【3】無限積の絶対収束と複素数の扱い

無限積の理論シリーズ第3回。複素数の無限積について、実数と同様にできることと、気を付けなければいけないことを解説します。また絶対収束という概念を絡めながら、無限積と無限級数の収束性におけるつながりについても説明します。例題もたくさんあります。

前回はこちら:

【2】無限積と級数の関係と収束性

絶対収束の定義

定義3.1

無限積 $\prod (1+|z_n|)$ が収束するとき、$\prod(1+z_n)$ は絶対収束するという。

のちに示すように、絶対収束する無限積は必ず収束します(後述)。ただし、収束するが絶対収束しないケースはあり、これを条件収束といいます。

複素数の無限積

高等学校でも無限積の問題はときどき出てきます。そこでは、よく対数をとって議論したのではないでしょうか。$a_n\neq -1$ を満たす無限積 $\prod (1+a_n)$ を考えるために $\sum\ln(1+a_n)$ を計算する(あるいはその逆)のですね。

これができる前提として、部分積が $P_n\to P\neq 0$ に収束するなら $\ln P_n\to \ln P$ であり、部分和 $\ln P_n\to L$ に収束するなら $P_n\to e^L >0$ となっている必要があります。そして実数の世界では当然そのようになっています。

しかし $a_n$ がより一般に複素数だとしたらどうでしょう。

ここでは $\ln$ を実数の対数関数、$\log$ を多価の複素関数、$\mathrm{Log}$ を主値(偏角 $-\pi<\t\le\pi$)とします。$\log$ だと無数の偏角があり得るので、基本的に主値をとることにします。

$z_k=ke^{i\frac{\pi}{k}}$ とし、積 $\prod z_n$ , およびその対数をとったもの$\sum \mathrm{Log}z_n$ を考えましょう。このとき部分積の列の4番目は\begin{equation}P_4=z_1z_2z_3z_4=24e^{i\pi\frac{25}{12}}\tag{1}\end{equation}なので主値の対数をとると\begin{equation}\mathrm{Log}P_4=\ln24+\frac{i\pi}{12}\tag{2}\end{equation}しかし対数をとった部分和は\begin{equation}S_4=\sum_{k=1}^4\mathrm{Log}z_k=\ln24+i\pi\frac{25}{12}\tag{3}\end{equation}$$\therefore\quad S_4\neq \mathrm{Log}P_4$$

このように部分積とその対数を考えると偏角が合わなくなっています。つまり部分積をとってから対数をとればその偏角は $-\pi<\t\le\pi$ に収まるのに対し、対数を足し上げた場合は偏角もどんどん足されてしまって $2\pi i$ の整数倍だけ違ってしまうのです。とすると上述した、高校数学のような方法は使えないのでしょうか。このあたりを意識して次の定理を見てみましょう。

定理3.2

複素数項 $z_n\neq 0$ として$$P_n:=\prod_{k=1}^n z_k \;,\; S_n:=\sum_{k=1}^n \mathrm{Log}\:z_k$$と定義する。$P_n$ が収束することと $S_n$ が収束することは同値である。また $S_n\to S$ ならば $P_n\to e^S$ となる。

【証明】定義より $n$ に応じて整数 $k_n$ が存在して\begin{equation}S_n=\mathrm{Log}\: P_n+2\pi k_n i\tag{4}\end{equation}と書ける。

(A) $S_n\to S$ であるとき$$e^{S_n}=e^{\mathrm{Log} P_n+2\pi k_n i}=P_n$$より $P_n$ も収束して $P_n\to e^S$ である。

