前回はこちら:
ワイエルシュトラスのペー関数の話の続きです。$$\O_{m,n}:=m\o_1+n\o_2$$とおくとワイエルシュトラスのペー関数は\begin{equation}\wp(z):=\frac{1}{z^2}+\sum_{m,n}'\left[\frac{1}{(z-\O_{m,n})^2}-\frac{1}{\O_{m,n}^{~2}}\right]\tag{0a}\end{equation}と定義されます。ここで $\sum'$ は $m,n$ がともにゼロとなる場合を除き全整数にわたって和をとるものです。またよくあらわれる等式として\begin{equation}\wp'(z)^2-4\wp(z)^3+g_2\wp(z)+g_3=0\tag{0b}\end{equation}さらに楕円積分の逆関数としても表せます:\begin{equation}z=\int_{\wp(z)}^\infty(4t^3-g_2t-g_3)^{-\frac{1}{2}}dt\tag{0c}\end{equation}これらの詳細は過去記事を見てください。
$\o_1$ , $\o_2$ によってできる平行四辺形 $0$,$\o_1$,$\o_1+\o_2$,$\o_2$ およびその繰り返しとして現れる平行四辺形を格子とよびます。(0a)よりペー関数はこれらの頂点を極に持ちます。
(0a)式の級数は一様収束であるため、和の取り方は好きにしてよいのでした。このことから $\o_1$ を $-\o_1$ に変えても関数の値は変わりません。
また $\o_1+\o_2+\o_3=0$ となる $\o_3$ を定義すると、$$\wp\left(z\left|\begin{matrix}\o_1\\\o_3\end{matrix}\right.\right)=\frac{1}{z^2}+\sum_{m,n}'\left[\frac{1}{(z-(m-n)\o_1+n\o_2)^2}-\frac{1}{((m-n)\o_1-n\o_2)^2}\right]$$$\o_1$ , $\o_2$ の係数が $(m-n)$ , $-n$ になっていますが、$(m,n)$ に関する和をとってみると $((m-n),-n)$ と全体としては一致しているため\begin{equation}\wp\left(z\left|\begin{matrix}\o_1\\\o_3\end{matrix}\right.\right)=\wp\left(z\left|\begin{matrix}\o_1\\\o_2\end{matrix}\right.\right)\tag{1}\end{equation}となります。よってペー関数の周期は $\o_1,\o_2,\o_3$ のなかであればチェンジして構いません。
それにともない、ペー関数の級数展開$$\wp(z)=\frac{1}{z^2}+\sum_{k=1}^\infty(2k+1)G_{2k+2}z^{2k}$$に現れるアイゼンシュタイン級数$$G_{2k}:=\sum_{m,n}'\frac{1}{\O_{m,n}^{~2k}}=\sum_{m,n}'\frac{1}{(m\o_1+n\o_2)^{2k}}$$や不変量$$g_2:=60G_4\;,\quad g_3:=140G_6$$も $\o_1,\o_2,\o_3$ の取り替えによっては変わりません。
周期が決まれば不変量等も決まることから $g_2(\o_1,\o_2)$ のように書くこともあります。
$\o_1\in\RR$ , $\o_2$ を純虚数とし、$\o_1=a$ , $\o_2=ib$ と書きましょう。このとき\begin{align*}\wp(\bar{z})&=\frac{1}{\bar{z}^2}+\sum_{m,n}'\left[\frac{1}{(\bar{z}-ma-nbi)^2}-\frac{1}{(ma+nbi)^{~2}}\right]\\&=\frac{1}{\bar{z}^2}+\sum_{m,n}'\left[\frac{1}{(\overline{z-ma+nbi})^2}-\frac{1}{(\overline{ma-nbi})^{~2}}\right]\\&=\overline{\frac{1}{z^2}+\sum_{m,n}'\left[\frac{1}{(z-ma+nbi)^2}-\frac{1}{(ma-nbi)^{~2}}\right]}\\&=\overline{\wp(z)}\end{align*}最後には $n\to -n$ としても級数全体として変わらないことを用いました。したがって $\o_1\in\RR$ , $\o_2$ が純虚数のときは\begin{equation}\wp(\bar{z})=\overline{\wp(z)}\tag{2}\end{equation}条件もちゃんと明記するなら\begin{equation}\wp\left(\bar{z}\left|\begin{matrix}a\\ib\end{matrix}\right.\right)=\overline{\wp\left(z\left|\begin{matrix}a\\ib\end{matrix}\right.\right)}\tag{2'}\end{equation}と書きましょう。
