有界性と上限・下限および「上限でない」の解説と例題

前回はデデキント切断について書きました。

デデキント切断の概要と例題

今回は「有界」という概念について。そして上界(下界)および混同しやすい上限(下限)について平易な例題を豊富に設けながら解説します。関数や数列の本格的な話の準備になるでしょう。

上界・上限・最大はどう違うのでしょうか。上限であることの証明はもちろん、上限でないことの証明もやってみましょう。

有限集合と無限集合

数の集合(set)には大きく分けて2つあります。

  • 有限集合(finite set) ・・・有限個の元からなる
  • 無限集合(infinite set)・・・有限集合でないもの

有限集合の要素の個数は1つの自然数で表すことができます。

例題1

次の集合は有限集合か、無限集合か。
ア. 100以下の素数
イ. 0以上100以下の有理数
ウ. $x^2-3x+2=0$ の実数解からなる集合
エ. $e^{i\t}=1$ なる$\t$ からなる集合
オ. 自然数の切断の下組

【解答】アを満たす数は25個なので有限集合。イは有理数の稠密性より無限集合。ウを満たす数は2個なので有限集合。エを満たす数は任意の整数を $n$ として $2\pi n$ と表せるので無限集合。オは、下組に最大値 $N$ があることから、要素数 $N$ なので有限集合。稠密性や切断については下リンク参照。

デデキント切断の概要と例題

有界について(上界・下界)

整数全体、有理数全体、実数全体の要素は、下にはいくらでも小さいのがあるし、上にはいくらでも大きいのがいます。数直線をイメージすると果てしなく数が続いています。

それとは反対に、次のようなケースがあります。

有界

集合 $A$ を考える。
(1A) ある $K$ が存在して、任意の $x\in A$ が $x\le K$ を満たすとき、$A$ は上に有界であるといい、$K$ を上界とよぶ。
(1B) ある $K$ が存在して、任意の $x\in A$ が $x\ge K$ を満たすとき、$A$ は下に有界であるといい、$K$ を下界とよぶ。
(1C) $A$ が上にも下にも有界であるとき、$A$ を有界集合とよぶ。

注意しておきたいのは、$A$ が上に有界のとき、(もしあれば)最大値は確かに上界ですが、それより大きな数はすべて上界です。例えば集合 $\{1,2,4\}$ について、$4$ , $5$ , $2\pi$ はすべて上界であり、$1$ , $-2$ , $-e$ はすべて下界です。なので最大最小やのちほど述べる上限下限よりもだいぶユルい概念です。

例題2

次の集合の有界性について述べよ。
ア. 100以下の素数
イ. 0以上100以下の有理数
ウ. $x^2-3x+2=0$ の実数解からなる集合
エ. $e^{i\t}=1$ なる$\t$ からなる集合
オ. 自然数全体

【解答】アは最小値2、最大値97を下界・上界と定められるので有界集合。イは定義からして有界集合。ウは有界集合。エの要素は $2\pi n$ と表せるが、$n$ をいくらでも大きく(小さく)とれるので上にも下にも有界でない。オは下にのみ有界。

例題3

$\sin x$ の有界性を利用して$$\left|\int_0^1\frac{\sin x}{1+x^2}dx\right|\le \frac{\pi}{4}$$を示せ。

【解答】$|\sin x|\le 1$ (有界性)より\begin{eqnarray*}\left|\int_0^1\frac{\sin x}{1+x^2}dx\right|&\le&\int_0^1\frac{|\sin x|}{1+x^2}dx\\ &\le& \int_0^1\frac{1}{1+x^2}dx\\ &=& \frac{\pi}{4}\end{eqnarray*}

このように、計算が困難な積分を上から押さえるのにも使えますね。

上限supと下限inf

上限・下限の定義とイメージ

ざっくりした話をするのなら上界・下界がいい感じです。もっと厳しくしようと思ったら最大・最小がいいでしょう。上に有界な集合の最大値は、あるとしても1つしかありません(上界がいくらでもあるのに対して)。ただ、$x<2$ なる実数 $x$ の集合 $A$ は最大値がありません。でも$x$ が超えられないこの「2」という壁を用語で表現したい。それが「上限」です。上限は最大値と同様、あるとしても1つしかありません。最大値が存在する場合は上限もそれと同じ値となります。よって上限は上界よりも厳しく、最大値よりも少しユルい概念となりますね。

