マンガン系の鉱物

ピンクのきらきらしたものから真っ黒い地味なものまであるマンガン鉱物ですが、そこらへんの川原とかで採れるものではないらしい。ネットでいろいろ調べてみたら、標本にはたいてい「〇〇鉱山産」と書かれています。鉱山ってどこにあるのか知りたいわけですが、乱獲を避けるためか、不特定多数が閲覧できるネットなどでピンポイントで場所を示すことは通常ないと思います。手っ取り早いのは鉱物仲間に教えてもらうしかないかな。さもなくば、大雑把な場所は調べれば分かるので、そのあたりを自らの足で探しまくるということになるでしょう。

過去に採ったマンガンの石ころ

私は当時そこまでやれる自信がなかったことと、珍しい鉱物が見られなくとも造岩鉱物や一般的な変成鉱物があれば割と満足していたタチなので、鉱山の経験はありませんでした。ただ、数年前にハイキングの途中の小川でたまたまマンガン鉱を見つけて拾ったことがあります。鉱山の近くだったのだろうか?川原に重くて黒い石がありました。黒いというだけなら泥岩とか玄武岩と思ってしまうのですが、その重さに違和感があったのです。

家に帰ってから割ることにしました。とても固いのでチャートのようにも感じましたが、はかった比重は軽いものでも3.2あり、重いもので4.0ほどであり、石英よりはるかに大きいのでそれはない。さて、何とか割ってみると外側は真っ黒なのに、中身は桃色にはじまる層状のものでした。外側が黒いのは酸化しきった成れの果てである二酸化マンガン鉱です。触ると黒い汚れが指について不快。マンガン鉱石というものはこのように二酸化マンガンの皮膜におおわれているようです。桃色のところはパイロクスマンガン石バラ輝石なのですが、両者の区別は難しい。ネットの標本のような結晶が見えるわけではありませんでした。また淡褐色の汚らしい層(?)の部分があり、菱マンガン鉱のようです。これもネットで見た綺麗なのと違う!ただ、より確かに判断するために熱希塩酸などをかけて調べてみたい。菱マンガン鉱なら反応するはずですから。またこの母岩の一部分では磁石にくっつきます。ヤコブス鉱(黒い筋の層)があるためです。褐色半透明で、反射して光っているのはカリオピライト。一見ただの灰色にくすんだ石英だが微妙に緑だか青味がかっているのはテフロ石。チョコレートのようにべちゃっとついた褐色の鉱物はハウスマン鉱

なお外側の皮膜をなす二酸化マンガンは真っ黒ですが、ものによっては割った中身もまた二酸化マンガンなこともあります。その様子は外側と少し異なって、鋼灰のような色に輝いています。非常に微小な二酸化マンガン鉱の粘土だと思われます。「二酸化マンガン鉱」というのは総称で、実際にはパイロリュース鉱・轟石・横須賀石・クリプトメレーンなどの鉱物種があります。肉眼で鑑定するのは困難ですが、成分分析をすると分かるのでしょう。

マンガン鉱石は初級レベルでも実際に勉強してみると結構おもしろいのですが、地味というか見た目が汚いというか、すぐ劣化するというか、人気がありません。

写真館

採ったものたち。写真を見ましょう。

写真1 いろいろなマンガン鉱物がまじる

上から、ピンク色Pxmがパイロクスマンガン石です。ちょっと橙味がかかっているようですが、何か分かりません。Chはチャートで、黒い斑点は放散虫だと思います。淡褐色Rdsは菱マンガン鉱で、記した以外にもあちこちあります。とてもとても細い、水平に伸びる黒線Jcbはヤコブス鉱。暗褐色Hsmはハウスマン鉱です。
※追記:ハウスマン鉱でなく菱マンガン鉱かもしれません。あるいは菱マンガン鉱をメインにハウスマン鉱がちょっとあるかもしれません。

写真2 写真1の右側側面

写真2は写真1と同じ岩石の別の面を撮影したものです。基本的にみられる鉱物は写真1と同じです。灰色のTepはテフロ石、暗褐色で少し光沢のあるCplをカリオピライトといいます。
※追記:テフロ石でなく菱マンガン鉱かもしれません。あるいは菱マンガン鉱をメインにテフロ石がちょっとあるかもしれません。

なお周囲の真っ黒い皮膜は二酸化マンガン鉱です。ドラッグストアに売ってある3%程度のオキシドールが激しく発泡します。二酸化マンガンの皮膜に長波紫外線を当てたら赤くなりました。内側にある菱マンガン鉱~マンガン方解石の蛍光でしょうか。

