リーマンのP微分方程式の指数と解の関係

フックス型微分方程式を論じた続きです。前回までは:

フックス型微分方程式と確定特異点1(基本と例題)

フックス型微分方程式と確定特異点2 (RiemannのP方程式)

復習:リーマンのP微分方程式

定義0

相異なる確定特異点 $a,b,c$ をもつフックス型微分方程式は\begin{eqnarray}&&u''+\left(\frac{1-\a-\a'}{z-a}+\frac{1-\b-\b'}{z-b}+\frac{1-\g-\g'}{z-c}\right)u'\\&&\quad+\left(\frac{\a\a'(a-b)(a-c)}{z-a}+\frac{\b\b'(b-a)(b-c)}{z-b}+\frac{\g\g'(c-a)(c-b)}{z-c}\right)\\&&\quad\quad\quad\times\frac{u}{(z-a)(z-b)(z-c)}=0\end{eqnarray}に限られ、これをリーマンのP微分方程式(Riemann's P-equation)という。ただし $\a+\a'+\b+\b'+\g+\g'=1$ であり、$a,b,c$ のいずれかが $\infty$ であってもよい。$\a,\a'$ を「確定特異点 $a$ に属するexponent(指数)」とよぶ

前回に示したように、このリーマンP方程式は、本来なら分数をまとめたり定数を取り換えてもっと簡単な形で書けます。なのにこのようなごちゃっとした形で表現するのはなぜなのでしょうか。

$\a,\a'$ ; $\b,\b'$ ; $\g,\g'$ には「指数」という名前がついています。指数を用いて微分方程式の解全体を\begin{equation}u(z)=P\left\{\begin{matrix}a & b & c\\\a & \b & \g\\\a' & \b' & \g'\end{matrix}\;z\right\}\tag{0.1}\end{equation}と表し、リーマンのP記法といいます。解の表現に指数を明示するということは、指数が方程式の解を特定するのに重要な意味をもっていることを示唆します。

フロベニウス法

これまで通り、2階の斉次線型微分方程式に限った話をします。

アールフォルス『複素解析』によると、$z=a$ が確定特異点であれば\begin{equation}u(z)=\sum_{n=0}^\infty a_n(z-a)^{n+r}\;,\quad a_0\neq0\tag{1.1}\end{equation}なる形の解が存在します(この級数を方程式に代入してみれば分かる)。この級数の係数を求めることで解が得られますが、その解法をフロベニウス(Frobenius)法といいます。多くの練習問題はこちらから

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例題で指数の意味を確認しよう

次の微分方程式を考えます。\begin{equation}z(z^2-1)u''+\left(2z^2+\frac{z}{2}-\frac{3}{2}\right)u'+\frac{4/9}{z-1}u=0\tag{2.1}\end{equation}変形すると\begin{equation}u''+\left(\frac{3/2}{z}-\frac{1/2}{z+1}\right)u'+\frac{1}{z(z+1)(z-1)}\frac{4/9}{z-1}u=0\tag{2.2}\end{equation}よって $z=0,-1,1$ で確定特異点です。$0;-1;1$ に属する指数をそれぞれ $\a,\a'$ ; $\b,\b'$ ; $\g,\g'$ とすると $\a\a'=0$ かつ $1-\a-\a'=\frac{3}{2}$ より $\a=0$ , $\a'=-\frac{1}{2}$ と分かります。また $\b\b'=0$ , $1-\b-\b'=-\frac{1}{2}$ より $\b=0$ , $\b'=\frac{3}{2}$ となります。同様に $\g\g'=\frac{2}{9}$ , $1-\g-\g'=0$ より $\g=\frac{1}{3}$ , $\g'=\frac{2}{3}$ です。

よってこの微分方程式の解は\begin{equation}u(z)=P\left\{\begin{matrix}0 & -1 & 1\\0 & 0 & \frac{1}{3}\\-\frac{1}{2} & \frac{3}{2} & \frac{2}{3}\end{matrix}\;z\right\}\tag{2.3}\end{equation}と表記できます。

