前回はこちら:
ヤコビの楕円関数2(定義域の拡張・半角公式・倍角公式・展開)
前回はヤコビの楕円関数3つを複素数へ拡張しました。複素関数となったからには、零点や極を知っておきたいところ。また、一般の楕円関数を定義づける二重周期性についても解説します。
\begin{align}\mathrm{sn}(u+iv) &= \frac{\sn u\:\mathrm{dn}'v+i\:\cn u\:\dn u\:\mathrm{sn}'v\:\mathrm{cn}'v}{\mathrm{cn}'^2v+k^2\mathrm{sn}^2u\:\mathrm{sn}'^2v}\\ \mathrm{cn}(u+iv) &= \frac{\cn u\:\mathrm{cn}'v-i\:\sn u\:\dn u\:\mathrm{sn}'v\:\mathrm{dn}'v}{\mathrm{cn}'^2v+k^2\mathrm{sn}^2u\:\mathrm{sn}'^2v}\\\mathrm{dn}(u+iv) &= \frac{\dn u\:\mathrm{cn}'v\:\mathrm{dn}'v-ik^2\sn u\:\cn u\:\mathrm{sn}'v}{\mathrm{cn}'^2v+k^2\mathrm{sn}^2u\:\mathrm{sn}'^2v}\end{align}
ただしダッシュは母数が $k'$ という意味です(微分ではない)。左辺の母数はすべて $k$ ですが省略しています。
定理35で $v=K'$ を考えます。命題29を参考にすると、例えば$$\mathrm{dn}'v=\dn (v,k')=\dn(K',k')=k$$であり、同様に $\mathrm{sn}'v=1$ , $\mathrm{cn}'v= 1$ となることに注意して\begin{align}\mathrm{sn}(u+iK') &= \frac{k\sn u}{k^2\mathrm{sn}^2u}\\ \mathrm{cn}(u+iK') &= \frac{-ik\:\sn u\:\dn u}{k^2\mathrm{sn}^2u}\\\mathrm{dn}(u+iK') &= \frac{-ik^2\sn u\:\cn u}{k^2\mathrm{sn}^2u}\end{align}を経て
\begin{align}\mathrm{sn}(u+iK') &= \frac{1}{k\:\mathrm{sn}(u,k)}\\ \mathrm{cn}(u+iK') &= -i\frac{\mathrm{dn}(u,k)}{k\:\mathrm{sn}(u,k)}\\\mathrm{dn}(u+iK') &= -i\frac{\mathrm{cn} (u,k)}{\mathrm{sn} (u,k)}\end{align}
左辺の母数 $k$ は省略しています。また同様の計算をすることで
\begin{align}\mathrm{sn}(u+2iK') &= \mathrm{sn}(u,k)\\ \mathrm{cn}(u+2iK') &= -\mathrm{cn}(u,k)\\\mathrm{dn}(u+2iK') &= -\mathrm{dn}(u,k)\end{align}
\begin{align}\mathrm{cn}(u+4iK') &= \mathrm{cn}(u,k)\\\mathrm{dn}(u+4iK') &= \mathrm{dn}(u,k)\end{align}
よって $\sn u$ は周期 $2iK'$(すなわち $2K(k')$, すなわち $2K(\sqrt{1-k^2})$)を、$\cn u$ は周期 $4iK'$ を、$\dn u$ は周期 $4iK'$ を持つことが分かります。ところでやはり命題29から $\sn u$ は周期 $4K$ , $\cn u$ は周期 $4K$ , $\dn u$ は周期 $2K$ をもつのでした。このことから、ヤコビの楕円関数は実数方向および虚数方向に周期をもつことになります。例えば$$\mathrm{sn}(u+8K-6iK')=\sn u$$といった具合です。
一般に$$f(z)=f(z+m\omega_1+n\omega_2) \quad\forall m,n\in\ZZ$$なる $\omega_1,\omega_2\in\CC$ が存在するとき、関数 $f$ は二重周期性をもつといいます。ただし $\mathfrak{I}(\omega_1/\omega_2)>0$ という条件付きです。複素平面で $\omega_1$ と $\omega_2$ という2点を取ったとき、$0$, $\omega_1$, $\omega_2$, $\omega_1+\omega_2$ でできる平行四辺形が基本単位で、あとはそれが繰り返されます。
$\cn$ に関してだけは $\mathrm{cn}(u+2K+2iK')=\cn u$ であることに注意すると、
$\sn u$ は周期 $4K$ , $2iK'$ をもつ。
$\cn u$ は周期 $4K$ , $2K+2iK'$ をもつ。
$\dn u$ は周期 $2K$ , $4iK'$ をもつ。
つまり $\sn u$ は $0$, $4K$, $2iK'$, $4K+2iK'$ でできる長方形の中のみを論じれば、周期性によって複素平面全体について分かることになります。
$\cn u$ は先ほど見たように $4K$, $4iK'$ を周期にもちますが、これを基本単位としてしまうと周期 $2K+2iK'$ を含めることができません。逆に系38のようにしておけば、$$-(4K)+2(2K+2iK')=4iK'$$となって周期 $4iK'$ を表すことができます。
実数の範囲においては $m\in\ZZ$ で\begin{align}\sn 2mK&=0\\\cn(2m+1)K&=0\end{align}が零点で、$\dn u\neq0$ なのでした。
このことから $\sn u$ の零点と特異点を求めてみましょう。定理35より$\mathrm{sn}(u+iv)$ は $\mathrm{cn}'v=0$ かつ $\sn u=0$ で発散します($\mathrm{cn}'v=0$ なら $\mathrm{sn}'v\neq0$ なので!)。よって $u=2mK$ かつ $v=(2n+1)K'$ となって $2mK+(2n+1)iK'$ が $\sn u$ の特異点となります。
