ワイエルシュトラスのペー関数3~同次性・加法定理等

前回はこちら:

ワイエルシュトラスのペー関数2~係数の漸化式,積分公式

ワイエルシュトラスのペー関数の話の続きです。$$\O_{m,n}:=m\o_1+n\o_2$$とおくとワイエルシュトラスのペー関数は\begin{equation}\wp(z):=\frac{1}{z^2}+\sum_{m,n}'\left[\frac{1}{(z-\O_{m,n})^2}-\frac{1}{\O_{m,n}^{~2}}\right]\tag{0a}\end{equation}と定義されます。ここで $\sum'$ は $m,n$ がともにゼロとなる場合を除き全整数にわたって和をとるものです。またよくあらわれる等式として\begin{equation}\wp'(z)^2-4\wp(z)^3+g_2\wp(z)+g_3=0\tag{0b}\end{equation}さらに楕円積分の逆関数としても表せます:\begin{equation}z=\int_{\wp(z)}^\infty(4t^3-g_2t-g_3)^{-\frac{1}{2}}dt\tag{0c}\end{equation}これらの詳細は前回や前々回の記事を見てください。

シュワルツ微分

$y$ の関数である $z$ のシュワルツ微分の定義は [2] によると\begin{equation}\frac{z'''}{z'}-\frac{3}{2}\left(\frac{z''}{z'}\right)^2\tag{1}\end{equation}これを $y$ を $z$ の関数として見た式に書き換えます。\begin{align}\frac{dz}{dy}&=\left(\frac{dy}{dz}\right)^{-1}\tag{2a}\\\frac{d^2z}{dy^2}&=-\left(\frac{dy}{dz}\right)^{-3}\frac{d^2y}{dz^2}\tag{2b}\\\frac{d^3z}{dy^3}&=3\left(\frac{dy}{dz}\right)^{-5}\left(\frac{d^2y}{dz^2}\right)^{2}-\left(\frac{dy}{dz}\right)^{-4}\frac{d^3y}{dz^3}\tag{2c}\end{align}これらを(1)に適用すると\begin{equation}\frac{z'''}{z'}-\frac{3}{2}\left(\frac{z''}{z'}\right)^2=\frac{3}{2}\frac{(y'')^2}{(y')^4}-\frac{y'''}{(y')^3}\tag{3}\end{equation}ただし $z'$ は $z$ を $y$ で微分したもの、$y'$ は $y$ を $z$ で微分したもの。

さて $y=\wp(z+\a)$ とします。$\a$ は定数です。こちらの定理3より $y$ は\begin{equation}y'^2=4y^3-g_2y-g_3\tag{4}\end{equation}を満たします。いま $4t^3-g_2t-g_3=0$ の解を $e_1$ , $e_2$ , $e_3$ とすると \begin{equation}y'^2=4(y-e_1)(y-e_2)(y-e_3)\tag{5}\end{equation}であり、解と係数の関係から\begin{equation}e_1+e_2+e_3=0\tag{6}\end{equation}です。(5)の対数微分をとると\begin{equation}\frac{2y''}{(y')^2}=\frac{1}{y-e_1}+\frac{1}{y-e_2}+\frac{1}{y-e_3}\tag{7}\end{equation}(7)の2乗は\begin{equation}\frac{4(y'')^2}{(y')^4}=\left(\frac{1}{y-e_1}+\frac{1}{y-e_2}+\frac{1}{y-e_3}\right)^2\tag{8}\end{equation}また(7)を微分すると\begin{equation}4\frac{(y'')^2}{(y')^4}-2\frac{y'''}{(y')^3}=\frac{1}{(y-e_1)^2}+\frac{1}{(y-e_2)^2}+\frac{1}{(y-e_3)^2}\tag{9}\end{equation}(9)$\times 1/2$ と (8)$\times(-1/8)$ を足せば\begin{align}\frac{3}{2}\frac{(y'')^2}{(y')^4}-\frac{y'''}{(y')^3}&=\frac{1}{2}\left[\frac{1}{(y-e_1)^2}+\frac{1}{(y-e_2)^2}+\frac{1}{(y-e_3)^2}\right]\\&\quad -\frac{1}{8}\left(\frac{1}{y-e_1}+\frac{1}{y-e_2}+\frac{1}{y-e_3}\right)^2\\&=\frac{3}{8}\left[\frac{1}{(y-e_1)^2}+\frac{1}{(y-e_2)^2}+\frac{1}{(y-e_3)^2}\right]\\&\quad -\frac{1}{4}\left(\frac{1}{(y-e_1)(y-e_2)}+\frac{1}{(y-e_2)(y-e_3)}+\frac{1}{(y-e_3)(y-e_1)}\right)\\&=\frac{3}{8}\left[\frac{1}{(y-e_1)^2}+\frac{1}{(y-e_2)^2}+\frac{1}{(y-e_3)^2}\right]\\&\quad -\frac{y-e_1+y-e_2+y-e_3}{4(y-e_1)(y-e_2)(y-e_3)}\end{align}(6)より\begin{align}\frac{3}{2}\frac{(y'')^2}{(y')^4}-\frac{y'''}{(y')^3}&=\frac{3}{8}\left[\frac{1}{(y-e_1)^2}+\frac{1}{(y-e_2)^2}+\frac{1}{(y-e_3)^2}\right]\\&\quad -\frac{3y}{4(y-e_1)(y-e_2)(y-e_3)}\tag{10}\end{align}(3)より(10)は $z$ を $y$ でシュワルツ微分したものに等しいです。シュワルツ微分についてここでは詳細を扱いません。計算練習として…。