さて、肝心の指数の意味について考えましょう。フロベニウス法により $z=0$ で展開した級数解は$$u(z)=\sum_{n=0}^\infty a_nz^{n+r}\;,\quad a_0\neq0$$の形で書けます。これを方程式(2.2)に代入して、$z^{-2+r}$ の項(「最低次」の項)を調べます。まず $u''$ の当該の係数は $r(r-1)a_0$ とすぐに分かります。また $\frac{1}{z+1}$ を $z=0$ で展開したときの最低次は定数 $1$ なので $\frac{u'}{z-1}$ は $z^{-2+r}$ の項を持ちません。以下同様に考えて\begin{eqnarray*}&&u'' \Rightarrow r(r-1)a_0 \\&&\left(\frac{3/2}{z}-\frac{1/2}{z+1}\right)u'\Rightarrow \frac{3}{2}ra_0\\&&\frac{1}{z(z+1)(z-1)}\frac{4/9}{z-1}u\Rightarrow 0\end{eqnarray*}$a_0\neq0$ なので\begin{equation}r(r-1)+\frac{3}{2}r=0\tag{2.4}\end{equation}これを決定方程式といいます。解くと $r=0,-\frac{1}{2}$ であり、まさに確定特異点 $0$ に属する指数であることが分かります。よって特殊解として\begin{equation}u_1(z)=\sum_{n=0}^\infty a_nz^{n}\;,\;u_2(z)=z^{-\frac{1}{2}}\sum_{n=0}^\infty a'_nz^{n}\tag{2.5}\end{equation}を得ます。これらを微分方程式に代入すれば $a_n$ , $a'_n$ が求まりますが、煩雑なので省略します。ともかく級数解の形だけは分かりました!

同様に $z=-1$ や $z=1$ で決定方程式をつくるとやはり\begin{equation}u_3(z)=\sum_{n=0}^\infty b_n(z+1)^{n}\;,\;u_4(z)=(z+1)^{\frac{3}{2}}\sum_{n=0}^\infty b'_n(z+1)^{n}\tag{2.6}\end{equation}\begin{equation}u_5(z)=(z-1)^\frac{1}{3}\sum_{n=0}^\infty c_n(z-1)^{n}\;,\;u_6(z)=(z-1)^{\frac{2}{3}}\sum_{n=0}^\infty c'_n(z-1)^{n}\tag{2.7}\end{equation}なぜ「指数」という名がついているのか、これでよくわかったと思います。定義0のような形で微分方程式を書くと、その特殊解6つの形がすぐにイメージできるのです。今の例では6つの解から独立である2つを任意に選ぶと、一般解はその線型結合で表せます。アールフォルスによれば、$\a-\a'$ すなわちexponent difference(指数の差)が非整数であれば $\a$ , $\a'$ から得られる2解は独立です。

一般の場合

ではより一般に、確定特異点 $a,b,c$ であるリーマンのP微分方程式\begin{eqnarray}&&u''+\left(\frac{1-\a-\a'}{z-a}+\frac{1-\b-\b'}{z-b}+\frac{1-\g-\g'}{z-c}\right)u'\\&&\quad+\left(\frac{\a\a'(a-b)(a-c)}{z-a}+\frac{\b\b'(b-a)(b-c)}{z-b}+\frac{\g\g'(c-a)(c-b)}{z-c}\right)\\&&\quad\quad\quad\times\frac{u}{(z-a)(z-b)(z-c)}=0\end{eqnarray}の級数解を確認しましょう。

