【4】条件収束する無限積の収束性(Cauchy's test)

無限積の理論シリーズ第4回。前回は無限積の絶対収束について解説しました。絶対収束は単なる収束よりも強い条件であり、収束はするが絶対収束しない場合、「条件収束」といいます。条件収束する無限積はデリケートで扱いにくいことで知られています。無限積の収束性を調べるために、対応する無限級数の収束性を議論するのですが、条件収束が絡むとこれが機能しないのです。今回はそれを詳しく見ていきましょう。

前回はこちら:

【3】無限積の絶対収束と複素数の扱い

条件収束する無限積

収束はするが絶対収束しない無限積は「条件収束する」といいます。前回記事の定理3.6で、$\sum z_n$ が絶対収束することと $\prod(1+z_n)$ が絶対収束することは同値であると示しました。したがって、条件収束する無限積の特徴は「無限積自身は収束するけど $\sum |z_n|$ は発散する」「無限積自身は収束するけど $\prod(1+|z_n|)$ は発散する」ということです。具体例を見てみましょう。

例題4.1

$$P:=\prod_{n=2}^\infty\left(1+\frac{(-1)^n}{n}\right)$$は条件収束か?

$\sum|\frac{(-1)^n}{n}|$ は調和数であり、明らかに発散するので(ここの例題2.1)$P$ は絶対収束しない。また部分積は\begin{eqnarray*}P_n &=& \left(1+\frac{1}{2}\right)\left(1-\frac{1}{3}\right)\cdots\left(1+\frac{(-1)^n}{n}\right)\\&=&\frac{3}{2}\frac{2}{3}\frac{5}{4}\frac{4}{5}\cdots\frac{n+(-1)^n}{n}\\&=&\begin{cases}1\quad &(n:\mathrm{odd})\\\frac{n-1}{n}\quad&(n:\mathrm{even})\end{cases}\\&\longrightarrow& 1\end{eqnarray*}となって収束する。よってこの無限積 $P$ は条件収束である。

級数との関係 ― 条件収束か発散か?

$P=\prod(1+z_n)$ , $S=\sum z_n$ とします。冒頭で述べたように、$P$ , $S$ は、共に絶対収束するか共に絶対収束しないかです。例題4.1では $P$ , $S$ ともに条件収束しています($S$ はライプニッツの定理により収束するため)。そこで絶対収束と同様に「$P$ , $S$ は、共に条件収束するか共に条件収束しない」が成り立つのだろうか?という疑問が湧きます。これが事実なら、無限積は「絶対収束」「条件収束」「発散」のいずれかであるとを考えると

  • $P$ が絶対収束することと $S$ が絶対収束することは同値(証明済)
  • $P$ が条件収束することと $S$ が条件収束することは同値(???)
  • $P$ が発散することと $S$ が発散することは同値(???)

といえることになり、大変分かりやすいでしょう(ちなみに $z_n$ がすべて正項であれば絶対収束=収束なので2番目は無い)。ところがこの期待は、次の例によりすぐさま打ち砕かれます。

例題4.2

自然数 $n$ に対して$$a_{2n-1}=\frac{1}{\sqrt{n}}\;,\;a_{2n}=\frac{1}{n}-\frac{1}{\sqrt{n}}$$とする。このとき $P=\prod(1+a_n)$ は条件収束し、$S=\sum a_n$ は発散する。

$S$ については部分和$$S_{2n}=1+\frac{1}{2}+\cdots+\frac{1}{n}\to +\infty$$で発散する。一方、部分積は\begin{eqnarray*}P_{2n}&=& \prod_{k=1}^n(1+a_{2k-1})(1+a_{2k}) \\&=& \prod_{k=1}^n\left(1+\frac{1}{k\sqrt{k}}\right)\end{eqnarray*}$\frac{1}{k\sqrt{k}}$ が正項であることから、ここの定理2.1より $P_{2n}$ は収束する。$P_{2n+1}$ も収束するとすぐに分かる。よって $P$ は収束する。$S$ が絶対収束しないことから、$P$ は条件収束である。

例題4.3

$2$ 以上の自然数 $n$ について $$a_n=\frac{(-1)^n}{\sqrt{n}}$$とする。このとき $P=\prod(1+a_n)$ は発散し、$S=\sum a_n$ は条件収束する。

$S$ はライプニッツの定理により収束するが、$\sum \frac{1}{\sqrt{n}}$ は発散するので絶対収束はしない。よって条件収束である。一方、\begin{eqnarray*}(1+a_{2n-1})(1+a_{2n}) &=& \left(1-\frac{1}{\sqrt{2n-1}}\right)\left(1+\frac{1}{\sqrt{2n}}\right)\\&=&1-\left[\frac{1}{n\sqrt{2(2-\frac{1}{n})}}+\frac{1}{n\sqrt{2(2-\frac{1}{n})}(\sqrt{2n}+\sqrt{2n-1})}\right]\end{eqnarray*}大括弧内を $b_n>0$ とすると $n\to\infty$ で $b_n\sim\frac{1}{n}$ である。$\sum\frac{1}{n}$ は発散するから、Limit comparison testにより $\sum b_n$ も発散。定理2.3より $P_{2n}$ も発散する。

