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【ζ4】フルヴィッツゼータ関数のフーリエ展開・複素積分・Critical Stripへの拡張(ゼータ関数の基礎4)

今日のテーマと概要

前々回はHurwitzゼータ関数 ζ(s,a) のHankel路による積分表示を導出しました。そして前回はそれに基づいてゼータ関数の具体的な値を計算しました。

今回はそこで得られた結論である

sN としてζ(s,a)=Γ(1s)2πiH(z)s1eaz1ezdzただし H はハンケル(Hankel)積分路(下図)。

z-plane

を用います。

今日のテーマはこれ:

Fourier Expansion of Zeta Function

0<a1 とする。Rs<0 に対してζ(s,a)=2Γ(1s)(2π)1s[sinπs2n=1cos2πnan1s+cosπs2n=1sin2πnan1s]

なお a<1 であれば 0<Rs<1 でも成立する。

s ではなく a でフーリエ展開したものです。上のハンケル積分路に大円をくっつけて経路をつくり、留数計算によって導出できます。

リーマンゼータ関数 ζ(s)=ζ(s,1) についてはこれに a=1 を代入して得られます。その際に、全平面で定義できる重要な関係式が現れます(次回)。

では始めましょう。

閉じた積分経路の設定

半径 RN(2N+1)π で原点を中心とする大きな円を LN とします(反時計回り)。実軸の正の方向からやってきて原点回りを回って戻る経路を HN とします。CNLNHN は閉曲線となります。

0<a1 , Rs<0 として積分CN(z)s1eaz1ezdzを考えます。被積分関数の極は z=2nπe±iπ2 であり、下図の×印で表されます。

z 平面

留数計算

sZ とします。留数定理により

12πiCN(z)s1eaz1ez(dz)=Nn=1[Res(z=2nπeiπ2)+Res(z=2nπeiπ2)]

ただし z そのものでなく z を変数としています。偏角は π<arg(z)<π です。上図の点対称なグラフを z 平面として考えるとイメージがわくと思います。

s を整数としてしまうと、ハンケル積分路の扱いが変わることや、s によって極の位数が変わってしまうので別途、後述します。

Res(z=2nπeiπ2)=Resz=2nπeiπ2(z)s1eaz1ez=Resz=2nπeiπ2zs1eaz1ez zs1eaz1ez の極の位数は 1 です。ゆえにRes(z=2nπeiπ2)=limz2nπeiπ2zs1eaz1ez(z2nπeiπ2)=(2nπ)s1eiπ2(s1)e2anπilimz2nπeiπ2z2nπeiπ21ez=(2nπ)s1eiπ2(s1)e2anπilimz12nπeiπ2(z1)1e2nπeiπ2z=(2nπ)seiπ2se2anπilimz1z1e2nπeiπ2e2nπeiπ2z=(2nπ)seiπ2se2anπi12nπi=i(2nπ)s1eiπ2se2anπi

もう一方も同様にRes(z=2nπeiπ2)=Resz=2nπeiπ2zs1eaz1ez=limz2nπeiπ2zs1eaz1ez(z2nπeiπ2)=(2nπ)s1eiπ2(s1)e2anπilimz2nπeiπ2z2nπeiπ21ez=(2nπ)s1eiπ2(s1)e2anπilimz12nπeiπ2(z1)1e2nπeiπ2z=(2nπ)seiπ2se2anπilimz1z1e2nπie2nπiz=(2nπ)seiπ2se2anπi12nπi=i(2nπ)s1eiπ2se2anπi

両方の留数を足すとRes(z=2nπeiπ2)+Res(z=2nπeiπ2)=2(2nπ)s1sin(πs2+2πna)(2)より12πiCN(z)s1eaz1ezdz=2Nn=1sin(πs2+2πna)(2nπ)1s

N とすれば、 CNC と書くことにすると

12πiC(z)s1eaz1ezdz=2n=1sin(πs2+2πna)(2nπ)1s

大きな円弧の積分

経路は CN=LNHN でした。HN のほうは N でハンケル積分路 H と一致するので、すでに積分値は求まっています((1)式)。

問題は半径 RN=(2N+1)π の円弧 LN です。LN(z)s1eaz1ezdzこれがゼロとなることを示しましょう。

eaz1ezz=0,±2πi,±4πi, すなわち πi の偶数倍の点を特異点としてもつほかは正則です。よって半径 (2N+1)π (奇数倍)の閉じた円弧上で正則であり、有界です。したがって LN 上で有界ですので、とりあえずは N に応じた定数で押さえられます。

