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前々回はHurwitzゼータ関数 ζ(s,a) のHankel路による積分表示を導出しました。そして前回はそれに基づいてゼータ関数の具体的な値を計算しました。
今回はそこで得られた結論である
s∉N としてζ(s,a)=−Γ(1−s)2πi∫H(−z)s−1e−az1−e−zdzただし H はハンケル(Hankel)積分路(下図)。

を用います。
今日のテーマはこれ:
0<a≤1 とする。Rs<0 に対してζ(s,a)=2Γ(1−s)(2π)1−s[sinπs2∞∑n=1cos2πnan1−s+cosπs2∞∑n=1sin2πnan1−s]
なお a<1 であれば 0<Rs<1 でも成立する。
s ではなく a でフーリエ展開したものです。上のハンケル積分路に大円をくっつけて経路をつくり、留数計算によって導出できます。
リーマンゼータ関数 ζ(s)=ζ(s,1) についてはこれに a=1 を代入して得られます。その際に、全平面で定義できる重要な関係式が現れます(次回)。
では始めましょう。
半径 RN≡(2N+1)π で原点を中心とする大きな円を LN とします(反時計回り)。実軸の正の方向からやってきて原点回りを回って戻る経路を HN とします。CN≡LN−HN は閉曲線となります。
0<a≤1 , Rs<0 として積分∮CN(−z)s−1e−az1−e−zdzを考えます。被積分関数の極は −z=2nπe±iπ2 であり、下図の×印で表されます。

s∉Z とします。留数定理により
12πi∮CN(−z)s−1e−az1−e−z(−dz)=N∑n=1[Res(−z=2nπeiπ2)+Res(−z=2nπe−iπ2)]
ただし z そのものでなく −z を変数としています。偏角は −π<arg(−z)<π です。上図の点対称なグラフを −z 平面として考えるとイメージがわくと思います。
s を整数としてしまうと、ハンケル積分路の扱いが変わることや、s によって極の位数が変わってしまうので別途、後述します。
Res(−z=2nπeiπ2)=Res−z=2nπeiπ2(−z)s−1e−az1−e−z=Resz=2nπeiπ2zs−1eaz1−ez zs−1eaz1−ez の極の位数は 1 です。ゆえにRes(−z=2nπeiπ2)=limz→2nπeiπ2zs−1eaz1−ez(z−2nπeiπ2)=(2nπ)s−1eiπ2(s−1)e2anπilimz→2nπeiπ2z−2nπeiπ21−ez=(2nπ)s−1eiπ2(s−1)e2anπilimz→12nπeiπ2(z−1)1−e2nπeiπ2z=(2nπ)seiπ2se2anπilimz→1z−1e2nπeiπ2−e2nπeiπ2z=(2nπ)seiπ2se2anπi−12nπi=i(2nπ)s−1eiπ2se2anπi
もう一方も同様にRes(−z=2nπe−iπ2)=Resz=2nπe−iπ2zs−1eaz1−ez=limz→2nπe−iπ2zs−1eaz1−ez(z−2nπe−iπ2)=(2nπ)s−1e−iπ2(s−1)e−2anπilimz→2nπe−iπ2z−2nπe−iπ21−ez=(2nπ)s−1e−iπ2(s−1)e−2anπilimz→12nπe−iπ2(z−1)1−e2nπe−iπ2z=(2nπ)se−iπ2se−2anπilimz→1z−1e−2nπi−e−2nπiz=(2nπ)se−iπ2se−2anπi12nπi=−i(2nπ)s−1e−iπ2se−2anπi
両方の留数を足すとRes(−z=2nπeiπ2)+Res(−z=2nπe−iπ2)=−2(2nπ)s−1sin(πs2+2πna)(2)より12πi∮CN(−z)s−1e−az1−e−zdz=2N∑n=1sin(πs2+2πna)(2nπ)1−s
N→∞ とすれば、 CN→C と書くことにすると
12πi∮C(−z)s−1e−az1−e−zdz=2∞∑n=1sin(πs2+2πna)(2nπ)1−s
経路は CN=LN−HN でした。HN のほうは N→∞ でハンケル積分路 H と一致するので、すでに積分値は求まっています((1)式)。
問題は半径 RN=(2N+1)π の円弧 LN です。∫LN(−z)s−1e−az1−e−zdzこれがゼロとなることを示しましょう。
e−az1−e−z は z=0,±2πi,±4πi,⋯ すなわち πi の偶数倍の点を特異点としてもつほかは正則です。よって半径 (2N+1)π (奇数倍)の閉じた円弧上で正則であり、有界です。したがって LN 上で有界ですので、とりあえずは N に応じた定数で押さえられます。
