logを含む難しい積分15

前回は:

logを含む難しい積分14(調和数・重積分の応用)

今回から、何回かに分けて、互いにつながりのあるいくつかの積分を計算していきます。過去記事とダブるものがあるかもしれませんが、掘り起こすのも面倒なので、一からやっていきます。

もとはといえば\begin{equation}\int_0^\frac{1}{2}\frac{\Li_2(x)^2}{x}dx\tag{0}\end{equation}を計算したかったのです。ただ(0)を求めるにはかなり多くの補題(積分)が必要で、とても1つの記事には書ききれなかったのです。(0)を求める過程でいろんな積分や級数といった副産物を得ましたので、だらだらと紹介していきます。

何をやっているか分からない場合は、ゼータ関数や多重対数関数、Euler-sumの記事がたくさんあるので先に見ていただければと思います。

ゼータ関数の登場

まず簡単なやつを。級数展開を用います。部分積分(IBP)を繰り返します。\begin{align*}\int_0^1\frac{\ln^kx}{1-x}dx &=\int_0^1\sum_{n=0}^\infty x^n\ln^kxdx\\&=\sum_{n=0}^\infty\int_0^1 x^n\ln^kxdx\\&=-\sum_{n=0}^\infty\frac{k}{n+1}\int_0^1 x^n\ln^{k-1}xdx\\&\vdots\\&=(-1)^kk!\zeta(k+1)\end{align*}最左辺を $x\to 1-x$ と置換することで$$\int_0^1\frac{\ln^k(1-x)}{x}dx=(-1)^kk!\zeta(k+1)$$という表記にもできます。ここで $x=y^2$ なる置換により$$\int_0^1\frac{\ln^k(1-y^2)}{y}dy=\frac{1}{2}(-1)^kk!\zeta(k+1)$$も得ます。

次に、似ているものとして\begin{align*}\int_0^1\frac{\ln^kx}{1-x^2}dx &=\int_0^1\sum_{n=0}^\infty x^{2n}\ln^kxdx\\&=\sum_{n=0}^\infty\int_0^1 x^{2n}\ln^kxdx\\&=(-1)^kk!\sum_{n=0}^\infty\frac{1}{(2n+1)^{k+1}}\\&=(-1)^kk!\left(1-\frac{1}{2^{k+1}}\right)\zeta(k+1)\end{align*}これについては、$x\to \frac{1-x}{1+x}$ の置換により$$\int_0^1\frac{\ln^k(\frac{1-x}{1+x})}{x}dx=2\cdot(-1)^kk!\left(1-\frac{1}{2^{k+1}}\right)\zeta(k+1)$$以上をまとめると

定理1

\begin{align}\int_0^1\frac{\ln^kx}{1-x}dx&=(-1)^kk!\zeta(k+1)\tag{1}\\\int_0^1\frac{\ln^k(1-x)}{x}dx&=(-1)^kk!\zeta(k+1)\tag{2}\\\int_0^1\frac{\ln^k(1-x^2)}{x}dx&=\frac{1}{2}(-1)^kk!\zeta(k+1)\tag{3}\\\int_0^1\frac{\ln^kx}{1-x^2}dx&=(-1)^kk!\left(1-\frac{1}{2^{k+1}}\right)\zeta(k+1)\tag{4}\\\int_0^1\frac{\ln^k(\frac{1-x}{1+x})}{x}dx&=2\cdot(-1)^kk!\left(1-\frac{1}{2^{k+1}}\right)\zeta(k+1)\tag{5}\\\int_0^1\frac{\ln^kx}{1+x}dx&=(-1)^kk!\left(1-\frac{1}{2^k}\right)\zeta(k+1)\tag{6}\end{align}

ここで(6)は、(4)の左辺を部分分数分解して(1)と合わせることですぐに導けます。また\begin{equation}\eta(s):=\left(1-\frac{1}{2^{s-1}}\right)\zeta(s)=\sum_{n=0}^\infty\frac{(-1)^{n-1}}{n^s}\tag{7}\end{equation}を使えば$$\int_0^1\frac{\ln^kx}{1+x}dx=(-1)^kk!\eta(k+1)$$とも書けます。

