ワイエルシュトラスのペー関数9~楕円積分との関係

前回はこちら:

ワイエルシュトラスのペー関数8~任意の楕円関数をワイエルシュトラスの関数であらわす

初等的には計算できないが $\wp(z)$ を使って表すことができる積分(楕円積分)$$\int_{x_0}^x\left(a_0t^4+4a_1t^3+6a_2t^2+4a_3t+a_4\right)^{-1/2}dt$$について解説します。

4次多項式

\begin{equation}f(x):=a_0x^4+4a_1x^3+6a_2x^2+4a_3x+a_4\tag{1}\end{equation}これを $x=a$ を中心とした式に直すと\begin{align}f(x)&=A_0(x-a)^4+4A_1(x-a)^3+6A_2(x-a)^2+4A_3(x-a)+A_4\tag{2}\\& A_0=a_0\\&A_1=a_0a+a_1\\&A_2=a_0a^2+2a_1a+a_2\\& A_3=a_0a^3+3a_1a^2+3a_2a+a_3\\&A_4=a_0a^4+4a_1a^3+6a_2a^2+4a_3a+a_4\end{align}$a$ を特に $f(x)=0$ の解の1つ $x_0$ とすれば $A_4=0$ であり\begin{align}f(x)&=A_0(x-x_0)^4+4A_1(x-x_0)^3+6A_2(x-x_0)^2+4A_3(x-x_0)\tag{3}\\& A_0=a_0\\&A_1=a_0x_0+a_1\\& A_2=a_0x_0^{~2}+2a_1x_0+a_2\\& A_3=a_0x_0^{~3}+3a_1x_0^{~2}+3a_2x_0+a_3\end{align}となります。

楕円積分の変数変換

(3)における $x_0$ を用いて次の積分を考えます。\begin{equation}z:=\int_{x_0}^x\left(a_0t^4+4a_1t^3+6a_2t^2+4a_3t+a_4\right)^{-1/2}dt\tag{4}\end{equation}根号内の4次式は $f(t)$ です。いま $f(t)$ は重解をもたず、$a_0=a_1=0$ ではないとします(つまり3次式か4次式ということ)。これらは(4)が初等的な積分となることを避けるための条件です。

このとき(4)は楕円積分の1つとなります。楕円積分について詳細はこちらから。

(4)を(3)によって書き換えると\begin{equation}z=\int_{x_0}^x\frac{dt}{\sqrt{A_0(t-x_0)^4+4A_1(t-x_0)^3+6A_2(t-x_0)^2+4A_3(t-x_0)}}\tag{4'}\end{equation}となりますが\begin{equation}\frac{1}{t-x_0}=\tau\;,\quad \frac{1}{x-x_0}=\xi\tag{5}\end{equation}なる変数変換を施すと\begin{equation}z=\int_\xi^\infty\frac{d\tau}{\sqrt{4A_3\tau^3+6A_2\tau^2+4A_1\tau+A_0}}\tag{6}\end{equation}と根号内が3次式になります。さらに\begin{equation}\tau=\frac{\sigma-\frac{1}{2}A_2}{A_3}\;,\quad \xi=\frac{s-\frac{1}{2}A_2}{A_3}\tag{7}\end{equation}と変換すると\begin{equation}z=\int_s^\infty\frac{d\sigma}{\sqrt{4\sigma^3-(3A_2^{~2}-4A_1A_3)\sigma-(2A_1A_2A_3-A_2^{~3}-A_0A_3^{~2})}}\tag{8}\end{equation}根号内の3次式の係数を\begin{align}g_2&:=3A_2^{~2}-4A_1A_3\tag{9a}\\g_3&:=2A_1A_2A_3-A_2^{~3}-A_0A_3^{~2}\tag{9b}\end{align}と置きなおします。(9a)(9b)は(3)および $f(x_0)=0$ から\begin{align}g_2&=a_0a_4-4a_1a_3+3a_2^2\tag{10a}\\g_3&=a_0a_2a_4+2a_1a_2a_3-a_2^{~3}-a_0a_3^{~2}-a_1^{~2}a_4\tag{10b}\end{align}となることが分かります。

(10a)(10b)で定まる $g_2,g_3$ を多項式 $f(x)$ の不変量とよびます。このあたりは"invariant of a binary form"などで検索してみてください。 Burnside & Panton,"Theory of Equations II"の16章にも書かれています。後述するようにこの不変量がワイエルシュトラスのペー関数の不変量として使われます。

ペー関数との関係

ここまでの話より、(8)を書き改めると\begin{equation}z=\int_s^\infty\frac{d\sigma}{\sqrt{4\sigma^3-g_2\sigma-g_3}}\tag{11}\end{equation}となるわけです。これはワイエルシュトラスのペー関数の積分公式\begin{equation}z=\int_{\wp(z)}^\infty(4t^3-g_2t-g_3)^{-\frac{1}{2}}dt\tag{12}\end{equation}の形をしています。(10a)(10b)で定まった $g_2,g_3$ に対応する周期 $\o_1,\o_2$ があればペー関数 $\wp(z;g_2,g_3)$ をつくれます。これを単に $\wp(z)$ と書くことにします。なお(12)において $z$ に負号がつくことがありますが、ペー関数は偶関数なので問題ありません。