しかし N→∞ としたときにその定数も無限に大きくなってしまってはいけません。N が十分大きいときには N によらない定数で押さえられる必要があります。z=RNeiθ として
|e−az1−e−z|≤|e−az1−|e−z||=e−aRNcosθ|1−e−RNcosθ|θ を固定して考えましょう。cosθ>0 のときは N→∞ の際 e−aRNcosθ→0 , e−RNcosθ→0 であるので極限値は 0 です。cosθ<0 のときは e(1−a)RNcosθ1−eRNcosθ と変形でき、e(1−a)RNcosθ→0 , eRNcosθ→0 であるので極限値は 0 です。よって十分大きな N に対し、N によらない上界をもちます。なお a=1 のときは cosθ<0 で極限値が 1 となりますが、有界であるという結論に変わりありません。
cosθ=0 のときは注意が必要です。円弧の半径が (2N+1)π であることから z=±(2N+1)πi より|e−az1−e−z|=1|ea(2N+1)πi−e(a∓1)(2N+1)πi|=12|e(2N+1)aπi|=12
以上より円弧上のあらゆる z に対して|e−az1−e−z|<K をみたす定数 K が存在します。
なお、この有界性に関しては@AlbahariRicardoさんに教えていただきました!
というわけで|∫LN(−z)s−1e−az1−e−zdz|≤K∫LN|(−z)s−1||dz|=K∫π−π|((2N+1)π)seiθs|dθ=K((2N+1)π)Rs∫π−πe−θIsdθRs<0 を仮定していましたからこれはゼロに収束します。
Rs<0 に対し∫LN(−z)s−1e−az1−e−zdzN→∞→0
(4)より閉曲線 C のうちハンケル積分路 H のみが残り∮C(−z)s−1e−az1−e−zdz=−∫H(−z)s−1e−az1−e−zdz(1)より∮C(−z)s−1e−az1−e−zdz=2πiΓ(1−s)ζ(s,a)(3)と合わせてζ(s,a)Γ(1−s)=2∞∑n=1sin(πs2+2πna)(2nπ)1−s
これを加法定理等で変形すれば
ζ(s,a)=2Γ(1−s)(2π)1−s[sinπs2∞∑n=1cos2πnan1−s+cosπs2∞∑n=1sin2πnan1−s]
これで今日の目標となる式が導出できましたが、s が非整数であることを途中で仮定してしまいました。なのでs が整数のときを別途考えます。
再度経路を掲載します。

N→∞ の 極限 HN→H はハンケル積分路です。(1)を再掲するとζ(s,a)=−Γ(1−s)2πi∫H(−z)s−1e−az1−e−zdzs が整数のときは分岐点がないので直線2本が相殺され、原点回りの閉じた小円のみが H に寄与します。それを利用して得た結論が前回のζ(−m,a)=−Bm+1(a)m+1(m=0,1,2⋯)参考リンク:
あらわれたベルヌーイ多項式 Bm+1(a) を a∈[0,1] でフーリエ展開することで(5)とまったく同じ表式を得ます。私は試しに s=0,−1 でやってみましたがその通りでした。一般には、ベルヌーイ多項式のフーリエ展開はBn(x)=−(2n)!∞∑k=1cos(2kπx−nπ2)(2kπ)nと表されます。
これにより−Bm+1(a)m+1=2Γ(1+m)(2π)1+m∞∑k=1cos2πkacosm+12π+sin2πkasinm+12πk1+m=2Γ(1+m)(2π)1+m[sinπ(−m)2∞∑n=1cos2πnan1+m+cosπ(−m)2∞∑n=1sin2πnan1+m]∴これは(5)が s=0,-1,-2\cdots でも成立することを示します。
以上より 0<a\le1 のもとで、 \mathfrak{R}s<0 または s=0 であれば
\begin{equation}\zeta(s,a)=\frac{2\G(1-s)}{(2\pi)^{1-s}}\left[\sin\frac{\pi s}{2}\sum_{n=1}^\infty\frac{\cos2\pi na}{n^{1-s}}+\cos\frac{\pi s}{2}\sum_{n=1}^\infty\frac{\sin2\pi na}{n^{1-s}}\right]\tag{6}\end{equation}
これが今日の結論となります。
\mathfrak{R}s>1 , m\le n\in\NN\zeta\left(1-s,\frac{m}{n}\right)=\frac{2\G(s)}{(2n\pi)^s}\sum_{l=1}^n\cos\left(\frac{\pi s}{2}-\frac{2\pi ml}{n}\right)\zeta\left(s,\frac{l}{n}\right)