(B) $P_n\to e^S$ である場合、ここの定理1.4から$$\frac{P_n}{P_{n-1}}\to 1$$より、ある $N\in\NN$ より大きな $n$ では主値における偏角 $\mathrm{Arg} P_n$ と $\mathrm{Arg} P_{n-1}$ の差を $\pi$ 未満にできる。 よって偏角の範囲を注意深く見れば\begin{eqnarray*}\mathrm{Log}\: z_n&=& S_n-S_{n-1}\\&=& \mathrm{Log}P_n-\mathrm{Log}P_{n-1}+2\pi(k_n-k_{n-1})i \\&=& \mathrm{Log}P_n-\mathrm{Log}P_{n-1} \end{eqnarray*}となる。$$\therefore\quad S_n-S_{n-1}=\begin{cases}\mathrm{Log}P_n-\mathrm{Log}P_{n-1}\quad(\forall n> N)\\[1em] \mathrm{Log}P_n-\mathrm{Log}P_{n-1}+2\pi(k_n-k_{n-1})i\quad(\forall n\le N)\end{cases}$$よって自然数の定数 $K$ が存在して\begin{eqnarray*}S_n &=& \mathrm{Log}P_1+(\mathrm{Log}P_2-\mathrm{Log}P_1)+\cdots+(\mathrm{Log}P_n-\mathrm{Log}P_{n-1})+2\pi K i \\&=& \mathrm{Log}P_n+2\pi K i\end{eqnarray*}よって $S_n$ は $\mathrm{Log}P+2\pi K i$ に収束。【証明終】

ということで(A)にあるように対数をとって計算してよいことになりますが、先に無限積が分かっているケース(B)では注意が必要です。次がいい例です。

例題3.1

\begin{eqnarray*}P &=& \prod_{n=1}^\infty e^{-\frac{i\pi}{2^n}}\\ S &=& \sum_{n=1}^\infty\mathrm{Log}\:e^{-\frac{i\pi}{2^n}}\end{eqnarray*}

$$P_n=\prod_{k=1}^n e^{-\frac{i\pi}{2^k}}=e^{-i\pi(1-\frac{1}{2^n})}$$$$\therefore\quad P=e^{-i\pi}=-1\;,\;\mathrm{Log}P=\pi i$$主値なので $-\pi<\mathrm{Arg}P\le\pi$ であることに注意しましょう。

一方このとき $-\pi<-\frac{i\pi}{2^k}\le\pi$ から$$S_n=\sum_{k=1}^n\mathrm{Log}\:e^{-\frac{i\pi}{2^k}}=-\sum_{k=1}^n\frac{i\pi}{2^k}\to -\pi i$$$$\therefore\quad S=-\pi i\;\left(=\mathrm{Log}P-2\pi i\right)$$定理3.2で見たように $P=e^S$ ではありますが、$S\neq\mathrm{Log}P$ となっています。

無限積と級数をつなぐ

次の定理により、無限級数の収束性が、考えたい無限積の対数をとってできる級数の収束性へ結び付けられます。

定理3.3

$z_n\neq -1$ とする。$\sum |z_n|$ が収束するなら $\sum |\mathrm{Log}(1+z_n)|$ も収束する。

【証明】$\sum |z_n|$ が収束するならここの定理2より $|z_n|\to 0$ なので、十分大きな $n$ で常に $|z_n|<\frac{1}{2}<1$ であるから\begin{eqnarray*}|\mathrm{Log}(1+z_n)| &=& \left|\sum_{m=1}^\infty\frac{(-1)^{m-1}}{m}z_n^{~m}\right|\\ &\le &\sum_{m=1}^\infty\frac{|z_n|^m}{m} \\&<& \sum_{m=1}^\infty |z_n|^m \\&=& \frac{|z_n|}{1-|z_n|}\quad(\because |z_n|<1)\\&<& 2|z_n|\quad(\because |z_n|<1/2)\end{eqnarray*}比較判定法より $\sum |\mathrm{Log}(1+z_n)|$ は収束。【証明終】

定理3.4

$z_n\neq -1$ とする。$\prod(1+z_n)$ が絶対収束するならば、収束する。

【証明】 $\prod(1+|z_n|)$ が収束するので定理2.1により $\sum |z_n|$ も収束。よって定理3.3より $\sum |\mathrm{Log}(1+z_n)|$ も収束するので $\sum \mathrm{Log}(1+z_n)$ も収束。したがって定理3.2より $\prod(1+z_n)$ は収束する。【証明終】

