ガンマ関数の逆数のテイラー展開(微分の繰り返し・係数の積分表示)

テーマ

\begin{equation}\frac{1}{\G(x)}=\sum_{n=1}^\infty a_nx^n\tag{1}\end{equation}の係数を求める。

ガンマ関数(およびその対数)の展開については過去記事で取り上げました。今日はガンマ関数の逆数の展開について考えたいと思います。

どんどん微分していく

定数項

ごくごく一般的な方法ですが、まともに微分していきましょう。$f(x)={\G(x)}^{-1}$ とします。定数項は$$a_0=f(0)=\frac{1}{\G(0)}=0$$です。ゆえに級数は $n=1$ からはじまります。$$f(x)=\frac{1}{\G(x)}=\sum_{n=1}^\infty a_nx^n=\sum_{n=1}^\infty\frac{f^{(n)}(0)}{n!}x^n$$

1次の係数

$$f'(x)=-\frac{\G'(x)}{\G(x)^2}=-\frac{\psi(x)}{\G(x)}$$ここで $\psi(x)$ はディガンマ関数とよばれ、ガンマ関数の対数を微分したものです。すなわち$$\psi(x)\equiv\frac{\G'(x)}{\G(x)}$$以降、ガンマ関数の微分はすべてディガンマ関数に置き換えていきます。またディガンマ関数の漸化式\begin{equation}\psi(z+1)=\psi(z)+\frac{1}{z}\tag{2}\end{equation}は容易に示すことができます。

さらに $\G(0)$ は発散することから、$\G'(0)$ や $\psi(0)$ も値を持ちません。よって極限操作が重要になってきます。

\begin{eqnarray*}f'(0)&&=-\displaystyle\lim_{x\to0}\frac{\psi(x)}{\G(x)}\\&&=-\displaystyle\lim_{x\to0}\frac{x}{\G(x+1)}\left(\psi(x+1)-\frac{1}{x}\right)\\&&=-\displaystyle\lim_{x\to0}\left(\frac{x}{\G(x+1)}\psi(x+1)-\frac{\psi(x+1)}{\G(x+1)}\right)\end{eqnarray*}ここで $\G(1)=1$ , $\psi(1)=-\g$ ですので $f'(0)=1$ となります。$\g$ はオイラー・マスケローニ定数といいます。

ディガンマ関数の値やオイラー・マスケローニ定数については:

【γ8】ディガンマ関数の特殊値と極

以上から、

\begin{equation}a_1=1\tag{3}\end{equation}

2次の係数

再度微分しましょう。$$f''(x)=\frac{\psi(x)^2-\psi'(x)}{\G(x)}$$したがって $x=0$ では\begin{eqnarray*}f''(0)&&=\displaystyle\lim_{x\to0}\frac{\psi(x)^2-\psi'(x)}{\G(x)}\\&&=\displaystyle\lim_{x\to0}\frac{x}{\G(x+1)}\left[\left(\psi(x+1)-\frac{1}{x}\right)^2-\psi'(x)\right]\end{eqnarray*}(2)を微分することで $\psi'(z)$ の漸化式\begin{equation}\psi'(z+1)=\psi'(z)-\frac{1}{z^2}\tag{4}\end{equation}を得られますので、これを用いて\begin{eqnarray*}f''(0)&&=\displaystyle\lim_{x\to0}\frac{x}{\G(x+1)}\left[\left(\psi(x+1)-\frac{1}{x}\right)^2-\psi'(x+1)-\frac{1}{x^2}\right]\end{eqnarray*}見事に $1/x^2$ の項は消えてくれます(消えないと発散しちゃいます)。\begin{eqnarray*}f''(0)&&=\displaystyle\lim_{x\to0}\frac{x}{\G(x+1)}\left[\psi(x+1)^2-2\frac{\psi(x+1)}{x}-\psi'(x+1)\right]\\&&=-2\displaystyle\lim_{x\to0}\frac{x}{\G(x+1)}\frac{\psi(x+1)}{x}\\&&=-2\displaystyle\lim_{x\to0}\frac{\psi(x+1)}{\G(x+1)}\\&&=2\g\end{eqnarray*}今の計算の中で意識しておきたいのは、[ ]の中の $1/x$ の項はくくられた $x$ によって発散が解消され値をとること、$x$ のない項はくくられた $x$ がゼロとなるため捨てていいこと、$1/x^2$ (や $1/x^3$など)の項は[ ]内で消えてくれないと発散してしまうこと、です。これから3次、4次と計算していく中で念頭に置いておきたいです。

