【6】複素関数の無限積・一様収束と正則性

無限積の理論シリーズ第6回。前回までで無限積に関する基本理論は一通り終わりました。今回は関数の無限積を考えます。といっても、収束性についてはこれまで見てきたものと大差なく、一様収束くらいを押さえればOK。

前回はこちら:

【5】条件収束する無限積の収束性2(積の順序・Pringsheim's Test・regularly convergent)

関数の無限積と一様収束性

関数の部分積の列の極限が、無限積の値(関数)となります。つまり \begin{equation}P_n(z)=\prod_{n=1}^\infty(1+f_n(z))\;,\; P(z)=\lim_{n\to\infty}P_n(z)\tag{1}\end{equation}です。$\{P_n\}$ は、数列と違って関数列なので、ある $z$ については収束しても、別の点 $z'$ では収束しないことも考えられます。また、定義域の各 $z$ で収束したとしても、一様収束でないために、$P_n$ の性質が $P$ に引き継がれないこともあります。このあたりの話や連続性等の関数の性質については、本記事では前提知識とします。実数の話に限定されてはいますが、関数列を扱った記事をご覧いただいてもよいと思います:

【ε論法】関数列の各点収束と一様収束

【ε論法】関数列が一様収束でないことの証明

【ε論法】一様コーシーな関数列と一様収束性

複素関数の無限積の収束性については[1]に細かく書かれている一方、[2]では「これまでの話で、収束を一様収束と読みかえとけ」という感じの一言で終わりです。本記事ではその中間くらいをとりますが、紆余曲折ありながら理解した名残で、整理があまりできていません。細かい話が面倒なら、雰囲気だけ掴んで、次の記事の具体的な計算から見ていただいてもいいかと思います。

複素関数の性質や集合について

関数が複素平面のある点で微分可能のとき、その点で解析的といいます。複素数の世界で微分可能である場合、無限回微分可能であることになり、テイラー展開ができます。定義域内のすべての点で微分係数を持つ複素関数を解析関数とか正則関数といい、$\CC$ 全体で解析的である関数を整関数とよびます。解析関数どうしの和や積はまた解析関数です([2] p25)。また、以下でもあらわれる「コンパクト」という概念ですが、$\RR$ や $\CC$ のコンパクト集合とは有界閉集合にほかなりません。([1] p17, [2] p62, [3] p14)。

以下、$\Omega\subset\CC$ としておきます。$\Omega$ が連結な開集合なら領域(domain)とよばれます( $\CC$ 自身も領域)。領域とその領域の集積点(の一部か全部)の和集合をregionといいます。なかでも集積点を全て含んでいるものは閉領域といいます([1] p17)。

複素関数の(広義)一様収束性

定理6.0

① $\CC$ の部分集合 $\Omega$ で定義される関数列 $\{f_n\}$ が $\Omega$ 上で $f$ に一様収束するとは$$\forall\epsilon>0,\exists N\in\NN,\forall n\ge N,\forall z\in\Omega\;,\;|f_n(z)-f(z)|<\epsilon$$ということである。

② 領域 $\Omega$ 上の関数列 $\{f_n\}$ が $\Omega$ 上で $f$ に広義一様収束(uniformly convergent on compacts)するとは、$\Omega$ の任意のコンパクト部分集合に対して $f$ に一様収束することである([4] p47)。

③ 連続関数列が(広義)一様収束する先の関数も連続である。

実関数と大差ないと思います。②は一様収束よりも弱い条件ですが、便利です。関数列が一様収束するならば、広義一様収束します。一様収束は関数列の性質を保つものであり、一例として、連続性について③で言及しました。

広義一様収束は、一見すると各点収束に似ていますが、非なるものです。各点収束はあくまで一点一点の収束ですが、広義一様収束は開集合のなかの任意の有界閉集合についてですから、1点でなくて、多少とも広がりのある円板での収束を論じています。

無限積でできた関数の解析性

複素関数列の一般的な性質として次の定理を認めておきます。

定理6.1

領域 $\Omega$ の正則関数列 $\{f_n\}$ が、$\Omega$ で $f$ に広義一様収束するならば、$f$ も $\Omega$ で正則である([1] p18,[3] p99, [4] p48)。