ペー関数の同次性

ペー関数 $\wp(z)$ は2つの周期 $\o_1,\o_2$ をパラメータとして持ちます。それを明示するために\begin{equation}\wp\left(z\left|\begin{matrix}\o_1\\\o_2\end{matrix}\right.\right)\tag{11}\end{equation}と書くことにします。同様に不変量 $g_2,g_3$ をパラメータとする場合は\begin{equation}\wp(z;g_2,g_3)\tag{12}\end{equation}と明記することにします。

(0a)よりただちに\begin{equation}\wp\left(\lambda z\left|\begin{matrix}\lambda\o_1\\\lambda\o_2\end{matrix}\right.\right)=\lambda^{-2}\wp\left(z\left|\begin{matrix}\o_1\\\o_2\end{matrix}\right.\right)\tag{13}\end{equation}よって ペー関数を $z$ , $\o_1$ , $\o_2$ の関数として見たときには $-2$ 次の同次関数となっています。

また(0c)で $z$ , $g_2$ , $g_3$ にそれぞれ $\lambda z$ , $\lambda^{-4}g_2$ , $\lambda^{-6}g_3$ を代入すると$$\lambda z =\int_{\wp(\lambda z;\lambda^{-4}g_2,\lambda^{-6}g_3)}^\infty\frac{dt}{\sqrt{4t^3-\lambda^{-4}g_2t-\lambda^{-6}g_3}}$$$\tau=\lambda^2t$ と置換すると\begin{equation}z =\int_{\lambda^{2}\wp(\lambda z;\lambda^{-4}g_2,\lambda^{-6}g_3)}^\infty\frac{d\tau}{\sqrt{4\tau^3-g_2\tau-g_3}}\tag{14}\end{equation}(0c)と比較して\begin{equation}\wp(\lambda z;\lambda^{-4}g_2,\lambda^{-6}g_3)=\lambda^{-2}\wp(z;g_2,g_3)\tag{15}\end{equation}となります。

ペー関数の加法定理

$\a,\b\in\CC$ を定めます。 ペー関数の加法定理として $\wp(\a)$ , $\wp(\b)$ , $\wp(\a+\b)$ の関係を求めたい。2つの複素数が周期である場合は考える必要ありません。

次の2式を考えます。\begin{align}\wp'(\a) &=A\wp(\a)+B\tag{16a}\\\wp'(\b) &=A\wp(\b)+B\tag{16b}\end{align}$\a,\b$ は定まった数なので(16)は $A,B$ の連立方程式であり、$A,B$ は $\a$ , $\b$ を用いて表される数です。かつ $A$, $B$ がただ1組に定まる条件は、1次連立方程式の基本により\begin{equation}\wp(\a)-\wp(\b)\neq 0\tag{17}\end{equation}$\wp(\a)-\wp(\b)$ を $\a$ の関数とみると、ペー関数の定義(0a)から $\a=0$ およびそれと合同な点で2位の極をもち、他に特異点をもちません。なお「$z$ に合同な点」とは $z+m\o_1+n\o_2$ と表される点のことです(ここを参照。このように合同な点 $z'$ は $z'\equiv z$ と明記される)。したがってここの系8より $\wp(\a)-\wp(\b)$ は1つのセル(2つの周期で定まる平行四辺形の格子)内にちょうど2個の零点をもちます。その零点は明らかに $\a=\pm\b$ あるいはそれと合同な点です($\a\equiv\pm \b$)。ですから条件(17)は\begin{equation}\a\not\equiv\pm\b\quad(\mathrm{mod}\;\o_1,\o_2)\tag{18}\end{equation}と書き換えることができます。

