ヤコビの楕円関数については:
ヤコビの楕円関数2(定義域の拡張・半角公式・倍角公式・展開)
タイトルにある積分として最も簡単な積分をやってみましょう。まずは$$I_1 :=\int \sn u \:du$$$\sn u$ は母数も明示するなら $\mathrm{sn}(u,k)$ と書きます。手を付けにくい感じですが、とりあえず $v=\cn u$ とおいてみます($\sn u$ , $\dn u$ でもOK)。$$dv=-\sn u\:\dn u\:du$$ヤコビの楕円関数の関係式\begin{eqnarray}\mathrm{sn}^2u+\mathrm{cn}^2u&=&1\tag{1a}\\k^2\mathrm{sn}^2u+\mathrm{dn}^2u&=&1\tag{1b}\end{eqnarray}を使うと$$\sn u\:du=-\frac{1}{k}\frac{dv}{\sqrt{v^2+(k'/k)^2}}$$ですので二次無理函数の積分となって初等的に計算できます。実際$$I_1=-\frac{1}{k}\mathrm{arsinh}\frac{k}{k'}v$$$$\therefore\quad I_1=-\frac{1}{k}\ln\frac{k\:\cn u+\dn u}{k'}$$と求まります。最後に定数項を省きます。
次に$$I_2:=\int \cn u\:du\;,\quad I_3:=\int\dn u\: du$$については、それぞれ例えば $v=\sn u$ と置換することで\begin{align}I_2 &= \int\frac{dv}{\sqrt{1-k^2v^2}}\\ I_3 &=\int\frac{dv}{\sqrt{1-v^2}}\end{align} これらは初等的に積分できます。以上より
\begin{align}\int \sn u \:du &= -\frac{1}{k}\ln(k\:\cn u+\dn u)\\\int \cn u \:du &= \frac{1}{k}\arcsin(k\:\sn u)\\\int \dn u \:du &= \arcsin(\sn u)\end{align}
および\begin{align}\int_0^x \sn u \:du &= -\frac{1}{k}\ln\frac{k\:\cn x+\dn x}{1+k}\\\int_0^x \cn u \:du &= \frac{1}{k}\arcsin(k\:\sn x)\\\int_0^x \dn u \:du &= \arcsin(\sn x)\end{align}
また代表的な定積分は
\begin{align}\int_0^K \sn u \:du &= \frac{1}{2k}\ln\frac{1+k}{1-k}\\\int_0^K \cn u \:du &= \frac{1}{k}\arcsin k\\\int_0^K \dn u \:du &= \frac{\pi}{2}\end{align}
ヤコビの楕円関数を含むやや一般的な積分を考えます。$\cn u$ , $\dn u$ は共に $\sn u$ で表されることから、ヤコビの楕円関数を含む関数は $f(\sn u)$ と書けます。$v=\sn u$ とおくと$$\int f(\sn u)du =\int\frac{f(v)}{\sqrt{(1-v^2)(1-k^2v^2)}}dv$$$f(v)$ が有理関数なら、これは楕円積分です($f(v)$ によっては初等的な積分)。よって楕円積分の方法論に従って、式変形等をすることになります。ただ、ゴリ押しの方法ではありますので、時と場合によってベターな置換が見つかればよいです。
例をやりましょう。$$J_1:=\int\frac{du}{\sn u}$$$t=\sn u$ とおいて $$J_1=\int \frac{dt}{t\sqrt{(1-t^2)(1-k^2t^2)}}$$$t^2=v$ として$$J_1=\frac{1}{2}\int \frac{dv}{v\sqrt{(1-v)(1-k^2v)}}$$これは二次無理函数と $v$ の有理式なので初等的に積分できます。オーソドックスにいくなら根号内を平方完成すればよいですが、$$z:=\sqrt{\frac{1-k^2v}{1-v}}>1$$と置換します。すると$$v=\frac{z^2-1}{z^2-k^2}\;,\,\frac{dz}{dv}=\frac{k'^2}{2(1-v)\sqrt{(1-v)(1-k^2v)}}$$なので$$J_1=\int\frac{dz}{z^2-1}=\frac{1}{2}\ln\frac{z-1}{z+1}$$置換を戻して\begin{align}J_1 &=\frac{1}{2}\ln\frac{\dn u-\cn u}{\cn u+\dn u}\\ &=\ln\frac{\sqrt{\dn u-\cn u}}{\sqrt{\cn u+\dn u}}\\ &=\ln\frac{\sqrt{\mathrm{dn}^2 u-\mathrm{cn}^2 u}}{\cn u+\dn u}\\&=\ln\frac{k'\:\sn u}{\cn u\:+\dn u}\end{align}積分定数は省きましょう。\begin{equation}\therefore\quad \int\frac{du}{\sn u}=\ln\frac{\sn u}{\cn u+\dn u}\tag{2}\end{equation}
$$\int \mathrm{dn}^2 u du=E(\sn u,k)$$を示せ。
これができれば $\sn$ , $\dn$ , $\cn$ の関係式から\begin{align}\int \mathrm{sn}^2 u du&=\frac{u-E(\sn u,k)}{k^2}\\\int \mathrm{cn}^2 u du&=\frac{E(\sn u,k)-k'^2u}{k^2}\end{align}となります。
$$\int_0^K \frac{\sn u\:du}{\dn u+k'} =\frac{1}{k'(1+k')}$$を示せ。
この解法は $v=\dn u$ と置換して$$\frac{1}{k}\int_{k'}^1\frac{dv}{(v+k')\sqrt{v^2-k'^2}}$$あとは初等的に解きます。
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