の導出について調べるとビネの第2公式から出発するものが出てきますが、ここではWhittaker-Watsonのテキストに習ってアベル・プラナ(Abel-Plana)の和公式からスタートします。どっちみちビネの第2公式も使いますので本質は同じなのかもしれません。
古いですが有名な書物で、どんどん改訂版が出ています。前半は解析学一般、後半は特殊関数という内容で、網羅的に勉強できます。演習問題に解答がないのが昔ながらのものって感じ。2022/11/6現在、最新版は5th Editionで私も所有していますが、廉価な3rdとかでも十分かと。

A Course of Modern Analysis: fifth Edition

A Course of Modern Analysis: Third Edition
予備知識:Abel-Planaの和公式
n∑k=mf(k)=f(m)+f(n)2+∫nmf(z)dz+i∫∞0f(m+iy)−f(m−iy)−f(n+iy)+f(n−iy)e2πy−1dy
これをある関数に適用するところからスタートします。おさえておきましょう。
過去に「ビネの第2公式」を証明するときに、補題としてこれを導出しました:
複素数 s=σ+it とし σ>1 とします。定数を 0<a≤1 とし、次の複素関数 f(z) を定義します。f(z)≡1(z+a)sこの f(z) はAbel-Planaに適用するための条件limy→∞f(x±iy)e2πy=0を明らかに満たしています。
和公式で m=0 , n=N とします。ここで N は大きな自然数です。N∑k=01(k+a)s=f(0)+f(N)2+∫N0dz(z+a)s+i∫∞0(a+iy)−s−(a−iy)−se2πy−1dy−i∫∞0(a+N+iy)−s−(a+N−iy)−se2πy−1dy=12as+12(a+N)s+∫N0dz(z+a)s+i∫∞0(a+iy)−s−(a−iy)−se2πy−1dy−i∫∞0(a+N+iy)−s−(a+N−iy)−se2πy−1dy
N→∞ の極限をとりましょう。左辺はゼータ関数になります。ζ(s,a)=12as+∫∞0dz(z+a)s+i∫∞0(a+iy)−s−(a−iy)−se2πy−1dy−ilimN→∞∫∞0(a+N+iy)−s−(a+N−iy)−se2πy−1dy右辺第2項は σ>1 に注意して∫∞0dz(z+a)s=−[(z+a)1−ss−1]∞0=a1−ss−1第3項は分子の2項を極形式にします。(a+iy)−s−(a−iy)−s=−(a2+y2)−s2(eiϕs−e−iϕs)(tanϕ=ya)=−2isin(sarctanya)(a2+y2)s2第4項の分子に関しても同様に(a+N+iy)−s−(a+N−iy)−s=−2isin(sarctanya+N)[(a+N)2+y2]s2これらを(2)に用いると
ζ(s,a)=12as+a1−ss−1+2∫∞0sin(sarctanya)(a2+y2)s2(e2πy−1)dy−2limN→∞∫∞0sin(sarctanya+N)[(a+N)2+y2]s2(e2πy−1)dy
右辺の最後の項に残った積分は N→∞ の極限で 0 となります。それを示しましょう。
では∫∞0sin(sarctanya+N)[(a+N)2+y2]s2(e2πy−1)dyを評価します。分子が厄介です。
分子の評価
s=σ+it , σ>1 に対し|sin(sarctanya+N)|2=sinh2(|t|arctanya+N)+sin2(σarctanya+N)
|sin(a+ib)|2=sin2a+sinh2b を用いました。導出は以下です。|sin(a+ib)|2=|sinacosib+cosasinib|2=|sinacoshb+icosasinhb|2=sin2acosh2b+cos2asinh2b=sin2a(1+sinh2b)+cos2asinh2b=sin2a+sinh2b
不等式その1
y0=(a+N)tanπ2σ とします。するとσarctany0a+N=π2が成立します。
0≤y≤y0 ならば 0≤σarctanya+N≤π2 です。また N を大きくとれば ya+N≤π2 とできます。arctanX≤X も合わせれば0≤σarctanya+N≤σya+N≤π2[0,π2] での sinx の単調増加性からsin2(σarctanya+N)≤sin2σya+Nsin2X≤sinX≤X ですので結局次のようになります。sin2(σarctanya+N)≤σya+N
なお y0 はその定義より N の1次式となっています。
不等式その2
t=0 のときはこの節は無視します。t≠0 として考えましょう。arctanX≤X の関係および sinhx の単調増加性からsinh2(|t|arctanya+N)≤sinh2|t|ya+Nここで次のような y1≠0 をとります。sinh2|t|y1a+N=|t|y1a+N数値としては |t|y1a+N≈0.81 です。