さて(18)が満たされていれば(16)は $A,B$ をただ1つに定めます。実際、\begin{align}A&=\frac{\wp'(\a)-\wp'(\b)}{\wp(\a)-\wp(\b)}\tag{19a}\\B&=\frac{\wp(\a)\wp'(\b)-\wp(\b)\wp'(\a)}{\wp(\a)-\wp(\b)}\tag{19b}\end{align}このもとで $z$ の関数$$f(z):=\wp'(z)-A\wp(z)-B$$を考えましょう。$\wp'(z)$ があるため、$f(z)$ は $z=0$ で3位の極をもちます。$z=0$ を含むセル内にはこれ以外の極はないので、 ここの系8より零点もちょうど3つあることになります。(16)から1つめの零点は明らかに $z\equiv\a$ なる点、2つめは $z\equiv\b$ なる点です。そしてここの定理10から3つめの零点は $z\equiv -\a-\b$ なる点だと分かります。よってこれを $f(z)$ に代入して$$\wp'(-\a-\b)-A\wp(-\a-\b)-B=0$$ペー関数は偶関数、その導関数は奇関数でしたから$$\wp'(\a+\b)+A\wp(\a+\b)+B=0$$これに(19)を代入すると

加法定理その1

$$\begin{vmatrix}\wp(\a) & \wp'(\a) & 1 \\\wp(\b) & \wp'(\b) & 1 \\\wp(\a+\b) & -\wp'(\a+\b) & 1 \end{vmatrix}=0$$

定理1は導関数が混じってしまっていますが、(0b)を使うことで代数的に $\wp(\a+\b)$ を計算することができます。

あるいは $\a+\b+\g=0$ なる $\g$ を定義すると\begin{equation}\begin{vmatrix}\wp(\a) & \wp'(\a) & 1 \\\wp(\b) & \wp'(\b) & 1 \\\wp(\g) & \wp'(\g) & 1 \end{vmatrix}=0\tag{20}\end{equation}とも書けます。

これとは別の形もあります。関数$$F(z):=\wp'(z)^2-[A\wp(z)+B]^2$$を因数分解すると $f(z)$ が現れますので $F(z)$ は $z=\a,\b$,$-\a-\b$ およびそれらと合同な点を零点としてもちます。公式(0b)によって $\wp'(z)$ を消すと$$F(z)=4\wp(z)^3-A^2\wp(z)^2-(2AB+g_2)\wp(z)-(B^2+g_3)$$これは $\wp(z)$ の3次式となっており、根は$$\wp(z)=\wp(\a)\;,\;\wp(\b)\;,\;\wp(\a+\b)$$です(偶関数性を用いた)。3次方程式の解と係数の関係より$$\wp(\a)+\wp(\b)+\wp(\a+\b)=\frac{A^2}{4}$$右辺には(19a)を用いて

加法定理その2

$$\wp(\a+\b)=\frac{1}{4}\left(\frac{\wp'(\a)-\wp'(\b)}{\wp(\a)-\wp(\b)}\right)^2-\wp(\a)-\wp(\b)$$

2倍公式

加法定理その2より$$\wp(z+\a)=\frac{1}{4}\left(\frac{\wp'(z)-\wp'(\a)}{\wp(z)-\wp(\a)}\right)^2-\wp(z)-\wp(\a)$$$\a\to z$ とすると$$\wp(2z)=\frac{1}{4}\lim_{\a\to z}\left(\frac{\wp'(z)-\wp'(\a)}{\wp(z)-\wp(\a)}\right)^2-2\wp(z)$$括弧の中身を変形して$$=\frac{1}{4}\lim_{\a\to z}\left(\frac{\frac{\wp'(z)-\wp'(\a)}{z-\a}}{\frac{\wp(z)-\wp(\a)}{z-\a}}\right)^2-2\wp(z)$$したがって

2倍公式

$$\wp(2z)=\frac{1}{4}\left(\frac{\wp''(z)}{\wp'(z)}\right)^2-2\wp(z)$$

参考文献

[1] Whittaker, E. T., & Watson, G. N. (2021). A course of modern analysis. Cambridge University Press.

第5版です。いわずと知れた名著。楕円関数にかなりのページを割いています。

[2] Schwarzian derivative. In Wikipedia, The Free Encyclopedia. Retrieved 07:11, December 8, 2024

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