上に有界な集合にはいくらでも上界があり、それら上界の最小値が上限です。またその集合が上限を要素として持てば、最大値ともよばれます。下限についても同様です。

上限と下限の定義は次のようになります。これまでの話とは裏腹にやや難解な感じです。

上限と下限

$S$ を集合とする。

(2A) $\forall x\in S$ が $x\le L$ を満たし(上に有界)、かつ$$\forall\epsilon>0,\;\exists x\in S,\;x>L-\epsilon$$となるような $L$ を $S$ の「上限」といい、$$\sup S=L$$と書く。

(2B) $\forall x\in S$ が $x\ge L$ を満たし(下に有界)、かつ$$\forall\epsilon>0,\;\exists x\in S,\;x<L+\epsilon$$となるような $L$ を $S$ の「下限」といい、$$\inf S=L$$と書く。

分かりづらい場合は次のように受け入れるといいです。
 ・最大値(がある場合)は上限に一致する(証明は後述)
 ・上限 $L$ よりもほんの少しでも小さい数が $S$ に入っている

後者について説明しましょう。最大値がない場合、例えば $x<1$ なるすべての $x$ の集合 $S$ があるとします。この上限は $1$ です。このとき $1$ よりもほんの少し小さい量も $S$ に入っているよ、ということです。言い換えると、その量とは $1$ より小さい $1-\epsilon$ と $1$ の間にある数です。つまり $x>1-\epsilon$ なる $x$ が $S$ に存在するということ。もしそのような数 $x$ がとれないとすると $S$ の要素はすべて $1-\epsilon$ 以下であることになり、あらためて $1-\epsilon$ という量を上限と決めざるをえなくなります。だから任意の $\epsilon>0$ に対し $x>1-\epsilon$ なる $x$ が $S$ に存在しなければならないのです。

例えば上限 $L$ の集合 $S$ があるとします。$\epsilon=0.01$ と定め、もしも $x>L-0.01$ なる $x\in S$ が存在しないなら $L-0.01$ を上限としてよいことになってしまいます。上限は上界の最小値つまり「集合 $S$ のギリギリ端っこ」ですから。さらに $\epsilon$ を $0.01$ , $0.001,\cdots$ といかに小さく定めても同じことがいえます。よって上限は(2A)のような定義でなくてはならないことが分かると思います。

例題4

(3) 最大値は上限であることを示せ。

【証明】
集合 $S$ の最大値を $M$ とすると $\forall x\in S$ に対し $x\le M$ である。次に任意の正数 $\epsilon$ に対し $x=M\;(\in S)$ とすると $x>M-\epsilon$ である。よって $M$ は上限である。

例題5

(4) 上限 $L$ は一意に定まることを示せ。

【証明】
集合 $S$ に2つの上限 $L$ , $L'$ がとれ $L<L'$ とする。このとき $\forall x\in S$ に対し $x\le L$ である。また上限の定義より$$\forall\epsilon>0,\;\exists x\in S,\;x>L'-\epsilon$$が成立する。しかし $\epsilon=L'-L$ とすると、ある $x$ が存在して$$x>L'-\epsilon=L$$と書けてしまい、$\forall x\le L$ に矛盾。

上限でないことの証明(否定)

こういう込み入った話は、ぜひ練習問題にふれてイメージを養うことをお勧めします。特に「上限である」ことの証明だけでなく、「上限でない」といった否定の証明も経験することで理解がグンと上がります!

「上限でない」とは?

(5) $S$ を集合とする。$\forall x\in S$ が $x\le L$ を満たしているにもかかわらず、$L$ が「上限でない」とは(2A)後半の否定すなわち$$\exists\epsilon>0,\;\forall x\in S,\;x\le L-\epsilon$$となる場合である。

ある $\epsilon>0$ が存在して、すべての要素 $x$ に対して $x\le L-\epsilon$ とできてしまう、という意味です。このような否定の取り方は過去にもいろいろやっています。参考までに。

【ε論法】コーシー列でないことの証明

【ε論法】一様連続でないことの証明

【ε論法】関数列が一様収束でないことの証明

例題6

集合 $S$ の最大値が $2$ のとき、$3$ は上限でないことを示せ。

【証明】
$\forall x\in S$ に対し $x\le 2$ である。$\epsilon=0.5$ ととるとどんな $x$ に対しても$x\le 3-\epsilon$ である。よって $3$ は上限ではない。