すると 0≤y≤y1 なる y についてsinh2|t|ya+N≤|t|ya+N∴sinh2(|t|arctanya+N)≤|t|ya+Nなお y1 はその定義より N の1次式となっています。
0へ収束
N に依存しない定数 K をK=min[tanπ2σ,1|t|]とします。ただし t=0 のときは後者を無視します。すると 0≤K≤y0 かつ K≤y1 です。よって 0≤y≤K に対して(5)(6)を(4)に同時に適用できます。|sin(sarctanya+N)|2≤(σ+|t|)ya+N∴|sin(sarctanya+N)|≤√σ+|t|a+Ny
いよいよ積分がゼロとなることを示します。|∫∞0sin(sarctanya+N)[(a+N)2+y2]s2(e2πy−1)dy|≤∫∞0|sin(sarctanya+N)|[(a+N)2+y2]σ2(e2πy−1)dy≤∫K0√σ+|t|a+Ny[(a+N)2+y2]σ2(e2πy−1)dy+∫∞K|sin(sarctanya+N)|[(a+N)2+y2]σ2(e2πy−1)dy≤√σ+|t|a+N1(a+N)σ∫K0√ydye2πy−1+1(a+N)σ∫∞K|sin(sarctanya+N)|e2πy−1dy
ここで|sin(a+bi)|=√sin2a+sinh2b≤√1+sinh2b=|coshb|および arctanX≤π2 を用いて|∫∞0sin(sarctanya+N)[(a+N)2+y2]s2(e2πy−1)dy|≤√σ+|t|a+N1(a+N)σ∫∞0√ydye2πy−1+1(a+N)σ∫∞K|coshπt2|e2πy−1dy=√σ+|t|a+N1(a+N)σ∫∞0√ydye2πy−1+coshπt2(a+N)σ∫∞Kdye2πy−1
第1項は∫∞0√ydye2πy−1=√π2(2π)32ζ(32)≡M1なので N に関係なく有界です。
この計算については:
第2項は∫∞Kdye2πy−1=∫∞K(e2πye2πy−1−1)dy=[12πloge2πy−1e2πy]∞K=12πlog11−e−2πK≡M2なので N に関係なく有界です。
以上より|∫∞0sin(sarctanya+N)[(a+N)2+y2]s2(e2πy−1)dy|≤M1√σ+|t|a+N1(a+N)σ+M2coshπt2(a+N)σN→∞→0
長くなりましたが(3)および先ほどの結果から
ζ(s,a)=12as+a1−ss−1+2∫∞0sin(sarctanya)(a2+y2)s2(e2πy−1)dy
なお右辺の積分の収束性については先の積分評価と同様にやると示すことができます。y0=atanπ2σ として・・・のように。
この公式で s=0 としてみましょう。すると ζ(0,a)=12−a となります。さらに a=1 はリーマンのゼータ関数に一致しますから ζ(0)=−12 です。過去記事の既習事項と一致します。
Binetの第2公式を応用する
(7)の積分はあらゆる s で値をとりますから、ζ(s,a) は s=1 に1位の極をもつと分かります。そこで極の原因となる 1s−1 を左辺に追いやって極限をとってみます。lims→1(ζ(s,a)−1s−1)=12a+lims→1a1−s−1s−1+2∫∞0sin(arctanya)√a2+y2(e2πy−1)dy=12a−loga+2∫∞0y(a2+y2)(e2πy−1)dy
ここで次の関係式を用いました。sin(arctanya)=y√a2+y2
Binetの第2公式に関連する等式(※)ddzlogΓ(z)=−12z+logz−2∫∞0tdt(z2+y2)(e2πy−1)と比較すると
lims→1(ζ(s,a)−1s−1)=−ddalogΓ(a)=−ψ(a)
を得ます。
※ Binetの第2公式を導出する最中に現れた等式です。過去記事参照:
a=1 とするとリーマンゼータ関数になりますので
lims→1(ζ(s)−1s−1)=−ψ(1)=γ
エルミートの公式(7)を s で微分します。dζ(s,a)ds=−loga2as−a1−slogas−1−a1−s(s−1)2+2∫∞0[arctanyacos(sarctanya)(a2+y2)s2(e2πy−1)−12log(a2+y2)sin(sarctanya)(a2+y2)s2(e2πy−1)]dys→0 とするとdζ(s,a)ds|s=0=−loga2+aloga−a+2∫∞0arctanyae2πy−1dy=(a−12)loga−a+2∫∞0arctanyae2πy−1dy
Binetの第2公式(前述の記事参照)logΓ(z)=(z−12)logz−z+12log2π+2∫∞0arctantze2πt−1dtを用いれば次の結論を得ます。
dζ(s,a)ds|s=0=logΓ(a)−12log2π
a=1 とするとリーマンゼータ関数となります。
ζ′(0)=−12log2π
私としてはなかなか計算がヘビーでした。
次はシンプルなお話:
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