前回はこちら:
前回は一般的な楕円関数の定義と性質を見ました。定数でない楕円関数の位数は2以上なので、もっとも単純な楕円関数の位数は2となります。このような楕円関数の1つとして
2位の極を1つもち、その留数がゼロである。
ようなものが考えられます。どんな関数なのでしょう。これが今回のテーマです。
m,n について和をとる二重級数を次のように書くことにします。∑m,n:=∞∑m=−∞∞∑n=−∞∑m,n′:=∞∑m=−∞∞∑n=−∞(m,n)≠(0,0)両式とも二重級数を表しますが(1b)のほうは m,n が共にゼロとなる場合を省いています。(1a)(1b)の右辺は n のシグマを後ろに置いていますが、n の総和を先にとることを必ずしも意味しません。実際、今回扱う級数は絶対収束するので足し上げる順は任意です。二重級数の詳しい理論についてはこちらを見てください。
ゼロでない ω1,ω2∈C を考えます。この2つの複素数の比は実数でないとします。そして℘(z):=1z2+∑m,n′[1(z−mω1−nω2)2−1(mω1+nω2)2]なる関数を定義します。これをワイエルシュトラスのペー関数といいます。簡単のためにΩm,n:=mω1+nω2とおくと℘(z):=1z2+∑m,n′[1(z−Ωm,n)2−1Ω 2m,n](1b)で確認した通り、級数は m,n がともにゼロの場合を除いて和をとっています。
℘(z) は関数項の級数として定義されていますので、収束性を調べる必要があります。絶対収束であれば和をとる順番を自由に変えられますし、一様収束であれば項別微分ができます。実際、この級数は絶対一様収束することをこれから示しましょう。
整数 m,n の絶対値が十分に大きければ |z| に対して |Ωm,n| は大きくなります。すると|1(z−Ωm,n)2−1Ω 2m,n|=1|Ωm,n|2|1(1−zΩm,n)2−1|=1|Ωm,n|2|1+2zΩm,n+O(1Ω2m,n)−1|=O(1|Ωm,n|3)よって(2b)の絶対収束性を調べるために∑m,n′1|Ωm,n|3の収束性を調べることにします。
ω1=α1+iβ1 , ω2=α2+iβ2 のように実部と虚部にわけます。ω1 と ω2 の比が実数でないことから α1β2−α2β1≠0 です。実数 s>0 に対し1|Ωm,n|s=1|α1m+iβ1m+α2n+iβ2n|s=1|(α1m+α2n)2+(β1m+β2n)2|s/2=1|m|s|(α1+α2μ)2+(β1+β2μ)2|s/2ここで μ:=nm です。これと (m2+n2)−s/2 を比較します。比をとると1(m2+n2)s/21|Ωm,n|s=1|m|s(1+μ2)s/21|m|s|(α1+α2μ)2+(β1+β2μ)2|s/2=[(α1+α2μ)2+(β1+β2μ)21+μ2]s2となります。これを実数 μ の関数と見なしてf(μ)=(α1+α2μ)2+(β1+β2μ)21+μ2と書きましょう。α1β2−α2β1≠0 ですので f(μ)>0 です。微分するとf′(μ)=−2(α1α2+β1β2)μ2+(α21+β21−α22−β22)μ−α1α2−β1β2(1+μ2)2分子が2次関数となっていることから f′(μ)=0 となる μ は2次方程式の判別式D=(α21+β21−α22−β22)2+4(α1α2+β1β2)2≥0より異なる2実解または実数の重解をもちます。実数解の個数や α1α2+β1β2 の符号によって増減表は異なりますが、例えば2つの実数解のときは
μ | −∞ | μ1 | μ2 | +∞ | |||
f′(μ) | + | 0 | − | 0 | + | ||
f(μ) | α22+β22 | ↗ | 極値1 | ↘ | 極値2 | ↗ | α22+β22 |
なる形になり、「極値2」が最小値となります。f(μ)>0 でしたから f(μ) は正の最小値をとります。増減表の2行目を+-+としましたが、-+-もあり得ます。そちらも同様です。次に重解となるケースでは極値は1つになり、その極値がやはり正の最小値となるか、α22+β22 が下限となります。α22+β22 は必ず正ですから、結局はどのようなケースでも f(μ) には正の下限 δ が存在してf(μ)≥δ>0