$z=a$ でフロベニウス法を用います。$$u(z)=\sum_{n=0}^\infty a_n(z-a)^{n+r}\;,\quad a_0\neq0$$を代入して $(z-a)^{r-2}$ の係数を取り出しましょう。$u''$ においてその係数は $r(r-1)$ です。$\frac{1}{z-b}$ , $\frac{1}{z-c}$ は $z=a$ で展開すると正則(テイラー展開になる)ことに注意します。ややこしいのは\begin{equation}\frac{\a\a'(a-b)(a-c)}{(z-a)^2(z-b)(z-c)}\tag{3.1}\end{equation}などの部分です。これは $\frac{P(z)}{(z-a)^2}$ という形になっており、$P(z)$ は $z=a$ で正則すなわち$$P(z)=p_0+p_1(z-a)+p_2(z-a)^2+\cdots$$と展開されますから $p_0=P(a)$ となります。よって(3.1)を展開すると $(z-a)^{-2}$ の項は$$\left.\frac{\a\a'(a-b)(a-c)}{(z-b)(z-c)}\right|_{z=a}(z-a)^{-2}=\a\a'(z-a)^{-2}$$このような手法で各項の最低次の係数を求めていきます。すると決定方程式は\begin{equation}r(r-1)+(1-\a-\a')r+\a\a'=0\tag{3.2}\end{equation}この解は $r=\a,\a'$ です。したがって特殊解として$$u(z)=(z-a)^{\a}\sum_{n=0}^\infty a_n(z-a)^{n}\;,\;(z-a)^{\a'}\sum_{n=0}^\infty a'_n(z-a)^{n}$$が存在します。指数 $\a,\a'$ が解の中に目立って登場していることが分かります。

$z=b,c$ についても同じ手法を用いると、リーマンのP微分方程式の解\begin{equation}u(z)=P\left\{\begin{matrix}a & b & c\\\a & \b & \g\\\a' & \b' & \g'\end{matrix}\;z\right\}\tag{3.3}\end{equation}は特殊解として$$(z-a)^{\a}\sum_{n=0}^\infty a_n(z-a)^{n}\quad,\quad (z-a)^{\a'}\sum_{n=0}^\infty a'_n(z-a)^{n}$$$$(z-b)^{\b}\sum_{n=0}^\infty b_n(z-b)^{n}\quad,\quad (z-b)^{\b'}\sum_{n=0}^\infty b'_n(z-b)^{n}$$$$(z-c)^{\g}\sum_{n=0}^\infty c_n(z-c)^{n}\quad,\quad (z-c)^{\g'}\sum_{n=0}^\infty c'_n(z-c)^{n}$$をもつことが分かります。

無限遠点でも成り立つか

さて3つの確定特異点と、それに属するexponentのことが分かったところで、特異点の1つが $\infty$ である場合はどうかを考えます。前回記事では、定義0が $c=\infty$ としても成り立つことを示しました。そのときの式は次のようになります。\begin{eqnarray}&&u''+\left(\frac{1-\a-\a'}{z-a}+\frac{1-\b-\b'}{z-b}\right)u'\\&&\quad+\left(\frac{\a\a'(a-b)}{z-a}+\frac{\b\b'(b-a)}{z-b}+\g\g'\right)\\&&\quad\quad\quad\times\frac{u}{(z-a)(z-b)}=0\tag{4.1}\end{eqnarray}そしてやはり $\a+\a'+\b+\b'+\g+\g'=1$ は保持されるのでした。P表記で解を表すと\begin{equation}u(z)=P\left\{\begin{matrix}a & b & \infty\\\a & \b & \g\\\a' & \b' & \g'\end{matrix}\;z\right\}\tag{4.2}\end{equation}

今考えたいのは、このときでも $\g,\g'$ の意味は「指数」であるのかということです。見てきたように、このP表記は確定特異点のまわりで級数表示した解を端的に示すものなのでした。では $z=\infty$ で展開とはいったい??

前々回と前回でも述べた通り $z=\infty$ 付近での方程式や関数の状況を調べるには、反転変換 $w=1/z$ として $w=0$ 付近を見ればいいのでした。忠実にやってみましょう。

