数列の上極限と下極限

本稿の前提知識となる上限・下限についてはこちら

有界性と上限・下限および「上限でない」の解説と例題

数列の収束に関する基本的な記事はこちら:

【ε論法】数列の収束と極限・例題 ~εとNを使って~

復習:上限と下限

定義0 上限と下限

$S$ を集合とする。

(0A) $\forall x\in S$ が $x\le L$ を満たし(上に有界)、かつ$$\forall\epsilon>0,\;\exists x\in S,\;x>L-\epsilon$$となるような $L$ を $S$ の「上限」といい、$$\sup S=L$$と書く。

(0B) $\forall x\in S$ が $x\ge L$ を満たし(下に有界)、かつ$$\forall\epsilon>0,\;\exists x\in S,\;x<L+\epsilon$$となるような $L$ を $S$ の「下限」といい、$$\inf S=L$$と書く。

これについての詳しい説明は

有界性と上限・下限および「上限でない」の解説と例題

を参照してください。

上極限と下極限の定義

有界数列 $\{a_n\}$ に対し、$\{a_p,a_{p+1},a_{p+2},\cdots\}$ の上限を $L_p$ , 下限を $K_p$ と定めます。記号で定義すると\begin{equation}L_p=\displaystyle\sup_{n\ge p}a_n\quad,\quad K_p=\displaystyle\inf_{n\ge p}a_n\tag{1.1}\end{equation}また $\{a_{p+1},a_{p+2},a_{p+3},\cdots\}$ は $\{a_p,a_{p+1},a_{p+2},\cdots\}$ の部分列であることを考えると$$K_p\le K_{p+1}\le L_{p+1}\le L_p$$が成立します。したがって $\{L_p\}$ は単調減少かつ有界、$\{K_p\}$ は単調増加かつ有界ですのでそれぞれ極限をもちます。$\{L_p\}$ の極限値は $\{L_p\}$ の下限 $L$ であり、$\{K_p\}$ の極限値は $\{K_p\}$ の上限 $K$ です。

$\{L_p\}$ の下限を $L$ とすると$$\forall\epsilon>0,\;\exists n_0\in \NN,\;L_{n_0}<L+\epsilon$$ここで $n_0$ より大きな任意の $n$ に対して$$L_n\le L_{n_0} <L+\epsilon$$$$\therefore\quad|L_n-L|<\epsilon$$よって下限 $L$ は極限である。

これを踏まえて次のように上極限と下極限を定義します。

定義1 上極限と下極限

$\{a_n\}$ の上極限は\begin{equation}\displaystyle\varlimsup_{n\to\infty}a_n=L\quad \left(\mathrm{or}\quad\displaystyle\limsup_{n\to\infty}a_n=L\right)\tag{1.2}\end{equation}$\{a_n\}$ の下極限は\begin{equation}\displaystyle\varliminf_{n\to\infty}a_n=K\quad \left(\mathrm{or}\quad\displaystyle\liminf_{n\to\infty}a_n=K\right)\tag{1.3}\end{equation}と書く。

上極限・下極限を求める例題

具体例を見てみましょう。

例題1

$\{1,-1,1,-1,\cdots\}$ の上極限と下極限を求めよ。

【解答】

自然数 $p$ に対して $\{a_p,a_{p+1},\cdots\}$ の上限は $1$ で下限は $-1$ である。よって $L_p=1$ , $K_p=-1$ なので$$L_p \xrightarrow[p\to\infty]{} 1\;,\; K_p \xrightarrow[p\to\infty]{} -1$$$$\therefore\quad\displaystyle\varlimsup_{n\to\infty}a_n=1\quad,\quad\displaystyle\varliminf_{n\to\infty}a_n=-1$$

例題2

$\{\frac{1}{2},\frac{2}{3},\frac{3}{4},\frac{4}{5},\cdots\}$ の①上限、②下限および③上極限、④下極限を求めよ。さらに⑤極限を求めよ。

【解答】
$a_n=1-\frac{1}{n+1}$ より単調増加数列である。また $0<a_n<1$ より有界数列でもある。

① $\forall\epsilon>0$ にたいして $1+N<\frac{1}{\epsilon}$ なる自然数 $N$ をとると$$a_N=1-\frac{1}{N+1}>1-\epsilon$$よって上限は $1$ である。
② 数列の最小値は $1/2$ であり、これが下限である。
③ $\{a_p,a_{p+1},a_{p+2},\cdots\}$ の上限は $1-\frac{1}{p+n+1}$ なる数列を考えて①と同様に論ずると $L_p=1$ となる。よって上極限は $1$ .
④ $\{a_p,a_{p+1},a_{p+2},\cdots\}$ の下限は $K_p=1-\frac{1}{p+1}$ である(最小値にあたる)。よって $K_p\to1$ なので下極限は $1$ .

⑤ $\forall\epsilon>0$ にたいして $1+N<\frac{1}{\epsilon}$ なる自然数 $N$ をとると、$\forall n\ge N$ で$$|a_n-1|=\frac{1}{n+1}\le \frac{1}{N+1}<\epsilon$$よって $a_n\to1$ .

