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テータ関数1~定義と性質

前回はこちら:

ワイエルシュトラスのペー関数9~楕円積分との関係

今回からは楕円関数の話の続きとして、テータ関数を学んでいきます。

テータ関数の定義

定義の方法にはいくつか流儀があるようですが、MumfordのTata lectures on thetaという書籍で採用されているらしいものを選びました。

τCI(τ)>0 を満たす定数とします。すなわち τ=a+bi とおくと b>0 ということ。

さらに q:=eπiτ とおきます。すると|q|=eπb<1であることが分かります。

さてスタートとなる z の関数を

定義1

z,τC , I(τ)>0, ϑ(z,τ):=+n=eπin2τ+2πinz

と定義します。あるいはϑ(z;q)=+n=qn2e2πinzとも書きます。この ϑテータ関数といいます。

級数の収束性

上述の通りテータ関数は z に関する関数項級数として定義されています。複素平面において |z|R の範囲においては|qn2e2πinz|=|q|n2e2πnI(z)|q|n2e2πnRこれは正確に言えば n>0 だけで成り立つ式ですが、n<0 の場合も同様に議論できます。

ダランベールの収束判定法を使いましょう。|q|(n+1)2e2π(n+1)R|q|n2e2πnR=|q|2n+1e2πRn+0で判定結果は「収束」です。+n=|qn2e2πinz|+n=|q|n2e2πnRなのですから、(4)の右辺が(3)の結果により収束することから(4)の左辺も収束します。

したがって(2)の級数は |z|Rz に無関係に収束することから、|z|R で一様収束しています。R は任意ですので、結局この級数は C 上で広義一様収束します。

また絶対収束でもあるので、級数の和をとる順序は自由です。

テータ関数は整関数

広義一様収束することから、z の関数であるテータ関数 ϑ(z,τ) は全平面で解析的であり、整関数ということになります。

定理2

テータ関数 ϑ(z,τ) は整関数である。

テータ関数の周期性

テータ関数は周期をもちます。しかし整関数であることから二重周期をもつことはありえず楕円関数ではありません

より具体的に見てみましょう。定義(1)よりただちにϑ(z+1,τ)=ϑ(z,τ)よってテータ関数は周期 1 をもちます。

また同じく定義(1)よりϑ(z+τ,τ)=+n=eπin2τ+2πinz+2πinτ=+n=eπi(n+1)2τπiτ+2πi(n+1)z2πiz=eπiτ2πiz+n=eπi(n+1)2τ+2πi(n+1)z=eπiτ2πiz+n=eπin2τ+2πinz=eπiτ2πizϑ(z,τ)τ は周期ではないものの関数の一定の変化を特徴づけるものであり、擬周期性といいます。1方向に周期をもち、もう1方向にはこのような擬周期をもつのはワイエルシュトラスのシグマ関数と似ています。

この周期性を繰り返し用いるとϑ(z+mτ+n,τ)=ϑ(z+mτ,τ)=e2πi(m12)τ2πizϑ(z+(m1)τ,τ)=e2πi(m12)τ2πize2πi(m32)τ2πizϑ(z+(m2)τ,τ)=eπim2τ2πimzϑ(z,τ)

定理3

ϑ(z+1,τ)=ϑ(z,τ)ϑ(z+τ,τ)=eπiτ2πizϑ(z,τ)またこれらより m,nNϑ(z+mτ+n,τ)=eπim2τ2πimzϑ(z,τ)

テータ関数は有界ではない

定理3より|ϑ(z+mτ+n,τ)ϑ(z,τ)|=eπm2I(τ)+2πmI(z)よって m が大きくなる場合に発散します。テータ関数は整関数でしたから発散するとしたらそこは無限遠点です。

定理4

ϑ(z,τ) は有界ではなく、無限遠で発散する。

ちなみにテータ関数は整関数なので、リウヴィルの定理を使えば有界ではないことがすぐに分かります。

添え字付きテータ関数

テータ関数は ϑ(z,τ) を基本としていくつかの類似したものが用いられます。

2つの添え字 a,bR がついたテータ関数を次で定義します。

定義5

z,τC , I(τ)>0, ϑab(z,τ):=+n=eπi(n+a2)2τ+2πi(n+a2)(z+b2)

これも同様に z の関数として見ます。

まず明らかにϑ00(z,τ)=ϑ(z,τ)わずかな計算により次もすぐに分かります:ϑ01(z,τ)=ϑ(z+12,τ)=+n=(1)neπin2τ+2πinzϑ10(z,τ)=eπi4τ+πizϑ(z+τ2,τ)ϑ11(z,τ)=eπi4τ+πi(z+12)ϑ(z+1+τ2,τ)(8)~(10)は(7)の z を半周期ずらした感じのものになっています。添え字11と10,01の関係についてもϑ11(z,τ)=ϑ10(z+12,τ)ϑ11(z,τ)=eπi4τ+πi(z+12)ϑ01(z+τ2,τ)

添え字が0,1しか登場していませんが、20とか02は1周期分ずらすだけですから特に必要ありません。非整数の添え字もあるかもしれませんが、ここではとりあげません。

4つのテータ関数

さらに(7)~(10)は慣習的に次のように書かれます。

定義6

ϑ1(z,τ):=ϑ11(z,τ)ϑ2(z,τ):=ϑ10(z,τ)ϑ3(z,τ):=ϑ00(z,τ)ϑ4(z,τ):=ϑ01(z,τ)