このとき $x\in\RR$ で明らかに $\wp(x)=\overline{\wp(x)}$ です。また $y\in\RR$ で $$\overline{\wp(iy)}=\wp(\overline{iy})=\wp(-iy)$$であり、偶関数より最右辺は $\wp(iy)$ に等しい。よって\begin{equation}\wp(x)\in\RR\;,\quad \wp(iy)\in\RR\tag{3}\end{equation}長方形の格子の外周では実数値をとることが分かります(ただし頂点は極)。
また\begin{align}\displaystyle\overline{\wp\left(\frac{a}{2}+iy\right)} &=\wp\left(\frac{a}{2}-iy\right)\\&=\wp\left(\frac{a}{2}-iy-a\right)\quad(\because 周期性)\\&=\wp\left(-\frac{a}{2}-iy\right)\\&=\wp\left(\frac{a}{2}+iy\right)\quad(\because 偶関数)\end{align}同様に$$\overline{\wp\left(x+\frac{ib}{2}\right)} =\wp\left(x+\frac{ib}{2}\right)$$よって\begin{equation}\wp\left(\frac{a}{2}+iy\right)\in\RR\;,\quad \wp\left(x+\frac{ib}{2}\right)\in\RR\tag{4}\end{equation}
導関数 $\wp'$ もまた二重周期 $\o_1,\o_2$ をもち、かつ奇関数でした。半周期を考えてみましょう。\begin{align}\wp'\left(\frac{\o_1}{2}\right) &= -\wp'\left(-\frac{\o_1}{2}\right) \\&=-\wp'\left(-\frac{\o_1}{2}+\o_1\right)\\&=-\wp'\left(\frac{\o_1}{2}\right)\end{align}$$\therefore\quad\wp'\left(\frac{\o_1}{2}\right)=0$$$\o_2,\o_3$ でも同様にして結果を得ます。
つまり$\wp'(z)$ は零点 $\o_1/2$ , $\o_2/2$ , $\o_3/2$ をもちます。もちろんこれらと合同な点も同じです。
ところでペー関数の定義を微分することにより\begin{equation}\wp'(z)=-2\sum_{m,n}\frac{1}{(z-\O_{m,n})^3}\tag{5}\end{equation}でした。つまり $\wp'$ は $z\equiv 0$ にのみ3位の極をもつ楕円関数で、他に特異点はありません。よってここの系8より $\wp'$ はセル内にちょうど3つの零点をもつことになります。その3つは $\o_1/2$ , $\o_2/2$ , $\o_3/2$ というわけです。
ペー関数の導関数 $\wp'(z)$ は
3位の極を $z\equiv0$ にもち、他に特異点をもたない。
1位の零点を $z\equiv\frac{\o_1}{2},\frac{\o_2}{2},\frac{\o_3}{2}$ にもち、他に零点をもたない。
導関数の零点におけるペー関数の値を\begin{equation}\wp\left(\frac{\o_1}{2}\right):=e_1\;,\quad\wp\left(\frac{\o_2}{2}\right):=e_2\;,\quad\wp\left(\frac{\o_3}{2}\right):=e_3\tag{6}\end{equation}とおきます。
$z$ の関数 $\wp(z)-e_1$ およびその微分 $\wp'(z)$ を考えると、ともに $z=\o_1/2$ でゼロとなります。よって $\wp(z)-e_1$ は $z\equiv \o_1/2$ を2位の極としてもちます。 $\wp(z)$ の極は2位を1つもつのみでしたから、$\wp(z)-e_1$ の極も2位が1つだけです。よってここの系8より $\wp(z)-e_1$ は(重複を込めて)2個の零点をもつことになります。それが $z\equiv\omega_1/2$ という2位の零点なわけです。