(6)において s\to 1-s , a=m/n とおくと\zeta\left(1-s,\frac{m}{n}\right)=\frac{2\G(s)}{(2\pi)^s}\sum_{k=1}^\infty\frac{\cos(\frac{\pi s}{2}-\frac{2\pi km}{n})}{k^s}右辺は n 項ずつに分けて和をとります。\begin{eqnarray*}&=&\frac{2\G(s)}{(2\pi)^s}\sum_{k=0}^\infty\sum_{l=1}^n\frac{\cos(\frac{\pi s}{2}-\frac{2\pi (kn+l)m}{n})}{(kn+l)^s}\\&=& \frac{2\G(s)}{(2\pi n)^s}\sum_{k=0}^\infty\sum_{l=1}^n\frac{\cos(\frac{\pi s}{2}-\frac{2\pi ml}{n})}{(k+\frac{l}{n})^s}\\&=&\frac{2\G(s)}{(2n\pi)^s}\sum_{l=1}^n\cos\left(\frac{\pi s}{2}-\frac{2\pi ml}{n}\right)\zeta\left(s,\frac{l}{n}\right)\end{eqnarray*}よって系が成立します。
Whittaker&Watsonをもとに学んだことは以上なのですが、@AlbahariRicardoさんに紹介いただいた論文
M.T.Boudjelkha "A Proof that Extends Hurwitz Formula into the Critical Strip" (Applied Mathematics Letters 14)
では a<1 であれば 0<\mathfrak{R}s<1 へも拡張できることが示されています。これをかみ砕いて解説します。
ポイントは「大円 L_N の積分が \mathfrak{R}s<1 でゼロとなるか」です。
大円を2つに分ける
L_n では -z=R_Ne^{i\t} とできます。ただし R_N=(2N+1)\pi で \t は -\pi から \pi とします。この経路を\begin{cases}L_N^+&:&|\t|<\dfrac{\pi}{2}\\L_N^-&:&|\t|\ge\dfrac{\pi}{2}\end{cases}の2つに分けます。
表記を簡単にするため s=\sigma+it としておきます。
L_N^-の評価
L_N^- においては \cos\t\le0 に留意します。\cos\t=0 の場合は z=\pm(2N+1)\pi i であることから\left|\frac{1}{1-e^{-z}}\right|=\frac{1}{2}\cos\t<0 では\begin{eqnarray*}\left|\frac{1}{1-e^{-z}}\right|&\le&\frac{1}{|1-|e^{-z}||}\\&=&\frac{1}{|1-e^{R_N\cos\t}|}\\&&\xrightarrow[N\to\infty]{}1\end{eqnarray*}よって定数 M が存在して\left|\frac{1}{1-e^{-z}}\right|\le Mとできます。よって\begin{eqnarray*}\left|\frac{(-z)^{s-1}e^{-az}}{1-e^{-z}}\right|&\le& M|(-z)^{s-1}e^{-az}|\\&=&MR_N^{\sigma-1}|e^{-\t t}e^{aR_N\cos\t}|\\&\le&MR_N^{\sigma-1}e^{\pi|t|}e^{aR_N\cos\t}\end{eqnarray*}積分に適用します。\begin{eqnarray*}\left|\int_{L_N^-}\frac{(-z)^{s-1}e^{-az}}{1-e^{-z}}dz\right|&\le&MR_N^{\sigma-1}e^{\pi|t|}\left(\int_{-\pi}^{-\frac{\pi}{2}}+\int^{\pi}_{\frac{\pi}{2}}\right)e^{aR_N\cos\t}R_Nd\t\\&=&2MR_N^{\sigma}e^{\pi|t|}\int^{\pi}_{\frac{\pi}{2}}e^{aR_N\cos\t}d\t\\&=&2MR_N^{\sigma}e^{\pi|t|}\int_0^\frac{\pi}{2}e^{-aR_N\sin\t}d\t\\&\le&2MR_N^{\sigma}e^{\pi|t|}\int_0^\frac{\pi}{2}e^{-aR_N\frac{2}{\pi}\t}d\t\\&=&\frac{M\pi}{a}e^{\pi|t|}R_N^{\sigma-1}(1-e^{-aR_N})\\&&\xrightarrow[N\to\infty]{}0\quad \mathrm{when}\;\sigma<1\end{eqnarray*}
