「ガンマ関数の基礎」シリーズ第20回です。前回は:
今回はこれの続きですが、ビネの第2公式を無条件に受け入れれば前回の記事を読まなくても大丈夫です。
もくじ [hide]
x>0 に対しΓ(x)=√2πx(xe)x×[1+112x+1288x2−13951840x3−5712488320x4+O(1x5)]
ガンマ関数の漸近展開を導出します。ビネの第2公式の積分項を級数表示し(スターリング級数)、その級数から最初の数項だけ用いることで上式を得ます。もちろんたくさんの項を使えばいくらでもいい近似式を得られますが、計算は大変です。式の形から分かるように、x の値が大きいと近似の精度はあがります。
今回は途中から z を正の実数 x として進めます。複素数だと偏角によって(特に実部の絶対値より虚部の絶対値の方が大きいとき)近似の良さが異なり、私としても詳しく検討していないからです。
ビネの第2公式の積分項を級数表示する際には、 arctan の級数展開やベルヌーイ数など、豊富な題材に触れられるので勉強になります。内容としては残念ながら高校数学を明らかに超えてしまっていますが、大学初年度の微分積分学の知識でほぼいけると思います。それを超える部分は予備知識としてきちんと提示していきます。
前回の記事で導出した logΓ(z) の次の表示をスタートとします。これをビネの第2公式といいます。
Rz>0 としてlogΓ(z)=(z−12)logz−z+12log2π+2∫∞0arctantze2πt−1dt
この積分項は 1/z のオーダーであるため、 z が大きいと無視できます。無視すればlogΓ(z)≈(z−12)logz−z+12log2π指数をとってΓ(z)≈√2πz(ze)zこれは「スターリングの近似」として有名な式です。
ただ、このようにバッサリ無視してしまうのではなく、好きに精度を調整したいです。精度を上げたい場合にもう1項2項加えるとか融通が利いた方がいいですね。テイラー展開みたいに。{ex≈1ex≈1+xex≈1+x+x22⋮下に行くほどどんどん ex に近づきます。 x が小さいなら手計算にあたって、欲しい精度次第で融通が利きます。このようにスターリングの近似を一般化していきましょう!
複素関数としての arctan は以下で定義されます。
arctanu≡∫u0dz1+z2
arctantz は次の表示をもちます。ビネの第2公式から続く話ですので Rz>0,t≥0 が前提です。
arctantz=tz−13t3z3+⋯+(−1)n−12n−1t2n−1z2n−1+(−1)nz2n−1∫t0u2nu2+z2du
【証明】n=1 ではtz−1z∫t0u2u2+z2du=tz−1z∫t0(1−z2u2+z2)du=tz−1z[u−zarctanuz]t0=arctantzとなって成立です。arctan が扱いにくければ u=ztanθ とおくといいです。
n で(3)が成立するとします。このとき積分項は(−1)nz2n−1∫t0u2nu2+z2du=(−1)nz2n+1∫t0(u2n−u2n+2u2+z2)du=(−1)nz2n+1(t2n+12n+1−∫t0u2n+2u2+z2du)=(−1)n2n+1t2n+1z2n+1+(−1)n+1z2n+1∫t0u2n+2u2+z2duこれは n+1 でも(3)が成立することを示します。数学的帰納法によりOK。
【証明終】
定理1は無限級数展開ではなく、積分形の剰余項があります。ビネの第2公式に適用したときに、この剰余項がどのように影響するかはあとで評価する必要があります。
ベルヌーイ数の登場
第2公式を再掲します。
Rz>0 としてlogΓ(z)=(z−12)logz−z+12log2π+2∫∞0arctantze2πt−1dt
右辺の積分項を 「ビネの関数 μ(z)」と名付けます。μ(z)=2∫∞0arctantze2πt−1dt
これに(3)式つまり定理1を適用します。μ(z)=2∫∞01e2πt−1[n∑k=1(−1)k−12k−1t2k−1z2k−1+(−1)nz2n−1∫t0u2nu2+z2du]dt=2n∑k=1(−1)k−12k−11z2k−1∫∞0t2k−1dte2πt−1+2(−1)nz2n−1∫∞0(∫t0u2nu2+z2du)dte2πt−1第1項の積分は∫∞0t2k−1dte2πt−1=1(2π)2k∫∞0t2k−1dtet−1=Γ(2k)ζ(2k)(2π)2kこれについてはゼータ関数とガンマ関数の関係を説明した記事をご参照:
