楕円積分の導入とその計算方法1

有理関数中に4次多項式の無理函数があるものは、一般的に初等関数の範囲では積分できません。一見、無数のパターンがあってどうにもならなそうなこの積分は、実は数パターンに分類できて、その先に面白い世界が広がっています。

楕円の弧長と第2種楕円積分

長半径 $a$ , 短半径 $b$ の楕円のパラメータ表示:\begin{equation}(x(\t),y(\t))=(a\sin\t,b\cos\t)\;,\;a>b>0\;,\;0\le\t\le\t_0\tag{1}\end{equation}の弧長 $L$ は\begin{eqnarray*}L &=&\int_0^{\t_0}\sqrt{a^2\sin^2\t+b^2\cos^2\t}d\t \\&=& a\int_0^{\t_0}\sqrt{1-\frac{a^2-b^2}{a^2}\sin^2\t}d\t\end{eqnarray*}離心率 $k$ は\begin{equation}k:=\frac{\sqrt{a^2-b^2}}{a}\tag{2}\end{equation}であるから\begin{equation}L=a\int_0^{\t_0}\sqrt{1-k^2\sin^2\t}d\t\tag{3}\end{equation}$k=0$ だと円の周長となりますので、今はそれを避け、$0<k<1$ としておきましょう。(3)に現れた積分を第2種不完全楕円積分とよび、\begin{equation}E(\t,k):=\int_0^{\t}\sqrt{1-k^2\sin^2\phi}d\phi\tag{4}\end{equation}と書きます。$0<\t\le\pi/2$ として、$\sin\phi=u$ と置換すると、次の形になります。\begin{equation}E(z,k):=\int_0^{z}\sqrt{\frac{1-k^2u^2}{1-u^2}}du\tag{5}\end{equation}(4)(5)は左辺が同じ形をしているので文脈等でいずれか判断する必要があります。(4)をルジャンドルの標準形、(5)をヤコビの標準形といいます。特に $\t=\pi/2$ のとき、$z=1$ であり、(4)(5)は\begin{equation}E(k):=\int_0^{\frac{\pi}{2}}\sqrt{1-k^2\sin^2\t}d\t=\int_0^1\sqrt{\frac{1-k^2u^2}{1-u^2}}du\tag{6}\end{equation}となり、$E(k)$ を第2種完全楕円積分とよびます。また $k$ を母数とかモジュラスといいます。

また双曲線 $\frac{x^2}{a^2}-\frac{y^2}{b^2}=1$ , $a>b>0$ の場合では、$$(x,y)=(a\sinh t,b\cosh t)$$として\begin{eqnarray*} L&=&\int_0^{t_0}\sqrt{-a^2\sin^2(it)+b^2\cos^2(it)}dt\\&=&-i\int_0^{it_0}\sqrt{-a^2\sin^2u+b^2\cos^2u}du\\&=&-ib\int_0^{it_0}\sqrt{1-\frac{a^2+b^2}{b^2}\sin^2u}du\\&=& -ibE\left(it_0,\frac{\sqrt{a^2+b^2}}{b}\right)\end{eqnarray*}と複素数を用いて形式的に表せます。

例題に挑戦

例題1

$a,b>0$ とする。$y=b\sin\frac{x}{a}$ の弧長を第2種不完全積分で表現せよ。

\begin{eqnarray*}L&=&\int_0^{x_0}\sqrt{1+y'^2}dx \\&=& \sqrt{1+\frac{b^2}{a^2}}\int_0^{x_0}\sqrt{1-\frac{b^2}{a^2+b^2}\sin^2\frac{x}{a}}dx\end{eqnarray*}$\frac{x}{a}=\t$ と置換すると、$x_0=a\t_0$ と書けば$$L=\sqrt{a^2+b^2}\: E\left(a\t_0,\frac{b}{\sqrt{a^2+b^2}}\right)$$