以上から、

\begin{equation}a_2=\g\tag{5}\end{equation}

3次の係数

3度目の微分をします。$$f'''(x)=\frac{3\psi(x)\psi'(x)-\psi''(x)-\psi(x)^3}{\G(x)}$$やることは同じですが、面倒になっていきます。$\psi''$ が現れていますので、(4)を微分して漸化式を得ておきます。\begin{equation}\psi''(z+1)=\psi''(z)+\frac{2}{z^3}\tag{6}\end{equation}

では $0$ の微分係数を求めます。\begin{eqnarray*}f'''(0)&&=\displaystyle\lim_{x\to0}\frac{x}{\G(x+1)}\left[3\left(\psi(x+1)-\frac{1}{x}\right)\left(\psi'(x+1)+\frac{1}{x^2}\right)-\psi''(x+1)+\frac{2}{x^3}-\left(\psi(x+1)-\frac{1}{x}\right)^3\right]\\&&=3\displaystyle\lim_{x\to0}\frac{1}{\G(x+1)}\left[\psi(x+1)^2-\psi'(x+1)\right]\\&&=3\psi(1)^2-3\psi'(1)\\&&=3\g^2-\frac{\pi^2}{2}\end{eqnarray*}ここで $\psi'(1)=\zeta(2)$ を用いました。[ ]内では見事に $1/x^2$ や $1/x^3$ の項が消えました。

以上から、

\begin{equation}a_3=\frac{\g^2}{2}-\frac{\pi^2}{12}\tag{7}\end{equation}

4次の係数

4階微分は$$f^{(4)}(x)=\frac{3\psi'(x)^2+4\psi(x)\psi''(x)-\psi'''(x)-6\psi(x)^2\psi'(x)+\psi(x)^4}{\G(x)}$$もうキツいですね。。。でも頑張って計算しました。$x\to0$ とする前に、各項の変形を記しておきます。$$\psi'(x)^2=\psi'(x+1)^2+\frac{2\psi'(x+1)}{x^2}+\frac{1}{x^4}$$$$\psi(x)\psi''(x)=\psi(x+1)\psi''(x+1)-\frac{\psi''(x+1)}{x}-\frac{2\psi(x+1)}{x^3}+\frac{2}{x^4}$$$$\psi'''(x)=\psi'''(x+1)+\frac{6}{x^4}$$$$\psi(x)^2\psi'(x)=\psi(x+1)^2\psi'(x+1)+\frac{\psi(x+1)^2}{x^2}-\frac{2\psi(x+1)\psi'(x+1)}{x}-\frac{2\psi(x+1)}{x^3}+\frac{\psi'(x+1)}{x^2}+\frac{1}{x^4}$$$$\psi(x)^4=\psi(x+1)^4-4\frac{\psi(x+1)^3}{x}+6\frac{\psi(x+1)^2}{x^2}-4\frac{\psi(x+1)}{x^3}+\frac{1}{x^4}$$これらを使ってガンガン計算すると、項がバタバタと消えていき、残るは $1/x$ の項だけになります。\begin{eqnarray*}f^{(4)}(0)&&=\displaystyle\lim_{x\to0}\frac{x}{\G(x+1)}\left[-\frac{4\psi''(x+1)}{x}+\frac{12\psi(x+1)\psi'(x+1)}{x}-\frac{4\psi(x+1)^3}{x}\right]\\&&=-4\psi''(1)+12\psi(1)\psi'(1)-4\psi(1)^3\\&&=8\zeta(3)-2\pi^2\g+4\g^3\end{eqnarray*}

\begin{equation}a_4=\frac{4\zeta(3)-\pi^2\g+2\g^3}{12}\tag{8}\end{equation}

というわけで、4次までの係数が求まりましたので、とりあえず次のように書けます。

\begin{equation}\frac{1}{\G(x)}=x+\g x^2+\left(\frac{\g^2}{2}-\frac{\pi^2}{12}\right)x^3+\frac{4\zeta(3)-\pi^2\g+2\g^3}{12}x^4+O(x^5)\tag{9}\end{equation}