自然数 k に対するベルヌーイ数とゼータ関数の関係B2k=2(−1)k+1(2k)!(2π)2kζ(2k)を用いると∫∞0t2k−1dte2πt−1=(−1)k+1B2k4kしたがって
μ(z)=n∑k=1B2k2k(2k−1)z2k−1+2(−1)nz2n−1∫∞0(∫t0u2nu2+z2du)dte2πt−1
ちなみにベルヌーイ数は B2=16 , B4=−130 , B6=142 のように正負が交互にあらわれます。ゼータ関数との関係式より明らかに (−1)k+1B2k≥0 です。
積分の評価
(7)の右辺にある積分をどうにかしましょう。積分の中にある u は0以上の実数であることに留意。
|z2u2+z2| は Rz>0 に応じて次の上界 Kz をもつ。Kz={1(|argz|≤π4)|csc2θ|(|argz|>π4)ただし θ は z の偏角である。
【証明】z=x+iy , x>0 として z を固定しp(u)≡|z2u2+z2|と定義します。明らかに p(0)=1 でありp(u)2=(x2+y2)2(u2+x2−y2)2+4x2y2
|argz|≤π4 すなわち x2≥y2 なら p(u) は u に関して単調減少だと直ちに分かります。よってp(u)≤p(0)=1よって p(u) の上界 Kz=1 ととれます。なお |argz|≤π4 ですので z が実数のときもこの上界がとれます。
|argz|>π4 すなわち x2<y2 なら u2=y2−x2 のときに p(u) は最大値をとります。そのときのp(u) を上界 Kz とすればKz=x2+y2|2xy|極座標に直せば Kz=|csc2θ| となります。
【証明終】
これで補題1が正しいことが分かりました。|argz|>π4 すなわち虚部の絶対値が実部のそれよりも大きい場合は、上界は z の偏角 θ に依存しています。 実際 θ を ±π/2 に近づけると上界はどんどん大きくなります。
ビネの関数の近似
というわけもあり、積分値の評価を単純にするため |argz|≤π4 に限定すると Kz=1 です。そうするならいっそ z を実数にしてしまえと思ったので、ここからは z を正の実数 x としましょう。(7)式はμ(x)=n∑k=1B2k2k(2k−1)x2k−1+2(−1)nx2n−1∫∞0(∫t0u2nu2+x2du)dte2πt−1です。この積分項に上界 Kx=1 を用いて評価すると |x2u2+x2|≤1 ですから |2(−1)nx2n−1∫∞0(∫t0u2nu2+x2du)dte2πt−1|≤21x2n−1∫∞0(∫t0u2n1x2du)dte2πt−1=21x2n+1∫∞0(t2n+12n+1)dte2πt−1=2(2n+1)x2n+1∫∞0t2n+1dte2πt−1=2(2n+1)x2n+1(−1)nB2n+24(n+1)=(−1)nB2n+22(n+1)(2n+1)x2n+1⟶0(asx→∞)
したがって x→∞ でμ(x)→n∑k=1B2k2k(2k−1)x2k−1つまり x が大きいとき、ビネの関数 μ(x) はこのような式で近似できるということです。
スターリング級数
μ(x) は n∑k=1B2k2k(2k−1)x2k−1 と n+1∑k=1B2k2k(2k−1)x2k−1 の間にある。
【証明】つい先ほど示した不等式|2(−1)nx2n−1∫∞0(∫t0u2nu2+x2du)dte2πt−1|≤(−1)nB2n+22(n+1)(2n+1)x2n+1を用います(ベルヌーイ数は正負が交互に現れるので右辺は正です)。
n が偶数のときμ(x)=n∑k=1B2k2k(2k−1)x2k−1+21x2n−1∫∞0(∫t0u2nu2+x2du)dte2πt−1≤n∑k=1B2k2k(2k−1)x2k−1+(−1)nB2n+22(n+1)(2n+1)x2n+1=n+1∑k=1B2k2k(2k−1)x2k−1∴n∑k=1B2k2k(2k−1)x2k−1≤μ(x)≤n+1∑k=1B2k2k(2k−1)x2k−1
n が奇数のときも同様に計算すると∴n+1∑k=1B2k2k(2k−1)x2k−1≤μ(x)≤n∑k=1B2k2k(2k−1)x2k−1を得ます。