レムニスケートの弧長と第1種楕円積分

レムニスケートは極座標表示:\begin{equation}r^2=2a^2\cos2\phi\tag{7}\end{equation}で表される曲線で、2定点からの距離の積が一定という性質をもちます。明らかに $\cos2\phi\ge0$ ですので、$\phi$ の範囲は $[-\frac{\pi}{4},\frac{\pi}{4}]$ , $[\frac{3}{4}\pi,\frac{5}{4}\pi]$ です。「$∞$」の形をしており、$y$ 軸の左と右にそれぞれ対称なループがあります。また $x$ 軸についても対称です。 対称性から第1象限に限ってみると、$\phi$ の範囲は $[0,\frac{\pi}{4}]$ です。$r=\sqrt{2}a\sqrt{\cos2\phi}$ より弧長は、途中で $\cos2\phi=\cos^2\t$ なる置換を施すと\begin{eqnarray*}L &=&\int_0^{\phi_0}\sqrt{2a^2\cos2\phi+2a^2\frac{\sin^22\phi}{\cos2\phi}}d\phi \\&=& \sqrt{2} a\int_0^{\phi_0}\frac{d\phi}{\sqrt{\cos2\phi}} \\&=&\sqrt{2} a\int_0^{\t_0}\frac{\sin\t d\t}{\sqrt{1-\cos^4\t}}\\&=&\sqrt{2} a\int_0^{\t_0}\frac{d\t}{\sqrt{1+\cos^2\t}}\\&=& a\int_0^{\t_0}\frac{d\t}{\sqrt{1-\frac{1}{2}\sin^2\t}}\end{eqnarray*} 最後に現れた積分が楕円積分の一形態です。より一般に\begin{equation}F(\t,k):=\int_0^{\t}\frac{d\phi}{\sqrt{1-k^2\sin^2\phi}}\tag{8}\end{equation}を第1種不完全楕円積分とよびます。$\sin\phi=u$ なる置換により\begin{equation}F(z,k):=\int_0^{z}\frac{du}{\sqrt{(1-u^2)(1-k^2u^2)}}\tag{9}\end{equation}と書くこともできます。やはり(8)をルジャンドルの標準形、(9)をヤコビの標準形といいます。特に $\t=\pi/2$ のとき、$z=1$ であり、\begin{equation}K(k):=\int_0^{\frac{\pi}{2}}\frac{d\t}{\sqrt{1-k^2\sin^2\t}}=\int_0^{1}\frac{du}{\sqrt{(1-u^2)(1-k^2u^2)}}\tag{10}\end{equation}と書きます。これを第1種完全楕円積分といいます。

第1種の楕円積分は単振り子の周期を計算するときにも現れます。過去記事を参照してください。

第1種、第2種楕円積分は初等的な関数として表現できません。ただし、根号を含んださまざまな積分(一般的な楕円積分、後述)が上記の標準形として、統一的に表現されます。次の例題で見ていきましょう。

例題に挑戦2

例題2

$0<x\le 1$ とする。$$f(x):=\int_0^x\frac{du}{\sqrt{1-u^4}}$$において、$u^2=1-s^2$ と置換することにより、$f(x)$ を第1種や第2種の楕円積分を用いて表せ。

$$f(x)=\frac{1}{\sqrt{2}}\int_{\sqrt{1-x^2}}^1\frac{ds}{\sqrt{(1-s^2)(1-\frac{s^2}{2})}}$$と変形されるから、$$f(x)=\frac{1}{\sqrt{2}}\left\{K\left(\frac{1}{\sqrt{2}}\right)-F\left(\sqrt{1-x^2},\frac{1}{\sqrt{2}}\right)\right\}$$ただし $F$ はヤコビの標準形としての第1種楕円積分である。

例題3

$a>b>c>0$ とするとき、$u^2=\frac{a-x}{a-b}$ なる置換により$$\int\frac{dx}{\sqrt{(a-x)(b-x)(c-x)}}=-\frac{2}{\sqrt{a-c}}\int\frac{du}{\sqrt{(1-u^2)(1-k^2u^2)}}$$となることを確認せよ。ただし $k^2=\frac{a-b}{a-c}$ である。

これについては

Integrals and Miscellaneous 14

の「2022/12/27」も参照。積分範囲を指定すると$$\int_{a-(a-b)x^2}^a\frac{ds}{\sqrt{(a-s)(b-s)(c-s)}}=\frac{2}{\sqrt{a-c}}F\left(x,\sqrt{\frac{a-b}{a-c}}\right)$$となる。

