調和数と超幾何級数3

前回:

調和数と超幾何級数2

前回と似た方法でもう1つの級数を求めます。

Today's Theme

調和数 $H_n=1+\frac{1}{2}+\cdots+\frac{1}{n}$ , $H_0=0$ として , $0<x<1$ に対して\begin{eqnarray*}\sum_{n=1}^\infty\frac{(a)_n}{n!}H_nx^n&=&-(1-x)^{-a}\ln\frac{1-x}{x}+\{\psi(a)+\g\}(1-x)^{-a}+\frac{1}{a}F\left[\begin{matrix}1,a\\1+a\end{matrix};1-x\right]\\\end{eqnarray*}であることを示す。

超幾何微分方程式の応用

ガウスの超幾何関数$${}_2F_1\left[\begin{matrix}a,b\\c\end{matrix};x\right]$$は微分方程式\begin{equation}x(1-x)y''+\bigl(c-(a+b+1)x\bigr)y'-aby=0\tag{1}\end{equation}を満たします。これを超幾何微分方程式といいます。

これを応用すると ${}_2F_1\left[\begin{matrix}1,a\\c\end{matrix};x\right]$ は微分方程式\begin{equation}x(1-x)y''+(c-(a+2)x)y'-ay=0\tag{2}\end{equation}の特殊解ということになります。

ここで次の関数を定義します。\begin{equation}v(x):=\left.-\frac{d}{dc}{}_2F_1\left[\begin{matrix}1,a\\c\end{matrix};x\right]\right|_{c=1}\tag{3}\end{equation}これを変形すると\begin{eqnarray*}v(x)&=&-\frac{d}{dc}\sum_{n=0}^\infty\frac{(a)_n\G(c)}{\G(c+n)}x^n\left.\right|_{c=1}\\&=&\sum_{n=0}^\infty\frac{(a)_n\G(c)}{\G(c+n)}x^n\bigl(\psi(c+n)-\psi(c)\bigr)\left.\right|_{c=1} \\&=& \sum_{n=1}^\infty\frac{(a)_n}{n!}x^n\bigl(\psi(1+n)-\psi(1)\bigr)\end{eqnarray*}$H_n$ の定義よりただちに\begin{equation}v(x)=\sum_{n=1}^\infty\frac{(a)_n}{n!}H_nx^n\tag{4}\end{equation}なんと調和数が現れました。

さて一方、(2)を $c$ で微分すると$$x(1-x)\frac{d^2}{dx^2}\frac{dy}{dc}+(c-(a+2)x)\frac{d}{dx}\frac{dy}{dc}+\frac{dy}{dx}-a\frac{dy}{dc}=0$$$y={}_2F_1\left[\begin{matrix}1,a\\c\end{matrix};x\right]$ はこの方程式を満たすのでしたから、$c=1$ とすれば、(3)も併せて

\begin{equation}x(1-x)v''+(1-(a+2)x)v'-av=\frac{d}{dx}{}_2F_1\left[\begin{matrix}1,a\\1\end{matrix};x\right]\tag{5}\end{equation}

この右辺は初等関数で書けますが、しばらく放置します。

非斉次線型2階微分方程式

(5)の微分方程式を解きましょう。右辺に関数があるので非斉次方程式です。

非斉次方程式の一般的解法はこちら:

【D8】非斉次2階線型微分方程式その1

まず右辺をゼロとした斉次方程式を考えます。\begin{equation}x(1-x)v''+(1-(a+2)x)v'-av=0\tag{6}\end{equation}(2)より、1つ目の特殊解は$$v_1={}_2F_1\left[\begin{matrix}1,a\\1\end{matrix};x\right]$$であることが分かります。また(6)で $t=1-x$ とすると$$t(1-t)\frac{d^2v}{dt^2}+((a+1)-(a+2)t)\frac{dv}{dt}-av=0$$となって ${}_2F_1\left[\begin{matrix}1,a,\\1+a\end{matrix};t\right]$ も(6)の特殊解です。したがって2つ目の特殊解は$$v_2={}_2F_1\left[\begin{matrix}1,a\\a+1\end{matrix};1-x\right]$$$v_1$ , $v_2$ の線型結合が(6)の一般解を与えます。

最後に $v_0=-{}_2F_1\left[\begin{matrix}1,a\\1\end{matrix};x\right]\ln\frac{1-x}{x}$ を非斉次方程式(5)に代入すると、等式を満たしています。よって $v_0$ は(5)の特殊解です。