したがって $\wp(z)-e_1$ の零点は $z\equiv\omega_1/2$ のみ。同様にして $\wp(z)-e_2$ の零点は $z\equiv\omega_2/2$、 $\wp(z)-e_3$ の零点は $z\equiv\omega_3/2$ のみ。すべて2位の零点です。
また面白いことに $e_1$ ,$e_2$ , $e_3$ はすべて互いに異なります。仮に $e_1=e_2$ であったとすると関数 $\wp(z)-e_1$ は $\o_2/2$ も零点にもつことになってしまいます。$\o_1/2\not\equiv\o_2/2$ ですし矛盾。
ところで冒頭の(0b)より\begin{equation}\wp'(z)^2=4\wp(z)^3-g_2\wp(z)-g_3=0\tag{7}\end{equation}(6)より\begin{equation}\wp'(z)^2=4\left(\wp(z)-\wp\left(\frac{\o_1}{2}\right)\right)\left(\wp(z)-\wp\left(\frac{\o_2}{2}\right)\right)\left(\wp(z)-\wp\left(\frac{\o_3}{2}\right)\right)\tag{8}\end{equation}(8)の左辺は $z\equiv0$ に6位の極を、$z\equiv\frac{\o_1}{2}$,$\frac{\o_2}{2}$,$\frac{\o_3}{2}$ に2位の零点をもつ楕円関数です。右辺もそうなっています。(8)を書き改めると\begin{equation}\wp'(z)^2=4\left(\wp(z)-e_1\right)\left(\wp(z)-e_2\right)\left(\wp(z)-e_3\right)\tag{9}\end{equation}
(7)(9)を比較すると $e_1$,$e_2$,$e_3$ は $4t^3-g_2t-g_3=0$ なる3次方程式の3解です。解と係数の関係から\begin{align}e_1+e_2+e_3 &=0\tag{10a}\\e_1e_2+e_2e_3+e_3e_1&=-\frac{g_2}{4}\tag{10b}\\e_1e_2e_3&=\frac{g_3}{4}\tag{10c}\end{align}
ペー関数 $\wp(z)$ の導関数の零点における値を$$\wp\left(\frac{\o_1}{2}\right):=e_1\;,\quad\wp\left(\frac{\o_2}{2}\right):=e_2\;,\quad\wp\left(\frac{\o_3}{2}\right):=e_3$$とおくと $e_1$,$e_2$,$e_3$ は互いに異なり、3次方程式$$4t^3-g_2t-g_3=0$$の3解となる。そのため解と係数の関係\begin{align}e_1+e_2+e_3 &=0\\e_1e_2+e_2e_3+e_3e_1&=-\frac{g_2}{4}\\e_1e_2e_3&=\frac{g_3}{4}\end{align}を満たす。
3次方程式の実数解の個数
3次方程式$$f(x)=x^3-ax+b=0\;,\quad a,b\in\RR$$を考えます。これが異なる3つの実数解をもつ条件を調べましょう。
$f'(x)=3x^2-a$ より $f(x)$ が極値を2つもつには $a>0$ が必要で、極値になる点は $x=\pm\sqrt{\frac{a}{3}}$ です。増減表を書けば$$f\left(-\sqrt{\frac{a}{3}}\right)>0\;,\quad f\left(\sqrt{\frac{a}{3}}\right)<0$$となればよいことが分かります。従って$$-\frac{2a\sqrt{a}}{3\sqrt{3}}<b<\frac{2a\sqrt{a}}{3\sqrt{3}}$$\begin{equation}\therefore\quad 4a^3-27b^2>0\tag{11}\end{equation}これが異なる3つの実数解をもつための $a,b$ の条件となります。因みに実数係数の3次方程式は必ず実数解を1つはもちますので、$4a^3-27b^2<0$ では実数解を1つ、互いに共役な複素数解を2つもちます。
定理2の3次方程式において不変量が実数すなわち $g_2,g_3\in\RR$ とします。このとき(11)を適用すると次が分かります。
$g_2,g_3\in\RR$ のとき$$g_2^{~3}-27g_3^{~2}>0$$であれば、
定理2の $e_1,e_2,e_3$ は相異なる実数である。
$\Delta :=g_2^{~3}-27g_3^{~2}$ をモジュラー判別式とよびます。