例題4.2は「$P$ は収束するが $S$ は発散する」、例題4.3は「$P$ は発散するが $S$ は収束する」という例です。よって、先ほどの対応関係については

  • $P$ が絶対収束することと $S$ が絶対収束することは同値(証明済)
  • $P$ が条件収束することと $S$ が条件収束することは同値でない
  • $P$ が発散することと $S$ が発散することは同値でない

ということになります。したがって $S=\sum z_n$ が絶対収束であれば $P=\prod(1+z_n)$ もそうですので、$P$ が収束すると分かりますが、条件収束する可能性があれば無限積 $P$ の収束性を調べるために、単純に無限級数 $S$ の収束性を調べても機能しないのです

Cauchy's Test

では無限積の収束性を調べるのに、無限級数を使う手法はないのでしょうか。そこで条件を1つ足して次のように判定する方法があります。以下、$z_n\neq -1$ とします(仮に $z_n=-1$ なる項が有限個あっても、取り除いて考えます)。

2乗の級数を用いた収束・発散判定

定理4.1 Cauchy's Test

$\sum |z_n|^2$ が収束するとする。このとき $\sum z_n$ と $\prod(1+z_n)$ は共に収束するか、共に発散する。

【証明】ここの定理2より $z_n\to 0$ なので$$\exists N\in\NN,\; \forall n\ge N,\;|z_n|\le\frac{1}{2}$$である。$|z_n|<1$ を満たすので、主値をとる対数を用いて次のメルカトル級数を利用できる。$$\ln(1+z_n)=\sum_{k=1}^\infty\frac{(-1)^{k-1}}{k}z_n^{~k}\quad(\forall n\ge N)$$よって\begin{eqnarray*}|\ln(1+z_n)-z_n| &=&\left|\sum_{k=2}^\infty \frac{(-1)^{k-1}}{k}z_n^{~k}\right| \\&=&\left|\frac{z_n^{~2}}{2}\sum_{k=2}^\infty \frac{2(-1)^{k-1}}{k}z_n^{~k-2}\right| \\&\le &\frac{|z_n|^2}{2}\sum_{k=2}^\infty \frac{2}{k}|z_n|^{k-2}\\&\le&\frac{|z_n|^2}{2}\sum_{k=0}^\infty |z_n|^k\\&=&\frac{|z_n|^2}{2(1-|z_n|)}\\&\le& |z_n|^2\end{eqnarray*}比較判定法により $\sum |\ln(1+z_n)-z_n|$ は収束、すなわち $\sum \{\ln(1+z_n)-z_n\}$ も収束する。 したがって $\sum\ln(1+z_n)$ と $\sum z_n$ は共に収束するか、共に発散する。よって 定理3.2より $\sum z_n$ と $\prod(1+z_n)$ は共に収束するか、共に発散する。【証明終】

系4.2

$\sum z_n$ , $\sum |z_n|^2$ が収束するならば、$\prod (1+z_n)$ は収束する。

系4.2は定理4.1からただちに従います。これで無限積が収束することを確かめる方法が与えられました!

実数の場合(もう1つの発散判定)

なお、$z_n\in\RR$ であれば次も成立します。

定理4.3

$a_n\in\RR$ , $\sum a_n$ が収束するとする。このとき $\prod(1+a_n) $ が収束するならば、$\sum a_n^{~2}$ も収束する。

【証明】$a_n\to 0$ より十分大きな $n$ では $1+a_n>0$ である。$\ln(1+x)$ のマクローリン展開から$$0\le x-\ln(1+x)=\frac{x^2}{2}+O(x^3)\quad(x\to 0)$$$$\therefore\quad \lim_{n\to \infty}\frac{a_n-\ln(1+a_n)}{a_n^{~2}}=\frac{1}{2}$$よって$$\exists N\in\NN,\; \forall n\ge N,\;\left|\frac{a_n-\ln(1+a_n)}{a_n^{~2}}-\frac{1}{2}\right|<\frac{1}{4}$$変形すると$$a_n-\ln(1+a_n)>\frac{1}{4}a_n^{~2}\quad(\forall n\ge N)$$和をとって$$\sum_{k=N}^n a_k-\sum_{k=N}^n\ln(1+a_k)>\frac{1}{4}\sum_{k=N}^na_k^{~2}\ge 0$$この左辺第1項は収束することから、$\sum \ln(1+a_k)$ が収束すれば $\sum a_k^{~2}$ も収束する。定理3.2より $\prod(1+a_n)$ が収束すれば $\sum a_n^{~2}$ も収束する。【証明終】