この δ は ω1 , ω2 によって決まっており、μ には依りません。μ=n/m として元の話に立ち返ると1(m2+n2)s/21|Ωm,n|s≥δs/2∴∑m,n′1|Ωm,n|s≤1δs/2∑m,n′1(m2+n2)s/2となりますので(3)の右辺の収束性を調べることにします。これは正項級数ですので和をとる順を勝手に決めます。m≥0 , n≥0 のみの和について考えれば十分です。m=n , m>n , m<n に分けて和をとった場合、∑m,n≥0′1(m2+n2)s/2=12s/2∞∑m=11ms+∞∑m=1m−1∑n=01(m2+n2)s/2+∞∑n=1n−1∑m=01(m2+n2)s/2右辺第2項について(第3項も同様に)∞∑m=1m−1∑n=01(m2+n2)s/2≤∞∑m=1m(m2)s/2=∞∑m=11ms−1となることから s>2 なら収束します。よって(3)右辺は s>2 ならば収束します(十分条件。s≤2 での収束性は議論の余地あり)。したがって(3)より s>2 ならば ∑′|Ωm,n|−s は収束します。以上から∑m,n′[1(z−Ωm,n)2−1Ω 2m,n]は絶対一様収束します。
ペー関数の定義を再掲しましょう。℘(z):=1z2+∑m,n′[1(z−Ωm,n)2−1Ω 2m,n]無限級数が絶対一様収束するので、和をとる順は好きに変えてもよく、℘(z) は2位の極 Ωm,n を除いて解析的で項別微分が可能です。℘′(z)=−2∑m,n1(z−Ωm,n)3(5)の和は (m,n)=(0,0) を含んでいることに注意。−z を代入すると℘′(−z)=2∑m,n1(z+Ωm,n)3Ωm,n=−Ω−m,−n であることと、m,n に全整数を入れた時のΩm,n の集合と Ω−m,−n の集合は同じです。和の順を変えていいことも併せて℘′(z)=−℘′(−z)つまりペー関数の導関数は奇関数です。
同様に(4)と℘(−z)=1z2+∑m,n′[1(z+Ωm,n)2−1Ω 2m,n]により℘(z)=℘(−z)つまりペー関数は偶関数です。
(5)より℘′(z+ω1)=−2∑m,n1(z−Ωm−1,n)3Ωm−1,n を Ωm,n としても級数としては同じ値になりますので(和の順は好きに変えてよい)、℘′(z+ω1)=℘′(z)積分して℘(z+ω1)=℘(z)+Cz=−ω1/2 を代入すると℘(ω12)=℘(−ω12)+C(8)より C=0 。ω2 でも同様の手続きで℘(z+ω1)=℘(z+ω2)=℘(z)したがって ℘(z) は二重周期性をもち、極のみを特異点としてもつ(有理型関数)ので楕円関数です。
(4)より z=0 で ℘(z) は2位の極をもちますが、℘(z)−1/z2 は z=0 まわりにテイラー展開できます。偶関数であることも併せると℘(z)−1z2=∑m,n′[1(z−Ωm,n)2−1Ω 2m,n]=a0+a2z2+a4z4+⋯z=0 とすると a0=0 を得ます。℘(z)−1z2=∑m,n′[1(z−Ωm,n)2−1Ω 2m,n]=a2z2+a4z4+a6z6+⋯2回微分すると℘″z=0 とするとa_2=3\sum_{m,n}'\frac{1}{\O_{m,n}^{~4}}(12)をさらに2回微分するとa_4=5\sum_{m,n}'\frac{1}{\O_{m,n}^{~6}}を得ます。繰り返していけば
ペー関数は次のように展開できる。\wp(z)=\frac{1}{z^2}+\sum_{k=1}^\infty(2k+1)G_{2k+2}z^{2k}ただしG_{2k}:=\sum_{m,n}'\frac{1}{\O_{m,n}^{~2k}}=\sum_{m,n}'\frac{1}{(m\o_1+n\o_2)^{2k}}をアイゼンシュタイン級数という。
アイゼンシュタイン級数の主流の定義は若干これと異なりますが、定数倍の違いなので今は気にしません。一応展開式ができましたが、この級数の得体が全く知れません。定義から \o_1,\o_2 によって値が決まるのは分かりますが、ではどんな値なの、と。でも気にせず進めます。
※特殊なケースでアイゼンシュタイン級数の計算をしているのがこちら。