対数を含む積分にはゼータ関数が密接にかかわっていることが分かります。

多重対数関数の登場

(1)の積分区間が異なる場合を見てみましょう。同じように級数にして部分積分を繰り返します。$0<a\le 1$ で\begin{align}\int_0^a\frac{\ln^kx}{1-x}dx &=\sum_{n=0}^\infty\int_0^ax^n\ln^kxdx\\&=\sum_{n=0}^\infty\sum_{r=0}^k(-1)^r\binom{k}{r}r!\ln^{k-r}a\frac{a^{n+1}}{(n+1)^{r+1}}\\&=\sum_{r=0}^k(-1)^r\binom{k}{r}r!\ln^{k-r}a\sum_{n=0}^\infty\frac{a^{n+1}}{(n+1)^{r+1}}\\&=\sum_{r=0}^k(-1)^r\binom{k}{r}r!\:\Li_{r+1}(a)\ln^{k-r}a\end{align}最後は多重対数関数の級数による定義式を用いました。ただし $\Li_1(a)=-\ln(1-a)$ としています。特に $a=1$ では $r=k$ の項のみ残って(1)を得ます。また $a=1/2$ では\begin{equation}\int_0^{1/2}\frac{\ln^kx}{1-x}dx=(-1)^k\sum_{r=0}^k\binom{k}{r}r!\:\Li_{r+1}\left(\frac{1}{2}\right)\ln^{k-r}2\tag{8}\end{equation}

これを応用した積分を紹介します。\begin{align}\int_0^1\frac{\ln^k(1+x)}{x}dx &= (-1)^k\int_\frac{1}{2}^1\frac{\ln^ky}{y(1-y)}dy\quad(y=\frac{1}{1+x})\\&=(-1)^k\left\{\int_\frac{1}{2}^1\frac{\ln^ky}{y}dy+\int_\frac{1}{2}^1\frac{\ln^ky}{1-y}dy\right\}\\&=(-1)^k\left\{\left[\frac{\ln^{k+1}y}{k+1}\right]_{1/2}^1+\int_\frac{1}{2}^1\frac{\ln^ky}{1-y}dy\right\}\\&=\frac{\ln^{k+1}2}{k+1}+(-1)^k\left\{\int_0^1\frac{\ln^ky}{1-y}dy-\int_0^\frac{1}{2}\frac{\ln^ky}{1-y}dy\right\}\end{align}あとは(1)(8)を用いれば$$=\frac{\ln^{k+1}2}{k+1}+k!\zeta(k+1)-\sum_{r=0}^k\binom{k}{r}r!\Li_{r+1}\left(\frac{1}{2}\right)\ln^{k-r}2$$総和の部分では、$r=0$ だけ別で取り出してもいいと思います。すると

定理2

\begin{equation}\int_0^1\frac{\ln^k(1+x)}{x}dx=-\frac{k\ln^{k+1}2}{k+1}+k!\zeta(k+1)-\sum_{r=1}^k\binom{k}{r}r!\Li_{r+1}\left(\frac{1}{2}\right)\ln^{k-r}2\tag{9}\end{equation}

前節より一般化した内容であるため、ゼータ関数に代わって、その一般化である多重対数関数が現れていることが分かります。

ちょっとした応用

部分積分により$$\int_0^1\frac{\ln^{k-1}x\ln(1\pm x)}{x}dx=\mp\frac{1}{k}\int_0^1\frac{\ln^kx}{1\pm x}dx$$(1)(6)を使えば計算できます。

定理3

\begin{align}\int_0^1\frac{\ln^{k-1}x\ln(1-x)}{x}dx &=(-1)^k(k-1)!\zeta(k+1)\tag{10}\\\int_0^1\frac{\ln^{k-1}x\ln(1+x)}{x}dx&=(-1)^{k-1}(k-1)!\left(1-\frac{1}{2^k}\right)\zeta(k+1)\tag{11}\\&=(-1)^{k-1}(k-1)!\eta(k+1)\tag{11'}\end{align}

級数やベータ関数の微分を活用する

指数関数の微分を考えると$$\int_0^\infty\frac{\ln^{2k-1}x\ln(1+x)}{x(1+x)}dx=\lim_{s\to0}\lim_{t\to1}\frac{\partial^{2k-1}}{\partial s^{2k-1}}\frac{\partial}{\partial t}\int_0^\infty\frac{x^{s-1}}{(1+x)^t}dx$$ここの例題8にならって $y=\frac{x}{1+x}$ と置換すると$$=-\lim_{s\to0}\lim_{t\to1}\frac{\partial^{2k-1}}{\partial s^{2k-1}}\frac{\partial}{\partial t}\int_0^1y^{s-1}(1-y)^{t-s-1}dy$$この積分はベータ関数の積分表示そのものですので$$=-\lim_{s\to0}\lim_{t\to1}\frac{\partial^{2k-1}}{\partial s^{2k-1}}\frac{\partial}{\partial t}\frac{\G(s)\G(t-s)}{\G(t)}$$$t$ の微分を実行すると$$=\lim_{s\to0}\lim_{t\to1}\frac{\partial^{2k-1}}{\partial s^{2k-1}}\frac{\G(s)\G(t-s)}{\G(t)}\left(\psi(t)-\psi(t-s)\right)$$なおガンマ関数の微分についてはこちらを参照。したがって $t\to1$ により$$=\lim_{s\to0}\frac{\partial^{2k-1}}{\partial s^{2k-1}}\G(s)\G(1-s)\left(\psi(1)-\psi(1-s)\right)$$相反公式より$$=\lim_{s\to0}\frac{\partial^{2k-1}}{\partial s^{2k-1}}\frac{\pi s}{\sin\pi s}\frac{\psi(1)-\psi(1-s)}{s}$$ここで\begin{equation}\frac{1}{2}\frac{\pi a}{\sin\pi a}=\sum_{n=0}^\infty\eta(2n)a^{2n}\tag{12}\end{equation}\begin{equation}\psi(1)-\psi(1-z)=\sum_{n=2}^\infty\zeta(n)z^{n-1}\tag{13}\end{equation}を用いると\begin{equation}\int_0^\infty\frac{\ln^{2k-1}x\ln(1+x)}{x(1+x)}dx=2\lim_{s\to0}\frac{d^{2k-1}}{ds^{2k-1}}\left(\sum_{n=0}^\infty\eta(2n)s^{2n}\right)\left(\sum_{n=0}^\infty\zeta(n+2)s^n\right)\tag{14}\end{equation}ただし(7)から分かるように $\eta(0)=1/2$ であることに注意。

