無限級数の収束性4(順序交換と絶対収束)

前回まではこちら(前提知識として必要):

無限級数の収束性1(コーシー、ダランベールなど)

無限級数の収束性2(クンマーなど)

無限級数の収束性3(アーベル・ディリクレ)

そもそもの数列の基礎やイプシロン論法はこちらから:

【ε論法】数列の収束と極限・例題 ~εとNを使って~

今回は次のテーマとなります

Today's Theme

無限級数の絶対収束性と、級数の順序変更について考える。

$|a_1+a_2+\cdots+a_n|\le |a_1|+|a_2|+\cdots+|a_n|$ より、正項級数 $\sum |a_n|$ が収束すれば原級数 $\sum a_n$ も収束します。このような収束性を絶対収束といいます。参考文献はこちら

本記事は下記の本を参考にしています。古いですが、演習も多く、役に立ちます。少し高額なのが難点。


微分積分学 第1巻―数学解析第一編 (數學解析 第 1編)

絶対収束とは

定義0.1

$\sum |a_n|$ が収束するとき、$\sum a_n$ は絶対収束するという。

詳細は後ほど。

級数の順序交換で値が変わる

次の級数を考えましょう。\begin{equation}S=1-\frac{1}{2}+\frac{1}{3}-\frac{1}{4}+\cdots+\frac{(-1)^{n-1}}{n}+\cdots\tag{1}\end{equation}この級数は $\sum |a_n|\to+\infty$ (調和級数)となるため、定義0.1より絶対収束しませんが、$\ln2$ に収束します(条件収束という)。

もとの級数は符号が交互になっている交代級数ですが、この和の順を変えてみましょう。なお調和数を次のように定義します。\begin{equation}H_n:=1+\frac{1}{2}+\frac{1}{3}+\cdots+\frac{1}{n}\;,\; H_0=0\tag{2}\end{equation}

例1.1

(1)の級数を、正項2個、負項3個を交互にとって並び替えた無限和を $S'$ とする。

少し分かりにくいですが、要は$$S'=\left(1+\frac{1}{3}\right)-\left(\frac{1}{2}+\frac{1}{4}+\frac{1}{6}\right)+\left(\frac{1}{5}+\frac{1}{7}\right)-\left(\frac{1}{8}+\frac{1}{10}+\frac{1}{12}\right)+\cdots$$一見 $S$ と同様の和をとっているように見えます。さて第 $5n$ 項までの有限和 $S_{5n}'$ は、2個ずつの正項のかたまり $n$ 個、3個ずつの負項のかたまり $n$ 個から成るので\begin{eqnarray*}S_{5n}'&=&\left(1+\frac{1}{3}+\cdots+\frac{1}{4n-1}\right)-\left(\frac{1}{2}+\frac{1}{4}+\cdots+\frac{1}{6n}\right)\\&=& \left(1+\frac{1}{2}+\cdots+\frac{1}{4n}\right)-\frac{1}{2}\left(1+\frac{1}{2}+\cdots+\frac{1}{2n}\right)-\frac{1}{2}\left(1+\frac{1}{2}+\cdots+\frac{1}{3n}\right)\\&=&H_{4n}-\frac{1}{2}H_{2n}-\frac{1}{2}H_{3n}\\&=&(H_{4n}-\ln4n)-\frac{1}{2}(H_{2n}-\ln2n)-\frac{1}{2}(H_{3n}-\ln3n)+\frac{3}{2}\ln2-\frac{1}{2}\ln3\end{eqnarray*}ここでオイラー・マスケローニ定数の定義\begin{equation}\g=\lim_{n\to\infty}(H_{n}-\ln n)\tag{3}\end{equation}を使えば$$\lim_{n\to\infty}S'_{5n}=\frac{3}{2}\ln2-\frac{1}{2}\ln3$$$S_{5n+1}'$ , $S'_{5n+2}$ , $S'_{5n+3}$ , $S'_{5n+4}$ で極限をとっても同じ値となります。よって\begin{equation}S'= \frac{3}{2}\ln2-\frac{1}{2}\ln3\neq S\tag{4}\end{equation}級数の値は異なってしまいました。