しかし N としたときにその定数も無限に大きくなってしまってはいけません。N が十分大きいときには N によらない定数で押さえられる必要があります。z=RNeiθ として

|eaz1ez||eaz1|ez||=eaRNcosθ|1eRNcosθ|θ を固定して考えましょう。cosθ>0 のときは N の際 eaRNcosθ0 , eRNcosθ0 であるので極限値は 0 です。cosθ<0 のときは e(1a)RNcosθ1eRNcosθ と変形でき、e(1a)RNcosθ0 , eRNcosθ0 であるので極限値は 0 です。よって十分大きな N に対し、N によらない上界をもちます。なお a=1 のときは cosθ<0 で極限値が 1 となりますが、有界であるという結論に変わりありません。

cosθ=0 のときは注意が必要です。円弧の半径が (2N+1)π であることから z=±(2N+1)πi より|eaz1ez|=1|ea(2N+1)πie(a1)(2N+1)πi|=12|e(2N+1)aπi|=12

以上より円弧上のあらゆる z に対して|eaz1ez|<K をみたす定数 K が存在します。

なお、この有界性に関しては@AlbahariRicardoさんに教えていただきました!

というわけで|LN(z)s1eaz1ezdz|KLN|(z)s1||dz|=Kππ|((2N+1)π)seiθs|dθ=K((2N+1)π)RsππeθIsdθRs<0 を仮定していましたからこれはゼロに収束します。

Rs<0 に対しLN(z)s1eaz1ezdzN0

フーリエ級数展開の完成

(4)より閉曲線 C のうちハンケル積分路 H のみが残りC(z)s1eaz1ezdz=H(z)s1eaz1ezdz(1)よりC(z)s1eaz1ezdz=2πiΓ(1s)ζ(s,a)(3)と合わせてζ(s,a)Γ(1s)=2n=1sin(πs2+2πna)(2nπ)1s

これを加法定理等で変形すれば

ζ(s,a)=2Γ(1s)(2π)1s[sinπs2n=1cos2πnan1s+cosπs2n=1sin2πnan1s]

これで今日の目標となる式が導出できましたが、s が非整数であることを途中で仮定してしまいました。なのでs が整数のときを別途考えます。

sが整数のときも成立

再度経路を掲載します。

z-plane

N の 極限 HNH はハンケル積分路です。(1)を再掲するとζ(s,a)=Γ(1s)2πiH(z)s1eaz1ezdzs が整数のときは分岐点がないので直線2本が相殺され、原点回りの閉じた小円のみが H に寄与します。それを利用して得た結論が前回のζ(m,a)=Bm+1(a)m+1(m=0,1,2)参考リンク:

あらわれたベルヌーイ多項式 Bm+1(a)a[0,1] でフーリエ展開することで(5)とまったく同じ表式を得ます。私は試しに s=0,1 でやってみましたがその通りでした。一般には、ベルヌーイ多項式のフーリエ展開はBn(x)=(2n)!k=1cos(2kπxnπ2)(2kπ)nと表されます。

これによりBm+1(a)m+1=2Γ(1+m)(2π)1+mk=1cos2πkacosm+12π+sin2πkasinm+12πk1+m=2Γ(1+m)(2π)1+m[sinπ(m)2n=1cos2πnan1+m+cosπ(m)2n=1sin2πnan1+m]これは(5)が s=0,-1,-2\cdots でも成立することを示します。

以上より 0<a\le1 のもとで、 \mathfrak{R}s<0 または s=0 であれば

\begin{equation}\zeta(s,a)=\frac{2\G(1-s)}{(2\pi)^{1-s}}\left[\sin\frac{\pi s}{2}\sum_{n=1}^\infty\frac{\cos2\pi na}{n^{1-s}}+\cos\frac{\pi s}{2}\sum_{n=1}^\infty\frac{\sin2\pi na}{n^{1-s}}\right]\tag{6}\end{equation}

これが今日の結論となります。

\mathfrak{R}s>1 , m\le n\in\NN\zeta\left(1-s,\frac{m}{n}\right)=\frac{2\G(s)}{(2n\pi)^s}\sum_{l=1}^n\cos\left(\frac{\pi s}{2}-\frac{2\pi ml}{n}\right)\zeta\left(s,\frac{l}{n}\right)

