無限積の理論シリーズ第11回。今回は二重無限積の収束と順序について、例を交えて解説します。といっても、無限積の基本事項はすべてやり終えましたし、二重級数シリーズで順序交換等についてもすでに解説しており、新しいことはあまりありません。オマケみたいなものです。
前回はこちら:
二重数列や二重級数については
からはじまるシリーズをご覧いただくと、分かりやすいと思います。
二重数列 $\{z_{mn}\}$ を掛けて得られる部分積\begin{equation}P_{mn}:=\prod_{j=1}^m\prod_{k=1}^n z_{jk}\tag{1}\end{equation}の二重極限(double limit)を二重無限積(double infinite products)といいます。\begin{equation}P:=\lim_{m,n\to\infty}P_{mn}=\prod_{m=1}^\infty\prod_{n=1}^\infty z_{mn}:=\prod_{m,n=1}^\infty z_{mn}\tag{2}\end{equation}二重級数の記事でも述べたように、$m,n$ の同時の極限をとったものです。一方、片方ずつ極限をとる場合は逐次極限(iterated limit)といい、2つの逐次極限は\begin{eqnarray}Q:=\lim_{m\to\infty}\left(\lim_{n\to\infty}P_{mn}\right)=\prod_{m=1}^\infty\left(\prod_{n=1}^\infty z_{mn}\right)\tag{3a}\\R:=\lim_{n\to\infty}\left(\lim_{m\to\infty}P_{mn}\right)=\prod_{n=1}^\infty\left(\prod_{m=1}^\infty z_{mn}\right)\tag{3b}\end{eqnarray}と定義されます。一般に $P,Q,R$ の収束性や値は異なります。
以下、常に $z_{mn}\neq 0$ とします。
二重級数 $\sum_{m,n=1}^\infty\mathrm{Log}\;z_{mn}$ が $S$ に収束するならば、無限積 $\prod_{m,n=1}^\infty z_{mn}$ は $e^S$ に収束する。
証明は簡単です。部分和は$$S_{mn}:=\sum_{j=1}^m\sum_{k=1}^n\mathrm{Log}\;z_{jk}=\mathrm{Log}\;P_{mn}+2k_{mn}\pi i$$ここで $k_{mn}$ は整数です。対数は主値をとっています。よって $P_{mn}=e^{S_{mn}}\to e^S$ です。
要は、無限積は掛け算で分かりにくいなら、対数をとって級数になったものが収束していればよろしいということです。ここでは使いませんが、逆に $P_{mn}$ が $P$ に収束するならば、ある整数 $k$ を用いて$$S=\mathrm{Log}\;P+2k\pi i$$と書けます。詳しくはこちらを参考にしてください。
$z_{mn}=\dfrac{1}{2^{\frac{1}{2^{m+n}}}}$ のとき、$P,Q,R$ を求めよ。
部分積を計算すると$$P_{mn}=\left(\frac{1}{2}\right)^{1-\frac{1}{2^m}-\frac{1}{3\cdot 2^{n}}+\frac{1}{3\cdot 2^{2m+n}}}$$より$$P=Q=R=\frac{1}{2}$$
$$\sum_{m,n=1}^\infty\mathrm{Log}\;z_{mn}\;,\;\sum_{m=1}^\infty\left(\sum_{n=1}^\infty\mathrm{Log}\;z_{mn}\right)\;,\;\sum_{n=1}^\infty\left(\sum_{m=1}^\infty\mathrm{Log}\;z_{mn}\right)$$のいずれかが絶対収束するならば、$$\prod_{m,n=1}^\infty z_{mn}\;,\;\prod_{m=1}^\infty\left(\prod_{n=1}^\infty z_{mn}\right)\;,\;\prod_{n=1}^\infty\left(\prod_{m=1}^\infty z_{mn}\right)$$はいずれも同じ値に収束する。