これら4つのテータ関数は、その定義から分かるように元のテータ関数 ϑ の性質を(ある程度)引き継いでいます。すなわち(擬)周期 1 および擬周期 τ をもつことと(後述)、整関数であることです。

なお q=eπiτ を使う場合に ϑ(z,τ)ϑ(z;q) と書いたのと同様に、添え字が付いたテータ関数それぞれでも θi(z;q) と書く場合があります。

三角関数を使う記法

q=eπiτ を使うことにします。+n=an=a0+1n=an++n=1anであることから(2)はϑ(z;q)=1+2n=1qn2cos2πnzと書けます。また定義5からスタートしてϑ10(z;q)=+n=q(n+12)2e(2n+1)πiz=2+n=0q(n+12)2cos(2n+1)πzのように書けることも分かります(最後の等号は実際に総和を何項か書き出して確認できる)。

このようにしていけば、次のようにまとめられます。

命題7

ϑ1(z;q)=ϑ11(z;q)=2n=0(1)nq(n+12)2sin(2n+1)πzϑ2(z;q)=ϑ10(z;q)=2n=0q(n+12)2cos(2n+1)πzϑ3(z;q)=ϑ00(z;q)=1+2n=1qn2cos2πnzϑ4(z;q)=ϑ01(z;q)=1+2n=1(1)nqn2cos2πnz

これをみるとつぎが分かります。

命題8

ϑ1(z;q) は奇関数、ϑ2(z;q),ϑ3(z;q),ϑ4(z;q) は偶関数である。

記法に関する注意とテータ定数

パラメータ τ は基本的に固定されているので、単に ϑ(z) のように書くこともあります。添え字が付く場合でも同様です。

また z=0 の値を ϑ1:=ϑ1(0) のように書いてテータ定数といいます。導関数もこれに倣って ϑ1:=ϑ1(0) のように書きます。

例題に挑戦

例1

次を示せ:ϑ3(2z;q4)+ϑ2(2z;q4)=ϑ3(z;q)ϑ3(2z;q4)ϑ2(2z;q4)=ϑ4(z;q)

命題7を見るとϑ3(2z;q4)=1+2n=1,evenqn2cos2πnzϑ2(2z;q4)=2n=1,oddqn2cos2πnzとなってすぐに示せる。

例2 周期性

4つのテータ関数の周期性あるいは擬周期性を確認せよ。次のようになる:ϑ1(z+1)=ϑ1(z)ϑ1(z+τ)=q1e2πizϑ1(z)ϑ2(z+1)=ϑ2(z)ϑ2(z+τ)=q1e2πizϑ2(z)ϑ3(z+1)=ϑ3(z)ϑ3(z+τ)=q1e2πizϑ3(z)ϑ4(z+1)=ϑ4(z)ϑ4(z+τ)=q1e2πizϑ4(z)

z+1 のほうは命題7に代入して三角関数の加法定理等ですぐ得られます。z+τ のほうは、例えば(10)を用いてϑ1(z+τ)=ϑ11(z+τ)=eπi4τ+πi(z+τ+12)ϑ(z+τ+1+τ2)=q1e2πizϑ11(z)=q1e2πizϑ1(z)のようにできます。

例3 半周期に関する式

4つのテータ関数の半周期の変換を確認せよ。次のようになる:ϑ1(z+12)=ϑ2(z)ϑ1(z+τ2)=iq14eπizϑ4(z)ϑ2(z+12)=ϑ1(z)ϑ2(z+τ2)=q14eπizϑ3(z)ϑ3(z+12)=ϑ4(z)ϑ3(z+τ2)=q14eπizϑ2(z)ϑ4(z+12)=ϑ3(z)ϑ4(z+τ2)=iq14eπizϑ1(z)

例2と同様です。z+12 のほうは命題7に代入して三角関数の加法定理等ですぐに得られます。z+τ2 のほうは(10)を用いて計算できます。

例4 導関数に関する式

4つのテータ関数 ϑk(z) ,(k=1,2,3,4) について次を確認せよ。ϑk(z+1)ϑk(z+1)=ϑk(z)ϑk(z)ϑk(z+τ)ϑk(z+τ)=2πi+ϑk(z)ϑk(z)

例2の結果を使ってすぐ計算できます。

例5 パラメータの導関数

4つのテータ関数についてd2ϑk(z,τ)d2z=4πidϑk(z,τ)dτを示せ。

項別微分可能ですから、命題7等によって普通に計算すればOK。

参考文献

[1] Whittaker, E. T., & Watson, G. N. (2021). A course of modern analysis. Cambridge University Press.

第5版です。いわずと知れた名著。楕円関数にかなりのページを割いています。

[2] Wikipedia contributors. (2024, May 19). テータ関数. In Wikipedia. Retrieved 14:02, March 8, 2025

[3] 安藤 四郎 (1970), 楕円積分・楕円関数入門. 日新出版 (Amazon)(楽天)

次回について

テータ関数2~零点・2乗の関係

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