(6)において s\to 1-s , a=m/n とおくと\zeta\left(1-s,\frac{m}{n}\right)=\frac{2\G(s)}{(2\pi)^s}\sum_{k=1}^\infty\frac{\cos(\frac{\pi s}{2}-\frac{2\pi km}{n})}{k^s}右辺は n 項ずつに分けて和をとります。\begin{eqnarray*}&=&\frac{2\G(s)}{(2\pi)^s}\sum_{k=0}^\infty\sum_{l=1}^n\frac{\cos(\frac{\pi s}{2}-\frac{2\pi (kn+l)m}{n})}{(kn+l)^s}\\&=& \frac{2\G(s)}{(2\pi n)^s}\sum_{k=0}^\infty\sum_{l=1}^n\frac{\cos(\frac{\pi s}{2}-\frac{2\pi ml}{n})}{(k+\frac{l}{n})^s}\\&=&\frac{2\G(s)}{(2n\pi)^s}\sum_{l=1}^n\cos\left(\frac{\pi s}{2}-\frac{2\pi ml}{n}\right)\zeta\left(s,\frac{l}{n}\right)\end{eqnarray*}よって系が成立します。

Critical Strip でも成立することについて

Whittaker&Watsonをもとに学んだことは以上なのですが、@AlbahariRicardoさんに紹介いただいた論文

M.T.Boudjelkha "A Proof that Extends Hurwitz Formula into the Critical Strip" (Applied Mathematics Letters 14)

では a<1 であれば 0<\mathfrak{R}s<1 へも拡張できることが示されています。これをかみ砕いて解説します。

ポイントは「大円 L_N の積分が \mathfrak{R}s<1 でゼロとなるか」です。

大円を2つに分ける

L_n では -z=R_Ne^{i\t} とできます。ただし R_N=(2N+1)\pi\t-\pi から \pi とします。この経路を\begin{cases}L_N^+&:&|\t|<\dfrac{\pi}{2}\\L_N^-&:&|\t|\ge\dfrac{\pi}{2}\end{cases}の2つに分けます。

表記を簡単にするため s=\sigma+it としておきます。

L_N^-の評価

L_N^- においては \cos\t\le0 に留意します。\cos\t=0 の場合は z=\pm(2N+1)\pi i であることから\left|\frac{1}{1-e^{-z}}\right|=\frac{1}{2}\cos\t<0 では\begin{eqnarray*}\left|\frac{1}{1-e^{-z}}\right|&\le&\frac{1}{|1-|e^{-z}||}\\&=&\frac{1}{|1-e^{R_N\cos\t}|}\\&&\xrightarrow[N\to\infty]{}1\end{eqnarray*}よって定数 M が存在して\left|\frac{1}{1-e^{-z}}\right|\le Mとできます。よって\begin{eqnarray*}\left|\frac{(-z)^{s-1}e^{-az}}{1-e^{-z}}\right|&\le& M|(-z)^{s-1}e^{-az}|\\&=&MR_N^{\sigma-1}|e^{-\t t}e^{aR_N\cos\t}|\\&\le&MR_N^{\sigma-1}e^{\pi|t|}e^{aR_N\cos\t}\end{eqnarray*}積分に適用します。\begin{eqnarray*}\left|\int_{L_N^-}\frac{(-z)^{s-1}e^{-az}}{1-e^{-z}}dz\right|&\le&MR_N^{\sigma-1}e^{\pi|t|}\left(\int_{-\pi}^{-\frac{\pi}{2}}+\int^{\pi}_{\frac{\pi}{2}}\right)e^{aR_N\cos\t}R_Nd\t\\&=&2MR_N^{\sigma}e^{\pi|t|}\int^{\pi}_{\frac{\pi}{2}}e^{aR_N\cos\t}d\t\\&=&2MR_N^{\sigma}e^{\pi|t|}\int_0^\frac{\pi}{2}e^{-aR_N\sin\t}d\t\\&\le&2MR_N^{\sigma}e^{\pi|t|}\int_0^\frac{\pi}{2}e^{-aR_N\frac{2}{\pi}\t}d\t\\&=&\frac{M\pi}{a}e^{\pi|t|}R_N^{\sigma-1}(1-e^{-aR_N})\\&&\xrightarrow[N\to\infty]{}0\quad \mathrm{when}\;\sigma<1\end{eqnarray*}