なんとなく規則性があるような気がするのですが、5次をやってみないと確信が持てません。かといって5次を計算する気は起きませんが・・・。

Bourguetによる漸化式

はるか昔、フランスの数学者ブルゲ(Bourguet)によって次の漸化式が示されたそうです。

$a_1=1$ , $a_2=\g$ , $n\ge3$ に対して\begin{equation}(n-1)a_n=\g a_{n-1}-\zeta(2)a_{n-2}+\zeta(3)a_{n-3}-\cdots+(-1)^{n-1}\zeta(n-1)a_1\tag{10}\end{equation}

これが現れた論文はActa Math.の第2巻(1883)の261ページかららしいのですが、フランス語なので読めません。リンクだけ貼っておきます。

読めないので証明ももちろん分かりません。ですので代入してチェックだけしておきましょう。

$a_1$ , $a_2$ は先ほど求めた結果通りです。それ以降は$$2a_3=\g a_2-\zeta(2)a_1=\g^2-\frac{\pi^2}{6}$$(7)と一致しています。$$3a_4=\g a_3-\zeta(2)a_2+\zeta(3)a_1=\frac{\g^3}{2}+\zeta(3)-\frac{\pi^2\g}{4}$$(8)と一致しています。すばらしい。

5次の係数

$a_5$ はこれで求めてしまいましょう。$$4a_5=\g a_4-\frac{\pi^2}{6}a_3+\zeta(3)a_2-\frac{\pi^4}{90}a_1$$よって

\begin{equation}a_5=\frac{\pi^4-60\pi^2\g^2+60\g^4+480\g\zeta(3)}{1440}\tag{11}\end{equation}

6次の係数

この方法ならもう少し高次まで計算できますね。

\begin{equation}a_6=\frac{\pi^4\g}{1440}-\frac{\pi^2\g^3}{72}+\frac{\g^5}{120}+\frac{\g^2\zeta(3)}{6}-\frac{\pi^2\zeta(3)}{36}+\frac{\zeta(5)}{5}\tag{11b}\end{equation}

\begin{eqnarray}\frac{1}{\G(x)}&=&x+\g x^2+\left(\frac{\g^2}{2}-\frac{\pi^2}{12}\right)x^3+\frac{4\zeta(3)-\pi^2\g+2\g^3}{12}x^4\\&&+\frac{\pi^4-60\pi^2\g^2+60\g^4+480\g\zeta(3)}{1440}x^5\\&&+\left(\frac{\pi^4\g}{1440}-\frac{\pi^2\g^3}{72}+\frac{\g^5}{120}+\frac{\g^2\zeta(3)}{6}-\frac{\pi^2\zeta(3)}{36}+\frac{\zeta(5)}{5}\right)x^6+\cdots\tag{11c}\end{eqnarray}

a_n の積分表示

面白い論文を見つけました。Lazhar Fekih-Ahmed氏の"On the Power Series Expansion of the Reciprocal Gamma Function"と題するものです。リンクを貼っておきます。間違いがちょいちょいあるので注意。