例題4

$x=\frac{1-u}{1+u}$ , $t^2=\frac{(3-2\sqrt{2})u^2}{1-u^2}$ なる置換により$$\int\frac{dx}{\sqrt{1+x^4}}=-(2-\sqrt{2})\int\frac{dt}{\sqrt{(1-t^2)(1-k^2t^2)}}$$となることを確認せよ。ただし $k^2=4\sqrt{2}(3-2\sqrt{2})<1$ である。

1つめの置換では$$=-\sqrt{2}\int\frac{du}{\sqrt{u^4+6u^2+1}}=-\sqrt{2}\int\frac{du}{\sqrt{(u^2+2\sqrt{2}+3)(u^2-2\sqrt{2}+3)}}$$を得ます。2つめの置換で問題の等式が示されます。

なお例題4について、より一般的な、複2次式の場合について$$\int_x^\infty\frac{du}{\sqrt{u^4+2b^2u^2+a^4}}=\frac{1}{2a}F\left(\phi,\frac{\sqrt{a^2-b^2}}{a\sqrt{2}}\right)$$ただし$$\cos\phi=\frac{x^2-a^2}{x^2+a^2}$$となることについてはこちらの記事を参照してください。

根号の中が3次式の場合、逆数に置換して4次式にしてから対処することがあります。

例題5

$x=\frac{1}{t}$ , $t=\frac{(\sqrt{3}-1)u-\sqrt{3}-1}{2(u+1)}$ , $u^2=(7+4\sqrt{3})(1-v^2)$ なる置換により$$\int\frac{dx}{\sqrt{1-x^3}}=\frac{1}{3^{1/4}}\int\frac{dv}{\sqrt{(1-v^2)(1-k^2v^2)}}$$となることを確認せよ。ただし $k^2=\frac{\sqrt{2+\sqrt{3}}}{4}$ である。

1つめの置換で根号の中が4次式になる。すなわち$$=-\int\frac{dt}{\sqrt{t(t-1)(t^2+t+1)}}$$2つ目の置換により$$=\frac{-2}{\sqrt{2\sqrt{3}-3}}\int\frac{du}{\sqrt{(1+u^2)(7+4\sqrt{3}-u^2)}}$$最後の変換をすると問題の等式を得る。

次のような特殊なケースもあります。

例題6

$(1+x^2)^{1/4}=\frac{1}{u}$ なる置換により$$\int\frac{dx}{(1+x^2)^{3/4}}=-2\int\frac{du}{\sqrt{1-u^4}}$$となることを確認せよ。例題2と合わせれば、これも楕円積分となっていることが分かる。

一般の楕円積分

上記の例題たちを見ても、置換の法則性が直ちには分からないと思いますが、ヤコビの標準形へ帰着させる方法は、藤原[2]で豊富な例題とともに学べます。武部[1]では、メビウス変換による統一的な計算方法が書かれています。WW[3]の§22.71あたりにも言及されています。

例題で現れた積分はすべて第1種または第2種の楕円積分で書けました。このようなものも楕円積分とよばれます。より一般には、有理関数 $R(x,s)$ において、平方因子をもたない3次または4次の多項式 $\phi(x)$ によって$$\int R\left(x,\sqrt{\phi(x)}\right)dx$$とかける積分はすべて楕円積分とよびます。

次回は、一般の楕円積分の計算方法について解説します:

楕円積分の導入とその計算方法2(ルジャンドル・ヤコビの標準形)

参考文献

[1]武部尚志. (2019). 楕円積分と楕円関数 おとぎの国の歩き方. 日本評論社.楽天はココ

楕円積分・楕円関数のことが平易に書かれています。本記事の構成は本書に沿っています。

[2] 藤原松三郎『数学解析第一編 微分積分学 第1巻』(2016) 楽天はココ

解析学の基本は全部載っていて、積分計算、極限計算の方法が網羅されています。

[3] Whittaker, E. T., & Watson, G. N. (2021). A course of modern analysis. Cambridge University Press.

第5版です。いわずと知れた名著。

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