以上から(5)の一般解は $v(x)=v_0+Av_1+Bv_2$ です。また$${}_2F_1\left[\begin{matrix}1,a\\1\end{matrix};x\right]=(1-x)^{-a}$$であることに注意して\begin{equation}v(x)=-\frac{\ln\frac{1-x}{x}}{(1-x)^a}+\frac{A}{(1-x)^a}+B\:{}_2F_1\left[\begin{matrix}1,a\\a+1\end{matrix};1-x\right]\tag{7}\end{equation}

積分定数 $A$ , $B$ を定めましょう。(4)より $v(0)=0$ ですから(7)に適用して$$\lim_{x\to+0}\left(-\frac{\ln\frac{1}{x}}{(1-x)^a}+\frac{A}{(1-x)^a}+B\:{}_2F_1\left[\begin{matrix}1,a\\a+1\end{matrix};1-x\right]\right)=0$$問題となるのは $\ln\frac{1}{x}$ のせいで発散してしまうこと。この項をなくしてしまわないといけません。こちらの「2023/4/10」で示した事実によると$$F\left[\begin{matrix}a,b\\a+b\end{matrix};z\right]=\frac{1}{B(a,b)}\sum_{n=0}^\infty\frac{(a)_n(b)_n}{n!^2}(1-z)^n\left[2\psi(n+1)-\psi(a+n)-\psi(b+n)-\ln(1-z)\right]$$なので$$F\left[\begin{matrix}a,b\\a+b\end{matrix};1-x\right]=\frac{1}{B(a,b)}\sum_{n=0}^\infty\frac{(a)_n(b)_n}{n!^2}x^n\left[2\psi(n+1)-\psi(a+n)-\psi(b+n)+\ln \frac{1}{x}\right]$$$$\therefore\quad F\left[\begin{matrix}a,b\\a+b\end{matrix};1-x\right]=\frac{1}{B(a,b)}\left(2\psi(1)-\psi(a)-\psi(b)+\ln\frac{1}{x}+O(x)\right)\quad,\; x\to+0$$$b=1$ としてこれを適用します。すると$$\lim_{x\to+0}\left(-\ln\frac{1}{x}+((1-x)^{-a}-1)\ln x+\frac{A}{(1-x)^a}+aB\left(-\g-\psi(a)+\ln\frac{1}{x}\right)\right)=0$$整理して$$A+\lim_{x\to+0}\left(-\ln\frac{1}{x}+aB\left(-\g-\psi(a)+\ln\frac{1}{x}\right)\right)=0$$$\ln\frac{1}{x}$ が消えるためには $B=1/a$ とするとよいです。このとき$$A-\left(\g+\psi(a)\right)=0$$なので $A=\psi(a)+\g$ となります。以上から

\begin{eqnarray}v(x) =-\frac{\ln\frac{1-x}{x}}{(1-x)^a}+\frac{\psi(a)+\g}{(1-x)^a}+\frac{1}{a}\:{}_2F_1\left[\begin{matrix}1,a\\a+1\end{matrix};1-x\right]\tag{8}\end{eqnarray}

定理の完成

(4)より

定理1

$$\sum_{n=1}^\infty\frac{(a)_n}{n!}H_nx^n=-\frac{\ln\frac{1-x}{x}}{(1-x)^a}+\frac{\psi(a)+\g}{(1-x)^a}+\frac{1}{a}\:{}_2F_1\left[\begin{matrix}1,a\\a+1\end{matrix};1-x\right]$$

と求まりました。

特に $a=1/2$ とすると\begin{equation}\sum_{n=1}^\infty\frac{(\frac{1}{2})_n}{n!}H_nx^n=\frac{2}{\sqrt{1-x}}\ln\frac{1+\sqrt{1-x}}{2\sqrt{1-x}}\tag{9}\end{equation}

簡単な計算により\begin{equation}\sum_{n=1}^\infty\binom{2n}{n}H_n\left(\frac{x}{4}\right)^n=\frac{2}{\sqrt{1-x}}\ln\frac{1+\sqrt{1-x}}{2\sqrt{1-x}}\tag{10}\end{equation}とも書けます。

例題

例1

Daniel Ángeles さんより$$\sum_{n=1}^\infty\binom{2n}{n}\frac{H_n}{5^n}=2\sqrt{5}\ln\phi$$

(10)で $x=4/5$ として直ちに得ます。

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