対数の逆数のテイラー展開と第1種スターリング数

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今日のテーマと概要

テーマ

$n$ を自然数として\begin{eqnarray}\frac{x}{\log^n(1+x)}&=&\sum_{k=1}^{n-1}\frac{1}{k!\log^{n-k}(1+x)}\\&&+\frac{1}{n!}+\sum_{m=1}^\infty\left(\sum_{k=1}^m\frac{k!S_m^{(k)}}{(n+k)!}\right)\frac{x^m}{m!}\tag{1}\end{eqnarray}ただし $S_m^{(k)}$ は第1種スターリング数。

ビネの関数 $\mu(z)$ を階乗型の級数に展開するときに必要になったので取り組みました。不完全ではありますがログの逆数のテイラー展開となっています。まず $n=1$ であれば最初のシグマを無視して$$\frac{x}{\log(1+x)}=1+\sum_{m=1}^\infty\left(\sum_{k=1}^m\frac{k!S_m^{(k)}}{(k+1)!}\right)\frac{x^m}{m!}$$となります。$n=2$ では$$\frac{x}{\log^2(1+x)}=\frac{1}{\log(1+x)}+\frac{1}{2}+\sum_{m=1}^\infty\left(\sum_{k=1}^m\frac{k!S_m^{(k)}}{(k+2)!}\right)\frac{x^m}{m!}$$と書けます。つまり、右辺第1項があるのでタイトルに反して純粋なテイラー展開ではありません。

これから(1)を示していく方法は初等的であり、高校数学の知識プラス $e^x$ のテイラー展開と2項級数を認めることで理解できます。スターリング数というものも登場していますが、途中で補足を入れるので大丈夫。

大学数学レベルでやる方法(重積分)もあります。それについては別記事を用意するかも。

あと、実際にこの公式を役立てる記事は次回に書きます。

二項級数

$(1+x)^u$ は $u$ が自然数であれば2項定理で展開できますが、より一般には$$(1+x)^u=\sum_{m=0}^\infty\frac{u(u-1)\cdots(u-m+1)}{m!}x^m$$$u$ が自然数なら$m>u$ においては積のどれかが $0$ となるので有限和で打ち切られます。なのでこの式は二項定理の拡張といえるでしょう。これを二項級数といいます。

第1種スターリング数

$u(u-1)\cdots(u-m+1)$ は $u$ に始まり1ずつ減らして乗じていくので「下降階乗冪(falling factorial)」といいます。これをがんばって展開して $u$ の $m$ 次多項式にできたとします。そのときの $u^k$ の係数を「第1種スターリング数」といいます。これを $S_m^{(k)}$ と書くことにすれば以下の式で定義されます。

Stirling numbers of the first kind

\begin{equation}u(u-1)(u-2)\cdots(u-m+1)=\sum_{k=0}^mS_m^{(k)}u^k\tag{2}\end{equation}

左辺を見ると定数項はありませんので $S_m^{(0)}=0$ ですね。

また $S_0^{(0)}=1$ と定義します。これは $u$ の $0$ 次多項式すなわち定数 $1$ の展開 $1=S_0^{(0)}u^0$ を考えると、もっともな定義です。

なお日本語Wikipediaでは第1種スターリング数を上昇階乗冪で定義しており、この定義と異なります。(2)の定義は英語版Wikipediaおよび本稿の参考論文に合わせています。

さて、これを使うことにより$$(1+x)^u=\sum_{m=0}^\infty\sum_{k=0}^mS_m^{(k)}u^k\frac{x^m}{m!}$$となります。

式通りの素直な和の順序は$$(m,k)=(0,0)(1,0)(1,1)(2,0)(2,1)\cdots$$ですが、これを$$(k,m)=(0,0)(0,1)(0,2)\cdots(1,1)(1,2)\cdots$$のように取り換えます。すなわち$$\sum_{m=0}^\infty\sum_{k=0}^m=\sum_{k=0}^\infty\sum_{m=k}^\infty$$とします。

\begin{equation}(1+x)^u=\sum_{k=0}^\infty \left(u^k\sum_{m=k}^\infty S_m^{(k)}\frac{x^m}{m!}\right)\tag{3}\end{equation}

指数関数の展開の応用

さて(3)の左辺は$$(1+x)^u=e^{u\log(1+x)}$$です。指数関数のマクローリン展開$$e^X=\sum_{k=0}^\infty\frac{X^k}{k!}$$を用いると$$(1+x)^u=\sum_{k=0}^\infty\frac{(u\log(1+x))^k}{k!}=\sum_{k=0}^\infty u^k\frac{\log^k(1+x)}{k!}$$(3)と比べると、本日の超重要な関係式を得ます。

\begin{equation}\frac{\log^k(1+x)}{k!}=\sum_{m=k}^\infty S_m^{(k)}\frac{x^m}{m!}\tag{4}\end{equation}