赤字の部分から $3-\epsilon=2.5$ もまた上界となりますから、$3$ は上界ではあっても上限ではないわけです。$\epsilon$ は $0.5$ に限らずいろいろ考えられますが、1つ挙げればそれでいいです。

切断をもちいた定義

おまけです。前回の記事でせっかくデデキント切断を学んだので、切断による上限・下限の定義も見てみましょう。

有理数の切断による定義

(6A) 上に有界な $S$ に対し、$S$ の任意の数より大きい有理数を $B$ へ、残りの有理数を $A$ に入れる。この切断 $(A,B)$ で定まる実数 $L$ を $S$ の上限という。

(6B) 下に有界な $S$ に対し、$S$ の任意の数より大きい有理数を $B$ へ、残りの有理数を $A$ に入れる。この切断 $(A,B)$ で定まる実数 $L$ を $S$ の下限という。

例題7

ア.集合 $S$ に最大値 $4$ がある場合、(6A)の手法で $S$ の上限を定めよ。
イ.集合 $S$ に最大値 $\sqrt{2}$ がある場合、(6A)の手法で $S$ の上限を定めよ。

【解答】
アでは $A$ が最大値 $4$ を含む下組、$B$ が最小値のない上組となる。よって切断 $(A,B)$ は有理数 $4$ であり、これが $S$ の上限である。
イでは $A$ が最大値をもたず $B$ は最小値をもたない。$A$ の要素はすべて $\sqrt{2}$ より小さく、$B$ の要素はすべて $\sqrt{2}$ より大きい。よって切断 $(A,B)$ は無理数 $\sqrt{2}$ を定める。これが上限である。

数列で考える場合

集合 $S$ の要素を数列で表す場合は、要素を $a_n$ などとラベリングできるので表現しやすいです。以下に、これまでの定義の数列バージョンを記載しますが、言っていることはまったく同じであることを確認してください。

有界

数列 $\{a_n\}$ , $n=1,2,\cdots$ を考える。
(7A) ある $K$ が存在して、任意の $n$ で $a_n\le K$ を満たすとき、$\{a_n\}$ は上に有界であるといい、$K$ を上界とよぶ。
(7B) ある $K$ が存在して、任意の $n$ で $a_n\ge K$ を満たすとき、$\{a_n\}$ は下に有界であるといい、$K$ を下界とよぶ。
(7C) $\{a_n\}$ が上にも下にも有界であるとき、有界数列とよぶ。

上限と下限

数列 $\{a_n\}$ , $n=1,2,\cdots$ を考える。

(8A) $\forall n$ で $a_n\le L$ を満たし(上に有界)、かつ$$\forall\epsilon>0,\;\exists N,\;a_N>L-\epsilon$$となるような $L$ を 「上限」という。

(8B) $\forall x\in S$ が $a_n\ge L$ を満たし(下に有界)、かつ$$\forall\epsilon>0,\;\exists N,\;a_N<L+\epsilon$$となるような $L$ を「下限」という。

同じことなので、さらっと流して例題に移りましょう。

例題8

$n$ 番目の数が $$a_n=1+\frac{1}{2}+\cdots+\frac{1}{2^n}$$ である数列を考える。
(1) $2$ はこの数列の上限であり上界であることを示せ。
(2) $3$ はこの数列の上界であるが、上限でないことを示せ。
(3) この数列は最大値をもたないことを示せ。

【解答】
(1) 一般項は $a_n=2-\frac{1}{2^{n-1}}<2$ よって $2$ は上界である。任意の $\epsilon>0$ に対し、$$N>1+\log_2\frac{1}{\epsilon}$$なる自然数 $N$ を1つ定めると$$a_N=2-\frac{1}{2^{N-1}}>2-\epsilon$$よって $2$ は上限である。
(2) $3$ が上界であることはあきらか。$\epsilon=1$ とすると、任意の $n$ について$$a_n=2-\frac{1}{2^{n-1}}<2= 3-\epsilon$$となるので(5)により $3$ は上限でない。
(3) 最大値をもつとすると、それは集合に含まれるので $a_N$ とおける。しかし $a_{N+1}>a_N$ であるから $a_{N+1}$ が集合に含まれないことになり矛盾。

