過去に掲載した調和数シリーズはこちら:
上記では調和数を含む級数の基本的な計算手法を解説しているので、ぜひ見てください。
調和数 Hn=1+12+⋯+1n , H0=0 として∞∑n=1(2a)n(n+1)(a+32)nHn2n=(a+12)[ψ(a+12)−ψ(12)]および∞∑n=1(a)n(1−a)n(n!)2Hn2n=√π2Γ(1−a2)Γ(1+a2)[ψ(1−a2)+ψ(1+a2)−ψ(1)−ψ(12)]であることを示す。
また具体的な値を代入することにより∞∑n=1(2)n(n+1)(52)nHn2n=3∞∑n=1(4)n(n+1)(72)nHn2n=203∞∑n=1Hn2n=2ln2∞∑n=1(n+1)Hn2n=2+4ln2∞∑n=1Hn2n=2ln2∞∑n=1(n+1)(n+4)Hn2n=18+24ln2∞∑n=1(12)n(n+1)(74)nHn2n=38π−34ln2∞∑n=1(2nn)2Hn32n=Γ2(14)4√π(1−4ln2π)∞∑n=1(3n)!(n!)3Hn54n=Γ3(13)273π(√3−9ln32π)
ガウスの超幾何関数、ガンマ関数、ディガンマ関数の初歩的な知識が必要となります。ガンマ関数やディガンマ関数については当サイトでシリーズ化していますので参考にしてください:
今回の記事は、ガウスの超幾何関数の2次変換公式について調べていたところで偶然出くわしたMartin Nicholson,Quadratic Transformations of Hypergeometric Function and Series with Harmonic Numbers(2019)を読んでみたのがきっかけです。説明がていねいな論文で自力で追いやすく、調和数がらみで個人的に面白かったのです。本記事はこの論文を参考に展開しており、行間を埋めたり+αの結果を示しています。論文へのリンクはこちら:
過去の記事では、多重対数関数 Lis(z) を主たる武器として調和数を含む級数(Euler sum)を計算してきました。今回はガウスの超幾何関数の微分をうまく利用して、調和数を含む級数を計算します。
A. Erdelyi, W. Magnus, F. Oberhettinger and F.G. Tricomi, Higher Transcendental Functions Vol.1(1953)の2.11節に、超幾何関数の二次変換公式が大量に書かれています。そのうちの一つ2F1[2a,2ba+b+12;z]=2F1[a,ba+b+12;4z(1−z)]ここからスタートします。以下 a+b−12≠−1,−2,… としておきます。
(1)で z に z2 を代入します。 2F1[2a,2ba+b+12;z2]=2F1[a,ba+b+12;2z−z2]よって∞∑n=0(2a)n(2b)n(a+b+12)nn!zn2n=∞∑n=0(a)n(b)n(a+b+12)nn!(2z−z2)n両辺に (1−z)c−1 をかけます。∞∑n=0(2a)n(2b)n(a+b+12)nn!zn(1−z)c−12n=∞∑n=0(a)n(b)n(a+b+12)nn!(1−z)c−1(2z−z2)n両辺を z で 0 から 1 まで積分します。ベータ関数が現れます。すなわちLHS=∞∑n=0(2a)n(2b)n(a+b+12)nn!2nB(c,n+1)=∞∑n=0(2a)n(2b)n(a+b+12)n2nΓ(c)Γ(c+n+1)RHS=∞∑n=0(a)n(b)n(a+b+12)nn!∫10(1−z)c−1(2z−z2)ndz=∞∑n=0(a)n(b)n(a+b+12)nn!∫10tc−1(1−t2)ndz(t:=1−z)=12∞∑n=0(a)n(b)n(a+b+12)nn!∫10uc2−1(1−u)ndz(u:=t2)=12∞∑n=0(a)n(b)n(a+b+12)nn!B(c2,n+1)=12∞∑n=0(a)n(b)n(a+b+12)nΓ(c2)Γ(c2+n+1)∴∞∑n=0(2a)n(2b)n(a+b+12)n2nΓ(c)Γ(c+n+1)=12∞∑n=0(a)n(b)n(a+b+12)nΓ(c2)Γ(c2+n+1)両辺に c をかけてガンマ関数の中に入れると次の結果が得られます。
∞∑n=0(2a)n(2b)n(a+b+12)n2nΓ(c+1)Γ(c+n+1)=∞∑n=0(a)n(b)n(a+b+12)nΓ(c2+1)Γ(c2+n+1)
特に必要はありませんが、これを(一般化された)超幾何関数で表すと2F2[2a,2ba+b+12,c+1;12]=2F2[a,ba+b+12,c2+1;1]
今日のお題は調和数 Hn を含む級数ですが、(2)にはそれが見当たりません。実は(2)を c で微分することで調和数が現れるのです。ガンマ関数の微分は Γ′(z)=Γ(z)ψ(z) です。c に関係があるところだけ抜き出して書くとddcΓ(c+1)Γ(c+n+1)=Γ(c+1)Γ(c+n+1)[ψ(c+1)−ψ(c+n+1)]c=0 の微分係数はddcΓ(c+1)Γ(c+n+1)|c=0=1n![ψ(1)−ψ(n+1)]∴ddcΓ(c+1)Γ(c+n+1)|c=0=−Hnn!同じく(2)右辺の微分もddcΓ(c2+1)Γ(c2+n+1)|c=0=−12Hnn!したがって(2)の両辺を微分して c=0 とした場合の式は