よって \mathfrak{R}s<1 で積分値はゼロへ収束します。

L_N^+の評価

a<1 とします。L_N^+ においては \cos\t>0 に留意します。\begin{eqnarray*}\left|\frac{e^{-az}}{1-e^{-z}}\right|&=&\left|e^{(1-a)z}\right|\left|\frac{e^{-z}}{1-e^{-z}}\right|\\&\le&\left|e^{(1-a)z}\right|\frac{e^{R\cos\t}}{|1-|e^{-z}||}\\&=&\left|e^{(1-a)z}\right|\frac{e^{R\cos\t}}{|1-e^{R\cos\t}|}\\&=&\left|e^{(1-a)z}\right|\frac{1}{|1-e^{-R\cos\t}|}\\&\le& K'\left|e^{(1-a)z}\right|\\&=&K'e^{-(1-a)R\cos\t}\end{eqnarray*}この結果を使って積分を評価します。

\begin{eqnarray*}\left|\int_{L_N^+}\frac{(-z)^{s-1}e^{-az}}{1-e^{-z}}dz\right|&\le&K'\left|\int_{L_N^+}(-z)^{s-1}e^{-(1-a)R_N\cos\t}dz\right|\\&\le&K'\int_{-\frac{\pi}{2}}^\frac{\pi}{2}\left|(R_Ne^{i\t})^{s-1}e^{-(1-a)R_N\cos\t}\right|R_Nd\t\\&=&K'R_N^\sigma\int_{-\frac{\pi}{2}}^\frac{\pi}{2}e^{-\t t}e^{-(1-a)R_N\cos\t}d\t\\&\le&K'e^{\frac{\pi|t|}{2}}R_N^\sigma\int_{-\frac{\pi}{2}}^\frac{\pi}{2}e^{-(1-a)R_N\cos\t}d\t\\&=&2K'e^{\frac{\pi|t|}{2}}R_N^\sigma\int_0^\frac{\pi}{2}e^{-(1-a)R_N\cos\t}d\t\\&=&2K'e^{\frac{\pi|t|}{2}}R_N^\sigma\int_0^\frac{\pi}{2}e^{-(1-a)R_N\sin\t}d\t\\&\le&2K'e^{\frac{\pi|t|}{2}}R_N^\sigma\int_0^\frac{\pi}{2}e^{-(1-a)R_N\frac{2}{\pi}\t}d\t\\&=&\frac{K'\pi}{(1-a)}e^{\frac{\pi|t|}{2}}R_N^{\sigma-1} (1-e^{-(1-a)R_N})\\&&\xrightarrow[N\to\infty]{}0\quad \mathrm{when}\;\sigma<1\end{eqnarray*}

よって \mathfrak{R}s<1 で積分値はゼロへ収束します。

以上より大円 L_N の積分値はゼロへ収束します。

このことから 0<a<1 であれば 0<\mathfrak{R}s<1 でも(6)が成り立つというわけです。

次回はリーマンゼータ関数の関数等式、特殊値、クシー関数、自明な零点の位数について解説します:

古いですが有名な書物で、どんどん改訂版が出ています。前半は解析学一般、後半は特殊関数という内容で、網羅的に勉強できます。演習問題に解答がないのが昔ながらのものって感じ。2022/11/6現在、最新版は5th Editionで私も所有していますが、廉価な3rdとかでも十分かと。


A Course of Modern Analysis: fifth Edition


A Course of Modern Analysis: Third Edition

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2 COMMENTS

タダノオジサン

留数を求める時-z=2nπexpi(±π/2)としているのに大円についてはn→2n+1としている
のはなぜですか?

小円の中心z=0→n=0特異点となっていますが、小円には値なしなのが分かりません。

よかったらコメントお願いします。

返信する
まめけび まめけび

留数は被積分関数が極となる点すなわち0,±2πi,±4πi,…に関する話なので-z=2nπexpi(±π/2)としています。これらがπiの偶数倍であるのに対し、大円は極を避けるために奇数倍の半径になるようにしています。
また(-z)^{s-1}があるため、z=0はまた特別な特異点である「分岐点」となっています。

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