方程式 $u''+p(z)u+q(z)u=0$ を変換すると\begin{equation}\frac{d^2u}{dw^2}+\left[\frac{2}{w}-\frac{p\left(1/w\right)}{w^2}\right]\frac{du}{dw}+\frac{q\left(1/w\right)}{w^4}u=0\tag{4.3}\end{equation}となるので(4.1)は\begin{eqnarray}&&\frac{d^2u}{dw^2}+\frac{1}{w}\left(2-\frac{1-\a-\a'}{1-aw}-\frac{1-\b-\b'}{1-bw}\right)\frac{du}{dw}\\&&\quad+\left(\frac{\a\a'(a-b)}{1-aw}+\frac{\b\b'(b-a)}{1-bw}+\frac{\g\g'}{w}\right)\frac{u}{w(1-aw)(1-bw)}=0\tag{4.4}\end{eqnarray}ただし(4.4)の"$u$" は $u(1/w)$ を表します。これにフロベニウス法における $w=0$ まわりの級数表示$$u(z)=\sum_{n=0}^\infty c_n w^{n+r}\;,\quad c_0\neq0$$を代入すると決定方程式は\begin{equation}r(r-1)+r[2-(1-\a-\a')-(1-\b-\b')]+\g\g'=0\tag{4.5}\end{equation}整理して$$r^2+r[\a+\a'+\b+\b'-1]+\g\g'=0$$$\a+\a'+\b+\b'+\g+\g'=1$ が課されているので$$r^2-r[\g+\g']+\g\g'=0$$よって決定方程式の解は $r=\g,\g'$ です。

したがって対応する級数解は$$u(1/w)=w^{\g}\sum_{n=0}^\infty c_nw^{n}\quad,\quad u(1/w)=w^{\g'}\sum_{n=0}^\infty c'_nw^{n}$$反転変換 $w=1/z$ を再度行い$$u(z)=\left(\frac{1}{z}\right)^{\g}\sum_{n=0}^\infty c_n\left(\frac{1}{z}\right)^{n}\quad,\quad u(z)=\left(\frac{1}{z}\right)^{\g'}\sum_{n=0}^\infty c'_n\left(\frac{1}{z}\right)^{n}$$これこそが $z=\infty$ まわりの級数表示です。ちゃんと指数が特殊解に現れています。

以上から特異点が無限遠点にあるときでも、$z=\infty$ の展開を $1/z$ の冪級数と見なすことによりP表記$$u(z)=P\left\{\begin{matrix}a & b & c\\\a & \b & \g\\\a' & \b' & \g'\end{matrix}\;z\right\}$$の意味は不変です。

補足:超幾何微分方程式

確定特異点を $0$ , $1$ , $\infty$ と仮定します。また指数を $\a=0$ , $\a'=1-c$ , $\b=0$ , $\b'=c-a-b$ , $\g=a$ , $\g=b$ とすると解は$$u(z)=P\left\{\begin{matrix}0 & 1 & \infty\\0 & 0 & a\\1-c & c-a-b & b\end{matrix}\;z\right\}$$であり、微分方程式は$$z(1-z)u''+[c-(a+b+1)z]u'-abu=0$$となります。これを超幾何微分方程式といいます。

まとめ

本記事のまとめは次のようになります。

結論

リーマンのP微分方程式\begin{eqnarray}&&u''+\left(\frac{1-\a-\a'}{z-a}+\frac{1-\b-\b'}{z-b}+\frac{1-\g-\g'}{z-c}\right)u'\\&&\quad+\left(\frac{\a\a'(a-b)(a-c)}{z-a}+\frac{\b\b'(b-a)(b-c)}{z-b}+\frac{\g\g'(c-a)(c-b)}{z-c}\right)\\&&\quad\quad\quad\times\frac{u}{(z-a)(z-b)(z-c)}=0\end{eqnarray}(ただし $\a+\a'+\b+\b'+\g+\g'=1$)
の6つの特殊解は$$(z-a)^{\a}\sum_{n=0}^\infty a_n(z-a)^{n}\quad,\quad (z-a)^{\a'}\sum_{n=0}^\infty a'_n(z-a)^{n}$$$$(z-b)^{\b}\sum_{n=0}^\infty b_n(z-b)^{n}\quad,\quad (z-b)^{\b'}\sum_{n=0}^\infty b'_n(z-b)^{n}$$$$(z-c)^{\g}\sum_{n=0}^\infty c_n(z-c)^{n}\quad,\quad (z-c)^{\g'}\sum_{n=0}^\infty c'_n(z-c)^{n}$$と表され、任意の解を$$u(z)=P\left\{\begin{matrix}a & b & c\\\a & \b & \g\\\a' & \b' & \g'\end{matrix}\;z\right\}$$と表記する。

以上の事実は、いずれかの特異点を $\infty$ としても成り立つ。

次回はこちら:

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