☆さらに、関数列の任意回の微分係数の列 $\{f_n^{(k)}\}$ も $f^{(k)}$ に広義一様収束する([4] p49)。【ワイエルシュトラスの二重級数定理から導かれる】

一様収束性は、解析的という性質を保持します。あと、一様収束のうれしいところをいえば、極限操作の入れ替えができるということでしょう。

定理6.2

$\Omega$ 上で有界な関数列 $\{f_n\}$ , $\{g_n\}$ がそれぞれ $f,g$ に一様収束するとき、$\{f_ng_n\}$ も $fg$ に一様収束する([1] p12)。

関数の一様収束の定義に従えば、定理6.2を容易に示せます。一様収束する解析関数の積も解析的であるということは、ひとまず有限個の積 $P_n$ が解析的であることを保証します。

定理6.3

$\Omega$ 上で $g$ に一様収束する関数列 $\{g_n\}$ がある。また$$R_g:=\{g_n(z)|\forall n\in\NN\;,\;z\in\Omega\}\cup\{g(z)|z\in\Omega\}$$とする。$R_g\supseteq J$ なる $J$ 上で一様連続な関数 $f$ があって、関数列 $\{f_n\}$ が$$f_n(z)=f(g_n(z))\quad,\quad\forall z\in\Omega$$と定められるとき、$\{f_n\}$ は $\Omega$ 上で $f(g(z))$ に一様収束する([1] p13)。

要は、関数列を何かの関数に放り込んで新たな関数列をつくると、それも一様収束ということです。

定理6.1において、(1)の関数列 $\{P_n\}$ を考えれば、ただちに次を得ます。

定理6.4

関数列 $\{f_n\}$ は領域 $\Omega$ で正則とする。$\prod (1+f_n(z))$ が $\Omega$ 上で $P$ に広義一様収束するならば、$P$ は $\Omega$ で解析的である。

これで無限積が解析的となる条件が与えられました。

級数の一様収束性を用いる方法

定理6.4では無限積の一様収束性を論じる必要があり、難しそうです。そこで思い出したいのは、無限積は対数をとると無限級数になるのでした。以下、定理6.5と6.6では、無限積のすべての因子は、任意の $z$ について $0$ でないとします。

定理6.5

$\Omega$ で定義される有界な関数列 $\{f_n\}$ について、$\sum\log f_n(z)$ が $\Omega$ 上で有界な関数に一様収束するならば、$\prod f_n(z)$ も有界な関数に一様収束する。

【証明】$\sum\log f_n(z)=S(z)$ (有界)とする。指数関数はコンパクト集合上で一様連続である。定理6.3で $f(z)=e^z$ , $g_n(z)=\sum_{k=1}^n\log f_n(z) $ とおけば、有界な $R_g$ を適当なコンパクト集合に含むことができる。よって$$\prod_{k=1}^n f_k(z)=e^{\sum_{k=1}^n \log f_k(z)}\xrightarrow[]{n\to\infty}e^{S(z)}\neq0$$【証明終】

定理6.4と6.5より直ちに次を得ます。

定理6.6

領域 $\Omega$ 上で有界かつ解析的な関数列 $\{f_n\}$ があるとする。$\sum\log f_n(z)$ が $\Omega$ 上に、有界な関数へ一様収束するならば、$\prod f_n(z)$ も $\Omega$ 上で解析的である。

なぜこのような話をするのかというと、解析的な関数の無限積が解析的でない場合、微分ができないとか級数展開できないといった問題が起こってきます。そのため、無限積でできた関数が果たして解析的なのかを判断することが重要になります。根本は定理6.1にあり、一様収束性によって解析的という性質が保持されます。そこから話を具体化して、定理6.6は、無限積の正則性を無限級数の一様収束性で判定しています。

次の定理は前回までの記事でも見たような形をしており、非常に大切です。

定理6.7

$\Omega$ 上で定義される有界な解析関数の列 $\{f_n\}$ があるとする。$\sum_{n=1}^\infty|f_n(z)|$ が $\Omega$ 上で有界な関数に一様収束するとする。このとき $\prod_{n=1}^\infty (1+f_n(z))$ は $\Omega$ 上に、有界な解析関数 $P$ に絶対一様収束する。

さらに$$\exists z\in\Omega\;,\;P(z)=0\Longleftrightarrow \exists n\in\NN\;,\; 1+f_n(z)=0$$が成立する。