系3.5

$z_n\neq -1$ とする。$\sum z_n$ が絶対収束するなら $\prod(1+z_n)$ も収束する。

証明は、定理3.4の証明に含まれている。

つまり級数の絶対収束性から、対応する無限積の収束性が調べられるということです。系3.5で気を付けるべきは、$\sum z_n$ が絶対収束しなくても、$\prod(1+z_n)$ は収束することがあるということです。$n\ge 2$ で $z_n=\frac{(-1)^n}{n}$ とするのがその例です。詳細は次回以降、条件収束に関する部分で説明します。系3.5をパワーアップしたのが後述の定理3.6です。

例題3.2

$s,\t\in\RR$ , $s>1$ とする。次の2つの関数\begin{eqnarray*}f(\t,s)&:=&\prod_{n=1}^\infty\left(1+\frac{\cos n\t}{n^s}\right) \\ g(\t,s)&:=&\prod_{n=1}^\infty\left(1+\frac{\sin n\t}{n^s}\right)\end{eqnarray*}は収束するか。

こちらで証明したとおり $s>1$ で $\sum\frac{1}{n^s}$ は収束するので$$\sum_{n=1}^\infty\frac{\cos n\t}{n^s}\;,\;\sum_{n=1}^\infty\frac{\sin n\t}{n^s}$$はそれぞれ絶対収束する。よって系3.5より2つの関数は(0以外に)収束する。なお $n=1$ において因数 $0$ が現れる場合は、取り決めどおり $n=2$ からの収束性を考えると、同じ結論を得る。

定理3.6

$\sum z_n$ が絶対収束することと、$\prod (1+z_n)$ が絶対収束することは同値である。

【証明】定理2.1よりただちに従う。【証明終】

これからも系3.5がすぐ示せます。

絶対収束とかけ合わせる順番

級数のときと同様、絶対収束する無限積は、順番を好きに変えることができます。

定理3.7

$\prod (1+z_n)$ が絶対収束するなら、積の順を変えても値は不変である。

【証明】$\prod (1+z_n)=P$ とその並び替えた無限積 $\prod (1+w_n)=P'$ を考える。もとの無限積が絶対収束するので定理2.1より $\sum |z_n|$ も収束。定理3.3より $\sum |\mathrm{Log}(1+z_n)|$ も収束、すなわち $\sum \mathrm{Log}(1+z_n)$ が絶対収束する。絶対収束する級数は並べ替えてよいので 並べ替えて $\sum \mathrm{Log}(1+w_n)$ を作る。

いま $\sum \mathrm{Log}(1+z_n)=S$ とおくと $\sum \mathrm{Log}(1+w_n)=S$ である。定理3.2より $P'$ もやはり収束して $P=P'=e^S$【証明終】

計算練習

本記事に関するものと、前回までの記事で掲載できなかったものを例題としています。

例題3.3

$$\sum_{n=2}^\infty\left[\mathrm{Log}\left(1+\frac{i}{n}\right)-\frac{i}{n}\right]$$は絶対収束することを示せ。

\begin{eqnarray*}\left|\mathrm{Log}\left(1+\frac{i}{n}\right)-\frac{i}{n}\right| &=&\left|\sum_{m=1}^\infty\frac{(-1)^m i^{n+1}}{(m+1)n^{m+1}}\right| \\&\le& \frac{1}{n^2}\sum_{m=1}^\infty\frac{1}{(m+1)n^{m-1}} \\&<& \frac{1}{n^2}\sum_{m=1}^\infty\frac{1}{n^{m-1}}\\&=&\frac{1}{n(n-1)}\\&\le& \frac{2}{n^2}\end{eqnarray*}$\sum\frac{2}{n^2}$ は収束するので$$\sum_{n=2}^\infty\left[\mathrm{Log}\left(1+\frac{i}{n}\right)-\frac{i}{n}\right]$$は絶対収束する。