一般化してみましょう。

例1.2

(1)の級数を、正項 $p$ 個、負項 $q$ 個を交互にとって並び替えた無限和を $S''$ とする。

先ほどと全く同様にやればいいです。有限和 $S''_{(p+q)n}$ は正項 $pn$ 個、負項 $qn$ 個から成るので\begin{eqnarray*}S''_{(p+q)n}&=&\left(1+\frac{1}{3}+\cdots+\frac{1}{2pn-1}\right)-\left(\frac{1}{2}+\frac{1}{4}+\cdots+\frac{1}{2qn}\right)\\&=&H_{2pn}-\frac{1}{2}H_{pn}-\frac{1}{2}H_{qn}\\&=&(H_{2pn}-\ln2pn)-\frac{1}{2}(H_{pn}-\ln pn)-\frac{1}{2}(H_{qn}-\ln qn)+\ln2+\frac{1}{2}\ln\frac{p}{q}\\&&\longrightarrow \ln2+\frac{1}{2}\ln\frac{p}{q} \quad(\mathrm{as}\;n\to\infty)\end{eqnarray*}\begin{equation}S''=\ln2+\frac{1}{2}\ln\frac{p}{q}\tag{5}\end{equation}

これからも分かるように、順序を入れ替えた場合、収束はするものの値が変わってしまいます。(5)で $p,q$ をともに $1$ とすれば交代級数であり、まさに $S$ と同じです。本ケースの雰囲気としては、正項と負項の個数に偏りがあるまま極限をとることにより、値が一定しないようです。(5)では正項と負項の個数の比 $p/q$ で値が決まることが示されています。

面白いことに、うまく順番を変えて任意の実数に収束させることが可能です。「リーマンの再配列定理」によれば、一般の条件収束数列で成立する事実です。本記事では扱いませんが、上記の書籍には証明が書いてあります。

条件収束級数の正項・負項の個数比

収束はするが絶対収束はしないことを「条件収束」といいます。条件収束する級数について、おもしろい事実があります。

定理2.1 Cesàro(1888)?

$\{a_n\}$ は単調減少列かつ $a_n>0$ とする。$\lambda_n=\pm 1$ として無限級数 $S=\sum_{n=1}^\infty \lambda_n a_n$ を考える。この級数が条件収束であるとするとき、はじめの $n$ 項のうち正項の数を $p_n$ 、負項の数を $q_n$ とすると次が成立する。$$\lim_{n\to\infty}\frac{p_n}{q_n}が存在\Longrightarrow\lim_{n\to\infty}\frac{p_n}{q_n}=1$$

正の減少列を並べて、好きに符号をつけて、和をとる。これが条件収束なら云々ということです。

【証明】文章内にある文字を使って有限和を書くところから。下のようにうまく表現できる。\begin{eqnarray*} S_n&:=&\sum_{k=1}^n \lambda_ka_k\\&=& p_1a_1+(p_2-p_1)a_2+\cdots+(p_n-p_{n-1})a_n\\&&-q_1a_1-(q_2-q_1)a_2-\cdots-(q_n-q_{n-1})a_n \\&=& p_1(a_1-a_2)+p_2(a_2-a_3)+\cdots+p_{n-1}(a_{n-1}-a_n)+p_n a_n\\&&-q_1(a_1-a_2)-q_2(a_2-a_3)-\cdots-q_{n-1}(a_{n-1}-a_n)-q_n a_n \\&=&(p_1-q_1)(a_1-a_2)+(p_2-q_2)(a_2-a_3)+\cdots+(p_{n-1}-q_{n-1})(a_{n-1}-a_n)+(p_n-q_n)a_n\end{eqnarray*}ここで題意より $p_n+q_n=n$ なので $\frac{p_n}{q_n}+1=\frac{n}{q_n}$ であるから、$\displaystyle\lim_{n\to\infty}\frac{p_n}{q_n}$ が存在すれば $\displaystyle\lim_{n\to\infty}\frac{n}{q_n}$ も存在する。よって$$\frac{p_n-q_n}{n}=1-2\frac{q_n}{n}$$とすることで$$\frac{p_n-q_n}{n}\to A$$なる値 $A$ が存在すると分かる。

$A>0$と仮定すると、実数の稠密性より $A-\epsilon>0$ なる $\epsilon>0$ が存在する。この $\epsilon$ に対して $\exists N\in\NN$ , $\forall n\ge N$ で$$\left|\frac{p_n-q_n}{n}-A\right|<\epsilon \Rightarrow p_n-q_n> n(A-\epsilon)>0$$となる。したがって次のような評価が可能。\begin{eqnarray*}S_n &=& S_N+(p_{N+1}-q_{N+1})(a_{N+1}-a_{N+2})+\cdots+(p_{n-1}-q_{n-1})(a_{n-1}-a_n)+(p_n-q_n)a_n\\&=& S_N+\sum_{k=N+1}^{n-1}(p_k-q_k)(a_k-a_{k+1})+(p_n-q_n)a_n \\&>& S_N+\sum_{k=N+1}^{n-1}k(A-\epsilon)(a_k-a_{k+1})+n(A-\epsilon)a_n \\&=& S_N+(A-\epsilon)\left[\sum_{k=N+1}^{n-1}k(a_k-a_{k+1})+n a_n\right] \\&>&S_N+(A-\epsilon)\sum_{k=N+1}^{n}a_k \\&=& S_N+(A-\epsilon)\sum_{k=N+1}^{n} |\lambda_ka_k|\end{eqnarray*}$\sum\lambda_n a_n$ は絶対収束しないという条件であったから、$\sum_{k=N+1}^{n} |\lambda_ka_k|\to\infty$ なので $S_n\to\infty$ となって矛盾。同様に $A<0$ としても矛盾。したがって $A=0$ である。