$\log$ の $k$ 乗という形が現れました。今日のゴールに近づいた感じがありますね。

対数の逆数の展開式

ではいよいよ $\dfrac{x}{\log(1+x)}$ の展開式を求めます。\begin{eqnarray*}\frac{x}{\log(1+x)}&=&\frac{(1+x)-1}{\log(1+x)}\\&=&\frac{e^{\log(1+x)}-1}{\log(1+x)}\\&=&\left(\sum_{k=0}^\infty\frac{\log^k(1+x)}{k!}-1\right)\frac{1}{\log(1+x)}\\&=&\sum_{k=1}^\infty\frac{\log^k(1+x)}{k!}\frac{1}{\log(1+x)}\\&=&\sum_{k=1}^\infty\frac{\log^{k-1}(1+x)}{k!}\\&=&\sum_{k=0}^\infty\frac{\log^{k}(1+x)}{(k+1)!}\\&=&\sum_{k=0}^\infty\frac{\log^{k}(1+x)}{(k+1)\cdot k!}\\&=&\sum_{k=0}^\infty\frac{1}{k+1}\sum_{m=k}^\infty S_m^{(k)}\frac{x^m}{m!}\quad(\because(4))\end{eqnarray*}和の順序を先ほどと逆に取り換えると$$\frac{x}{\log(1+x)}=\sum_{m=0}^\infty\left(\sum_{k=0}^m\frac{S_m^{(k)}}{k+1}\right)\frac{x^m}{m!}$$$S_0^{(0)}=1$ および $S_m^{(0)}=0$ から$$\frac{x}{\log(1+x)}=1+\sum_{m=1}^\infty\left(\sum_{k=1}^m\frac{S_m^{(k)}}{k+1}\right)\frac{x^m}{m!}$$を得ます。(1)で $n=1$ としたものと一致していますね。

同様に\begin{eqnarray*}\frac{x}{\log^n(1+x)}&=&\frac{(1+x)-1}{\log^n(1+x)}\\&=&\frac{e^{\log(1+x)}-1}{\log^n(1+x)}\\&=&\sum_{k=1}^\infty\frac{\log^k(1+x)}{k!}\frac{1}{\log^n(1+x)}\\&=&\sum_{k=1}^\infty\frac{\log^{k-n}(1+x)}{k!}\\&=&\sum_{k=1}^{n-1}\frac{\log^{k-n}(1+x)}{k!}+\sum_{k=n}^\infty\frac{\log^{k-n}(1+x)}{k!}\\&=&\sum_{k=1}^{n-1}\frac{1}{k!\log^{n-k}(1+x)}+\sum_{k=0}^\infty\frac{\log^{k}(1+x)}{(n+k)!}\\&=&\sum_{k=1}^{n-1}\frac{1}{k!\log^{n-k}(1+x)}+\sum_{k=0}^\infty\frac{k!}{(n+k)!}\sum_{m=k}^\infty S_m^{(k)}\frac{x^m}{m!}\\&=&\sum_{k=1}^{n-1}\frac{1}{k!\log^{n-k}(1+x)}+\sum_{m=0}^\infty\left(\sum_{k=0}^m\frac{k!S_m^{(k)}}{(n+k)!}\right)\frac{x^m}{m!}\\&=&\sum_{k=1}^{n-1}\frac{1}{k!\log^{n-k}(1+x)}+\frac{1}{n!}\\&&+\sum_{m=1}^\infty\left(\sum_{k=1}^m\frac{k!S_m^{(k)}}{(n+k)!}\right)\frac{x^m}{m!}\end{eqnarray*}よって(1)を得ました。

展開式

$$\frac{x}{\log^n(1+x)}=\sum_{k=1}^{n-1}\frac{1}{k!\log^{n-k}(1+x)}+\frac{1}{n!}+\sum_{m=1}^\infty\left(\sum_{k=1}^m\frac{k!S_m^{(k)}}{(n+k)!}\right)\frac{x^m}{m!}$$

おわりに

あくまでガンマ関数の勉強をしているときに出てきた補題のようなものではあったのですが、いい勉強になりました。スターリング数をまともに扱ったのはこれが初めてでしたし、ログの逆数がこんな手法で展開できるなんてと感激しました。

今日の記事で、参考にしたのはPiet Van Mieghem氏の"Binet’s factorial series and extensions to Laplace transforms"(2021)という論文です。PDFが見られるのでリンクを貼っておきます。これの40~41ページです。

次回の記事ではこの結果を生かしていくのでご覧ください:

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