よって \mathfrak{R}s<1 で積分値はゼロへ収束します。
L_N^+の評価
a<1 とします。L_N^+ においては \cos\t>0 に留意します。\begin{eqnarray*}\left|\frac{e^{-az}}{1-e^{-z}}\right|&=&\left|e^{(1-a)z}\right|\left|\frac{e^{-z}}{1-e^{-z}}\right|\\&\le&\left|e^{(1-a)z}\right|\frac{e^{R\cos\t}}{|1-|e^{-z}||}\\&=&\left|e^{(1-a)z}\right|\frac{e^{R\cos\t}}{|1-e^{R\cos\t}|}\\&=&\left|e^{(1-a)z}\right|\frac{1}{|1-e^{-R\cos\t}|}\\&\le& K'\left|e^{(1-a)z}\right|\\&=&K'e^{-(1-a)R\cos\t}\end{eqnarray*}この結果を使って積分を評価します。
\begin{eqnarray*}\left|\int_{L_N^+}\frac{(-z)^{s-1}e^{-az}}{1-e^{-z}}dz\right|&\le&K'\left|\int_{L_N^+}(-z)^{s-1}e^{-(1-a)R_N\cos\t}dz\right|\\&\le&K'\int_{-\frac{\pi}{2}}^\frac{\pi}{2}\left|(R_Ne^{i\t})^{s-1}e^{-(1-a)R_N\cos\t}\right|R_Nd\t\\&=&K'R_N^\sigma\int_{-\frac{\pi}{2}}^\frac{\pi}{2}e^{-\t t}e^{-(1-a)R_N\cos\t}d\t\\&\le&K'e^{\frac{\pi|t|}{2}}R_N^\sigma\int_{-\frac{\pi}{2}}^\frac{\pi}{2}e^{-(1-a)R_N\cos\t}d\t\\&=&2K'e^{\frac{\pi|t|}{2}}R_N^\sigma\int_0^\frac{\pi}{2}e^{-(1-a)R_N\cos\t}d\t\\&=&2K'e^{\frac{\pi|t|}{2}}R_N^\sigma\int_0^\frac{\pi}{2}e^{-(1-a)R_N\sin\t}d\t\\&\le&2K'e^{\frac{\pi|t|}{2}}R_N^\sigma\int_0^\frac{\pi}{2}e^{-(1-a)R_N\frac{2}{\pi}\t}d\t\\&=&\frac{K'\pi}{(1-a)}e^{\frac{\pi|t|}{2}}R_N^{\sigma-1} (1-e^{-(1-a)R_N})\\&&\xrightarrow[N\to\infty]{}0\quad \mathrm{when}\;\sigma<1\end{eqnarray*}
よって \mathfrak{R}s<1 で積分値はゼロへ収束します。
以上より大円 L_N の積分値はゼロへ収束します。
このことから 0<a<1 であれば 0<\mathfrak{R}s<1 でも(6)が成り立つというわけです。
次回はリーマンゼータ関数の関数等式、特殊値、クシー関数、自明な零点の位数について解説します:
古いですが有名な書物で、どんどん改訂版が出ています。前半は解析学一般、後半は特殊関数という内容で、網羅的に勉強できます。演習問題に解答がないのが昔ながらのものって感じ。2022/11/6現在、最新版は5th Editionで私も所有していますが、廉価な3rdとかでも十分かと。

A Course of Modern Analysis: fifth Edition

A Course of Modern Analysis: Third Edition
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留数を求める時-z=2nπexpi(±π/2)としているのに大円についてはn→2n+1としている
のはなぜですか?
小円の中心z=0→n=0特異点となっていますが、小円には値なしなのが分かりません。
よかったらコメントお願いします。
留数は被積分関数が極となる点すなわち0,±2πi,±4πi,…に関する話なので-z=2nπexpi(±π/2)としています。これらがπiの偶数倍であるのに対し、大円は極を避けるために奇数倍の半径になるようにしています。
また(-z)^{s-1}があるため、z=0はまた特別な特異点である「分岐点」となっています。