写真3

写真3は別の岩石です。結構重い。真っ黒な二酸化マンガンの皮膜の中には、大部分が灰色のテフロ石で高品位マンガン鉱石であることが分かります。テフロについて調べると、割と緑がかった写真が見受けられますが、本サンプルはかなり純粋に近い灰色だと思います。さて右下に見える緑っぽいのは重晶石かもしれませんが、細粒すぎて難しい。緑マンガン鉱があるかもしれないという予感もしましたが、黒変しないので違う。その周囲にある暗褐色はカリオピライト。それより右、つまり写真の一番右側の淡褐色は菱マンガン鉱です。テフロにもすこし桃色がかったところがあるので、菱マンガン鉱が混ざっています。

写真4 撮るのがへたくそ

写真4の石は重いです。持った瞬間のワクワク!!割った中身もまた二酸化マンガンですが、外側と違って鋼色に光っています。茶色いところはハウスマン鉱です。

写真5 閃マンガン鉱とバラ輝石

写真5は拳くらいのサイズの岩石です。ピンク色はバラ輝石(あるいはパイロクスマンガン石)です。緑色っぽいところ、灰色のところはよく分かりませんが、テフロ石とか菱マンガン鉱が散在しているのでしょうか。黒い部分は閃マンガン鉱です(違うかも、追記参照)。まだそれなりにきらきらしています。というのも、もともと灰色で金属に近い光沢をもっていますが、失われつつあり黒色化していっているのです。この劣化を食い止める方法はあるのでしょうか・・・。密封して保管するといっても、あまり厳重だと今後取り出して見る気が起きないし本末転倒です。どうしましょう。

条痕色が緑らしいので、試してみたい。塩酸で硫化水素が発生するので、試してみたい。割ると火薬臭がするらしいので、試してみたい。

追記:このしばらくあとで実験しました。閃マンガン鉱のところに希塩酸で発泡なし、条痕は黒~黒褐色でした。割っても無臭。もう二酸化マンガンになってしまったと思われます。それか、そもそも閃マンガン鉱ではなかった!?

写真6 写真5の拡大。黒い閃マンガン鉱と桃色のバラ輝石

顕微鏡にスマホ近づけて撮っただけなのでなんか汚い・・・。実際はもっと素敵なのですが。このサンプルは閃マンガン鉱が入っているだけでなく、バラ輝石の結晶が見えるのが良いのです。劈開も見えて柱状になってて。

写真7 バスタム石を含む岩石

珪灰石グループに属するマンガン鉱物にバスタム石というのがあります。写真7の端っこに見える桃色部はバラ輝石もしくはパイロクスマンガン石です。この岩石においても、多分いろんな鉱物が混じっており、バスタム石を明確に視認するにはルーペが必要です。なのでどの部分がそうなのかというのを写真内で指し示すのは難しい。下に拡大写真を載せます。

写真8 写真7の拡大。淡褐色繊維状の放射状集合体

バスタム石は珪灰石グループなので、珪灰石のように、繊維状のものが放射状に集まっていれば分かりやすいです。本サンプルでも複数箇所にそれが見られます。ほかのところにもあるのかもしれませんが、分かりにくいし自信がありません。

ほかにもブラウン鉱を所有していますが、真っ黒なだけで写真をアップするほどではない。見た目だけなら二酸化マンガンの皮膜と大差がないような気がするけれども、わずかに褐味があります。過酸化水素水を使うと区別できるのかな?あと、赤鉄鉱である可能性を排除するために条痕色は確認しておきたいです。

アレガニー石も所有していますが、撮っても何やらよく分からないので写真はナシにしました。条痕色はとても薄い桃色とのことなので、確認したいですが、他の鉱物と入り混じっているのではっきりしないかも。なお、ヤコブス鉱を多く伴っている場合(磁石によくつく)、アレガニー石でなく、類似した鉱物である園石の可能性が高いと聞いたことがあります。

ガノフィル石はチャートを母岩としたものを所有しています。マニアックなためか、この鉱物については調べてもよく分からない。

追記:園石・ガラクス石・ネオトス石・閃マンガン鉱を採集できました。閃マンガン鉱は塩酸で悪臭を発したので今度こそ間違いありません。硫化水素の強烈なにおいで、ちょっとクラクラしました(危ないのでは・・・?)。後日、アップするかも。

