デデキント切断の概要と例題

無理数を定義するためのデデキント切断について。あまり神経質に論じるのも大変なので概要にとどめ、平易な例題を豊富に設けました。

無理数

有理数であらわせない数

有理数はすでに認められたものであるとします。有理数だけで事足りれば良いのですが、有理数では表せない存在にぶち当たります。

$x^2=2$ を満たす数 $x$ のうち、正の数を考えましょう。$1.4^2=1.96$ , $1.5^2=2.25$ なので、$x$ は 有理数 $1.4$ と有理数 $1.5$ の間にありそうです。さらに細かく見ていけば $x=1.4142\cdots$ と延々と桁を増すことができます。途中で終われば、あるいは循環であると分かれば有理数だと結論付けられるのですが、残念ながらいつまでたっても終わりません。

実際に $x^2=2$ なる数 $x$ は有理数の範囲では存在しません。もし有理数だとすると、互いに素な自然数 $p,q$ によって $x=q/p$ と表されます。ところが $x^2=2$ より$$\frac{q^2}{p^2}=2\Longrightarrow q^2=2p^2$$ゆえに $q$ は $2$ の倍数であるため、左辺は $4$ の倍数です。すると $p$ もまた $2$ の倍数となり、互いに素という仮定に矛盾します。

このように証明されれば理解はできるのですが、有理数は数直線上にびっしり詰まっているという直感的なイメージがありながら、有理数で表せない数があるというのは少し変な感じがしますね。これはすなわち有理数には「隙間」がたくさんあるということで、隙間を埋めるのが無理数となります。

有理数の稠密性1

(1) 任意の2つの有理数 $p<p'$ の間には有理数が存在する。

※証明は簡単で、例えば $p<\dfrac{p+p'}{2}<p'$ の中辺がまさにこの有理数にあたります。

有理数の切断

従って有理数ではない新たな数を要します。デデキントは19世紀に巧妙な方法で無理数をつくりました。

有理数全体の集合 $\QQ$ を2つの集合 $A$ , $B$ に分けます(切断)。数直線を切って左側と右側に分けるイメージです。「分ける」というのは次のような条件を伴います。

有理数の切断

(2A) 任意の有理数が $A$ , $B$ どちらか一方に入っている。
(2B) $A$ も $B$ も空集合でない。
(2C) $a\in A$ , $b\in B$ ならば、必ず $a<b$ である。

このときの組 $(A,B)$ を有理数の切断とよぶ。$A$ を下組、$B$ を上組という

このとき切断の「境目」に着目して、3種類の切断法が考えられます。

切断の方法

(3A) $A$ に最大値があり、$B$ に最小値がない
(3B) $A$ に最大値がなく、$B$ に最小値がある
(3C) $A$ に最大値がなく、$B$ に最小値がない

(3A) は境目の有理数が $A$ 側(下組)に含まれているということ、(3B)はその反対です。

例題1

切断の方法に「$A$ に最大値があり、$B$ に最小値がある」はあり得ないことを示せ。

【証明】
(3A) において $A$ の最大値を $a$ とする。$B$ に最小値 $b$ があると仮定すると、有理数の稠密性(1)より $a<p<b$ なる 有理数 $p$ が存在する。すると $p$ は $A$ の最大値よりも大きいので $A$ に属さず、同様に $B$ にも属さない。これは切断の要件(2A)に反するので矛盾。

切断法(3A)においては $A$ の最大値が((3B)においては $B$ の最小値が)一意に定まります。これを「有理数 $a$」と定義するのです。

この有理数は切断 $(A,B)$ によって定められたものですが、本来の有理数の性質・法則を満たすかどうかを確認する必要があります。ふつうの人の感覚からすると「変な定義」ではありますが、ちゃんと私たちの知る有理数として使えるんだよって示すわけです。これに関しては有理数の和についてのみ、例題にしておきます。

例題2

整数 $\ZZ$ の切断を考える。切断 $(A,B)$ は有理数のときと同じく、以下を満たす。
(2A) 任意の整数が $A$ , $B$ どちらか一方に入っている。
(2B) $A$ も $B$ も空集合でない。
(2C) $a\in A$ , $b\in B$ ならば、必ず $a<b$ である。

このとき、(3A)~(3C)にならって切断の方法を列挙せよ。

【解答】
・ $A$ に最大値があり、$B$ に最小値がある
のみである。例題1とまったく真逆の状況である。これは整数が稠密でないから起こることである。整数の切断は1通りしかなく、新たな数を生み出すことができない。

例題3

切断 $(A,B)$ で定義された有理数 $q$ , 切断 $(A',B')$ で定義された有理数 $q'$ がある。切断によって和 $q+q'$ を定義せよ。

【解答】
$a\in A$ , $b\in B$ , $a'\in A'$ , $b'\in B'$とする。$a+a'$ の集合を $A^+$ , $b+b'$ の集合を $B^+$ とすると $(A^+,B^+)$ は切断であり、これを $q+q'$ と定義する。