さて(11)において $s=\wp(z)$ と分かります。(5)(7)より$$x=x_0+\frac{A_3}{s-\frac{1}{2}A_2}$$であり、(3)より $f'(x_0)=4A_3$ , $f''(x_0)=12A_2$ なので\begin{equation}x=x_0+\frac{f'(x_0)}{4\wp(z)-\frac{1}{6}f''(x_0)}\tag{13}\end{equation}よって $x$ は $\wp(z)$ の有理式です。また逆に\begin{equation}\wp(z)=\frac{f'(x_0)}{4(x-x_0)}+\frac{f''(x_0)}{24}\tag{14}\end{equation}楕円積分(4)は初等的に計算できませんが、ペー関数を使って(13)(14)のような式をつくることができると分かりました。

また(4)より\begin{equation}\frac{dx}{dz}=f(x)^{1/2}\tag{15}\end{equation}(13)を微分して(15)と結びつけると\begin{equation}f(x)^{1/2}=-\frac{f'(x_0)\wp'(z)}{4\left[\wp(z)-\frac{1}{24}f''(x_0)\right]^2}\tag{16}\end{equation}という関係が分かります。

おまけ

代数曲線\begin{equation}y^2=a_0x^4+4a_1x^3+6a_2x^2+4a_3x+a_4\tag{17}\end{equation}の右辺は先述の $f(x)$ ですので $y^2=f(x)$ となります。上述の話から $f(x)$ の根 $x_0$ および(4)で定義された $z$ を用いて\begin{align} x&=x_0+\frac{f'(x_0)}{4\wp(z)-\frac{1}{6}f''(x_0)}\tag{18a}\\y&=-\frac{f'(x_0)\wp'(z)}{4\left[\wp(z)-\frac{1}{24}f''(x_0)\right]^2}\tag{18b}\end{align}となります。

(17)を見ると、$x$ を定めれば $y$ は普通2個の値をとります。$y$ を定めれば $x$ は4個の値をとります。また(18a)(18b)を使えば、$z$ を定めた場合は $x$ も $y$ も1個の値に決まります。なので $\left(x(z),y(z)\right)$ は曲線のパラメータ表示みたいになっています。

例題

例1

$$z(x):=\int_1^x\frac{dt}{\sqrt{t^3-7t+6}}\;,\quad(-3<x<1)$$とする。

(A) 根号内を $t-1$ に関する多項式とせよ。
(B) $z$ を(12)式のように書け。
(C) $x=-3$ として $z(-3)=-2.01891$ となる。このとき$$\wp\left(2.01891;\frac{7}{4},-\frac{3}{8}\right)\approx \frac{1}{2}$$を示せ。

$$f(x)=(x-1)^3+3(x-1)^2-4(x-1)$$となり、$$z=-\int_s^\infty\frac{d\sigma}{\sqrt{4\sigma^3-\frac{7}{4}\sigma+\frac{3}{8}}}$$ただし $\frac{1}{x-1}=\frac{1}{4}-s$ である。

$x=-3$ とすると$$z=\int_1^{-3}\frac{dt}{\sqrt{t^3-7t+6}}=-\int_{\frac{1}{2}}^\infty\frac{dt}{\sqrt{4t^3-\frac{7}{4}t+\frac{3}{8}}}$$この中辺の積分をwolframに計算させると$-2.01891$ くらいになります。よって$$\wp\left(2.01891;\frac{7}{4},-\frac{3}{8}\right)\approx \frac{1}{2}$$

例2

$$z:=\int_x^\infty\frac{du}{\sqrt{u^4+6u^2+16}}\;,\quad(x\ge 0)$$とする。被積分関数は実軸上有界である。

(A) $u^2=1/t$ なる変換により式(4')の形に帰着せよ。
(B) $$\wp(2z;-1,1)=\frac{x^2+2}{4}$$を示せ。

$$2z=\int_0^{1/x^2}\frac{dt}{\sqrt{16t^3+6t^2+t}}$$が(4')の形であり、$A_0=0$,$A_1=4$,$A_2=1$,$A_3=1/4$ となっている。最終的に$$2z=\int_{\frac{x^2+2}{4}}^\infty\frac{d\sigma}{\sqrt{4\sigma^3+\sigma-1}}$$

もう少し例を考える予定ですが、とりあえずここまで。

参考文献

[1] Whittaker, E. T., & Watson, G. N. (2021). A course of modern analysis. Cambridge University Press.

第5版です。いわずと知れた名著。楕円関数にかなりのページを割いています。

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