また定理2より$$\Delta=-64(e_1e_2+e_2e_3+e_3e_1)^3-432e_1^{~2}e_2^{~2}e_3^{~2}$$$e_3=-e_1-e_2$ を代入して因数分解すると$$=16(e_1-e_2)^2(2e_1+e_2)^2(e_1+2e_2)^2$$\begin{equation}\therefore\quad\Delta=16(e_1-e_2)^2(e_2-e_3)^2(e_3-e_1)^2\tag{12}\end{equation}よって $e_1,e_2,e_3$ が相異なる3実数であれば $\D>0$ です。
なお $\Delta<0$ であれば $e_1,e_2,e_3$ のうち実数は1つ、残り2つは互いに共役な複素数となります。
$$\wp'(z)\wp'\left(z+\frac{\o_1}{2}\right)\wp'\left(z+\frac{\o_2}{2}\right)\wp'\left(z+\frac{\o_3}{2}\right)=\Delta$$
【証明】加法定理より$$\wp'\left(z+\frac{\o_1}{2}\right)=-(e_1-e_2)(e_1-e_3)\frac{\wp'(z)}{(\wp(z)-e_1)^2}$$$\o_2,\o_3$ でも同様にして\begin{align}&\wp'(z)\wp'\left(z+\frac{\o_1}{2}\right)\wp'\left(z+\frac{\o_2}{2}\right)\wp'\left(z+\frac{\o_3}{2}\right)\\& =\frac{\wp'(z)^4}{(\wp(z)-e_1)^2(\wp(z)-e_2)^2(\wp(z)-e_3)^2}(e_1-e_2)^2(e_2-e_3)^2(e_3-e_1)^2\\&=16(e_1-e_2)^2(e_2-e_3)^2(e_3-e_1)^2\quad(\because\: (9))\\&=\Delta\end{align}
定理3の条件が満たされているとします。つまり $g_2,g_3\in\RR$ かつ $e_1,e_2,e_3\in\RR$ です。以下 $e_1>e_2>e_3$ とします。
冒頭の(0c)すなわち複素平面上の適当な経路で$$z=\int_{\wp(z)}^\infty(4t^3-g_2t-g_3)^{-\frac{1}{2}}dt$$の被積分関数は $e_1,e_2,e_3$ を分岐点にもちますので実軸上の $(-\infty,e_3)$ と $(e_2,e_1)$ に切断を入れておきます。$z=\o_1/2$ を代入し、積分経路を実軸上にとると
\begin{equation}\frac{\o_1}{2}=\int_{e_1}^{+\infty}(4t^3-g_2t-g_3)^{-\frac{1}{2}}dt\tag{13}\end{equation}
よって $\o_1\in\RR$ と分かります。右辺の積分が計算できれば、不変量から周期が求まるということになります。
ペー関数は2つの周期によって定義する場合と、2つの不変量によって定義する場合があるのでした。これらは(13)によって互いが結びつきそうです。ただし(13)は楕円積分の一種であり、特別な場合を除き初等的には計算できません。こちらの記事の補題15より$$\int_{-a}^a \frac{dx}{\sqrt{(a^2-x^2)(x^2+b^2)}}=\int_{e_1}^{+\infty}(4t^3-g_2t-g_3)^{-\frac{1}{2}}dt$$ただし$$g_2:=\frac{(a^2-b^2)^2}{12}-a^2b^2\;,\;\; g_3:=-\frac{a^2-b^2}{216}\{(a^2-b^2)^2+36a^2b^2\}$$$$e_1:=\frac{b^2-a^2}{6}$$
次に、経路を実軸上に $e_3$ から $-\infty$ にとります。切断は $(e_1,+\infty)$ と $(e_3,e_2)$ です。すると$$\frac{\o_3}{2}=\int_{e_3}^{-\infty}(4t^3-g_2t-g_3)^{-\frac{1}{2}}dt$$根号の中身が負になっています。$$t-e_k=(e_k-t)e^{\pi i}\;,\quad(k=1,2,3)$$とすると$$\frac{\o_3}{2}=e^{-\frac{3}{2}\pi i}\int_{e_3}^{-\infty}(-4t^3+g_2t+g_3)^{-\frac{1}{2}}dt$$よって
\begin{equation}\frac{\o_3}{2}=-i\int_{-\infty}^{e_3}(-4t^3+g_2t+g_3)^{-\frac{1}{2}}dt\tag{14}\end{equation}
なので $\o_3$ は純虚数となります。
次回は(13)の積分を計算したりしてみます。
ワイエルシュトラスのペー関数5~周期・不変量・アイゼンシュタイン級数の計算
第5版です。いわずと知れた名著。楕円関数にかなりのページを割いています。
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