勉強メモとか

バラ輝石(Rhodonite, (Mn,Ca)5Si5O15)とパイロクスマンガン石(Pyroxmangite, (Mn,Fe)7Si7O21)は珪酸マンガン塩で、肉眼では区別できない。ともに層状マンガン鉱床からよくあらわれる。イネス石も似ているが、イネス石は針状で層状マンガン鉱床からはほぼ出ない。またバラ輝石は2019年に3つの種に分割されている。産地によってバラ輝石しか出ないところとパイロクスマンガン石しか出ないところ、あるいは両方出るところがある。片方しかでない産地ならば、いずれかを特定できる。

ヤコブス鉱(Jacobsite, MnFe2O4)は強磁性をもつため、かつては磁マンガン鉱ともよばれた。菱マンガン鉱・ハウスマン鉱・テフロなどともに層状マンガン鉱内に薄い黒い層として現れる。スピネル族の一種であり、磁鉄鉱などと固溶体をなす。

カリオピライト(Caryopilite, Mn6Si4O10(OH)8)は褐色・ガラス光沢・半透明だが条痕は白。今回のように層状マンガン鉱床で現れる。アレガニー石より色が暗い。ネオトス石と違って劈開がある。

テフロ石(Tephroite, Mn2SiO4)は灰、褐灰、帯青灰、灰緑で半透明だが、見た目の特徴がない。持ってみると重いので気づく。層状マンガン鉱床で現れる。苦土橄欖石のマグネシウムがマンガンに置き換わったもので、鉄橄欖石も交えて固溶体をなす。「テフロ」は古代ギリシャ語で灰色の意。

ハウスマン鉱(Hausmannite, MnMn2O4)はマンガン原子の個数が多いため、高品位マンガン鉱の主成分とされる。条痕は暗赤褐色で、今回のものが暗赤褐色塊状であるのは微細な結晶の集合体であるため(チョコレート鉱とよばれる)。一方、北海道などでとれる大きい結晶のものは黒くてきらきらしている。スピネルの一種。

緑マンガン鉱(Manganosite, MnO)は層状マンガン鉱床に産し、通常は粒状・塊状。鮮緑色だが空気中ですぐに黒変する。残念ながら所有していない。

閃マンガン鉱(Alabandite, MnS)はアラバンド鉱ともいい、層状マンガン鉱床や熱水鉱脈に産する。鋼灰色の亜金属光沢をもつが、暗褐色~黒色に錆びて光沢を失う。条痕は暗緑褐色。バラ輝石、菱マンガン鉱、テフロ石と共存。割るとSO2が発生して火薬臭を発する。希塩酸に溶けてH2Sを発する(わずかな量でもかなり臭い)。自形結晶は正八面体・立方体だが、粒状のこともある。閃亜鉛鉱が混ざると同定がややこしい。

バスタム石(Bustamite, (Mn,Ca)3Si3O9)は珪灰石のCaをMnに置換したもので、もともと淡桃のようだが褐色に変化する?ヨハンセン輝石(CaMnSi2O6)はバスタム石の一種の多形で、低温下で形成される。

ガノフィル石(Ganophyllite)は明るい褐色で透明~半透明、一方向完全劈開、条痕は褐黄色。葉状の晶癖をもつ。

ブラウン鉱(Braunite, MnMn6(SiO4)O8)は層状マンガン鉱床や紅簾片岩に産し、黒色で亜金属光沢をもつ。磁鉄鉱とは磁性の有無で区別できる。赤鉄鉱とは条痕色で区別できる。高品位マンガン。自形結晶は稀で、粒状集合塊がふつう。

アレガニー石(Alleghanyite, Mn5(SiO4)2(OH)2 )は変成マンガン鉱床に産する。劈開なく、硬度は5~6。色は白・褐色・桃色・灰桃色で透明~半透明、ガラス光沢。とはいっても、ふつうは赤から紫を帯びた褐色塊としてマンガン鉱石中に見られ、微細粒なため識別できるような結晶はないようだ。条痕色は非常に薄い桃色。テフロなど色々な鉱物と混じってる。

組成式を見てみると、互いに関連しあっているものがあります。鉱物種が多くてややこしいですが、関連性を押さえつつ、今後学んでいく中で整理していきたいです。

参考文献

[1] 益富地学会館. 鉱物鑑定図鑑. 2024. 松香堂出版

[2] 倉敷自然史博物館. マンガン.

[3] 倉敷自然史博物館. ブラウン鉱.

[4] アレガニー石. TrekGEO.

[5] Wikipedia contributors. (2022, October 7). アレガニー石. In Wikipedia

[6] 東京大学電子顕微鏡質. 日本の鉱物.

[7] mindat.org, Alleghanyite.

[8] mindat.org, Bustamite.

[9] mindat.org, Ganophyllite.

[10] Wikipedia contributers. Ganophyllite

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まめしば
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