不変量(invariant)を次のように定義します。\begin{equation}g_2:=60G_4\;,\quad g_3:=140G_6\tag{13}\end{equation}何のためにこうするのかは今は気にしません。すると定理1の展開式を書き換えて\begin{equation}\wp(z)=\frac{1}{z^2}+\frac{g_2}{20}z^2+\frac{g_3}{28}z^4+O(z^6)\tag{14}\end{equation}これを微分したものは\begin{equation}\wp'(z)=-\frac{2}{z^3}+\frac{g_2}{10}z+\frac{g_3}{7}z^3+O(z^5)\tag{15}\end{equation}(14)を3乗したものは\begin{equation}\wp(z)^3=\frac{1}{z^6}+\frac{3g_2}{20}z^{-2}+\frac{3g_3}{28}+O(z^2)\tag{16}\end{equation}(15)を2乗したものは\begin{equation}\wp'(z)^2=\frac{4}{z^6}-\frac{2g_2}{5}z^{-2}-\frac{4g_3}{7}+O(z^2)\tag{17}\end{equation}(16)(17)から z^{-6} を消去すると\begin{equation}\wp'(z)^2-4\wp(z)^3+g_2\frac{1}{z^2}+g_3=O(z^2)\tag{18}\end{equation}\wp(z)=z^{-2}+O(z^2) より(18)は\begin{equation}\wp'(z)^2-4\wp(z)^3+g_2\wp(z)+g_3=O(z^2)\tag{19}\end{equation}と書き換えられます。\wp(z) が楕円関数であるので(19)左辺全体は楕円関数。また(19)左辺は z=\O_{m,n} で解析的でない可能性があるものの、右辺と比較するとそれらはすべて解析的な点であることが分かります。つまり(19)左辺は特異点をもたない楕円関数であり、すなわち定数です。\wp'(z)^2-4\wp(z)^3+g_2\wp(z)+g_3=\mathrm{const.}z\to0 とすれば(19)で O(z^2)\to0 ですから、この定数はゼロです。よって
ペー関数は次の式をみたす。\wp'(z)^2-4\wp(z)^3+g_2\wp(z)+g_3=0ただし g_2,g_3 は \o_1,\o_2 によって決まる定数で g_2=60G_4 , g_3=140G_6.
逆に、\begin{equation}\left(\frac{dy}{dz}\right)^2=4y^3-g_2y-g_3\tag{20}\end{equation}なる微分方程式が与えられたとしましょう。ここで与えられた g_2,g_3 から g_2=60\sum'\O_{m,n}^{-4} , g_3=140\sum'\O_{m,n}^{-6} をみたす \o_1,\o_2 が見つかったとします(詳細はここでは触れず、気にしない)。周期 \o_1,\o_2 をもつペー関数を使って y=\wp(u) とおくと \frac{dy}{dz}=\wp'(u)\frac{du}{dz} から\wp'(u)^2\left(\frac{du}{dz}\right)^2=4\wp(u)^3-g_2\wp(u)-g_3\overset{定理2}{=}\wp'(u)^2なので u'=\pm 1 となって、積分定数 \a をもちいて u=\pm z+\a となります。よって y=\wp(\pm z+\a)。\wp(z)=\wp(-z) より y=\wp(z+\a) として一般性を失いません。
微分方程式\left(\frac{dy}{dz}\right)^2=4y^3-g_2y-g_3の一般解は、g_2,g_3 に対応する周期 \o_1,\o_2 をもつペー関数を使ってy(z)=\wp(z+\a)と書ける。
ただし g_2,g_3 には対応する二重周期 \o_1,\o_2 がなくてはなりません。例えば g_2=g_3=0 とした場合、微分方程式は簡単に解けて y=\pm 2(z+C)^{-3} となりますが、これは楕円関数ではありません。ペー関数の話をするにあたって、例えば定理2の式からスタートする場合は \o_1,\o_2 よりも g_2,g_3 ありきのほうが有難いわけですが、そのあたりは気を付ける必要があります。詳細はいずれ書くかもしれません。
次回はペー関数の展開式について、もう少し詳しく見ていきます:
第5版です。いわずと知れた名著。楕円関数にかなりのページを割いています。

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