【証明】二重級数シリーズの定理8.5より、条件の3つの級数は同じ値 $S$ に収束する(*)。このとき定理11.1より$$\prod_{m,n=1}^\infty z_{mn}=e^S$$また$$\sum_{m=1}^\infty\left(\sum_{n=1}^\infty\mathrm{Log}\;z_{mn}\right)=S$$より内側の級数は有界な数列 $\a_m$ に収束するので定理3.2より $\prod_{n=1}^\infty z_{mn}=e^{\a_m}$ である。さらに $S=\sum_{m=1}^\infty\a_m$ なので $\prod_{m=1}^\infty e^{\a_m}=e^S$ となるので$$\prod_{m=1}^\infty\left(\prod_{n=1}^\infty z_{mn}\right)=e^S$$同様に$$\prod_{n=1}^\infty\left(\prod_{m=1}^\infty z_{mn}\right)=e^S$$【証明終】
二重無限積の逐次極限の順序を交換すると、値が異なる例を挙げます。
$x,y>0$ , $j,k\in\NN$ ,$$z_{jk}=\left\{\begin{matrix}(xy)^{\frac{1}{2^{j-1}}-1} & (j=k>1)\\ x^{1-\frac{1}{2^j}} & (k=j+1)\\y^{1-\frac{1}{2^k}} & (j=k+1)\\ 1 & (\mathrm{else})\end{matrix}\right.$$ の無限積を考えるとき、2つの逐次極限と二重極限を求めよ。
$z_{mn}$ を行列風に並べると$$\begin{matrix} 1 & x^\frac{1}{2} & 1 & 1 \\ y^\frac{1}{2} & (xy)^{-\frac{1}{2}} & x^\frac{3}{4} & 1 \\ 1 & y^\frac{3}{4} & (xy)^{-\frac{3}{4}} & x^\frac{7}{8} \\ 1&1& y^\frac{7}{8} & (xy)^{-\frac{7}{8}}\end{matrix}$$逐次極限から計算する。$\prod_{k=1}^\infty z_{jk}=x^{1/2^j}$ より$$\prod_{j=1}^\infty\left(\prod_{k=1}^\infty z_{jk}\right)=x$$同様に$$\prod_{k=1}^\infty\left(\prod_{j=1}^\infty z_{jk}\right)=y$$よって逐次極限の順序を交換すると、値が異なる。また二重極限は$$P_{m,m}\to1\;,\; P_{m,m+1}\to x\quad(m\to\infty)$$より、発散する。
次は、逐次極限の順序を交換すると、そもそも収束性が異なる例です。
$x>0$ , $j,k\in\NN$ ,$$z_{jk}=\left\{\begin{matrix}2^{1-j}x^{\frac{1}{2^{j-1}}-1} & (j=k>1)\\ x^{1-\frac{1}{2^j}} & (k=j+1)\\2^k & (j=k+1)\\ 1 & (\mathrm{else})\end{matrix}\right.$$ の無限積を考えるとき、2つの逐次極限を求めよ。
例題11.2と同様に考えて$$\prod_{j=1}^\infty\left(\prod_{k=1}^\infty z_{jk}\right)=x\quad,\quad\prod_{k=1}^\infty\left(\prod_{j=1}^\infty z_{jk}\right)=+\infty$$
$j,k\in\NN$ ,$$z_{jk}=\left\{\begin{matrix}2^j & (k=j+1)\\2^{-k} & (j=k+1)\\ 1 & (\mathrm{else})\end{matrix}\right.$$ の無限積を考えるとき、2つの逐次極限を求めよ。
同様に考えて$$\prod_{j=1}^\infty\left(\prod_{k=1}^\infty z_{jk}\right)=+\infty\quad,\quad\prod_{k=1}^\infty\left(\prod_{j=1}^\infty z_{jk}\right)=0$$よってともに発散する。
これまでの内容に比べると、あまりしっかり解説できていませんが、本シリーズの過去記事と、二重級数シリーズを読み返せば、解説しようにも、同じようなことを繰り返すことになりそうな気がします。
次回はこちら:
無限積だけで1冊の本。入門からスタートするので安心です。第1章で級数のおさらいもあります。
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