【証明】仮定より $|f_n(z)|\to 0$ に一様収束するので([1] p14), $$\forall z\in\Omega,\;\exists N,\;\forall n\ge N,\;|f_n(z)|<\frac{1}{2}$$とできる。ここで\begin{eqnarray*}|\log(1+|f_n(z)|)| &=& \left|\sum_{m=1}^\infty\frac{(-1)^{m-1}}{m}|f_n(z)|^m\right|\\&\le&\sum_{m=1}^\infty\frac{1}{m}|f_n(z)|^m\\&=&|f_n(z)|\sum_{m=0}^\infty|f_n(z)|^m\\&\le&|f_n(z)|\sum_{m=0}^\infty\frac{1}{2^m}\\&=& 2|f_n(z)|\end{eqnarray*}\begin{equation}\therefore\quad|\log(1+|f_n(z)|)|\le2|f_n(z)|\quad(\forall n\ge N)\tag{2}\end{equation}また仮定から一様コーシー性より$$\forall\epsilon>0,\;\exists M\in\NN,\;\forall p\ge\forall q\ge M,\;\sum_{n=q}^p|f_n(z)|<\epsilon$$(2)に適用すると、$N_1=\max\{M,N\}$ として$$\sum_{n=q}^p|\log(1+|f_n(z)|)|<2\epsilon\quad(p\ge q\ge N_1)$$よって $\sum_{n=N_1}^\infty|\log(1+|f_n(z)|)|$ は一様収束であり、三角不等式により$$\sum_{n=N_1}^\infty\log(1+|f_n(z)|)$$も一様収束する。(2)より $\sum|f_n|$ と比較すれば $\sum\log(1+|f_n(z)|)$ も有界。よって定理6.6より $\prod (1+f_n(z))$ は有界な解析関数に絶対収束して$$P(z)=\prod_{n=1}^\infty (1+f_n(z))$$後半の命題について、$n\ge N$ で $1+f_n(z)\neq 0$ であることに注意すれば、$P(z)=0$ なる $z$ があるとすれば、それは有限の部分積にゼロがあるということから明らかである。【証明終】

定理6.7は数列の無限積のときと同じ形をしており、級数が絶対収束するならば、対応する無限積は収束するというものです。今は関数列を扱っているので、収束を一様収束と言い換えているだけです。

定義域内の任意のコンパクト集合(この中では関数列は必ず有界)において定理6.7を適用すれば、

定理6.8

$\Omega$ 上で定義される解析関数の列 $\{f_n\}$ があるとする。$\sum_{n=1}^\infty|f_n(z)|$ が $\Omega$ 上で広義一様収束するとする。このとき $\prod_{n=1}^\infty (1+f_n(z))$ は $\Omega$ 上に、解析関数 $P$ に広義絶対一様収束する。

さらに$$\exists z\in\Omega\;,\;P(z)=0\Longleftrightarrow \exists n\in\NN\;,\; 1+f_n(z)=0$$が成立する。

となります。ほかの定理でも、一様収束を広義一様収束に置き換え、あれば有界という語を消すことで同様の言い換えが可能なものがあります。

例題6.1

$|c|<1$ とする。$$P(z)=\prod_{n=1}^\infty (1+c^nz)$$は整関数(全平面で解析的)であることを示せ。

$f_n(z)=c^n z$ は整関数だが、有界でないので定理6.8による。部分積$$P_n(z)=\prod_{k=1}^n(1+c^kz)$$は整関数である。そこで任意の点 $z_0$ について、その点を内部に含む半径 $R$ の閉領域 $|z|\le R$ を考えると$$\sum|f_n(z)|<R\sum|c^n|=\frac{R}{1-|c|}$$であり、この閉領域内で $f(z)=0$ に一様収束する。定理6.1からこの閉領域内で $P$ は解析的。$z_0,R$ はまったく任意であったから $P$ は整関数といえる。

展開式に着目した場合

定理6.8よりも直接的な定理を紹介します([6] §57-253)。定理6.8でいう「解析関数」とは集合内の各点のまわりでテイラー展開できる関数ということです。部分積$ P_n(z)$ は解析関数の積ですから、やはり解析関数です。よって $P_n(z)$ はテイラー展開できます。定理6.8から無限積 $P(z)$ もやはりテイラー展開できます。そのあたりに注意してみてください。