無理数の誕生

切断法3種を再掲します。

切断の方法

(3A) $A$ に最大値があり、$B$ に最小値がない
(3B) $A$ に最大値がなく、$B$ に最小値がある
(3C) $A$ に最大値がなく、$B$ に最小値がない

(3A)(3B)はそれで定まる最大値(最小値)を有理数と定めるのでした。

さて、残りの(3C)が問題です。これは例えば「2乗して2となるような正の数」より小さい有理数を下組 $A$ へ、大きい有理数を上組 $B$ へ入れることで起こります(証明は次の例題参照)。一意に定まる最大値や最小値がありませんので、この切断 $(A,B)$ に対応する有理数は存在せず、新しい数を表すことにします。これが無理数です。有理数と無理数を合わせて実数とよびます。これによって $\QQ$ を含む新たな集合 $\RR$ ができます。

例題4

2乗して2となる正の数 $r$ より小さい有理数を下組 $A$ へ、大きい有理数を上組 $B$ へ入れる。このとき $A$ に最大値がなく、$B$ に最小値がないことを示せ。

【証明】
冒頭の説明より $r$ が有理数でないことは分かっている。$A$ に最大値 $q\in A$ があるとすると $q^2<2$ である。$\dfrac{2q+1}{2-q^2}<N$ なる自然数 $N$ をとると\begin{eqnarray*}q^2 &<& \left(q+\frac{1}{N}\right)^2=q^2+\frac{2q}{N}+\frac{1}{N^2}\\ &\le& q^2+\frac{2q+1}{N} <2\end{eqnarray*}よって $q+\dfrac{1}{N}$ は「2乗して2となる正の数」より小さい有理数なので $B$ には属さない。しかも $A$ の最大値 $q$ より大きいため $A$ にも属さない。どちらの組にも属さない有理数があることは、切断の要件に反し矛盾。$B$ に最小値がないことも同様に示せる。

この証明の段階では、無理数を演算で使ってはいけないので $q$ ではなく $q^2$ に注目した流れになっています。

話はそれますが、有理数でない数があるという前提があるからこそこのような無理数の定義が構成できるのであって、たとえば「2乗して2となるような数」という概念まで誰もたどり着いていなかったら切断(3C)は考えられないでしょう。有理数の演算の過程で、有理数で表せないものが出てくる。そのような存在に気づき、数を拡張しようと頑張った結果がこのすばらしいデデキント切断なのではないでしょうか。

実数の性質

切断で定義された実数が、私たちが本来求める実数としての性質をもっているかは確認が必要です(あるいは、定義や公理によってもたせる)。

実数の大小

切断 $(A,B)$ で定義される実数 $c$ , 切断 $(A',B')$ で定義される実数 $c'$ がある。このとき2つの実数の大小関係は次のように定義できる。

(4A) $A\subset A'\Longleftrightarrow c<c'$
(4B) $A'\subset A\Longleftrightarrow c'<c$
(4C) $A= A'\Longleftrightarrow c'=c$

要は切断の境目が対応する実数に対応するわけですから、切断の境目がそのまま大小関係になるのです。これで $\RR$ の要素には大小関係が定義できることが分かりました(もしできなかったら、本来ほしい実数の性質が満たされないのでデデキント切断はご破算となります)。四則演算など、ほかに定義すべきことはありますが、ここではやりません。

実数の連続性(デデキントの公理)

(5) $\RR$ の切断は
・$A$ に最大値があり、$B$ に最小値がない
・$A$ に最大値がなく、$B$ に最小値がある
のいずれかである。

有理数とは違って、実数には「隙間」がないよってことです。有理数を切断したときには、「境目」が有理数とならない切断を無理数とするのでした。いまや$ \RR$ ではこの隙間は埋まってしまったのです。なお、別の公理を採用して(5)を定理として示すこともあります。

例題5 有理数の稠密性2

(6) 2つの無理数の間には有理数が存在する。これを示せ。

【証明】
有理数の切断 $(A,B)$ で定義される実数 $c$ , $(A',B')$ で定義される実数 $c'$ が $c<c'$ を満たすとする。このとき(4A)より $A\subset A'$ が成り立つので、$q\in A'$ かつ $q\in B$ なる有理数 $q$ がある。この $q$ は $c<q<c'$ を満たす。

$c$ , $c'$ の片方が有理数の場合も同様に示し、(6)(1)と合わせれば、あらゆる2つの実数の間に有理数があることになります。これが「有理数の稠密性」の完全バージョンです。

本記事は下記の本を参考にしています。古いですが、演習も多く、役に立ちます。少し高額なのが難点。


微分積分学 第1巻―数学解析第一編 (數學解析 第 1編)

次回の記事はこちら!

有界性と上限・下限および「上限でない」の解説と例題

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