∞∑n=0(2a)n(2b)n(a+b+12)nn!Hn2n=12∞∑n=0(a)n(b)n(a+b+12)nn!Hn
先ほどと同様の手法で次の補題を示しておきます。
∞∑n=1(a)n(a+b)nHn=a+b−1b−1[ψ(a+b−1)−ψ(b−1)]
【証明】先ほどと同様の微分を行います。(c)n をガンマ関数に書き直しておくのがポイントです。ddc2F1[a,ca+b;1]=ddc∞∑n=0(a)n(a+b)nn!Γ(c+n)Γ(c)=∞∑n=0(a)n(a+b)nn!Γ(c+n)Γ(c)[ψ(c+n)−ψ(c)]c=1 として∴ddc2F1[a,ca+b;1]|c=1=∞∑n=1(a)n(a+b)nHn一方、ガウスの超幾何定理を微分した場合はddc2F1[a,ca+b;1]|c=1=ddcΓ(a+b)Γ(b−c)Γ(b)Γ(a+b−c)|c=1=−Γ(a+b)Γ(b−c)Γ(b)Γ(a+b−c)[ψ(b−c)−ψ(a+b−c)]|c=1=Γ(a+b)Γ(b−1)Γ(b)Γ(a+b−1)[ψ(a+b−1)−ψ(b−1)]=(a+b−1)(b−1)[ψ(a+b−1)−ψ(b−1)]よって(6)は示されました。【証明終】
(5)が今回の結論となる定理であり、適宜 a,b に値を代入して具体的な級数値を得ます。
まず b=1 とおくと(5)は∞∑n=0(2a)n(n+1)(a+32)nHn2n=12∞∑n=0(a)n(a+32)nHn右辺に(6)を用いると
∞∑n=1(2a)n(n+1)(a+32)nHn2n=(a+12)[ψ(a+12)−ψ(12)]
さらに(8)で a=1,2,12,32,52,14 を代入して次の系を得ます。
∞∑n=1(2)n(n+1)(52)nHn2n=3∞∑n=1(4)n(n+1)(72)nHn2n=203∞∑n=1Hn2n=2ln2∞∑n=1(n+1)Hn2n=2+4ln2∞∑n=1Hn2n=2ln2∞∑n=1(n+1)(n+4)Hn2n=18+24ln2∞∑n=1(12)n(n+1)(74)nHn2n=38π−34ln2
ディガンマ関数 ψ(z) の特殊値については
【γ9】ディガンマ関数の相反公式・倍数公式と特殊値・ゼータ関数(ガンマ関数の基礎シリーズ9)
が参考になります。
(5)を再掲します。∞∑n=0(2a)n(2b)n(a+b+12)nn!Hn2n=12∞∑n=0(a)n(b)n(a+b+12)nn!Hnこの a を a2 に、b を 1−a2 と置き換えると∞∑n=0(a)n(1−a)n(n!)2Hn2n=12∞∑n=0(a2)n(1−a2)n(n!)2Hn補題(6)を示したときと同様にして(10)の右辺を計算します。まず超幾何関数を級数表示して微分を実行するとddc2F1[a2,1−a2c;1]|c=1=−∞∑n=1(a2)n(1−a2)n(n!)2Hnよって(10)は∞∑n=0(a)n(1−a)n(n!)2Hn2n=−12ddc2F1[a2,1−a2c;1]|c=1ガウスの超幾何定理を用いて∞∑n=0(a)n(1−a)n(n!)2Hn2n=−12ddc2F1[a2,1−a2c;1]|c=1=−12ddcΓ(c)Γ(c−12)Γ(c−a2)Γ(c−1−a2)|c=1=−12Γ(c)Γ(c−12)Γ(c−a2)Γ(c−1−a2)[ψ(c)+ψ(c−12)−ψ(c−a2)−ψ(c−1−a2)]|c=1=√π2Γ(1−a2)Γ(1+a2)[ψ(1−a2)+ψ(1+a2)−ψ(1)−ψ(12)]以上より
∞∑n=1(a)n(1−a)n(n!)2Hn2n=√π2Γ(1−a2)Γ(1+a2)[ψ(1−a2)+ψ(1+a2)−ψ(1)−ψ(12)]
これに a=1/2 を代入すると∞∑n=1(12)n(12)n(n!)2Hn2n=√π2Γ2(34)[2ψ(34)−ψ(1)−ψ(12)]左辺のポッホハマー記号を階乗記号に直し、右辺にはディガンマ関数に値を代入し、さらにガンマ関数の相反公式で Γ(1/4) に変換すると∞∑n=1(2n−1)!!2(n!)2Hn8n=Γ2(14)4π√π[π−4ln2]左辺の分母分子に (2n)!!2 をかけると
∞∑n=1(2nn)2Hn32n=Γ2(14)4√π(1−4ln2π)
また(12)に a=13 を代入すると∞∑n=1(13)n(23)n(n!)2Hn2n=√π2Γ(56)Γ(23)[ψ(56)+ψ(23)−ψ(1)−ψ(12)]左辺は先ほどと同様にポッホハマー記号を階乗記号に書き直して、分母分子に (3n)!!! をかけます。右辺はガンマ関数の2倍公式と相反公式Γ(13)Γ(56)=213√πΓ(23)Γ(13)Γ(23)=2π√3を用いて書き直し、ディガンマ関数は値を代入します。すると次の結論を得ます。
∞∑n=1(3n)!(n!)3Hn54n=Γ3(13)273π(√3−9ln32π)
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