定理6.9

$\Omega$ 上で定義される正則関数の列 $\{f_n\}$ があって、$\sum_{n=1}^\infty|f_n(z)|$ が $\Omega$ 上で広義一様収束するとする。$\Omega$ 内の点 $z_0$ に対して部分積が$$P_k(z):=\prod_{m=1}^k(1+f_m(z))=\sum_{j=0}^\infty a_j^{(k)}(z-z_0)^j$$と展開されるとき、$$\lim_{k\to\infty}a_j^{(k)}=a_j$$なる極限が各 $j$ で存在して、無限積は$$P(z):=\prod_{n=1}^\infty(1+f_n(z))=\sum_{n=0}^\infty a_n(z-z_0)^n$$となる。

これは無限積に限った話ではなく、一般に、正則関数列 $\{f_n\}$ が $f$ に広義一様収束するならば、$f_n$ をテイラー展開したときの係数それぞれが $f$ のテイラー展開した係数へ収束するというものです[7]。もともとワイエルシュトラスの二重級数定理([6] §56, [9] p70)というものがあって、それの階差関数列をとって示されます。あるいは定理6.1☆を用いてもいいです。つまり$$f_n(z)=a_{n,0}+a_{n,1}(z-z_0)+a_{n,2}(z-z_0)^2+\cdots$$$$f(z)=a_0+a_1(z-z_0)+a_2(z-z_0)^2+\cdots$$で微分と $z=z_0$ の代入を繰り返せばいいです。本来はワイエルシュトラスの定理から6.1☆を導くのかもしれませんが・・・。

例題6.2

$\sum|a_n|<+\infty$ とする。$$P(z)=\prod_{n=1}^\infty (1+a_nz)$$は整関数(全平面で解析的)であることを示せ[6]。

部分積は多項式なので正則。よって定理6.9より従う。なお $P(z)$ の級数展開式$$P(z)=1+A_1z+a_2z^2+A_3z^3+\cdots$$において\begin{eqnarray*}A_1 &=& \sum_{n=1}^\infty a_n\\ A_2 &=& \sum_{n_1<n_2}a_{n_1}a_{n_2} \\ A_3 &=& \sum_{n_1<n_2<n_3}a_{n_1}a_{n_2}a_{n_3}\\& \vdots&\end{eqnarray*}

次回は実関数の無限積の具体例を見ていきます。

【7】関数列の無限積における具体例(ヴィエトの公式・ゼータ関数)

参考文献

[1] Charles H.C.Little, Kee L.Teo, Bruce van Brunt, "An Introduction to Infinite Products" (2022) 楽天はココ

無限積だけで1冊の本。入門からスタートするので安心です。第1章で級数のおさらいもあります。

[2]アールフォルス. (1982). 複素解析. 現代数学社.

複素解析の超定番本です。


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複素解析(楽天ブックス) [3]Bak, J., & Newman, D. J. (2017). Complex analysis. Springer.
豊富な計算例があって、応用がききます。


Complex Analysis (Undergraduate Texts in Mathematics) (English Edition)
[4]松澤 寛. 複素関数論Ⅱ講義資料. https://www.sci.kanagawa-u.ac.jp/math-phys/hmatsu/ComplexAnalysis2-book-2023.pdf (2023/7/21アクセス)

[5]緒方 秀教. 楕円関数論番外編(4) 無限乗積で与えられる複素関数. http://www.uec-ogata-lab.jp/wp-content/uploads/2020/12/elliptic_function_appendix04.pdf(2023/7/21アクセス)

[6] Knopp, K. (1951). Theory and Application of Infinite Series.

[7] 柳田伸太郎. 現代数学基礎 CIII 11 月 07 日分演習問題. https://www.math.nagoya-u.ac.jp/~yanagida/19W/20191107e.pdf(2023/7/21アクセス)

[8] 桂田 祐史. 続 複素関数. http://nalab.mind.meiji.ac.jp/~mk/lecture/applied-complex-function-2020/zoku-complex-function-2020.pdf(2023/7/21アクセス)

[9] Weierstrass, K. (1894). Mathematische Werke von Karl Weierstrass.

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