係数 $a_n$ を比較的平易な積分で表示するというものです。

$$\frac{1}{\G(x)}=\sum_{n=1}^\infty a_nx^n$$とおくと$$\frac{1}{\G(z-1)}=\sum_{n=1}^\infty a_n(z-1)^n$$両辺を $z-1$ で割って$$\frac{1}{\G(z)}=\frac{1}{z-1}\sum_{n=1}^\infty a_n(z-1)^n$$ガンマ関数の相反公式により$$\frac{\sin\pi z}{\pi}\G(1-z)=\frac{1}{z-1}\sum_{n=1}^\infty a_n(z-1)^n$$この左辺は\begin{eqnarray*}\frac{\sin\pi z}{\pi}\G(1-z)&&=\frac{\sin\pi z}{\pi(1-z)}\G(2-z)\\&&=\frac{\sin\pi (z-1)}{\pi(z-1)}\G(2-z)\\&&=\frac{\sin\pi (z-1)}{\pi(z-1)}\int_-^\infty e^{-t}t^{1-z}dt\quad(\mathfrak{R}z<2)\\&&=\frac{1}{2\pi i}\frac{1}{z-1}\int_0^\infty e^{-t}t^{1-z}(e^{i\pi(z-1)}-e^{-i\pi(z-1)})dt\\&&=\frac{1}{2\pi i}\frac{1}{z-1}\int_0^\infty e^{-t}e^{(1-z)\ln t}(e^{i\pi(z-1)}-e^{-i\pi(z-1)})dt\\&&=\frac{1}{2\pi i}\frac{1}{z-1}\int_0^\infty e^{-t}\left[e^{(z-1)(-\ln t+i\pi)}-e^{(z-1)(-\ln t-i\pi)}\right]dt\end{eqnarray*}と変形できるので$$\sum_{n=1}^\infty a_n(z-1)^n=\frac{1}{2\pi i}\int_0^\infty e^{-t}\left[e^{(z-1)(-\ln t+i\pi)}-e^{(z-1)(-\ln t-i\pi)}\right]dt$$と表せます。左辺を見ると$$a_n=\frac{1}{n!}\left.\frac{d^n}{dz^n}LHS\right|_{z=1}$$であることが分かりますので、\begin{eqnarray*}a_n&&=\frac{1}{2\pi in!}\int_0^\infty e^{-t}\displaystyle\lim_{z\to1}\frac{d^n}{dz^n}\left[e^{(z-1)(-\ln t+i\pi)}-e^{(z-1)(-\ln t-i\pi)}\right]dt\\&&=\frac{1}{2\pi in!}\int_0^\infty e^{-t}\displaystyle\lim_{z\to1}\left[(-\ln t+i\pi)^ne^{(z-1)(-\ln t+i\pi)}-(-\ln t-i\pi)^ne^{(z-1)(-\ln t-i\pi)}\right]dt\\&&=\frac{1}{2\pi in!}\int_0^\infty e^{-t}\left[(-\ln t+i\pi)^n-(-\ln t-i\pi)^n\right]dt\end{eqnarray*}

ここで $-\ln t+i\pi=R(\cos\t+i\sin\t)$ とおくと$$(-\ln t+i\pi)^n-(-\ln t-i\pi)^n=2iR^n\sin n\t=2i\mathfrak{I}(-\ln t+i\pi)^n$$と表せるので、次の結論を得ます。

\begin{equation}a_n=\frac{(-1)^n}{\pi n!}\int_0^\infty e^{-t}\mathfrak{I}\left[(\ln t-i\pi)^n\right]dt\tag{12}\end{equation}

実際に値を計算してみましょう。補助定理として$$\int_0^\infty e^{-t}(\ln t)^ndt=\G^{(n)}(1)$$を使います。

\begin{eqnarray*}\G^{(n)}(x)&&=\frac{d^n}{dx^n}\int_0^\infty e^{-t}t^{x-1}dt\\&&=\int_0^\infty e^{-t}t^{x-1}(\ln t)^ndt\end{eqnarray*}で $x=1$ として得られます。

$$a_1=-\frac{1}{\pi}\int_0^\infty e^{-t}(-\pi)dt=1$$$$a_2=\frac{1}{2\pi}\int_0^\infty e^{-t}(-2\pi\ln t)dt=\g$$$$a_3=-\frac{1}{6\pi}\int_0^\infty e^{-t}(-3\pi\ln^2 t+\pi^3)dt=-\frac{\pi^2}{6}+\frac{\G''(1)}{2}=\frac{\g^2}{2}-\frac{\pi^2}{12}$$

ちゃんと合ってますね。素晴らしい。

ベータ関数の逆数の積分表示についてはこちら:

Bourguetの積分表示:

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