※あとで見るように、上極限と下極限が一致するとき、それが極限値となります。

例題3

$\left\{1,-\dfrac{1}{2},\dfrac{1}{3},-\dfrac{1}{4},\cdots\right\}$ の上極限、下極限、極限を求めよ。

【解答】一般項は $a_n=\dfrac{(-1)^{n-1}}{n}$ である。$\{a_p,a_{p+1},\cdots\}$ の上限を $L_p$ 、下限を $K_p$ とすると$$L_{2p}=\frac{1}{2p+1}\quad,\quad L_{2p+1}=\frac{1}{2p+1}$$$$K_{2p}=-\frac{1}{2p}\quad,\quad K_{2p-1}=-\frac{1}{2p}$$である。これらはすべて $0$ へ収束するので $L_p\to0$ , $K_p\to0$ となる。したがって$$\limsup_{n\to\infty} a_n=\liminf_{n\to\infty} a_n=0$$

また $\forall\epsilon>0$ に対して $N\epsilon>1$ なる自然数 $N$ をとると、$\forall n>N$ ならば$$|a_n-0|<\frac{1}{N}<\epsilon$$$$\therefore\quad\displaystyle\lim_{n\to\infty}a_n=0$$

上極限に関する定理

定理1

上極限を $L$ とするとき、$$\forall\epsilon>0\;,\;\exists N\in \NN\;,\;\forall n\ge N\;,\;a_n<L+\epsilon$$

【証明】$L$ は $\{L_n\}$ の下限なので $L_n\ge L$ かつ$$\forall\epsilon>0\;,\;\exists N\in \NN\;,\;L_N<L+\epsilon$$また $L_N=\sup\{a_N,a_{N+1},\cdots\}$ なので、$\forall n\ge N$ で $L_N\ge a_n$ である。よって $\forall n\ge N$ に対し$$a_n\le L_N<L+\epsilon$$【証明終】

定理2

上極限を $L$ とするとき、無数の $n$ に対して $a_n>L-\epsilon$ である。

【証明】$n$ を任意の自然数で定める。$L$ は $\{L_n\}$ の下限なので $L_n\ge L$ . また $L_n=\sup\{a_n,a_{n+1},\cdots\}$ より$$\forall\epsilon>0\;,\;\exists n_1\ge n\;,\; a_{n_1}>L_n-\epsilon\ge L-\epsilon$$よってこの $n_1$ は定理の条件を満たす。

$n$ は任意であったので $n=n_1+1$ ととれば同様にして $$L_{n_1+1}=\sup\{a_{n_1+1},a_{n_1+2},\cdots\}$$より$$\forall\epsilon>0\;,\;\exists n_2> n_1\;,\; a_{n_2}>L_{n_1+1}-\epsilon\ge L-\epsilon$$したがってこの $n_2$ は定理の条件を満たす。以下繰り返して $a_n>L-\epsilon$ なる $n$ を無数に得る。

【証明終】

以上の2つの定理については、同様に下極限についてもいえます。

極限の存在条件

上極限と下極限について論ずる上で欠かせない事実があります。それは数列の極限に関連することであり、次のようなものです。

定理3

数列に極限が存在することと、上極限と下極限が一致することは同値である。なお一致した値は極限そのものである。

【証明】数列 $\{a_n\}$ を考える。

① 数列 $\{a_n\}$ が極限 $\alpha$ をもつとする。$$\forall\epsilon>0\;,\;\exists N\in\NN\;,\;\forall n\ge N\;,\;|a_n-\alpha|<\frac{\epsilon}{2}$$この $n$ に対して\begin{eqnarray*}L_n &=& \sup\{a_n,a_{n+1},\cdots\} \\ K_n &=& \inf\{a_n,a_{n+1},\cdots\}\end{eqnarray*}である。上限の定義から $$\exists n'\ge n(\ge N)\;,\;a_{n'}>L_n-\frac{\epsilon}{2}$$とできるので$$|L_n-\alpha|<|a_{n'}-\alpha|+|L_n-a_{n'}|<\epsilon$$ 同様にして $|K_n-\alpha|<\epsilon$ も示せるので$$\lim_{n\to\infty}L_n=\lim_{n\to\infty}K_n=\alpha$$

② 数列 $\{a_n\}$ の上極限と下極限がともに $\alpha$ であるとする。$\alpha$ は $\{L_n\}$ の下限なので$$\forall\epsilon>0\;,\;\exists N\in\NN\;,\; L_N<\alpha+\epsilon$$また $L_N=\sup\{a_N,a_{N+1},\cdots\}$ であることから$$\forall n\ge N\;,\; a_n\le L_N<\alpha+\epsilon $$また同じ $\epsilon$ に対し $\exists N'\in\NN\;,\; K_{N'}<\alpha-\epsilon$ なので$$\forall n\ge N'\;,\; a_n\ge K_{N'}>\alpha-\epsilon$$以上から $N_0=\max\{N,N'\}$ とすると$$\forall\epsilon>0\;,\;\exists N_0\in\NN\;,\;\forall n\ge N_0\;,\;|a_n-\a|<\epsilon$$これは $a_n\to\a$ を意味する。

【証明終】

本記事は下記の本を参考にしています。古いですが、演習も多く、役に立ちます。少し高額なのが難点。


微分積分学 第1巻―数学解析第一編 (數學解析 第 1編)

次回はこちら:

シュトルツ・チェザロの定理(数列の極限)

級数の収束性はこちら:

無限級数の収束性1(コーシー、ダランベールなど)

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