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テータ関数3~周期性と極に注目した加法定理の導出

前回はこちら:

テータ関数2~零点・2乗の関係

複素解析による加法定理の導出

前回と同様に極の個数に関する議論を使って、加法定理を導きます。テータ関数の加法定理は実に様々な形のものがあるので、あくまで一例として見ていきます。F(z):=aϑ 23(z)+bϑ 21(z)ϑ3(z+y)ϑ3(zy)なる関数 F(z) を考えます。これは z の関数であり、y は定数と見なします。a,bz によらない定数ですが yτ にはよるかもしれません。

F(z) はどんな関数でしょうか。周期性を確認しましょう。分母についてはϑ3(z+1+y)=ϑ3(z+y)ϑ3(z+1y)=ϑ3(zy)ϑ3(z+τ+y)=q1e2πi(z+y)ϑ3(z+y)ϑ3(z+τy)=q1e2πi(zy)ϑ3(zy)分子については k=1,2,3,4 についてϑ 2k(z+1)=ϑ 2k(z)ϑ 2k(z+τ)=q2e4πizϑ 2k(z)です。よってF(z+1)=F(z+τ)=F(z)よって F(z) は二重周期をもち楕円関数ということになります。テータ関数は整関数ですので(1)の分母に着目して、F(z)z=1+τ2±y の2か所に1位の極をもつ(可能性がある)ことが分かります。

そこでそれら極のうち1つを消してしまいましょう。つまり(1)式の分子が 1+τ2+y を零点にもてば、F(z) の極としては相殺されてしまいます。そうなるためにはa=1ϑ 23(1+τ2+y)b=1ϑ 21(1+τ2+y)とおけばよいです。半周期の変換公式からϑ 23(1+τ2+y)=iq1/4eπiyϑ1(y)ϑ 21(1+τ2+y)=q1/4eπiyϑ3(y)と変形しておきます。

この時点で F(z) は高々1位の極を1つもつのみとなりますが、そのような楕円関数は定数関数に限ります(つまるところ極なし)。yτ には依存する可能性がある定数 A を用いてAϑ3(z+y)ϑ3(zy)=q1/2e2πiy[ϑ 23(z)ϑ 21(y)+ϑ 21(z)ϑ 23(y)]z=0 として定数 AA=q1/2e2πiyϑ 23ϑ 21(y)ϑ 23(y)のように定まります。以上から

定理1

ϑ 23ϑ3(z+y)ϑ3(zy)=ϑ 23(y)ϑ 23(z)+ϑ 21(y)ϑ 21(z)

加法定理にはバリエーションがあります。(1)でどのテータ関数をチョイスするかで得られる式も少し変わってきます。

例題1

G(z):=aϑ 22(z)+bϑ 23(z)ϑ1(z+y)ϑ1(zy)a,b を適切に定め、ϑ 24ϑ1(z+y)ϑ1(zy)=ϑ 22(y)ϑ 23(z)ϑ 23(y)ϑ 22(z)なる加法定理を得よ。

周期を確認すると G(z) は楕円関数だと分かる。$a=1ϑ 22(y),b=1ϑ 23(y)とすると定数 B を用いてBϑ1(z+y)ϑ1(zy)=ϑ 22(z)ϑ 22(y)ϑ 23(z)ϑ 23(y)z=0 として B が定まる。さらにϑ 22ϑ 23(y)ϑ 23ϑ 22(y)=ϑ 24ϑ 21(y)も用いる(前回の定理3参照)。

例題2

ϑ 24ϑ2(z+y)ϑ2(zy)=ϑ 22(y)ϑ 24(z)ϑ 23(y)ϑ 21(z)なる加法定理を得よ。

(5)において zz+1/2 を代入することで得る。

このようにさまざまな加法定理のバリエーションがあります。ここで得た加法定理たちは y=0 とすることで前回得た等式と同じになることから、より一般的なものにたどりついたといえます。

例題3

H(z):=aϑ1(z)ϑ2(z)+bϑ3(z)ϑ4(z)ϑ1(z+y)ϑ2(zy)a,b を適切に定め、ϑ3ϑ4ϑ1(z+y)ϑ2(zy)=ϑ1(z)ϑ2(z)ϑ3(y)ϑ4(y)+ϑ1(y)ϑ2(y)ϑ3(z)ϑ4(z)なる加法定理を得よ。