1つ挙げればいいのか、任意の要素なのかをしっかり区別しましょう。

例題9

$n$ 番目の数が $a_n=\dfrac{1}{n}$ である数列を考える。
(1) $0$ はこの数列の下界かつ下限であることを示せ。
(2) $-\dfrac{1}{3}$ はこの数列の下界であるが、下限でないことを示せ。
(3) この数列の最大値・最小値について述べよ。
(4) この数列の有界性を述べよ。

【解答】
(1) $a_n>0$ なので $0$ は下界である。任意の $\epsilon>0$ に対し、$$N>\frac{1}{\epsilon}$$なる自然数 $N$ を1つ定めると$$a_N=\frac{1}{N}<0+\epsilon$$よって $0$ は下限である。
(2) $-1/3$ が下界であることはあきらか。$\epsilon=1/3$ とすると、任意の $n$ について$$a_n=\frac{1}{n}>-\frac{1}{3}+\epsilon$$となるので下限でない。
(3) 最小値 $a_N$ に対し、$a_{N+1}<a_{N}$ だから矛盾。よって最小値は持たず、最大値はあきらかに $1$ である。
(4) 下限および最大値があるので上にも下にも有界。よって有界数列である。

実数の連続性と上限・下限

ところでデデキントの公理から、(6A)(6B)にある $L$ は無理数も含めるとかならず一意に定まりますので、実数(有理数ではない!)の範囲で次のことがいえます。

有界性と上限

(9A) 上に有界な集合 $S$ は上限をもつ。

(9B) 下に有界な集合 $S$ は下限をもつ。

ここで重要なのは、有理数の集合でも上限(下限)は有理数とは限らないことです。例えば $c_1=1$ , $c_2=1.4$ , $c_3=1.42$ としていくと、$c_n$ はすべて有理数ですが、だんだん $\sqrt{2}$ に下から近づいていきます。よって上限は $\sqrt{2}$ となります。

もっと具体的に計算できる例を挙げます。$n$ 番目の項が$$a_1=2\quad,\quad a_{n+1}=\frac{a_n^2+2}{2a_n}$$なる漸化式をみたす数列を考えます。この数列は四則演算のみで生成されるので有理数の数列でありながら、下限は無理数というおもしろいものです。$$ a_{n+1}=\frac{\left(a_n-\sqrt{2}\right)^2}{2a_n}+\sqrt{2}$$と変形できるので $a_{n+1}\ge\sqrt{2}$ となります。よって数学的帰納法により、任意の $n\in\NN$ で $a_n\ge \sqrt{2}$ となります。したがって $\sqrt{2}$ は数列の下界となります。

また $a_n\ge \sqrt{2}$ より$$a_{n+1}-a_n=\frac{1-a_n}{2a_n}<0$$なので、この数列は単調減少です。つまりどんどん減っていき、下界かそれより大きな値で止まるのです。なので極限値が下限となります。ではその極限値はいくらでしょう?

\begin{eqnarray*}a_{n+1}-\sqrt{2} &=& \frac{\left(a_n-\sqrt{2}\right)^2}{2a_n}\\ &=& \left(a_n-\sqrt{2}\right)\frac{a_n-\sqrt{2}}{2a_n}\\ &<& \frac{1}{2}\left(a_n-\sqrt{2}\right)\\ &<& \frac{1}{2^n}\left(a_1-\sqrt{2}\right)\end{eqnarray*}より、高校レベルの計算で極限値は $\sqrt{2}$ となります。これが下限であることは、$\forall\epsilon>0$ に対し $2^{N-1}>\dfrac{a_1-\sqrt{2}}{\sqrt{2}+\epsilon}$ なる自然数 $N$ を1つとると$$a_N< \frac{1}{2^{N-1}}\left(a_1-\sqrt{2}\right)<\sqrt{2}+\epsilon$$によって示されます。

(9A)(9B)は当たり前のように見えますが、「隙間」だらけの有理数の範囲では成立せず、実数の連続性に依存していることが分かります。

本記事は下記の本を参考にしています。古いですが、演習も多く、役に立ちます。少し高額なのが難点。


微分積分学 第1巻―数学解析第一編 (數學解析 第 1編)

次回:数列の極限はこちら

【ε論法】数列の収束と極限・例題 ~εとNを使って~

上極限と下極限について:

数列の上極限と下極限

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