一方、零点については定理35より$$\mathrm{sn}(u+iv)=0\Longleftrightarrow \begin{cases}\sn u\:\mathrm{dn}'v&=&0\\\cn u\:\dn u\:\mathrm{sn}'v\:\mathrm{cn}'v&=&0\end{cases}$$$\mathrm{dn}$ はゼロになりませんので $\sn u=0$ が必要です。つまり $u=2mK$ であり、$$\mathrm{sn}(2mK+iv) = \frac{i(-1)^m\:\mathrm{sn}'v}{\mathrm{cn}'v}$$このとき $\mathrm{sn}'v=0$ すなわち $v=2nK'$ なら零点を与えます。よって $u=2mK+2niK'$ が $\sn u$ の零点と分かります。定理33よりこの零点は1位です(面倒なので証明は省きますが $\sn u$ は後述の極を除いて解析的なので、べき展開可能)。
話を戻して先ほどの特異点 $u=2mK+(2n+1)iK'$ について。この特異点の性質を調べるには、周期性から $m=n=0$ のみ論じてよいです。要は $\mathrm{sn}(u+iK')$ で $u\to 0$ としたときのようすを探ります。 系36から$$\mathrm{sn}(u+iK') = \frac{1}{k\:\mathrm{sn}(u,k)}$$です。$\sn u$ は $u=0$ で1位の零点をもつので、$\mathrm{sn}(u+iK')$ としては1位の極となります。よって $u=2mK+(2n+1)iK'$ は $\sn u$ の1位の極です。
$\cn u$ や $\dn u$ についても同様に考えると
零点 | 極 | |
$\sn u$ | $2mK+2niK'$ | $2mK+(2n+1)iK'$ |
$\cn u$ | $(2m+1)K+2niK'$ | $2mK+(2n+1)iK'$ |
$\dn u$ | $(2m+1)K+(2n+1)iK'$ | $2mK+(2n+1)iK'$ |
この結果はHancock [4]を参考にしました。
結局、特異点がすべて極なのでヤコビの楕円関数は有理型です。そもそも一般の楕円関数の定義は「2方向に周期をもつ有理型関数」であり、ヤコビの楕円関数はその例ということになります。
以上で書きたいことは終わりですが、余興としていくつか公式を導出しましたので書き留めておきます。
系32と定理34を再掲すると
$$\sn\frac{K}{2}=\frac{1}{\sqrt{1+k'}}\;,\;\;\cn\frac{K}{2}=\sqrt{\frac{k'}{1+k'}}\;,\;\; \dn\frac{K}{2}=\sqrt{k'}$$
\begin{align}\mathrm{sn}(iu,k)&=i\:\mathrm{sc}(u,k')\tag{a}\\\mathrm{cn}(iu,k)&=\mathrm{nc}(u,k')\tag{b}\\\mathrm{dn}(iu,k)&=\mathrm{dc}(u,k')\tag{c}\end{align}
これらより
\begin{align}\sn\frac{iK'}{2} &= \frac{i}{\sqrt{k}} \\\cn\frac{iK'}{2} &= \sqrt{\frac{1+k}{k}} \\\dn\frac{iK'}{2} &=\sqrt{1+k}\end{align}
命題40と定理28より
\begin{align}\mathrm{sn}\left(K+\frac{iK'}{2}\right) &= \frac{1}{\sqrt{k}} \\\mathrm{cn}\left(K+\frac{iK'}{2}\right) &= -i\sqrt{\frac{1-k}{k}} \\\mathrm{dn}\left(K+\frac{iK'}{2}\right) &= \sqrt{1-k}\end{align}
$\sn u$ の定義から$$u=\int_0^{\sn (u,k)}\frac{dx}{\sqrt{(1-x^2)(1-k^2x^2)}}$$$kx=y$ と置換して$$ku=\int_0^{k\:\mathrm{sn} (u,k)}\frac{dy}{\sqrt{(1-y^2)(1-\frac{y^2}{k^2})}}$$一方で $\sn u$ の定義から$$ku=\int_0^{\sn (ku,1/k)}\frac{dx}{\sqrt{(1-x^2)(1-\frac{x^2}{k^2})}}$$このようにして次の公式ができあがります。
\begin{align}\mathrm{sn}\left(ku,\frac{1}{k}\right) &= k\:\mathrm{sn}(u,k) \\\mathrm{cn}\left(ku,\frac{1}{k}\right) &= \mathrm{dn}(u,k) \\\mathrm{dn}\left(ku,\frac{1}{k}\right) &= \mathrm{cn}(u,k)\end{align}
楕円積分・楕円関数のことが平易に書かれています。
[2] Whittaker, E. T., & Watson, G. N. (2021). A course of modern analysis. Cambridge University Press.第5版です。いわずと知れた名著。ヤコビの楕円関数に1章を割いています。
[3] Borwein,J.M., Borwein,P.B. (1987) "Pi and the AGM : a study in analytic number theory and computational complexity"楕円積分に関する定理がいろいろあります。興味深い式が多く導出されており、一見の価値あり。 [4] Hancock, H. (1917). Elliptic Integrals
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