この対偶をとることで(あるいは定理4.3の証明の、和をとっている式からただちに)無限積の発散を以下のように判定できます。

系4.4

$a_n\in\RR$ , $\sum a_n$ が収束するとする。このとき $\sum a_n^{~2}$ が発散するならば、$\prod(1+a_n) $ も発散する。

奇妙に思える例

$\sum z_n$ と $\sum|z_n|^2$ が共に発散するのに、$\prod(1+z_n)$ は収束する例があります。系4.4と見比べると、何だか変な感じがします。無限積の条件収束のややこしさが見て取れますね。

例題4.4

$n\in\NN$ に対し$$a_{2n-1}=-\frac{1}{\sqrt{n}}\; ,\; a_{2n}=\frac{1}{\sqrt{n}}+\frac{1}{n}+\frac{1}{n\sqrt{n}}$$と定めると、$\sum a_n$ と $\sum a_n^{~2}$ は発散し、$\prod(1+a_n)$ は収束することを示せ。

$S_{2n}$ が調和数を含むので、明らかに $\sum a_n$ は発散。同じ理由で $\sum a_n^{~2}$ も発散。一方$$(1+a_{2n-1})(1+a_{2n})=1-\frac{1}{n^2}$$となるので、$\sum\frac{1}{n^2}$ は収束することから、定理2.2より $P_{2n}$ は収束する。したがって $P_{2n+1}$ も収束することがすぐに分かる。よって無限積は収束する。

Cauchy's Testとその関連定理の例題

例題4.5

$a_n=\frac{(-1)^n}{\sqrt{n}}$ とする。無限積 $\prod(1+a_n)$ は収束するか。

$\sum a_n$ はライプニッツの定理により収束。$\sum a_n^2$ は調和数となって発散。系4.4より無限積は発散。

例題4.6

$n\in\NN$ に対し$$a_n=\begin{cases}\dfrac{1}{n^2}\quad &(n:\mathrm{odd})\\\dfrac{1}{n}\quad &(n:\mathrm{even})\end{cases}$$ とする。無限積 $\prod(1+a_n)$ は収束するか。

調和数が現れるので $\sum a_n$ は発散。一方 $\sum a_n^{~2}$ は収束する。定理4.1より無限積は発散。

例題4.7

第2回で紹介した例題も参照。$s,\t\in\RR$ , $s>0$ , $\t\neq 2\pi N$ とする。$$a_n:=\frac{\cos n\t}{n^s}\;,\;b_n:=\frac{\sin n\t}{n^s}$$として、次の2つの関数\begin{eqnarray*}f(\t,s)&:=&\prod_{n=1}^\infty\left(1+a_n\right) \\ g(\t,s)&:=&\prod_{n=1}^\infty\left(1+b_n\right)\end{eqnarray*}を定義する。2つの関数は $s>1/2$ で収束することを示せ。

こちらで示したように\begin{eqnarray*}\sum_{k=1}^n \cos k\t&=&\frac{\sin(n+\frac{1}{2})\t-\sin\frac{\t}{2}}{2\sin\frac{\t}{2}}\\\sum_{k=1}^n\sin k\t &=&\frac{\cos\frac{\t}{2}-\cos(n+\frac{1}{2})\t}{2\sin\frac{\t}{2}}\end{eqnarray*}絶対値をとってみれば $\sum \cos k\t$ , $\sum \sin k\t$ が有界であると分かる。$p_n=\cos n\t$ , $q_n=\sin n\t$ , $\lambda_n=\frac{1}{n^s}$ とすると、Dirichlet testにより $\sum \lambda_np_n$ , $\sum\lambda_nq_n$ は収束する($s>0$)。すなわち $\sum a_n$ , $\sum b_n$ は $s>0$ で収束する。$$a_n^{~2}=\frac{\cos^2n\t}{n^{2s}}\;,\;b_n^{~2}=\frac{\sin^2n\t}{n^{2s}}$$より $\sum a_n^{~2}$ , $\sum b_n^{~2}$ は $s>\frac{1}{2}$ で収束する。

以上から定理4.1より $f,g$ は $s>\frac{1}{2}$ で収束する。

次回も条件収束する無限積について進めます!

【5】条件収束する無限積の収束性2(積の順序・Pringsheim's Test・regularly convergent)

参考文献

[1] Charles H.C.Little, Kee L.Teo, Bruce van Brunt, "An Introduction to Infinite Products" (2022) 楽天はココ

無限積だけで1冊の本。入門からスタートするので安心です。第1章で級数のおさらいもあります。

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