【証明終】
補題2が正しいことが分かりました。すると n→∞ の極限で挟み撃ちしてμ(x)=∞∑n=1B2n2n(2n−1)x2n−1ビネの関数を級数表示にできましたね。この関数はそもそもビネの第2公式の積分項でしたからlogΓ(x)=(x−12)logx−x+12log2π+μ(x)したがって次の「スターリング級数」を得ます。
logΓ(x)=(x−12)logx−x+12log2π+∞∑n=1B2n2n(2n−1)x2n−1
スターリング級数(8)の右辺を計算します。どこまでのオーダーをとるかで、近似の精度が変わります。ネットで調べると B2=16 , B4=−130 ですからlogΓ(x)=(x−12)logx−x+12log2π+112x−1360x3+O(1x5)指数をとります。Γ(x)=√2πx(xe)xe112x−1360x3+O(1x5)指数部分を普通に展開してe112x=1+112x+1288x2+110368x3+1497664x4+O(1x5)e−1360x3=1−1360x3+O(1x5)したがってe112x−1360x3+O(1x5)=(1+112x+1288x2+110368x3+1497664x4)(1−1360x3)+O(1x5)=1+112x+1288x2−13951840x3−5712488320x4+O(1x5)
以上からガンマ関数の漸近公式を得ます!
Γ(x)=√2πx(xe)x×[1+112x+1288x2−13951840x3−5712488320x4+O(1x5)]
最後にあるような数値計算は基本的に好きでないのですが、今回は楽しく感じました。結果が正しく出てくるとうれしいですね。
∫a+1alnΓ(x)dx=alna−a+ln2π2
【証明】ガウスの乗法公式とStirlingの公式を用いる。∫a+1alnΓ(x)dx=limn→∞1nn−1∑k=0lnΓ(a+kn)=limn→∞1nlnn−1∏k=0Γ(a+kn)=limn→∞1nlnΓ(na)(2π)n−12nna−12=limn→∞1nln√2π(na)na−12(2π)n−12enanna−12=alna−a+ln2π2【証明終】
ここまでたどり着くのはなかなか時間がかかりました。「ガンマ関数の基礎」というシリーズで20回やってきましたが、ここで終わりでいいかもしれません。ネタはまだあるのですが、単発で構わない気がします。
ここで解説した漸近公式の導出では「ビネの第2公式」を使いました。この公式の導出もまた大変でした。「ビネの第2公式」を導くために「ビネの第1公式」「アベル・プラナの和公式」を導出する必要もありました。それらも、ガンマ関数の基本知識が数多必要だったことを考えると、長い道のりでした。
このシリーズは中盤からWhittaker-Watsonの"A course of modern analysis"第12章を参考にしています。たった1行進めるのにも、何時間あるいは何日もかかることもありました。古典的な理工書全般に言えることでしょうが、余分な解説を省略しており、そこを補わないと読み進められないからですね。なので大まかな流れはWhittaker&Watsonのパクリなのですが、行間をかなり詳しく解説したつもりです。本当に勉強になりました。
古いですが有名な書物で、どんどん改訂版が出ています。前半は解析学一般、後半は特殊関数という内容で、網羅的に勉強できます。演習問題に解答がないのが昔ながらのものって感じ。2022/11/6現在、最新版は5th Editionで私も所有していますが、廉価な3rdとかでも十分かと。

A Course of Modern Analysis: fifth Edition

A Course of Modern Analysis: Third Edition
第1回の記事はこちら:
シリーズは終わってもガンマ関数の記事はときどきアップします。例えばスターリングの近似の剰余項が-1次のオーダーであるという事実のみからビネの第1公式を導出する記事:
ビネの関数を階乗型の級数に展開するための補題はこちら:
ガンマ関数の逆数を展開しました:
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