共通点から見えてくるもの

上でいくつかの加法定理を得ましたが、この調子でたくさんのバリエーションが得られるでしょう。すでに導出したものも含めてKharchev [2]よりϑ1(z+y)ϑ1(zy)ϑ22=ϑ21(z)ϑ22(y)ϑ22(z)ϑ21(y)=ϑ24(z)ϑ23(y)ϑ23(z)ϑ24(y)ϑ1(z+y)ϑ1(zy)ϑ23=ϑ21(z)ϑ23(y)ϑ23(z)ϑ21(y)=ϑ24(z)ϑ22(y)ϑ22(z)ϑ24(y)ϑ1(z+y)ϑ1(zy)ϑ24=ϑ21(z)ϑ24(y)ϑ24(z)ϑ21(y)=ϑ23(z)ϑ22(y)ϑ22(z)ϑ23(y)ϑ2(z+y)ϑ2(zy)ϑ22=ϑ22(z)ϑ22(y)ϑ21(z)ϑ21(y)=ϑ23(z)ϑ23(y)ϑ24(z)ϑ24(y)ϑ2(z+y)ϑ2(zy)ϑ23=ϑ23(z)ϑ22(y)ϑ21(z)ϑ24(y)=ϑ22(z)ϑ23(y)ϑ24(z)ϑ21(y)ϑ2(z+y)ϑ2(zy)ϑ24=ϑ24(z)ϑ22(y)ϑ21(z)ϑ23(y)=ϑ22(z)ϑ24(y)ϑ23(z)ϑ21(y)ϑ3(z+y)ϑ3(zy)ϑ22=ϑ22(z)ϑ23(y)+ϑ21(z)ϑ24(y)=ϑ23(z)ϑ22(y)+ϑ24(z)ϑ21(y)ϑ3(z+y)ϑ3(zy)ϑ23=ϑ21(z)ϑ21(y)+ϑ23(z)ϑ23(y)=ϑ22(z)ϑ22(y)+ϑ24(z)ϑ24(y)ϑ3(z+y)ϑ3(zy)ϑ24=ϑ24(z)ϑ23(y)ϑ21(z)ϑ22(y)=ϑ23(z)ϑ24(y)ϑ22(z)ϑ21(y)ϑ4(z+y)ϑ4(zy)ϑ22=ϑ21(z)ϑ23(y)+ϑ22(z)ϑ24(y)=ϑ23(z)ϑ21(y)+ϑ24(z)ϑ22(y)ϑ4(z+y)ϑ4(zy)ϑ23=ϑ21(z)ϑ22(y)+ϑ23(z)ϑ24(y)=ϑ22(z)ϑ21(y)+ϑ24(z)ϑ23(y)ϑ4(z+y)ϑ4(zy)ϑ24=ϑ24(z)ϑ24(y)ϑ21(z)ϑ21(y)=ϑ23(z)ϑ23(y)ϑ22(z)ϑ22(y)ϑ1(z+y)ϑ2(zy)ϑ3ϑ4=ϑ1(z)ϑ2(z)ϑ3(y)ϑ4(y)+ϑ3(z)ϑ4(z)ϑ1(y)ϑ2(y)ϑ1(z+y)ϑ3(zy)ϑ2ϑ4=ϑ1(z)ϑ3(z)ϑ2(y)ϑ4(y)+ϑ2(z)ϑ4(z)ϑ1(y)ϑ3(y)ϑ1(z+y)ϑ4(zy)ϑ2ϑ3=ϑ1(z)ϑ4(z)ϑ2(y)ϑ3(y)+ϑ2(z)ϑ3(z)ϑ1(y)ϑ4(y)ϑ2(z+y)ϑ3(zy)ϑ2ϑ3=ϑ2(z)ϑ3(z)ϑ2(y)ϑ3(y)ϑ1(z)ϑ4(z)ϑ1(y)ϑ4(y)ϑ2(z+y)ϑ4(zy)ϑ2ϑ4=ϑ2(z)ϑ4(z)ϑ2(y)ϑ4(y)ϑ1(z)ϑ3(z)ϑ1(y)ϑ3(y)ϑ3(z+y)ϑ4(zy)ϑ3ϑ4=ϑ3(z)ϑ4(z)ϑ3(y)ϑ4(y)ϑ1(z)ϑ2(z)ϑ1(y)ϑ2(y)これらの式に共通するのは、左辺右辺あわせて3項の関係式になっていること、各項が4つのテータ関数(z=0 としたものも含めて)の積になっていることです。要はϑi(w)ϑj(x)ϑk(y)ϑl(z)をひとまとまりとして見ると(10)~(27)まですべて類似した形と言えます。このことからこれらの等式はばらばらのものではなく、上位により一般的な法則が潜んでいるような気がします。詳しくは次回にやりましょう。

特殊な場合について

(10)~(27)のうち一部の等式においては、y=0 とすることで前回の定理3のような関係式を得ます。よって今回の記事で導出した式たちは、前回得た式の一般化ともいえます。

参考文献

[1] Whittaker, E. T., & Watson, G. N. (2021). A course of modern analysis. Cambridge University Press.

第5版です。いわずと知れた名著。楕円関数にかなりのページを割いています。

[2] Kharchev,S.,& Zabrodin,A.(2015). Theta vocablary I .arXiv:1502.04603

[3] 安藤 四郎 (1970), 楕円積分・楕円関数入門. 日新出版 (Amazon)(楽天)

次回について

こちら:

テータ関数4~ヤコビの基本関係式①

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