以上から$$\frac{p_n-q_n}{n}\to0\quad,\quad\frac{p_n}{q_n}\to1$$【証明終】

例2.2

$$1+\frac{1}{2}-\frac{1}{3}+\frac{1}{4}+\frac{1}{5}-\frac{1}{6}+\cdots$$は発散する。

正正負正正負…としたもの。各項の絶対値は単調減少列で、絶対収束しません。よってこの数列は条件収束か発散かのいずれかです。絶対収束しないかつ $\displaystyle\lim_{n\to\infty}\frac{p_n}{q_n}$ が存在するという前提の下で、定理2.1の対偶は$$\lim_{n\to\infty}\frac{p_n}{q_n}\neq 1\Rightarrow S_n は発散$$となります。例2.2は $\frac{p_n}{q_n}\to2$ なのでまさにこのケースです。実際に\begin{eqnarray*}S_{3n}&=&\left(1+\frac{1}{2}+\cdots+\frac{1}{3n}\right)-2\left(\frac{1}{3}+\frac{1}{6}+\cdots+\frac{1}{3n}\right) \\&=& H_{3n}-\frac{2}{3}H_n \\&=& (H_{3n}-\ln3n)-\frac{2}{3}(H_n-\ln n)+\ln 3+\frac{1}{3}\ln n \\&&\rightarrow +\infty\end{eqnarray*}

正項級数の順序変更

正負が混じった級数を考えてきましたが、正項級数の場合は次が成立します。

定理3.1

正項級数 $\sum a_n=S$ の順序を変えても、和は $S$ である。

【証明】もとの正項級数は $S$ に収束するので、すべての $n$ に対して $S_n< S$ 。並べ替えてできた級数を $a'_1+a'_2+\cdots$ とする。その部分和$$S'_n:=\sum_{k=1}^n a'_k=a'_1+a'_2+\cdots+a'_n$$の項のうち、添え字が最大になるもの $a_N$ が存在し $S'_n\le S_N<S$ 。よって $\{S'_n\}$ は単調増加かつ有界なので収束し、その値を $S'$ とすると $S'\le S$ 。

$\{a'_n\}$ を並べ替えたものが $\{a_n\}$ と考えることもできるので、同様に $S\le S'$ です。$$\therefore\quad S=S'$$【証明終】

絶対収束と順序変更

絶対収束は定義0.1で定められます。見ると分かるように、絶対収束は単なる収束よりも強い条件ですので、絶対収束する数列は収束します(証明は簡単なのでやってみてください)。

絶対収束のいいところとして、次の事実があります。

定理4.1

絶対収束する級数は、順序変更をしても和が変わらない。

証明】$\sum a_n$ の順序を変更したものを $\sum a'_n$ とする。$\sum a_n$ が絶対収束するならば、$\sum|a_n|$ が収束する。定理3.1より正項級数の順を変えても和は変わらないので $\sum|a'_n|$ も同じ値に収束する。

いま、 各 $n$ に対して次のように $b_n$ と $c_n$ を定める。$a_n>0$ ならば $b_n=a_n$ , $c_n=0$。一方 $a_n\le0$ ならば $b_n=0$ , $c_n=-a_n$。このとき $a_n=b_n-c_n$ であり$$b_n=\frac{1}{2}(|a_n|+a_n)\;,\;c_n=\frac{1}{2}(|a_n|-a_n)$$が成り立つ。$\sum|a_n|$ , $\sum a_n$ が収束するので $\sum b_n$ , $\sum c_n$ も収束する。これと全く同様に $a'_n$ に対しても $b'_n$ , $c'_n$ を定める。すると $\sum b_n$ , $\sum c_n$ は正項級数なので、順序を変えた $\sum b'_n$ , $\sum c'_n$ もそれぞれ同一の値に収束する。$$\sum a_n=\sum b_n-\sum c_n\;,\;\sum a'_n=\sum b'_n-\sum c'_n$$であるから$$\sum a_n=\sum a'_n$$【証明終】

絶対収束については、級数同士の積について考えるときにも登場します:

絶対収束する二重級数・和の順序、コーシー積

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