※この級数はガンマ関数と関係があります。$$\log\G(z)=-\g z-\log z-\sum_{n=1}^\infty\left[\log\left(1+\frac{z}{n}\right)-\frac{z}{n}\right]$$

例題3.4

$P=\displaystyle\prod_{n=1}^\infty n^\frac{1}{n^2}$ は収束するか。

対数をとって $S:=\sum_{n=1}^\infty \frac{\ln n}{n^2}$ の収束性を調べる。ラーベの収束判定法より\begin{eqnarray*}n\left(\frac{ \frac{\ln n}{n^2}}{ \frac{\ln (n+1)}{(n+1)^2}}-1\right) &=& \frac{(n+1)^2\ln n-n^2\{\ln(1+\frac{1}{n})+\ln n\}}{n\{\ln(1+\frac{1}{n})+\ln n\}}\\ &=& \frac{2+\frac{1}{n}-\frac{\ln(1+\frac{1}{n})^n}{\ln n}}{\frac{\ln(1+\frac{1}{n})^n}{n\ln n} +1}\to 2>0\end{eqnarray*}よって $S$ は収束するので定理3.2より $P$ も収束する。

※この積の値はGlaisher–Kinkelin定数 $A$ を用いて$$\prod_{n=1}^\infty n^\frac{1}{n^2}=\left(\frac{A^{12}}{2\pi e^\g}\right)^\frac{\pi^2}{6}$$この証明はこちら

例題3.5

$$P:=\prod_{n=1}^\infty \left(1+\frac{(-1)^n}{n+1}\right)$$を求めよ。

積を書き下してみると $P_{2n-1}=1/2$ , $P_{2n}=\frac{2n+2}{2(2n+1)}$ となる。よって $P=1/2$ .

例題3.6

$$P:=\prod_{n=1}^\infty n\ln\left(1+\frac{1}{n}\right)$$は収束するか。

$$P=\prod_{n=1}^\infty \left\{1-\left(1-n\ln\left(1+\frac{1}{n}\right)\right)\right\}$$対数のマクローリン展開によって$$\ln(1+x)-x \sim -\frac{x^2}{2}\quad(x\to +0)$$で $x=1/n$ とすれば$$n\ln\left(1+\frac{1}{n}\right)-1\sim -\frac{1}{2n}\quad(n\to\infty)$$limit comparison testにより$$\sum\left\{1-n\ln\left(1+\frac{1}{n}\right)\right\}\to +\infty$$定理2.3より $P$ は発散する。

例題3.7

$$P(x):=\prod_{n=1}^\infty\left\{1+\left(\frac{nx}{n+1}\right)^n\right\}$$が絶対収束する $x\in\RR$ の範囲を求めよ。

定理3.6より$$S(x):=\sum_{n=1}^\infty\left|\frac{nx}{n+1}\right|^n$$が収束する範囲を求めればよい。ダランベールの収束判定法により\begin{eqnarray*}\left|\frac{a_{n+1}}{a_n}\right| &=&\frac{\{(1+\frac{1}{n})^n\}^2 (1+\frac{1}{n})}{\{(1+\frac{2}{n})^\frac{n}{2}\}^2(1+\frac{2}{n})}|x|\\&\to& |x|\end{eqnarray*}よって $|x|<1$ で絶対収束し、$|x|>1$ で絶対収束しない。また $|x|=1$ では$$S(x)=\sum_{n=1}^\infty\left(1+\frac{1}{n}\right)^{-n}$$となるが、$$\left(1+\frac{1}{n}\right)^{-n}\to\frac{1}{e}\neq 0$$より発散する。

次回へ続きます。

【4】条件収束する無限積の収束性(Cauchy's test)

参考文献

[1] Charles H.C.Little, Kee L.Teo, Bruce van Brunt, "An Introduction to Infinite Products" (2022) 楽天はココ

無限積だけで1冊の本。入門からスタートするので安心です。

[2] E.C.Titchmarsh, "The Theory of Functions"

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