こちらの記事を参考にして(12)を導出できます。あるいはその記事の(4)の結果で $a\to ia$ と置くと$$\sum_{n=1}^\infty\frac{(-1)^n}{n^2-a^2}=\frac{1}{2a^2}-\frac{\pi}{2a\sin\pi a}$$一方\begin{align}\sum_{n=1}^\infty\frac{(-1)^n}{n^2-a^2}&=\sum_{n=1}^\infty\frac{(-1)^n}{n^2}\frac{1}{1-\frac{a^2}{n^2}}\\&=\sum_{n=1}^\infty\frac{(-1)^n}{n^2}\sum_{m=0}^\infty\left(\frac{a^2}{n^2}\right)^m\\&=\sum_{m=0}^\infty\left(\sum_{n=1}^\infty\frac{(-1)^n}{n^{2m+2}}\right)a^{2m}\\&=-\sum_{m=1}^\infty\eta(2m)a^{2m-2}\end{align}$\eta(0)=1/2$ に注意しつつ上と合わせて(12)を得ます。

またこちらの記事の(8)から$$\ln\G(1-z)=\g z+\sum_{n=2}^\infty\frac{\zeta(n)}{n}z^n$$なのでこれを微分して(13)を得ます。なお $\psi(1)=-\g$ です。

さて(14)のコーシー積をとると$$\int_0^\infty\frac{\ln^{2k-1}x\ln(1+x)}{x(1+x)}dx=2\lim_{s\to0}\frac{d^{2k-1}}{ds^{2k-1}}\sum_{n=0}^\infty\left(\sum_{l=0}^n\hat{\eta}(l)\zeta(n-l+2)\right)s^{n}$$ここで$$\hat{\eta}(k):=\begin{cases}&0\quad(k:\mathrm{odd})\\&\eta(k)\quad(k:\mathrm{even})\end{cases}$$です。したがって$$\int_0^\infty\frac{\ln^{2k-1}x\ln(1+x)}{x(1+x)}dx=2\lim_{s\to0}\frac{d^{2k-1}}{ds^{2k-1}}\sum_{n=0}^\infty\left(\sum_{l=0}^{\lfloor\frac{n}{2}\rfloor}\eta(2l)\zeta(n-2l+2)\right)s^{n}$$これで微分の中身を1つのべき級数にできました。あとは微分を実行します。1回微分するごとに項は1つずつ消えていきます。つまりはじめの $2k-1$ 項はなくなるので $n$ は $2k-1$ からスタートすることになります。$$=2\lim_{s\to0}\sum_{n=2k-1}^\infty\sum_{l=0}^{\lfloor\frac{n}{2}\rfloor}\eta(2l)\zeta(n-2l+2)\frac{n!}{(n-2k+1)!}s^{n-2k+1}$$$s\to0$ により $n=2k-1$ の項以外は消えます。よって$$=2\cdot(2k-1)!\sum_{l=0}^{k-1}\eta(2l)\zeta(2k-2l+1)$$

定理4

\begin{equation}\int_0^\infty\frac{\ln^{2k-1}x\ln(1+x)}{x(1+x)}dx=2\cdot(2k-1)!\sum_{l=0}^{k-1}\eta(2l)\zeta(2k-2l+1)\tag{15}\end{equation}

ここではベータ関数を何度も微分することを考えました。ベータ関数の微分はこちらに4階まで掲載していますが、このようにまともにやると複雑すぎて厳しい。今回は $t$ については1階導関数であったので、うまく級数をつくることができました。この手法は以降も使っていきます。

今日はここまで。次回はこちら:

logを含む難しい積分16

参考文献

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